もはや言葉が見つからない
コッパヤクニーンの話によると、どうやらナカノ国の国王は…… ロリコンのようだ。
「……ひょっとして、王様は私が生成した水を飲んだの?」
汚らしい腐った臭気を放つゴミを見るような目で、コッパヤクニーンを見つめるアイシュー。
「とんでもない!」
「なら、いいんだけど——」
「王様は聖女様が生成された聖水を、それはそれは大切にされ、毎日の入浴の際に少しずつご自分の体につけては…… ゴボゴボゴボ………… い、息が! 息が出来ません! お、お助けを!!!」
アイシューの初級水魔法、ウォーターディスチャージが、コッパヤクニーンを襲う。
「おい、アイシュー。そろそろ止めないと、ソイツ窒息するぞ?」
我に返ったアイシューが攻撃を止める。だがすぐに叫んだ。
「カイセイさん! 早く混合魔法ドライヤーで、私が生成した水を乾かして! この変態の体から、一刻も早く私が生成した水を蒸発させて!!!」
アイシュー、絶叫。
「わかったよ」
俺は混合魔法ドライヤーを発動させた。
でも、変態なのは国王であって、コイツじゃないんだけどな。
だが、コッパヤクニーンも、たいがいな性格の持ち主だと思う。
「お前、本当に優秀な特殊工作部隊員だったんだな」
あきれた俺は、自然にそんな言葉が口から漏れた。
「いいえ、たいしたことはやっていませんよ!」
喜色満面のコッパヤクニーン。
……俺、褒めてるんじゃないんだよ? あきれてるんだからな?
どうやらコイツには、俺の真意が届いていないようだ。
「チョット! アタシはカイセイが『キョート人』だって知ってるからいいけど、『キョート人』お得意の『いけず』なんて、この世界では通じないわヨ?」
そうなのか? でもホニーよ。お前には俺の『いけず』な物言いがわかるのか?
それから、俺はそんなに『いけず』なのか?
俺の心など知らないコッパヤクニーンが、得意げな様子で更に話を続ける。
「その後、転勤先のヒトスジー領で俺がやったことなんて、たいしたことじゃありませんよ。炎の令嬢様を尾行してその生態を調査するとか、令嬢様が捨てたゴミを拾って持ち帰るとか…… まあ、あとはパンツを盗んだぐらいですかね!」
え? ナニ言ってんだ、コイツ? それって自慢げに語ることなのか?
嬉々とした表情で話を続けるコッパヤクニーン。
「パンツを持って帰った功績で、階級が2つ上がりました!」
「……………………で、そのパンツは今どこに?」
恐る恐る、俺は尋ねる。
「宝物庫に入れておられます。それはそれは大切にされていますよ!」
「……………………じゃあ国宝とかに、なってたりして」
「いいえ。王様は『聖遺物』と命名されました」
「あの………… 俺、皮肉のつもりで言ったんだけど…………」
「国王陛下は『聖遺物』をとても大切にされ、毎日のようにお手にとられて——」
「き…… き…… き……」
あっ、ホニーの口から変な音が聞こえて来た……
「——『これを見ると一日を健やかに過ぎせる』とおっしゃるほど、それはそれはお気に入りで……」
「きいいいぃぃぃぃぃぃーーーーーー!!!」
あっ、ホニーが変な雄叫びを上げながら、コッパヤクニーン目掛けて突進した!
ヤバイ…… 目がイってる……
コッパヤクニーンの手前でジャンプしたホニー。
顔面めがけて華麗に頭突きをかましやがった……
「ゴフッ……」
コッパヤクニーンの身体が地面へと沈む。しかし……
ホニーは馬乗りになりながら、コッパヤクニーンの顔面にグーパンチを連打。
「い、痛え! や、やめて下さいよ! ちょっと、引っ掻くのは反則ですって!」
ヤバイ。ホニーが正気を失っている。
「おい、起きろミミー! とりあえずホニーを止めてくれ!」
俺は慌てて、ミミーに言葉を投げる。
「ムムっ!? いつの間にこんな展開に? さてはホニー…… 瞬間移動の魔法を習得したのカ?」
「お前、今まで寝てたんだよ。それから、そんな魔法はこの世界にネエよ!」
何はともあれ、俺の言葉を聞いた眠気まなこのミミーが、ホニーの背中に飛びついた。
「きいいぃぃぃぃぃぃーーーーーー!!! チョット、ミミー、離しなさいヨ!!!」
……とりあえず、ホニーの攻撃はおさまったようだ。
しかし…… 人間って本当に怒ったら、魔法とか使わずに殴りかかるんだな。
いや、それはホニーだけか。
ホニーは本当に短気で困る。
もう少し、落ち着きにある大人になって欲しいものだ。
「おいホニー、ちょっと落ち着けよ。気持ちはわかるけどさあ——」
また俺の言葉を遮り、ホニーのヤツが怒鳴り散らす。
「チョット! アンタ何わかったようなこと言ってんのヨ! あああっっっ! さてはアンタも『ろりこん』だから、変態国王のことがわかるってことなのネ!!!」
「オウゥゥゥッッッ!!! オニーさんに『ろりこん』って言ったらダメだゾ!!! オニーサンはジョーキューシャーの街で、それはそれは悲しい目に遭ってるの、オレっちは見たんだゾ!!!」
「テ…… テ…… テ……」
「ヤバいゾ…… オニーサンの口から、ヘンな音が聞こえるゾ……」
「テッッッメエェェェーーーーーー!!! 俺はロリコンじゃネエって言ってんだろォォォーーーーーー!!!」
「チョ、チョット! なんでコッチにダッシュで来るのヨ! って、チョット、い、痛ッタイ! なんでアタシに4の字固めをキメにきてんのヨ! アンタ子どもなの!?」
「テメーこそ、俺の顔を引っ掻くんじゃネエよ! イテエじゃネエか!」
「ヒ、ヒョッホ!クヒをヒッハルんじゃないハヨ!」
「グ…… テ、テメー、クビをしめるのは反則だぞ!」
「生意気言ってんじゃないわヨ!!! 『ろりこん』はみんな滅びればいいのヨォォォ!!!」
「俺はロリコンじゃネエって言ってんだろぉぉぉ!!!」
「もう! 二人ともやめなさいよ! まるで子どもの喧嘩じゃない! みっともないわよ!!!」
アイシューの声が聞こえたと思った次の瞬間……
————ガラガラ…… ズドーーーン!!!
…………俺とホニーの頭上に、天界から雷が落ちて来た。
とても痛い…… 俺もホニーも動けない……
でも、おかげで俺は少し冷静になったようだ。
うーむ…… どうやら、人間は本当に怒ると魔法とか使わずに殴りかかる説は、一部正しかったようだ。俺はもちろん、最後に残った理性を総動員して4の字固めを仕掛けるだけに留めたのだが……
ホニーのヤツめ、古式ゆかしいプロレス技、4の字固めまで知ってるのか、なんてことは心からどうでもいいや。
一方、ホニーは天を仰いでつぶやいた。
「こ、これって…… 『カミナリおやじ』の仕業なのかしら」
ホニーは本当にブレない。




