3人目の中級魔導士は
「ホニー殿、どうか隣にいる男にも火魔法をブチかまして下さい!」
ホニーの後方から声が上がった。
元ナンバーズ諸国の鍛治師、オーボエの声だ。
オーボエをはじめとする鍛治師たち6人は、シーナ、シオス、ブブさんたちに守られながら、ホニーたちの後方で待機している。
「隣にいる男は、我々の地域担当だった特徴工作部隊隊長です! コイツら、俺たちに散々嫌がらせしやがって……」
オーボエの話の途中あたりで初級火魔法の詠唱を始めたホニーは、なんのためらいもなく隣の男に火魔法を放った。
「熱ッ! アッッッ、ツウウウゥゥゥーーー!!!」
あーあ、またモッハベルトの出来上がりだよ。
「おい、ホニー。せめて話ぐらい聞いてからにしろよ……」
「フンッ! まったくカイセイは甘いんだから! 特殊工作部隊ってわかった段階で、『頭チリチリの刑』、確定なのヨ!」
なんだよ、その小学生みたいな嫌がらせ? お前、ひょっとしたら特殊工作員に向いてるかも知れないぞ?
「ち、違うのです! 聞いてください——」
新たに頭がチリチリになった男が叫び声を上げる。
「——俺は特殊工作部隊のバカみたいな仕事なんて、本当はやりたくなかったんだ! それなのに…… そうだ、隣にいる我が次兄、コッパヤクニーンが全部悪いんです! 」
コヤクニーン改めセッカチーの弟の名前はコッパヤクニーンという。俺はさっき、『人物鑑定』スキルで確認していた。なんだかややこしいけど、流石は自動翻訳機能さん。コイツらの社会的ポジションがよくわかりますよ。まあいいや、それから?
「コッパヤクニーンの兄貴がヒトスジー領の特殊工作部隊になって手柄を上げたばっかりに、俺やコヤクニーンの兄貴まで、『ま、兄弟なんだから、おんなじような働きが出来るでしょ』みたいな軽いノリで、特殊工作部隊に人事異動させられちまったんですよ!」
「ああもう、ややこしいわネ。ちなみにアンタの名前はなんて言うのヨ!?」
ホニーがイライラしながら、今話をしている一番下に弟の尋ねると、
「カキュウーヤクニンです」
と答えた。
そうなんだよ。俺はなんとなく『コイツもあんまり使えないヤツなのかな』とか思ってたんだよ。
「おい、勝手なことばっかり言うんじゃねえよ——」
今度は元ヒトスジー領担当で、ホニーを苦しめてきた次兄コッパヤクニーンが声を荒げる。
「——お前、俺のおかげで昇進できたって、喜んでたじゃねえか!」
あー、もう。なんでここで兄弟喧嘩が始まるんだよ。
そんな中、長兄セッカチーが弟たちの喧嘩の仲裁に入るが……
「おい、お前たちいい加減にしないか。いんちき魔導士様の御前だぞ」
そのいんちき魔導士っていう呼び方、いい加減やめてほしいんだけど。
「いんちき魔導士様はじめ、皆さまには我が弟たちの醜態をお見せしてしまい、誠に申し訳ありません。もともと我々3兄弟は仲が良かったのですが……」
流石、長男って感じだ。なんだかんだ言って、3兄弟の中では一番しっかりしてるんだな。弟たちが争ってるところなんて見たくないんだろう。
「皆さまに一つだけ、お伝えしたいことがあります」
キリッと引き締まった顔で言葉を放つ長兄セッカチー。
「なんだよ、言ってみろよ」
その弟想いの心に免じて、なんでも聞いてやろうじゃないか。
「結論を申しますと、一番悪いのは、ヒトスジー領担当のコッパヤクニーンです」
「……………………え?」
「我が末弟カキュウーヤクニーンが申しました通り、コッパヤクニーンせいで、俺まで特殊工作部隊なんかに飛ばされちまったんですよ! カキュウーヤクニーンは階級が上がったからまだ良かったのかも知れねえけど、俺は元の階級のまま飛ばされたんだよ!」
「それは兄貴の階級が元々高かったから——」
次兄コッパヤクニーンが反論を試みるが……
「ウッセイ! お前のせいで、俺はここまで踏んだり蹴ったりだったんだよ! バカなお前のおかげで、俺は今でも水の聖女アイシュー様に、ずっと睨まれてんだよ! ほれ見ろ、聖女様の視線。メチャクチャ怖いだろ?」
「…………私、別に睨んでなんていないんだけど」
「ヒ、ヒイィィィ! お、お助けを!」
何やってんだか……
でもお前ら、お笑いの観点から見ると、意外と良いコンビなのかも知れないぞ?
でもなぁ……
ここは心温まる兄弟愛の話になるんじゃなかったのか?
「なんだよ! なんでもかんでも俺のせいにしやがって! 俺だって…… ア、アッッツウウゥゥゥーーー!!! ヒ、ヒトスジー嬢、どうかお許しを!!!」
ホニーがまた、次兄コッパヤクニーンに向け、初級火魔法を放った……
「……アンタ、ウッサイのヨ。チョット黙りなさい」
うわぁ、ホニーのヤツ、メチャクチャ怒ってる。
そりゃそうか。ここまでの話を聞く限り、一番功績をあげたのはヒトスジー領担当の次兄コッパヤクニーンのようだからな。
ということは、ホニーのヤツ、相当酷い目に遭ったんだろう。
「チョット話を整理しましょうヨ。まずはオーボエ。アンタたちは死者の復活とか、いろいろ怪しげなことをしてたんでしょ? それなら特殊工作部隊から横槍を入れられても、仕方ないんじゃないの?」
どうしたんだろう、ホニーのヤツ。なんか急に場を仕切り出したぞ? まあいいや。ここはホニーを見守ることにしよう。
「実は…… その者たちの目的は我々の研究を邪魔することではなく……」
そう言うと、オーボエは他の鍛治師たちの様子をうかがった。
鍛治師たちは全員無言で頷いた。
何か秘密の話でもあるのだろうか。
覚悟を決めた様子でオーボエが口を開く。
「私は旧ナンバーズ諸国『参ノ国』の者です」
確か壱、弐国はニシノ国に併合され、肆、伍国はナカノ国に併合されたけど、参ノ国は今でも独立を保ってるって話だったな。
「そして私は参ノ国の元貴族でもあります。実は今でも参ノ国の王族や貴族とは繋がりがありまして……」
ためらいながら話をするオーボエ。
「ああ、なんとなくわかるワ。実は参ノ国のエライさんたちも、裏でアンタたちの研究を支援してたとか、そんな話でしょ? よくある話ネ。いいわヨ、もう終わったことなんだから。アタシは聞かなかったことにしてあげるワ。カイセイも、それからシーナ王女とシオス王子も、そういうことにしておいてくれない?」
キタノ国のシーナ王女とシオス王子は無言で頷いた。
シーナは早く話の続きが聞きたいようで、『そんなことどうでもいいから、早く次に行って』みたいな様子で、体が前のめりになっている。
もちろん、俺にも異存はない。いや、異存はございません。
俺、これからホニーのことを、ホニーさんって呼ぼうかな。
「ありがとうございます、皆さま。では話の続きを致します。ある時ニシノ国から、参ノ国の王女を人質に差し出せという要求があったそうです。参ノ国の王女は中級魔法を使える魔導士でもありますので…… 要求を跳ね除けたい参ノ国の王ではありましたが、なにせニシノ国は大国。断ることは容易ではありません。そこで王は、王女が行方不明になったということにして、密かに王宮から逃がしたのです。時間を稼ぎたかったのでしょう」
「なるほどネ。それでオーボエがその王女サマを匿ってたってわけネ」
あっ、思い出した。確かクローニン侯爵は、ナカノ国の王は3人の中級魔導士を狙っていたって言ってたな。
アイシュー、ホニー以外の中級魔導士って、参ノ国の王女様だったのか。
「ホニー殿のおっしゃる通り、私が王女様を匿っていました。ですが王女様の情報をつかんだナカノ国の者共が、そこにいるゲス野郎どもを使い、あの手この手で王女様を拐かそうとして……」
その瞬間、ホニーの初級火魔法が3兄弟に襲いかかった。
「ちょ、ちょっとなんで俺まで!」
長兄セッカチーが叫ぶ。モッハベルト3兄弟の出来上がりだ。
でも、ホニーのヤツ、ちょっとやりすぎじゃないか?
ミミーがこんなの見たら、きっと教育上よくないはずだ。
と思い、ミミーに目をやると……
退屈したのか、アイシューにもたれかかって寝てるじゃないか。
隣にいるアイシューと目が合った。
『ミミーちゃんは寝てるから大丈夫。ヤっちまいなさいよ!』
そんな目をしていた。
アイシューはセッカチーに対して、ホント、容赦ないな……
うーむ…… ではしばらく、静観することにしよう。
セッカチーよ、後でちゃんとヒールをかけてやるからな。




