人質大好きナカノ国
今度こそ、ここから立ち去ろうと、俺は風魔法で上昇気流を作り出したのだが……
なにやらナカノ国の兵たちがザワついている。
どうやら援軍が到着したようだ。
なんかエラそうな態度のおっさんが、こっちにやって来たよ。
雰囲気から見て、援軍を率いて来た指揮官のようだ。
「投降しろ。こちらには人質がいるのだ!」
俺たちに向かってそう言いながら、指揮官のおっさんが指差したのは——
縄で体をぐるぐる巻きにされた、コヤクニーン改めセッカチーだった……
「知らない人だから、放っておきましょう」
あっ、聖女アイシューが腹黒アイシューに戻った……
まあ、セッカチーはアイシューを騙してナカノ国に連れ去ろうとしたからな。
アイシューも、もう、怒ってはいないと思うんだけど……
たぶん、アイシューにとってコイツは、俺やホニーと同じように、『腹黒ワードをぶつけてもいい人カテゴリー』に入ってるんだろうな。
セッカチーよ、光栄に思うがいい。
「チョット、アイシュー。アンタ心が狭いんじゃないの? 過去のことをいつまでも引きずってないで、サッサとソイツを解放して、ここから立ち去りましょうヨ」
おっ、ホニーのヤツ、たまにはいいこと言うじゃないか。
「……それって、単にホニーが早くヒトスジー領に帰りたいだけじゃないの?」
「うっ……」
……なんだ、そういうことか。
でも、流石アイシュー。ホニーのことをよくわかってるな。
ちょっと感動してしまった俺は、まだまだホニーのことがわかってないのかな?
「あの、お取り込みのところ申し訳ないんですが…… そろそろ助けてもらえませんか?」
困り顔のセッカチーが控えめに口を開く。
ああ、そう言えばそうだな。俺はセッカチーに向けて言葉を投げかける。
「おい、セッカチー。お前、国軍に捕まるのが本当に好きだな。前にもこんなことがあったよな? それからお前、軍を抜けたんじゃなかったのか?」
俺はコイツが軍人を辞めたこと、更には公務員じたいも辞めたことを、ナカノ国のジンセイ=ズット・クローニン侯爵のお付きの人から聞いていたのだ。
「それが……」
セッカチーの話によると、コイツは軍を辞めていったん故郷に帰ったそうだが、近所の人たちに、俺やアイシューたちパーティメンバーのことを自慢しまくっていたらしい。『俺はスゴイ人たちと一緒にいたんだぜ』、みたいなことを言って。
そしたら、それを聞きつけた憲兵に、扇動罪だか国家転覆罪だかで捕まったそうだ。
まあ、魔法で山を吹き飛ばしたとか空を飛んだとか、そんなこと言ってたら、妄言を振りまく危険分子だって思われてもしょうがないか。
うーむ…… 俺たちのことを自慢に思ってくれるのは嬉しから…… やっぱり、ここはひとつ、助けてやることにするか。
俺がそんなことを思っていると——
「やはり先発隊からの報告に間違いはなかったようだな——」
俺とコヤクニーン改めセッカチーとのやり取りを聞いていた指揮官のおっさんがが口を開いた。
「——キサマらは風魔法を使って、空を飛んで来たというではないか。やはり、コヤクニーンが自慢していた人物と同じようだ。しかし…… まさかコヤクニーンの言っていたことが真実だったとは……」
だから仲間だと思われて連れて来られたのか。なんだか災難を背負い込むのがお得意な男だ。
俺はまた風魔法を使い、セッカチーの近くにいたナカノ国の兵士たちを吹き飛ばした。言うまでもないが手加減している。
それを見て、コヤクニーン改めセッカチーが上半身を縄でぐるぐる巻きにされた状態のまま、こちらに駆け寄って来た。
しかし——
「おい、コヤクニーン! お前、家族がどうなってもいいのか!?」
俺の風魔法で吹っ飛ばされ、更には尻もちまでをついているのに、態度だけは一人前の指揮官のおっさんが叫んだ。
「ハン! 残念だったな。俺は現在、花嫁募集中の身なんだよ! それから俺の両親は、もうとっくに国外に逃したんだ!」
そう言ったコヤクニーン改め…… ああ、もうメンドくせえな、とにかくセッカチーを見て、ニヤリと笑うおっさん。
「こんなこともあろうかと、お前の弟たちをここに連れて来ているのだ。おっと、どこにいるのかは秘密だがな」
おっさんの言葉を聞いたセッカチーがワナワナと震える。そして——
「汚ねえぞ! アイツらは国軍の兵士だぞ! 国のために必要だろうが!」
「国軍の兵士? 違うな、裏切り者の家族だ」
ちなみに…… 俺は、さっきからとてもイライラしている。
指揮官のおっさんの言葉を聞いて、更にイライラしてきた。
コイツら、いったいどれだけ人質を取れば気がすむんだよ。
「この人たち、口を開けば人質ばかりで…… 本当に許せないわ——」
俺と同様の感情を抱いたアイシューが、腹立たしげにつぶやいた。
「——あっ、でも、そこにいる元人質の人はどうでもいいんだけど」
ちょっと気まずそうに言葉を添えるアイシュー。
そう、アイシューは照れ屋さんなのだ。
「おい、セッカチー、ついて来い!」
俺はそう言うと、火魔法を使いセッカチーの体を拘束していた縄を焼き切り、セッカチーを連れて、風魔法で作った気流に乗り上空へと飛翔した。
「アイシュー、ホニー、ここは頼む! 念のため、ウォーターウォールとファイヤーウォールで防御を! ミミーは臨戦態勢で待機だ。コイツらレベルが高くないから、やり過ぎるなよ!」
「オウっ!」
「はいっ!」
「おおっ!」
おっ、なんかパーティらしくなってきたな。
♢♢♢♢♢♢
俺とセッカチーは上空を舞っている。
俺の横で若干不安そうに空を飛んでいるセッカチーが、さっきからずっと俺の方を見ている。
なんだ、礼でも言いたいのか?
「いいってことよ。俺は当然のことをしたまでで…… って、なんだ? なんだよその目は?」
「あの…… 次から縄を切るのは火魔法じゃなくて、風魔法を使ってもらえませんか? あれ、結構熱かったんですけど……」
「……テメー、ここから突き落としてやろうか?」
俺は若干気分を害されながらも、上空から、ユニークスキル『広域索敵』と『人物鑑定』を使い捜索を開始。
程なくして、ナカノ国の兵士たちの中から、セッカチーの弟二人を見つけ出した。
風魔法を使って二人を上空へ引き上げ、助けてやったんだけど……
「ヒ、ヒィイイイ! お、お助け下さい!」
「お、お願いです! 俺たちを、もとにいた場所へ帰して下さい!」
必死に懇願する二人。
なんだよ、せっかく助けてやったのに。
ひょっとして、自分たちが人質になってたってことに、気づいてなかったのか?
それとも、空を飛ぶのが怖いのか?
まあいいや、とにかくみんなが待つ丘の上に戻ろう。
ホニーとアイシューが生成した魔法の壁を見てビビっているヒガシノ国の兵士たちは、遠巻きにホニーたちを眺めているだけだ。
よし、安全は確保されているな。
俺、セッカチー、弟二人の計四人が丘に到着し、地面に足をつけた瞬間——
あっ、ホニーが初級火魔法の詠唱を始めた。
ホニーの初級火魔法が、弟のうちの一人に命中。
何やってんだ、ホニーのヤツ?
威力は弱めにしていたようで、命に別状はないようだが……
魔法を受けた弟の頭がチリチリになっている。
久しぶりだな、このヘアースタイル? を見るのは。
音楽室の壁にかかってる音楽家の肖像画みたいだよ。
なんだっけ、モッハベルトだっけ?
そうそう、確かモーツァルトとバッハとシューベルトが混ざって…… って、前にも言ったけど、この情報、ホント、どうでもいいな。
「おい、何やってんだよ、ホニー? コイツらは——」
俺の言葉を遮り、ホニーが憎々しげに言葉を吐き出す。
「ソイツは、ヒトスジー領担当特殊工作部隊の隊長ヨ……」
あっ、そうか。確かセッカチーは、ヒトスジー領で住民に嫌がらせをしてたのは、自分の弟だって言ってたな。
「お、お助けください! 今は心から反省しています! どうかお慈悲を!」
なるほど。だからここに来たくなかったのか……




