大人って大変
元ナンバーズ諸国の鍛治師たちとは話がついた。
しばらくはホニー、いや、ホホニナ=ミダ・ヒトスジー伯爵サマのご領地で聖剣作りを行うことになったのだ。……生活費は俺が出すんだけどな。
それじゃあ、一度彼らがもともと住んでいたアジトに荷物やら何やらを取りに行こう。そういう話に落ち着いた。
それでは、ナカノ国からオサラバするとしますか。
俺が風魔法を使って、上昇気流を作り出したところ——
「待て! どこに行くつもりだ!」
遠くで見ていたナカノ国の兵士たちの中から、隊長と思しき男が駆け寄って来た。
「ん? 話がまとまったから、帰るんだけど?」
だってこれ以上、ここに留まる理由はないだろ?
「待ってくれ! 今帰られると困るんだ! もうすぐ援軍が来るから、せめてそれまで待ってくれ、頼む! アンタらを逃すと俺の責任になるんだ。俺にも家族がいるんだよ!」
また人質かよ……
この国は、本当に人質が好きだな。
そうか。コイツらが俺たちのことを遠目で眺めていたのは、援軍が来るのを待ってたのか。
「そんなこと言われてもなあ…… どうしようか」
俺が悩んでいると——
「カイセイさん。僕にもお手伝いさせていただけませんか? 」
張り切った様子のシオス王子が声を上げた。
「今まで僕たちは何のお力添えも出来ませんでした。でも、こういうことでしたら、少しはお役に立てると思うのです」
そう言うと、シオスはナカノ国軍の隊長に向かって、威厳と気品のある態度で話し始めた。
「僕はキタノ国の第2王子、ココロヤサシオス=デモ・エラインデスと申します。僕たちは、後ろにいる6人を追ってここまでやって来ました。この者たちははキタノ国で騒動を起こした容疑がありますので、これよりキタノ国に連れ帰り詮議します。もし、邪魔立てするなら、正式にナカノ国国王へ抗議しますが、いかがしますか?」
「ちょっと待って…… って、いや、本物のわけがない。こんなところにキタノ国の王子様がいるわけないじゃないか! 俺は騙されないぞ!」
そうか。冷静に考えると、そういう反応になるか。
「あーあ、シオスったら。『僕がなんとかします』みたいなこと言っちゃったけど、結局ダメじゃない。もう、カワイイ女の子たちの前だからって、カッコつけちゃって」
「ちょ、ちょっと姉上! 僕は別に、そんな……」
シオスが顔を真っ赤にして俯いている。
うーむ…… シオス王子ってば、アイシューやホニーの前で、カッコイイところを見せたかったのかな?
まあ、気持ちはわかるよ。青春だな、シオス君。オジサンにもそんな時代があったよ。
「おい、シーナ、やめろよ。シオスは俺たちのために頑張ってくれたんだから」
元少年代表として、ここはシオスをフォローしておいた。
キタノ国近衛騎士団団長、ブブズケ=デモ・ドウドス氏、通称ブブさんも、シオス王子に向けて、コソコソと話しかける。
「カイセイさんもそう言って下さってるんですから。王子はよく頑張りましたよ。もうこのへんで、これ以上厄介ごとに首を突っ込むのはやめておきましょうよ、ね? 今は隠密行動中なんですよ? ここはおとなしく国に帰って、今後のために鋭気を養いましょうよ、ね? ね?」
「…………ドウドス隊長、カッコワルイ……」
シーナ王女の本音が炸裂するも、ブブさんは全く意に介する様子がない。
他国で何か問題でも起こしたら、きっとブブさんの責任が問われるんだろうな。
ナカノ国の隊長といい、ブブさんといい、大人はみんな大変だな。
そんなブブさんにはとても気の毒なのだが——
「ああっっっ! あなたは!」
ナカノ国の隊長が声を上げた。
「あなたはキタノ国の近衛騎士団におられた、ブブズケさんじゃあ、ありませんか!? ほら、俺ですよ! 3年前、キタノ国で開催された4ヶ国合同武術大会で手合わせした、マダマダカ=ベガ・コエラレーヌですよ!」
あっ、ブブさんがあからさまに目を逸らした……
「…………ドウドス隊長、カッコワルイ……ゾ」
「おいミミー。シーナのモノマネするの、やめてあげろよ……」
そんな俺たちのやりとりを見ていた、ナカノ国の隊長コエラレーヌが寂しそうにつぶやく。
「まあ…… 俺、ブブズケさんにあっさり負けちゃったから、覚えてないですよね……」
その言葉を聞いたブブさんが、
「ハァァァーーー…………」
と、大きくため息をついた。そして——
「覚えてるよ。正々堂々戦った相手の顔を忘れるわけないだろ。アンタを一目見た時から、あっ、ヤッベーーー! こりゃ、顔見られたらヤベーよ! 俺だってこと一瞬でバレちゃうよ! って思ってたんだよ!!!」
なにかが吹っ切れたようなブブさん。
「嗚呼、今は隠密行動中なんで絶対に顔を合わさないよう、コッソリ隠れてようと思ったのに……」
なんだかブブさんの背中から哀愁を感じる。
そんな中——
「いい加減にしなさい! ブブズケ=デモ・ドウドス、それでもあなたは誇りあるキタノ国近衛騎士団の団長ですか!」
ブブさんを一喝する、シーナ、いや、キタノ国第2王女、ココロヤサシーナ=ケド・エラインデスの凛とした声が周囲に響き渡った。
「はっ! 申し訳ありません!」
あっ、ブブさんの顔つきが変わった。
腹をくくったのか?
どうやら団長モードに戻ったようだ。
イカツイ表情に戻ったブブさんが、ナカノ国軍の隊長に語りかける。
「コエラレーヌ殿。ここは我が国の王子、ココロヤサシオス様の申し出を受け入れてもらいたい。もちろん貴殿にも立場があるだろう。しかし、貴殿は『退却』したのではなく、容疑者をキタノ国の王子に『引き渡した』のだ。おそらくナカノ国の王からもお褒めの言葉があると思うのだが?」
おっ、なんだかブブさんが仕事の出来る大人みたいに見えるぞ。
「それに、これ以上文句を言うなら外交問題になって、貴殿の責任が重くなる可能性があるぞ?」
「確かに……」
思案顔のコエラレーヌ隊長。まだ迷っているようだ。
「……決断の遅い者は出世できないぞ? 最悪の場合、実力で貴殿らを排除することになるが——」
「ま、待ってくれ! アンタと戦って勝てるヤツなんてここにはいないさ! わかった…… 兵を引きましょう」
そう言うと、コエラレーヌ隊長は俺たちに背を向け、ナカノ国の兵士たちが待つ丘の下目指して歩き出した。
いやあ、カッコ良かった、カッコ良かったよブブさん!
なんだか頭が良くて、腕っぷしも強い司令官って感じがしたな。
俺は本気でそう思ってるのに、ブブさんは——
「ああ、もう話は最後まで聞けってんだ! 俺が言いたかったのは、カイセイさんたちが本気になったらエライことになるってことなのに…… 俺なんてこの中に入りゃあ、ハナクソみたいなもんだよ……」
……やっぱり、ブブさんはブブさんのようだ。
「あーあ。またそういうこと言って。ドウドス隊長のこと、ちょっと見直したのに…… やっぱり——」
シーナ王女が口を開いた。そして——
「「「「…………ドウドス隊長、カッコワルイ(ゾ)……」」」」
シーナ、ホニー、アイシュー、ミミー、4人の声が重なった。
…………若者たちよ、ちょっと待て欲しい。おっさんだって自分の限界を感じて嘆くことや、その結果愚痴をこぼしたくなることだってあるんだよ。というか、おっさんだからこそ、あるんだよ、きっと。
俺だって、元サラリーマンだ。しかも営業成績が振るわない、元ダメダメサラリーマンだよ。
俺が全然契約が取れなくて困ってるのに、同僚の連中はチャッチャと契約取ってきやがるし……
「……ブブさん、今度、飲みに行きましょう。俺でよければ、愚痴ぐらい聞きますよ?」
「……カイセイさん」
今日、俺とブブさんは親友になった。
よし、今度飲みに行ったら、俺の愚痴もたっぷり聞いてもらうことにしよう。




