失態
俺は丘の上空約100mの地点から上級風魔法の魔法陣を出現させ、悪魔教徒たちが有する魔道具の近くまで魔法陣を下降させた。
そして、近距離から魔道具目掛けて風魔法をぶちかました!
金属が壊れる耳障りな音が周囲にこだました後…… 魔導具は崩れ去った。
「魔導具は壊したと思う。でも念のため、俺とオーボエだけで下に降りる。ホニーとアイシューは、一応上空でファイアーウォールとウォーターウォールを展開して警戒しろ」
「おおっ!」
「はいっ!」
俺は上空に向けて風魔法を展開させたまま、更にもう一つ風魔法を発動させ、下降気流を作り出した。気流に乗り、オーボエと共に地上目指して高度を下げる。俺にとって、二つの魔法を同時に使うことはそれほど難しいことではない。それよりも——
「まったく…… 難儀な魔道具を作ってくれたモンだ。あんな魔道具の攻撃を防ぐ魔法なんて、俺、知らないからな。もしあの魔道具が暴発してミミーたちにもしものことがあってみろ。俺はお前らを絶対に許さないからな」
「……申し訳ない」
消え入りそうな声でオーボエはつぶやいた。
さて、俺とオーボエは地上10mほどの地点で一度止まり、もう一つ風魔法を出現させた。そしてブーメランのような気流を作り、破壊された魔導具を自分たちの手元に引き寄せた。
そして、魔道具の残骸をオーボエに見せる。
「どうだ、壊れてるか?」
空中に浮いている魔導具を真剣な表情で見つめるオーボエ。
「間違いありません。もう絶対に動きません」
念には念を入れて、俺が火魔法を使って燃やしてしまおうと思っていたところ——
——チャラララ〜
天界からのメールが届いたようだ。
まったく…… なんだよこの緊張感のない着メロは。
カッコいいシーンが台無しじゃないか。
『ストップっス! その魔導具はもう壊れてるっス。解析したいからそれ以上壊さないで欲しいっス』
パイセンのヤツ、仕事熱心なことだな。
仕方ない。俺は少し離れた場所に壊れた魔道具を放り投げた。
では、そろそろ地上に降りて見ようかと下を見たところ……
悪魔教徒、ナカノ国の兵士共々、上空を見上げてポカーンと口を開けていた。
まあ、そりゃ、そうなるか。
とりあえず、ナカノ国の上官と思しき人物と悪魔教徒たちとの中間地点に降りてみた。
降りてみたのはいいんだけど……
魔道具のことを警戒し過ぎて、何を話すか全く考えてなかった。
どうしたものかと考えていたところ、俺より先にオーボエが自分の仲間に向けて口を開いた。
「みんな、投降してくれ! ナカノ国の兵士にではなく、この方に投降するんだ! この方は聖人様で、俺は女神テラ様の声を聞いて、女神様はコテラという人で、それからえっと、えっと……」
「……ちょっと落ち着けよ」
どうやらオーボエはテンパっているようだ。
「「 ちょっと待て! 」」
悪魔教徒のリーダー風の男と、ナカノ国の隊長と思われる人物が同時に声を上げた。
うーん、どうしようか。
「よし、俺はヒガシノ国の隊長と話すから、オーボエはお前の仲間たちと話すっていうのはどうだ?」
「わかりました」
オーボエの答えを聞いた俺は、ヒガシノ国の隊長に向かって歩みを進めた。
しかし——
「ち、近寄るな! 貴様は何者だ!」
怯えるナカノ国の隊長さん。
ああ、そうですよね。警戒してますよね。
隊長までの距離はまだ5m以上あるが仕方ない。ちょっと大きめの声で話すか。
「俺は冒険者をしている魔導士のキシ・カイセイという者だ。アンタらに敵対するつもりはない」
と言いつつ、ユニークスキル『人物鑑定』を使い兵士たちのレベルを調べる。
隊長のレベルは43。副隊長だと思われる2人が30代。残りは20代だから、まあ問題ないだろう。
ん? でもなんかスゴい数字が目に入ってきたような……
あ、これは悪魔教徒たちのレベルか。
あれ? レベル72とかの人がいるんだけど……
あ、他にも50代の人がいるじゃないか……
これ…… 相当ヤバイんじゃ……
風魔法を使い悪魔教徒の元へダッシュ!
悪魔教徒の周囲を囲むように、水魔法を使い氷の壁で取り囲む!
更に蓋をするように、その頭上も氷の壁で覆う!
そして俺は絶叫する!
「おい! テメーら、動くんじゃネエぞ! 変なマネしてみろ、超級魔法で全員あの世行きだからな!」
「せ、聖人様! いったいどうしたと言うのですか!?」
氷の壁の中に仲間共々閉じ込められたオーボエが非難の声を上げる。
「お前ら、めちゃくちゃレベルが高いじゃネエか!」
しまった…… 悪魔教徒たちって全然強そうに見えなかったんで、まったく警戒してなかった。それに、ここに来るまでシーナやシオスたちと話し込んでしまい、索敵もロクにしてなかったんだ。
何やってんだよ、俺。油断しすぎだよ……
ここにいる悪魔教徒はオーボエを入れて6人。レベル70代が1人。多分リーダーと思われるヤツだ。その他50代が2人に40代が2人。一番低いオーボエでもレベル38。
アイシューとホニーは最近レベル60を超えたばかり。
この位置からレベル72の敵リーダーに、上級魔法を使って上空にいる俺の仲間を狙われたら、とてもヤバイことになる。
周囲からナカノ国の兵士たちが何やらゴチャゴチャ言っているが、今は聞いている余裕がない。
風魔法を使って兵士たちを後方へ吹き飛ばす。大丈夫、もちろん手加減はしている。
俺は改めて、水魔法で作った氷の牢獄に封じ込めた悪魔教徒6人へと視線を移した。
そして、氷越しにソイツらを睨みつけながら大声を張り上げる。
「おい! 俺はお前たちに敵対するつもりはない! お前たちが抵抗しないなら、絶対に殺さないと女神様に誓って約束する。だが、少しでも抵抗してみろ、容赦するつもりはネエからな!」
俺は火、水、風、3つの超級魔法陣を悪魔教徒たちの頭上に展開させた。
その直後——
「なんだと!」
俺の魔法陣が消えた!?
俺の魔法がアジャストされたのか?
俺の魔法をアジャストするには、俺と同等級の魔法が必要なはず。
まさか…… 超級魔法を使えるヤツがいるのか!?
でも、超級魔法はレベル80からじゃないと使えないのでは……
俺の頭の中が混乱で渦巻いていた時——
「とうっっっ!!!」
上空から変な掛け声が聞こえた……
そして変なお面を被った人が、ものすごい勢いで俺のすぐ横に着地した。
出来ればスルーしたかったが、きっと許してくれないだろう。諦めて俺は口を開いた。
「そのヒョットコみたいなお面…… そんなバカみたいなお面を被って喜ぶ人は、俺の知る限り一人しかいないんですが……」
「せ、せっかく来てあげたのに、何ですかその言い草! べ、別にこのお面を気に入ってるとか、そういうことじゃないんだからね!」
女神様が地上に再降臨なされたようだ……




