悪魔教徒の連絡手段
悪魔教徒コノヤロウは大急ぎでトイレに向かって走って行った。
そんなコノヤロウに対して声をかける者は誰もいない。
みんなアイツを気にかけている暇がないからだ。
俺たちは今、混乱極まりない状況に陥っていた。
「チョット、シーナ! アンタ、いえ、アナタはキタノ国の王女だったの? ……いえ、だったんですか?」
驚きの声を上げるホニー。
「えーーー!!! なんでソコに驚くの!? コテラさん、いえ、サマが女神様だったことに比べたら、私が王女かどうかなんて、どうでもいいことじゃない!?」
勢いよく反論するシーナ王女。
「ということは、アイシュー様は女神の使徒でいらっしゃるのですか? 聖女様と呼ばれているぐらいですから!」
尊敬の瞳でアイシューを見つめるシオス王子。
「と、とんでもございません! わ、ワタクシめは本当にただの元聖堂士でございまして! って、あれ? ワタシ、ハナシカタ、オカシイ? あー、もう、私、王族の方とお話したことなんてないんです!」
王子様を前にして混乱するアイシュー。
「オニーサンはコウモン様だったのカ?」
驚くポイントがおかしいミミー。
「いや、それは今関係ないことだと思うぞ。おいホニー、ミミーに中途半端な日本の知識を植え付けるんじゃねえよ。それよりブブさんだよ。ブブさんはキタノ国の近衛騎士団団長だったんですね。きっと腕っぷしひとつで、その地位まで駆け上がったんでしょうね。それで、爵位と『姓』を王様からもらったとか? クウゥゥゥー! なんか、カッコイイですね!」
「ななな、なに言ってやがるんですか! なんでこの状況で俺の話が出るんです!? 俺なんて、この中じゃあハナクソみたいな存在じゃねえですか!」
うーむ…… ブブさんはご謙遜のご様子だけど、俺はカッコイイと思うんだよな。
そんな中、スッキリした顔をして戻って来た悪魔教徒コノヤロウがあきれ顔でつぶやいた。
「みなさん、ちょっと冷静になりましょうよ……」
チッ、まさかコイツにこんな真っ当なことを言われるとは……
コノヤロウの一言にはイラッとしたが、確かにこのままでは話が進まないので、とりあえず、呼び方や話し方はこれまで通りにするよう提案した。
王女様たちキタノ国3人組は、若干申し訳ない顔をしながらも、『ご命令とあらば……』と言って受け入れてくれた。
でも、これって命令じゃなくて提案なんですけど ……
さて3人組の話によると、なんでもキタノ国の王族は、15歳になると戦闘の経験を積むために、正体を隠して一定期間冒険者として修行に出る決まりがあるらしい。
本来は1人ずつ行うのだが、シーナ王女がなんというかちょっと頼りないというかオッチョコチョイというか…… とにかくシーナ王女については弟のシオス王子が15歳になるのを待って、一緒に冒険者修行を行うことになったそうだ。
同行するのはキタノ国の最強戦士。今回はキタノ国近衛騎士団団長のブブさんが選ばれたそうだ。
キタノ国は人間族の王国の中で、唯一魔人属領に接している。
前回のターンでは、魔人族軍の侵攻により真っ先に蹂躙された国である。
魔人族との争いはここ200年起こっていないが、国の指導者は剣術や魔術に秀でていなければならないという風潮は残っているそうだ。
3人組の素性がわかったところで、さて次は悪魔教徒の話を聞こうと思っていたところ——
——リリリリリ!!!
昔懐かしい、黒電話の呼び出し音のような音が聞きえてきた。
「あの…… 仲間から通信が入ったようなので、応答してもいいでしょうか? ヒ、ヒィッッッ!」
……ホニーが怖い顔してコノヤロウのヤツを睨みつけてる。
「わ、私は心を入れ替え、女神テラ様の信徒になりました! 仲間たちにも心を入れ替えるよう説得したいと思っています。ほ、本当ですよ!!!」
「まあ、とりあえず電話…… じゃなくて、通信? に出てみろよ。でも、おかしなことしたら——」
俺の言葉を最後まで聞く前に、コノヤロウは口を開く。
「あ、当たり前じゃないですか! 女神様や聖人様、それにキタノ国の王族の方々まで敵に回すようなバカはいませんよ!」
「まあ、それならいいけど……」
でも俺、聖人様じゃないんだけどな。まあ、せっかくビビってるんだからいいか。
コノヤロウは俺たちを引き連れ、呼び出し音のなる部屋へと向かった。
そこには魔導具と思われる、スピーカーっぽい物体とマイクっぽい物体が置いてあった。
へえ、この世界にもこんな通信器具があるんだな。俺、初めて見たよ。
悪魔教徒たちって意外とハイテクなんだな。
コノヤロウがなにかボタンのようなものを押したところ——
『聞こえるか、我が同士よ。俺たちはもうダメだ。今、ナカノ国の兵士に囲まれている。お前は作戦案Cに従いそこから脱出しろ!』
その言葉を残し、通信は途切れた。
「どう言うことだ! おい、応答しろ! おいっ!!!」
コノヤロウが必死になってマイクに向かって叫んでいるが何の反応もない。
あーあ、やっぱり悪いことしちゃダメだよね。これってきっと盗みをはたらこうとした報いだよ。やっぱり人間真面目に生きていかないといけないよな。なんてことを考えていると——
天界からメッセージが届いた。
さっきは人目を避けてコッソリ見たけど、もういいよな、ここで見ても。
『チャンス到来っス!!! コイツらを助けて恩を売る絶好のチャンスじゃないっスか!!!」
パイセンのヤツめ…… そんな人の弱みにつけ込むようなことを……
こんなのどっちが悪魔なのかわかりゃしないよ。
でも仕方ない。ここはパイセンの言う通り、悪魔教徒の連中を助けるのが上策なんだろう。
俺がコノヤロウに向け話を始めようとしたところ、なぜかアイシューが先に口を開いた。しかもとびっきりの笑顔で。
「お困りのようですね、コノヤロウさん。もしよろしければ相談に乗りますよ?」
この世界の聖職者ってみんな腹黒いのか?
アイシューにはパイセンのメッセージは届いていないだろ?
やっぱりお前も『チャンス到来!』って思ったのか……
物欲と性欲にまみれたハレンチ神官バインバイーンといい、金と地位が大好きだったミズーノの街の聖堂長といい…… 瀕死の俺に向かって白魔法の使用料を払えと言ってきた教会の関係者もいたな。
この世界には心清らかな聖職者はいないのだろうか?




