天の裁き
「チョット、カイセイ! アンタいったい、今までどこに行ってたのヨ!」
「カイセイさん、大丈夫なんですか?」
「オニーサン、オレっち心配したゾ……」
悪魔教徒のアジトに戻った俺は、ホニー、アイシュー、ミミーから3人3様の言葉で迎えられた。
「すまなかったな、心配かけて。もう大丈夫だ。それから、コテラはなんか急用が出来たそうで、ちょっと席を外すそうだ」
俺は努めて笑顔で言葉を放った。
俺の言葉を聞いた北の国の冒険者3人組、シーナ、シオス、ブブさんも安堵の表情を見せた。
そこまでは良かったのだが……
「おい、お前! 私を変なロープみたいな魔法でグルグル巻きにしておきながら、どこかへ行ってしまうとは何事だ! 早く私の拘束を解かないと酷い目に合わせるぞ!」
元ナンバーズ諸国の鍛治師にして、現在は悪魔教徒に身を落としたオボエテ=ロヨ・コノヤロウが悪態をついている。
「チョット、カイセイ。アンタがコイツの話の途中で出て行っちゃったから、コイツってばさっきから、ずっとうるさいのよ」
面倒臭そうな顔のホニー。
「ねえカイセイさん。この人、きっとあなたに話を聞いてもらいたいのよ」
憐れみの表情を浮かべるアイシュー。
「オレっち、このオジサンはきっと、かまって欲しいんだと思うゾ!」
訳知り顔のミミー。
「お、おい、お前ら! それが大人に対する——」
コノヤロウが非難の声を上げるが、ホニーがひと睨みすると——
「ヒ、ヒィッッッ!!!」
恐怖の声を漏らした。
……おい、ホニー。お前、まさか俺がいない間に、変なお仕置きとか、変な尋問とか、いろいろ変なコトしてネエだろうな?
「……わかったよ。でも俺、もう聞きたいことあんまりないんだけどな。まあいいや、じゃあ、話の続きを聞いてやるから言ってみろよ」
俺がそう言うと、待ってましたとばかりにコノヤロウが口を開く。
「ふっ、仕方ないな。お前がどうしてもと言うんなら、話してやらないこともないぞ」
コイツやっぱり、かまって欲しいだけのようだ。
「ではその前に、私の拘束を解いてもらおうか!」
コノヤロウのヤツがエラそうなことを言うので、
「じゃあもういいや。ここにある怪しげな魔道具と一緒に、このままコイツを冒険者ギルドに突き出してやろう」
と、俺は簡潔に答えた。
「ち、ち、ちょっと待て! わかった、今回だけは特別に、この場で話をしてやろう。特別だからな!」
まったく面倒なヤツだ。仕方ないのでちょっとだけ聞いてやろう。
コノヤロウは意気揚々と先程の話の続きを述べ出した。
「お前たちが私を冒険者ギルドに突き出したとしても、もう遅いのだよ! さっき言っただろ? 私の仲間が既にナカノ国に向かっていると」
そういえば、そんなこと言ってたな。
「ここにある魔道具は、『魂の器』をマナに変換し、そのマナを吸収・蓄積する機器の試作品なのだ。完成品を携えた私の仲間たちは、今頃ナカノ国でマナの吸収を行っていることだろう」
そういえば、ここにある魔道具は日本にある掃除機のような形をしている。これってマナを蓄える魔道具なのか?
あれ? マナを吸収するってことは…… まさか、人を殺して……
「我々の悲願、それは100年前に君臨した、我らの偉大なる5人の英雄王を復活させること! 復活せし英雄王のもと、我々は失いし国を取り戻すのだ! 多くのマナを使えば、死者が復活するということを我々は学んだのだ! ふふっ、お前が私を冒険者ギルドに突き出す前に、私の仲間たちが英雄王を復活させ、私を助けに——」
——ズドーーーン!!!
悪魔教徒コノヤロウの話が終わる前に天空から轟音が鳴り響き、俺たちがいる悪魔教徒のアジトの屋根が吹き飛んだ。
俺はとっさにミミーたちを守ろうと思ったのだが……
屋根はどこかへ吹き飛ばされ、俺たちにはなんの被害もなかった。
唖然とする一同。
俺たちの頭上にはとてもキレイな青空が広がっていた……
しばしの沈黙の後、青空の彼方から光が差し込んできた。
俺と悪魔教徒コノヤロウ以外の面々がその光に包まれる。
間違いない。これは以前、女神様が下界に向けて放った、ヒールっぽい効果のある不思議な光だ。
俺がそんなことを考えていると——
『悪魔教徒コノヤロウ…… 汝に天の裁きを……』
天空から女神様の声が聞こえてきたのだが……
声の主は女神様で間違いない。女神様のあの美しい声を聞き間違えるはずはない。
しかし……
怒りで声が震えている。
女神様は相当怒っているようだ。
いや、怒っていらっしゃる。いやいや、お怒りなされておいででおられる。ええい、もうなんでもいい。とにかく怖いんだよ!
ヒールっぽい効果のある光を浴びていなければ、きっとミミーはまたチビっていただろう。
なんだよ…… 俺にも不思議な光を当てて下さいよ。俺だって怖いんですよ!
悪魔教徒コノヤロウに目をやると…… チビっていた。
俺は一瞬、武士の情けで混合魔法ドライヤーを使い、下半身を乾かしてやろうかと思ったが……
やめておこう。余計なことをしたら、俺までトバッチリを食いそうだ。
はっきり言おう。俺は今、とてもビビっているのだ。もう、俺までチビりそうなぐらいビビっているのだ!
「ヒ、ヒィィィーーー!!! お、お、おま、おま、お待ち下さい!!!」
こういうのを断末魔の叫びと言うのだろうか。
悪魔教徒コノヤロウが死にそうな顔をして、必死に声を絞り出している。
『……己の欲望を満たすため、無関係な大勢の人の命を奪うとは…… 汝、それでも人たると言えるか!!!』
「ご、ごか、ごかい、誤解で、誤解です!!! 人の命を奪おうなんて、これっぽっちも考えてません!!!」
『……………………え?』
「わわ、私たちは、ナカノ国の放牧場にいる、牛や豚を狙っているのです!!! ひ、人様を殺めるなんて、そんな恐ろしいこと我々には出来ません……」
『……………………あれ?』
「わわ、私たちは貧乏生活を続けておりまして、もう何年も肉を口にしておりません。そこで今回、牛や豚の『魂の器』を奪ったついでに、焼肉パーティを開催して盛り上がってやろうと企んでおりました。ハシャいでしまい、本当に申し訳ありませんでした!!!」
身体を拘束されたまま地面に倒れこみ、こうべを垂れて謝罪の言葉を放つ悪魔教徒コノヤロウ。
それに対する女神様の答えはと言うと——
『……………………えっと…… 泥棒は良くないことです……」
なに当たり前のことを言ってるんですか、女神様?
『……………………ええ、そうですとも。泥棒は犯罪ですとも…… 今後は…… 注意して下さい』
きっと今頃、顔を真っ赤にして恥ずかしがっているんでしょうね、女神様?
『……………………あの…… 後のことは、そこにいるカイセイさんと相談して下さいね……』
やっぱり俺が尻拭いするんですね、女神様……




