ホニーとアイシューの迷勝負
「あのー、お取り込み中、すみません」
俺たちは空中から地上に降りて、なにやら揉めている様子のキタノ国の冒険者3人組に声をかけた。
「えええっ! この人たち空から降って来た!」
ココロヤサシーナ嬢が無邪気な声で驚きの言葉を口にした。
いや、降って来たんじゃなくて、目的地に着地しただけなんだけどな。
ドウドス氏が若い二人をかばうように前に出た。
どうやらこの人がこのパーティのリーダー的立場にあるようだ。
「俺たち怪しいものじゃないんです。って言っても怪しいですよね…… えっと、じゃあ、まずは自己紹介するんで聞いてもらえますか?」
そう言って、俺が簡単に自己紹介した後、
「じゃあ、次はアイシュー」
と言うと、ホニーが、
「チョット! なんでアイシューが先に言うのヨ! まずはアタシに自己紹介させなさいよネ!」
と、文句をつけてきた。
「なんだよ。この前、日本の伝統『五十音順』に従って、アから始まるアイシューが先だって納得したじゃないか」
「あれはこの前限定ヨ! 今度はもう一つの日本の伝統、『背の順』に従うべきだと思うワ!」
「じゃあ、1番ちっちゃい、ミミーからだな」
「……ぐぬぬぬ。しくじったワ」
何言ってんだか。ほら見ろ、ホニーがバカなことを言うもんだから、ココロヤサシーナ嬢が笑いをこらえてるじゃないか。
その後、日本の伝統かどうかよく知らないが、とにかく背の順に従い自己紹介はつつがなく進んだ。ちなみに女神様は『ホコーラの街の巫女コテラ』と名乗っていた。
『女神の使徒が下界に降りて来たなんて聞いたら、ビックリしちゃいますからね』と、小声で言っていたが……
それじゃあ、本物の女神様が下界に降りて来たなんて聞いたらいったいどうなるんだろう? 大騒ぎなんてもんじゃ、済まないだろうな。
パイセンには悪いが、やっぱり女神様には早めに天界へ帰ってもらおう。うん、それがいい。
べ、別に、女神様がミミーと仲良くしてるのをヤッカンでるとか、そんなんじゃないからな!
「ん? オニーサン、どうかしたのカ?」
「……なんでもないさ、ミミー」
他人が俺を見たら、きっと親バカだと思うんだろうな……
さて、俺たちの自己紹介が済むと……
「あの、もし間違っていたらすみません」
ドウドス氏が口を開いた。そして——
「そちらのアイシューさんとホニーさんは、ヒガシノ国の魔導士の方ですか?」
返事しようと思った俺を遮りホニーが叫ぶ。
「ええ、そうよ! ア・タ・シ、とアイシューは、ヒガシノ国で中級魔法を使える3人の魔導士のうちの2人ヨ。ああ、でも今はア・タ・シ、もアイシューも上級魔法が使えるようになったんだけどネ!」
ホニーのヤツ…… アイシューの名前を先に出されたのが気にいらないないようだ。
あ、今アイシューが舌打ちしやがった……
「ホニーはまだ上級魔法の呪文をちゃんと覚えてないじゃない。上級魔法を使えるのは私・だ・け、だと思うんだけど?」
アイシューの逆襲が始まった。もう、またケンカかよ……
「うっさいわネ! ほんのちょっとだけ失敗したけど、使えたことに変わりないじゃないのヨ!」
実はホコーラの街を出てから、ホニーとアイシューは上級魔法の練習をしてたんだけど……
ホニーが曖昧な詠唱をしたもんだから、魔法が暴走してエライことになったんだ。
それ以降、ちゃんと呪文を覚えるまでホニーには上級魔法の使用禁止を言い渡していた。
「アイシューはホント、細かいことをグチグチ言うんだから! 将来ハゲるわヨ!」
「細かいことじゃなくて大事なことだと思うけど? それから、ホニーの方が私より髪の毛が細かったじゃない。髪の毛の太さ勝負であなた負けたでしょ?」
お前たちはなんでも勝負するんだな……
「だから、ホニーの方こそ、将来の毛髪の心配をしたらどうかしら?」
「フッ…… どうやらアンタとはここで決着をつけないといけないようね」
「もう…… 昨日はご飯大食い対決したし、その前は薪拾いどっちが多いか対決したでしょ? 両方とも私が勝ったじゃない」
「ぐぬぬぬ…… き、今日は他の競技で勝負ヨ!」
お前ら俺の知らないところで、いっつも勝負してたんだな……
それからホニー。大食いや薪拾いは競技じゃないぞ。
そんなことを思っていると——
「ふっ、ふふふっ…… む、無理! もう我慢できない! アハハハハハハ!!!」
2人の会話を聞いていたココロヤサシーナ嬢が腹を抱えて大声で笑い出した。
「ちょ、ちょっと姉さん、失礼だよ」
「申し訳ない。彼女は笑い上戸と言うやつでして」
爆笑しているココロヤサシーナ嬢。
彼女はパッと見美人なんだけど…… あーあ、笑い過ぎて顔の筋肉がおかしなことになってるよ。
「ち、ちょっと姉さん、顔がマズイことになってるよ」
「申し訳ない。彼女は笑うととても残念な顔になるものでして」
「いえいえ。とても健康的だと思いますよ。むしろ可愛げがあっていいじゃないですか?」
俺は率直な感想を述べた。若いんだから、素直に感情を表現したっていいと思うぞ。
「え? あなた、姉さんの顔面崩壊笑顔を見てビックリしないんですか?」
「なんと! 初対面の男性なら、必ずガッカリした態度を見せるのに!」
うーむ…… 確かに普段の美人顔とのギャップはあるとは思うが……
俺、ひょっとして女神様とかパイセンみたいな超絶美女を見てるから、ココロヤサシーナ嬢の顔にあんまり注目してなかったのかな?
「きっと、お連れの巫女さんがお美しいですから、初めから姉さんの顔なんて気にされていなかったのでしょう」
「なるほど。これほど美しい方といつも一緒におられるのだ。ココロヤサシーナのことなど、眼中になかったんだろうな」
ああ、やっぱりこの人たちも同じように考えたんだな。
「ええ!? いやだわ、もう、美しいだなんて——」
なんだよ。女神様でもやっぱり美しいって言われると嬉しいものなのかな。なんて思ってたら——
「カイセイ、危ない! 逃げて!!!」
ホニーが大声で叫んだ。
「え? 何言ってんだホニー?」
「あれ? ここは日本の伝統だと、『恥ずかしいー!』とか言いながら、身近にいる人を殴るんじゃないの?」
……女神様は日本人じゃないだろ? それから、そのネタがわかるのって関西人だけじゃないのか? もういっそのこと、女神様にお願いして、関西限定で転生させてもらえよ。




