キタノ国の冒険者たち
ホコーラの街を出て3日ほど経った。
俺は今、女神の使徒コテラになりきっているつもりの女神様とミミーが仲良く歩いている様子を眺めてモヤモヤしながら、ホニー、アイシューと共にキタノ国の街道を北西に進んでいる。
そんなとき——
——チャラララ〜
天界に残っているパイセンから、またメッセージが届いた。
『北・西・中、国境近くの冒険者ギルドが、悪魔教徒調査のクエストを出したみたいっス。クエストを受けた冒険者たちでは、悪魔教徒どもの返り討ちにあうと思うっス。言ってることがコロコロ変わって申し訳ないけど、流血の事態になる前に、急いで現地に行って冒険者を助けて欲しいっス』
急展開だな。まあ、パイセンの言うこともわかるので、今回は指示に従うことにしよう。
おっと、まだ続きがあるようだ。
『メンバーの親睦を深めるのは問題が解決してから、ゆっくりじっくり、そりゃあもう長い時間をかけて行って下さい。温泉なんかに行ってみるのも良いかも知れないっスよ』
パイセンよ、女神様のいない天界生活はとても快適なようだな。
パイセンからのメッセージを、女神様に伝えたところ——
「カイセイさん、ぐずぐずしている場合ではありません! 国境付近の山岳地帯に急ぎましょう! まったく、カイセイさんはいつも初動が遅いんだから」
……徒歩で行こうって行ったのはアンタだろ? 泣き崩れゴッコにハマってたじゃないか。ヨヨヨって言ってたクセに!
♢♢♢♢♢♢
「おい、大丈夫かホニー! アイシュー、すぐに治癒魔法を使ってやるからな! ああ! ミミーがまた白目をむいて気絶してる!」
デジャブだ…… みんな死にそうな顔をしている。
女神様がまた張り切って超高速飛行をかましやがった。俺たちは謹んでお断りしたはずなのに……
そんな3人に向け、女神様は両手を掲げて不思議な光を放った。
「チョ、チョット! なんかスっごく気分が良いんだけど!」
「本当…… 一瞬で頭痛が治ったわ」
「ムムっ!? オレっち、今まで寝てたのカ?」
いや、気絶してたんだよ……
「さあ! 冒険者ギルドに到着しましたよ。早速、情報の収集にあたりましょう!」
一人で張り切っている女神様。キタノ国のだいたい端から端まで、1時間ほどで着いちまったじゃないか。ついさっきまで、ゆっくりと交流を深めましょうとか言ってたクセに。
女神様ってば、さっさとギルドの中に入って行っちゃったよ。仕方ない、俺たちも後に続くとしますか。
ここは北・西・中3国国境地帯に最も近い場所にある、キタノ国の冒険者ギルド。
このギルドが国境付近の山岳地帯に潜む悪魔教徒の調査クエストを出したようだ。
引き受けたのは3人組のパーティ。ランクはF。冒険者の中では最も低いランクだ。
「おい、なんでFランクのパーティなんかに依頼したんだよ。危険じゃないか」
俺は受付のおじさんに向かって文句を言った。
「そ、それが…… 他に引き受けてくれるパーティがいなかったもので。で、でも大丈夫です! あくまで依頼は調査だけですので! 危ないと思ったらすぐ引き返すように言ってますので! ほ、本当ですよ!」
受付のおじさんがとてもビビりながら答えてくれた。おじさんが恐怖を感じている理由、それは……
「おい、ホニー、ミミー! お前らやり過ぎだよ! 確かにジョーキューシャーのギルドでは、舐められないようにしろって言ったけど、今回はダンジョンに潜らないんだ。他の冒険者をビビらす必要はないんだよ!」
中級火魔法『天井サウナ』をご機嫌な様子で展開させていたホニーと、高速移動で目つきの悪いオッサン冒険者たちに蹴りを入れまくっていたミミーが、キョトンとした顔をしている。ちなみにアイシューは『やれやれ』といった表情で苦笑いしている。
「それに女神…… いや、コテラ! お前まで、なに一緒になってオッサンたちに攻撃魔法をブチかましてんだよ!」
「え? 初めて訪れた街の冒険者ギルドでは、こうするのが一般的じゃないんですか? ああ、もちろん攻撃魔法の威力は最小限に抑えてますよ?」
やっぱりキョトンとした顔の女神様。威力の問題じゃありませんよ、まったく……
俺たちは調査に向かった冒険者3人の名前と特徴を受付のおじさんから聞き出し、そそくさと冒険者ギルドを後にした。
冒険者ギルドを出て数十分。俺たちは上空から冒険者3人組の行方を追っている。
今回は俺の風魔法、そう、女神様の超高速飛行ではなく、俺の風魔法を使って上空を飛行している。
何度も吐き気やら頭痛やら白目やらに見舞われるなんてゴメンだよ。
俺は上空からユニークスキル『広域索敵』と『人物鑑定』を使用中。女神様はポンコツだけど、女神様からもらったこれらのスキルは優秀だ。
俺はクエストを受けたと思われる3人組を発見し、上空から近づいたのだが……
なにやら揉めている様子だ。
「ここまで来て引き返そうなんて、いったい何を言ってるんですか!」
10代後半ぐらいの年齢の女の子が声を荒げて、なにやらパーティメンバーの男性に抗議している。
「そうですよ! これは誰かがやらねばならないことなんです!」
まだ中学生ぐらいに見える若い男の子もそれに続く。
冒険者ギルドの職員から聞いた情報では、この2人はきょうだいで、姉の名前が『ココロヤサシーナ』。弟の名前は『ココロヤサシオス』。
この二人はキタノ国出身のようだ。特に弟の方は間違いなくキタノ国の人間だ。
自動翻訳機能さんはキタノ国の人に名前を割り振る場合、ギリシャ人? っぽく、姓や名の最後に『ス』を、つけることが多い。これは前回のターンで経験済みだ。
それに加え、この人たちの名前はどことなく京言葉っぽいのだ。
京都に住む人の中には、語尾に『〜どす』とか『〜おす』を付ける人がいる。
このきょうだいの弟の方の名前『ココロヤサシオス』を完全に京言葉で言うなら、『あんさん、お心が優しおすなぁ』という感じになるだろうか。
まあ、とにかく二人とも、優しい性格の持ち主のようで何よりだ。
それから、二人から責められているもう一人の男性は俺と同じぐらいの年齢のようだ。
ギルドで聞いたこの人の名前は——
『ブブズケ=デモ・ドウドス』
……うん、この人も間違いなくキタノ国の人だな。
『ぶぶ漬けでもどうどす?』これは古の京都の人が、遠回しに『そろそろ帰って下さい』と言いたい時に使っていたという伝説のワードだ。
それにしても、自動翻訳機能さん…… 流石にこれは、ちょっと遊び過ぎじゃないですか?
パーティメンバー二人に非難されていたブブヅケ=デモ・ドウドス氏が反論を始めたようだ。
「なにも二人の意見に反対しているわけじゃないんですよ? ほら、食料だって残り少ないわけですし…… それに、装備ももう少し充実させた方がいいと言いますか…… あっ、ここまで来るのに体力を使い過ぎたと言えなくもないかな、なんて思ったり……」
遠回しだ。すごく遠回しな表現だ。『調査に行くのやめようぜ!』と、とても遠回しに言っているではないか!
流石、自動翻訳機能さんだ。この人の性格をよく表す名前を割り振っていると思う。さっきは遊び過ぎだなんて思って申し訳ありませんでした。
上空から冒険者3人組の様子を見守っていた俺が、
「『ブブズケ=デモ・ドウドス』か……」
と、何気なくつぶやいたところ……
「チョ、チョット、カイセイ! アンタ、アタシたちは必要ないって言うの!? アタシは絶対に帰らないからネ!!!」
ホニーが真っ赤な顔をして、俺に向けて非難の声をあげた。
ホニーよ…… お前、『ぶぶ漬けでもどうどす?』の隠された意味まで知ってるんだな…… もういっそのこと、女神様にお願いして日本に転生させてもらえよ。




