俺はドMじゃないぞ
俺の第一の目標は、聖剣を手に入れることとなった。併せて、それ以外のことは、状況を見ながら適時パイセンと共に考えて行くこととした。
それから、万が一魔人族四天王と戦うことになった場合、相手が一人なら『応戦』するが、複数でかかってこられた場合は必ず逃げること。パイセンからそう告げられた。いくらレベル99の俺でも、流石に四天王二人相手では分が悪いそうだ。
「わかった。でもそれは俺に限ったことじゃないんだぞ」
俺は娘さん3人に向かってそう言った。更に——
「俺はお前たちを魔人族と戦わせる気なんて全くないんだ。それに魔人族の連中は、そりゃあもう、みんなメチャクチャ強いんだよ。だから、もし魔人族が突然襲って来た場合、俺が指示するから必ず逃げるように。いいな?」
3人は不満そうな顔をしている。
「みなさん、そんな顔しなくてもいいんですよ。カイセイさんが飛び抜けて強いだけで、みなさんだって十分に、いえそれ以上に強いんですから」
ナイスフォローだ女神様。
「それに、カイセイさんが、今これほど安定した力を発揮できるのは、みなさんの精神的なサポートがあればこそなんですから」
「その通りだ。なんたってお前たちは、女神様ご推薦のメンバーなんだから」
「え? なんのことですか?」
もう、女神様ったら、トボけたこと言っちゃって。
「いやだなぁ、ミミーは最初の…… なんでしたっけ? 転生者初期特典? の、3人のうちの一人だし。アイシューとホニーは、えっと…… 『あなたにパーティメンバーをオススメしちゃうぞ特典』でしたっけ?」
「……『あなたにおススメ、パーティメンバー発見特典』です」
「……別にどっちでもおんなじようなモンでしょ」
「また失礼なことを! ……って、まあ、それは置いておくとして。あの、カイセイさん、何を言っているのですか?」
「いやだなぁ。今回のターンでは、アイシューとホニーの背中が光ったんですよ。これが女神様の言う、ナントカ発見特典でしょ?」
「カイセイさんは何か誤解をしているようですね。いいですか? まず、一番最初の転生者特典についてですが。転生者はこの世界に降り立った最初の街で、私が選定した3人のパートナー候補の中から一人を選んで、パートナーにすることが出来ます」
そうですよね。
「出来るだけいろいろなタイプの人の中からパートナーを選んで欲しいので、私は異なった『属性』を持つ候補者を複数名選定しています」
そうだった。ミミーは『短剣使い』だし、ナミダーメさんは『攻撃魔法』で、バインのイカレ野郎は『治癒魔法』だった。
「パートナーを選ぶと、今後その人と同じ『属性』を持った人が現れた場合、すぐに転生者が発見出来るよう、その人物の背中に光を生じさせます。これが『あなたにおススメ、パーティメンバー発見特典』です」
「え? ちょっと待って下さいよ。ミミーの『属性』は『短剣使い』ですけど、ホニーとアイシューは『攻撃魔法』じゃないんですか?」
「もう、カイセイさんったら何を言ってるんですか? それは『属性』じゃなくて、得意とする攻撃でしょ?」
「じゃあ、『属性』って何なんですか?」
「もう、そんなの決まってるじゃない!
S、or、M、or、ロリ!!!
これよ! これが『属性』よ!!!」
「………………………………………………は?」
「あ、ひょっとして、カイセイさんはもっとマニアックな『属性』がよかったのかしら?」
「………………………………………………え?」
「もう、カイセイさんは前回のターンで『Mルート』を選んだくせに、今回は『ロリルート』を選ぶんだもん、ちょっと驚いちゃったわ」
「…………そんなこと、初耳なんですけど。なんですか、その『ルート』って?」
「え? そんなの日本人ならみんな知ってるんでしょ? カイセイさん、ゲームやったことないんですか?」
「あああっっっ!!! ひょっとして、最初にミミーを選んだ時点で俺はロリ攻略ルートに入ったのか? それでその後、アイシューやホニーが同じ『ロリ属性』だから俺にオススメしたってことか?」
「オススメしたっていうか、『ここにロリっ子がいますよ』と教えてあげたっていうか」
「紛らわしいことすんじゃネエよ!!! あっっっ!!! ひょっとして、前回のターンで、俺のパーティにはロクでもないヤツしかいなかったのは——」
「もう、カイセイさん、ロクでもないヤツなんて言っちゃダメですよ。みんなドSだっただけなんですから」
「………………俺は女神様のお導きだと思って、背中に光が生じるヤツをみんなパーティに加えてたんだ」
「うーん…… お導きというより、『ここにドSがいますよ』と教えてあげた——」
「2回言わなくてもいいよ!!! テェッッッメェー、俺が前回のターンでどれほどあのクソメンバーたちに、精神的苦痛を負わされたと思ってんだよ!!! 地獄のような生活だったんだからな!!! このヤロォォゥゥー! 今日という今日は、絶対に許さネエぞ!!!」
「あ、ああそうだ! わ、私これから大事な用事があるんでした。私、今から長期の出張に出かけますので! あとのことはコテラさんに聞いてください、それじゃあ!!!」
そう言うと、このポンコツは天界側のドアを開け、ダッシュで逃げて行きやがった。
俺が追いかけようとしたところ——
「カイセイ氏、ストップっス!!! その先に行ったら、死んじゃうっス!!!」
「えっ!?」
「そのドアの向こうは天界っス。生身の人間が入ったら肉体が消滅するっスよ?」
……危ない。危うく3度目の死を迎えるとこだったじゃねえか。
「あのー……」
パイセンが申し訳なさそうな顔をして口を開く。
「自分も女神様に聞かれるまま、日本の話をいろいろしちゃったから…… 特にゲームの話とか…… 女神様があんな風に考えたのは、きっと自分にも責任があるんス。申し訳ない」
そう言ってパイセンが頭を下げたので、
「ハァ…… わかったよ。俺もちょっとアツくなりすぎたようだ」
俺も少し頭を冷やすことにした。
でも…… 俺、ホントに前回のターンでは、パーティメンバーたちに散々苦労をかけられたんだ。でもあれってアイツらの性格が悪かったんじゃなく、単にドSな連中だったってことなのか。
俺、Mじゃねえから、ちっとも嬉しくなかったよ!
……俺の性癖がMだからバインバイーンを選んだわけじゃないんだ。アイツが治癒魔法の使い手だから選んだんだよ。まあ、多少、ビューティフルなフェイスとナイスなバディーに惑わされたのは事実だけど…… あ、ちょっと自業自得か。
今回は、単にアイシューとホニーがロリ属性だから、背後に光が見えたってだけの話なのか。でもまあ、光が見えようが見えまいが、二人をパーティメンバーにしていたことに変わりないだろうから。
今回のターンについては、まあ実害なしということにしておいてやろう。
あれ? ということは、ナミダーメさんはM属性なのか? 今回のターンで俺は彼女を選ぼうとしたんだ。
じゃあ、俺の属性はSなのか?
…………バカバカしい。俺は前回のターンの対魔人族戦役で、凛として味方を鼓舞しながら戦うナミダーメさんを見て憧れたんだ。女神様のバカなお遊びに、これ以上悩まされてたまるか。
「それから言いにくいんっスけど…… たぶん女神様は女神の使徒コテラとして、もう祈祷所の休憩所あたりで待ってると思うんスよ」
「え? そんなことぶっちゃけていいのか?」
「なんかもう、いいかなって思って。で、まだ話の途中だったんで、もうちょっとカイセイ氏と話を詰めておきたいんス。申し訳ないんスけど、娘さんたちは先に休憩所に戻って、コテラになりきった女神様の相手をしてもらえないっスか?」
「えー、それならアタシも残る! アタシだってパイセンとお喋りしたいんだからネ!」
ホニーが駄々をこねている。しかしアイシューが、
「もう、ホニーったら。パイセンさ…… 使徒様は、カイセイさんと二人で話を詰めたいのよ」
と言って、ホニーを宥めた。
「ふふ、アイシュー氏は本当に聡明っスね。それから、自分のことは『パイセン』でいいっスからね? ねえホニー氏。日を改めて、今度またゆっくり二人で話をすることにしないっスか?」
「ええ、わかったわ! でも約束よ!」
そう言って、ホニーは自分の小指をパイセンに向けた。
「懐かしいっスね。自分が教えた『指きり』、覚えててくれたんっスね」
パイセンが優しい微笑みを浮かべた。
指きりか。本当に懐かしいな。なんだかほのぼのした気分になってきた。
ホニーとパイセンが小指を絡める。
なんだろう。母親と娘が小指を通して心と心を通わせているようにも見えるな。なんだか俺の心も暖かくなってきたよ。
そして、ホニーとパイセンが歌い出した。
「「ゆーびきーり、げーんまーん——」」
二人の優しい声が部屋中に響き渡る。
「「——うーそ、つーいたーら、ケツの穴ーに、腕突っ込んでー、内臓ひねーり出ーして——」」
「そんな歌詞じゃネエだろ!!! おいパイセン! お前、ホニーに何を教えたんだよ!!!」
「え? 違うの?」
キョトンとした顔のホニー。
「ホニー! お前は今後一切、俺以外の日本人を信じちゃダメだぞ!!! いいか、絶対だからな!!!」




