そんなカイセイさんに朗報です
パイセンが今後の方針について話し始めた。
まず、いくら話し合いを望むにしても、魔王並びに魔人族軍と戦えるだけの戦力は保持する必要がある。
簡単に攻め滅ぼせる相手の話なんて、誰が聞くもんか。
これがパイセンの考えだった。
女神様が少しうつむいた。女神様はあまり乗り気ではないようだ。でも、パイセンの言うことも一つの事実だと思う。
「魔王を倒せるのは聖剣のみっス。それから魔人族四天王はじめ、すべての魔人族に対して、聖剣は強力なダメージを与えることが出来る優れた武器っス。だから、まずは聖剣を確保することっスね」
なるほど。それも一理あるな。
俺はパイセンに尋ねる。
「確か聖剣は、北、東、西の各国にそれぞれ1本ずつあったと思う。そのうちの1本をかっぱらう…… いや、ちょっと拝借するか?」
「実は、自分もこれまでは同じことを考えてたんスよ」
おい、女神の使徒サマが何言ってんだよ。
「聖剣は白魔石から出来てるんスけどね。カイセイ氏がジョーキューシャーのダンジョンで手に入れた大きな白魔石は純度が高いんスよ。だからそれを使って新しい聖剣を作った方がいいと思ったんス。より強力な聖剣ができると思うんスよね」
「パイセンが作ってくれるのか?」
「カイセイ氏は自分のことを、なんでも作れるDIY好きのオッサンだとでも思ってるんスか? 自分には作れないっスよ」
いや、たとえDIY好きのオッサンでも、流石に聖剣は作れないだろうよ。
「聖剣や魔道具を作れるのは一部の人間族のみ。具体的には旧ナンバーズ諸国の鍛冶師のみなんス」
「旧ナンバーズ諸国? なんだそれ?」
俺、この世界2回目だけど、そんな国の名前聞いたことないぞ?
俺の言葉を見たパイセンは、魔法っぽい何かで空中に地図を描いた。なんだかプロジェクターいらずだな
旧壱ノ国 旧肆ノ国
ニシ(西)ノ国 参ノ国(現存) ナカ(中)ノ国
旧弍ノ国 旧伍ノ国
(旧壱、弍ノ国はニシノ国が併合) (旧肆、伍ノ国はナカノ国が併合)
「旧ナンバーズ諸国とは、以前、西・中両大国の間にあった、5つの小国群のことっス。今から約5年ほど前、4つの国は大国に併合され、現在独立を保っているのは『参ノ国』だけになったんスけどね」
「へえ、それは初耳だ。でも、確かに『参ノ国』って国名だけは聞いたことあるな」
「参ノ国だけは、西・中、両大国の緩衝地帯として、今でもかろうじて独立を保っているんスよ。それで、ナンバーズ諸国の鍛治師たちは、4カ国が大国に併合された際、参ノ国の鍛治師も含めて、みんな魔道具を作るのをやめて、どこかへ身を隠したんス」
「大国の思い通りにはならないぞってことなのかな?」
「そうっスね。ただ、最新の情報によると、一部の元鍛治師たちは大国の支配から逃れて、北、西、中国境付近の山岳地帯に身を隠し、なにやら怪しい道具を作っているようなんス」
「怪しい道具ってなんだよ?」
「コイツらは死者の復活を望む悪魔教徒に身を落として、怪しげな活動をしてるみたいなんスよね。だから、それに関わる道具だと思うんスけど…… まったく、死者の復活なんてバカなことを考えるなってんだよ」
悪魔教徒っていうのは前回のターンで聞いたことがあった。でも、会ったことは一度もなかったな…… ってことも大切だけど、それより——
「あの、お話の途中、大変恐縮致しますが…… ワタクシ、2度も生き返らせていただいたのですが……」
パイセンの説明によると——
肉体は死しても、精神はすぐに消滅しない。
肉体が死してすぐ、精神を天界に呼び寄せれば肉体を復元することが出来る。
ただし、それが出来るのは女神様だけ。
「しかも…… まあ、それにもいろんな条件やら制約があるんスよ。カイセイ氏が復活出来たのは、例外中の例外っスからね。もう次はないから、そのつもりで。だからみなさんも、安全第一で無茶はしないで欲しいっス」
そうなのか。もう次はないのか。これは肝に命じておかなければ。
「私にも責任があるのです」
今まで黙ってパイセンの説明を聞いていた女神様が口を開いた。そして——
「異世界で死した人々をこの世界に転生させたため、死んだ者を生き返らせる魔法があると誤解した者がいるのです」
哀しそうな顔でつぶやく女神様。
「……異世界から転生者を招くのは、テラ様よりも前の女神様たちだってやってたじゃありませんか…… ああ、失礼したっス。えっと…… ああ、そう。それでその鍛治師たちを見つけて更正させて欲しいんスよ。で、そのお礼というか、対価というか、脅迫というか…… まあ、なんでもいいんで、ソイツらに聖剣を作らせるんスよ」
会話の始めの方は女神様を思いやるいい人そうだったのに、結局、最後にはすっかり悪い顔になったパイセン。
「わかったよ。じゃあ、まずはその国境付近の山岳地帯に行けば良いんだな?」
「西・中の国境地帯じゃなくて北・西、中の国境地帯っスからね」
「ということは、自分たちが元々住んでいた地域からは、少し離れた場所に住んでいるってことだな?」
「北・西・中の国境付近の山岳地帯は、身を隠すにはちょうどいい地形なんスよ」
俺は前回のターンでは、ハジマーリの街があるヒガシノ国を活動の拠点としてきた。
ついさっきまでいたジョーキューシャーの街のあるキタノ国にも時々遠征に行ったが、ナカノ国にはほとんど行ったことがない。
ナカノ国とは最近仲良くなった、ジンセイ=ズット・クローニン侯爵の領地がある国だ。
ニシノ国なんて、鎖国政策をとっているためその領土に入ったことすらない。
ミミー、アイシュー、ホニーの3人もヒガシノ国育ちなので、この辺りのことはサッパリわからないだろう
「土地勘がないって顔してますね、カイセイさん」
満面の笑みを浮かべた女神様が俺に問いかける。
「そうですね。でもまあ、風魔法もあるんで空から行きますよ」
俺はそう答えたのだが……
「それは心細いですね!」
「え? いや、別にそんなこと言ってない——」
「ええ、わかります、わかりますとも! それはさぞ心細いことでしょう!」
「いや、俺は別に何も——」
「そんな不安な気持ちを抱えるカイセイさんに朗報です! なんと、北・西・中の国境地帯まで、女神の使徒コテラさんを特別に随員として動向させることにしました! もう、本当に特別なんですからね!」
「……………………は?」
俺はパイセンの顔をうかがう。
「……いや、そんな顔して自分を見ないで欲しいっス」
パイセンは、とても迷惑そうに答えた。




