女神様の部屋
ここは通称『女神様の部屋』。
天界と人界が交わる境界のような場所であるそうだ。
この部屋には2箇所ドアがあり、一つは天界へ、もう一つは人界へと繋がっている。
部屋の内装は、さっきまでいた休憩所とあまり変わらない。
畳のようなものが敷かれていて、その上には円形のちゃぶ台が置かれている。
俺とミミー、アイシュー、ホニーの4人が人界側のドアから中に入ると、女神様はすでに座布団のようなものの上に座っておられ、
「こっちこっち! みなさんも座布団の上に座って下さいね!」
と、とても上機嫌なご様子で俺たちを迎えてくれた。
俺たちに吐き気と頭痛と気絶をご提供いただいたことなど、とっくにお忘れになられたご様子だ。コイツめ……
ちゃぶ台は円形のため、みんなどこに座ろうか迷っている。とりあえず女神様の両隣には俺とアイシューが陣取ることにした。アイシューが若干緊張気味だが、それは許してもらうことにしよう。
アイシューほどではないが、ホニーとミミーも若干緊張しているようだ。ついさっき、ジョーキューシャーの街で女神様のポンコツぶりを、これでもかと言うほど見たばかりなのに。やっぱり『天界と人界が交わる境界』なんて言われると、流石のミミーでも緊張するんだな。
俺はと言うと…… 実は拍子抜けしてるんだ。俺はてっきり、以前死んだ時に連れて行かれたあの『白い世界』に行くんだとばかり思ってたのに。
それがなんだか、いざ来てみたら普通の和室っぽいところだし……
ちゃぶ台の上には、いっぱいお菓子が用意されてるし……
♢♢♢♢♢♢
「これはカイセイさんたちのために京都から取り寄せたお菓子なんですよ。ほらこれは生八ツ橋。遠慮しないで食べて下さいね」
天界って日本からお取り寄せが出来るんだ…… いかん、深く考えるのはやめよう。
でも女神様ってば、結構カワイイところもあるじゃないか。俺が京都出身だってこと知ってて、こんなおもてなしを用意してくれてたんだな。でも……
「えっと…… これって生八ツ橋じゃなくって、普通の八つ橋では?」
ふっ、あまいぞ女神様。八つ橋には2種類あるんだよ。これは生じゃなくて乾燥したヤツなんだよ。
「えっ、うそぉっ! ああ、元々は生八ツ橋だったのに、カイセイさんがあまりにも来るのが遅かったから、きっとカチカチになっちゃったのね。この前、カイセイさんがホコーラの街の上空を、わ・ざ・わ・ざ、素通りした時には、まだ柔らかかったのに」
そんなわけないだろ…… 製法が違うよ。でもなんとなく、ここでツッコんだら負けのような気がするので——
「まあ、普通の八つ橋も美味しいですからね。保存もきくんで、おみやげには最適ですよ。俺、こっちの方が好きなんですよね」
「……ふーん、そうなんですね。じゃあ、こっちのお菓子もどうぞ」
俺の返答にご不満なご様子の女神様が、今度は違うお菓子を勧めてきた。
「あっ、スゴイ。これ『団喜菓子』ってヤツじゃないですか。茶巾絞りみたいな形して面白いんですよね。外側がカリカリしてて、これも好きなんですよ」
外見は水が抜けた栗きんとんって感じかな。中身は全然違うけど。
栗きんとんと言えば…… アレも柔らかいお菓子だったな。まさか……
「あれ? 私、栗きんとんを買ってきたんですけど…… ああ、どうやらカイセイさんの到着があまりにも伸びたので、きっと硬くなってしまったんですね」
「やっぱりそう言うと思ったよ!ソレまったくの別物だからな! はっ! しまった」
思わずツッこんでしまった……
仕方ない。ここは大人な俺が折れてやることにするか。
「……わかりましたよ。すみませんでした、到着が遅れて。でも、女神様だって、早く来いなんて、一言も言わなかったじゃないですか?」
「あらカイセイさん。しばらく会わない間にイッチョコマエの口をきくようになっちゃって」
「いやいや、ここまでずっと、変なお面を付けた女神様と一緒だったじゃ——」
「申し訳ありません!!! 」
アイシューが俺の言葉を遮った。そして——
「私がダンジョンでレベル上げしたいって言ったのが悪いんです!!!」
顔面蒼白のアイシューが、俺に代わって女神様に謝罪の言葉を叫んだ。
「あ、あの! ア、アタシも言いました! ゴメンナサイ!!!」
緊張しまくりのホニーも続く。
「ムムム…… オレっちもゴメンナサイだゾ」
ミミーも申し訳なさそうな顔をして女神様に謝っている。
「……お前らってヤツは……」
「まあ…… なんて素晴らしい娘さん達なんでしょう」
俺と女神様は、娘さん3人の人柄にホレボレしてしまった。
「ありがとうな、みんな。でも大丈夫だよ。別に女神様は怒ってるわけじゃないんだ。この人はこうやって俺をイジるのが趣味なんだよ」
「そうよ、みなさん。私は別に怒ってないのよ? 私、カイセイさんをおちょくるのが生き甲斐なんだから!」
生き甲斐だったのかよ…… もっと一般的な趣味でも見つけてくれよ……
「みなさんごめんなさいね。ちょっとカイセイさんにイジワルし過ぎたみたい。こっちに柔らかい生八ツ橋もあるから食べてね。特にミミーさんにはこっちの方がいいかも知れないわね」
なんだよ…… 生八ツ橋もあるんなら、最初から出せよ。でも俺は『団喜菓子』をいただくぞ。なんてったって高級品だからな。
ミミーたちが恐る恐る生八つ橋に口をつける。
「このチョコレート味とイチゴ味がおススメよ!」
あーあ。また女神様が調子に乗り出したよ。仕方ない。和やかな雰囲気作りも大切だからな。ここは俺も協力してやろう。
「あの、女神様。抹茶味はないんですか? 俺、あっちの方が好きなんですけど」
「あらあら、まったくカイセイさんったら、お菓子に夢中になっちゃって。いったい何しにここへ来たのやら?」
「アンタがお菓子を勧めてきたんだろ! ああもう、いいよ! 早速話を始めようじゃねえか!」
「もう、カイセイさんってば、ホントにセッカチなんだから」
我慢だ。これはきっと俺の忍耐力が試されてるんだ。そうでも思わないとやってられない……
そんなことを考えていた時——
——コンコン。
天界側のドアをノックする音が聞こえた。




