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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
⑤女神テラ様降臨 編

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まごころ

「それじゃあ、みなさん。私は先に女神様にご挨拶してきますので。呼ばれたら中に入って来て下さいね。あっ、それからカイセイさん。娘さんたちは少しお疲れのご様子ですので、ちゃんと治癒魔法をかけてあげないとダメですよ?」



 ここはホコーラの街にある『祈祷所きとうじょ』の前。俺たちをここまで連れてきた女神の使徒に変装しているつもりの女神テラ様は、俺たちを建物の入口に放置して、とびっきりの笑顔を残しさっさと祈祷所の中へと入って行った。


「……お、おい。お前ら大丈夫か?」

 俺がパーティメンバー3人の様子をうかがうと……

 ダメだ。3人とも死にそうな顔をしている。



 俺たちはキタノ国北方の地、ジョーキューシャーの街からここホコーラの街まで、コテラこと女神テラ様が創り出した風魔法のような気流を利用して、上空を飛翔して来たのだが……


 スピード出し過ぎなんですよ、女神様……

 音速超えてたんじゃないのか? 周りの音がなんにも聞こえなかったぞ?


 途中、『スピード落としてください』って何度も言ったのに、あの人知らん顔してたしさ。ひょっとして音速を超えると、俺の声も聞こえないのか?

 いや、あの人のことだ。わざと聞こえないフリをしてた方に、俺はテラ様シール100枚賭けてもいいぞ。


 とにかくキタノ国の北の端から、南東の彼方にある国境まで、あっという間に移動してしまったのだ。

 どんだけセッカチなんだか…… まあ、きっと俺たちと話をするのがよっぽど楽しみだったんだろうけど。



「……うっぷ、ギボジ悪い」

「待てホニー! ここで吐くなよ!」


「頭が…… 頭が割れるように痛いの…… 」

「大丈夫かアイシュー! 今、ヒールをかけてやるからな!」


「……………………」

「おいミミー! お前寝てるんだよな!? まさか死んでネエだろうな!?」



 ホニーとアイシューには急いで治癒魔法をかけてやり、俺の治癒魔法(白魔法)が効かないミミーには、

「ミミー起きろ! 早く起きないとお菓子を全部食べちゃうぞ!」

と、ミミーに良く効く魔法の言葉をかけてやった。すると——


「……オニーサン、いつもながら大人げないゾ」

と、言いながら目を覚ましたので、たぶん大丈夫だろう。


 幸いにして、死人を出さずに済んだようだ。

 まったく、あの女神様は何やってんだか……



 元気を取り戻したアイシューが悲壮な表情でつぶやく。

「まったく…… 死ぬかと思ったわ」

 女神様ってば、俺が治癒魔法を使えることを知ってるから、ちょっとぐらい無茶しても大丈夫だと思ったんだろうな。

 でも、ミミーには俺の治癒魔法が効かないんだから、ちょっとぐらい配慮しろよな。


「……一瞬、兄さまの顔が見えたわ」

 ホニーよ、お前のアニキはまだ生きてるだろ? 勝手に死んだことにするの止めてやれよ。


「オレっちは楽しかったゾ! でも、途中で寝ちゃったから、ちょっと残念だゾ!」

 寝てたんじゃなくて、気絶してたんだろ? お前さっき白目をむいてアワアワ言ってて、ちょっと面白かったんだぞ?



「まあ、みんな体調が戻って本当によかったよ。えっと、それじゃあ……」

 どうしようかと考えていたところ、祈祷所の中から巫女服を着た年配の女性が近づいて来た。

 事情は女神様から聞いたとのことで、俺たちを休憩所まで案内してくれるらしい。


 この祈祷所という場所は、日本の神社に構造が似ている。

 入口を入ると拝殿があり、その奥には本殿がある。

 一般の参拝者は拝殿で女神様にお祈りを捧げるそうだ。


 本殿の一番奥に、天界へと通じる扉があるらしい。どうやらその扉の向こうで女神様はお待ちのようだ。

 休憩所は拝殿の隣にあるそうなので、俺たちはしばらくそこで待たせてもらうことにした。



 休憩所の中は畳のようなものが敷かれていた。その上にはちゃぶ台のようなものまである。

 俺は久し振りにあぐらを組んで座った。巫女さんがお茶を淹れてくれたので、俺たちはお茶をいただきながら、女神様からお声がかかるのを待つことになった。



「まあ、時間が来るまで、ここでのんびりして行っておくれよ。ああ、そういえば、まだあたしの名前を言ってなかったね。あたしゃ、この祈祷所で巫女をしてるバーサンってもんだよ」


 この人、見た目は60歳ぐらいに見える。うん、今日も自動翻訳機能さんはいい仕事をしているようだ。見た目と名前がバッチリ一致している。

 しかし、この人を呼ぶ時は『バーサンさん』、って言うのかな? ちょっと言いにくいが仕方ない。


 まあ、この世界の人には俺の耳に届く音とは違う音、つまりこの世界の言葉がそのまま聞こえているのだ。『バーサンさん』って発音しなければならないのは俺一人なんだから、俺さえ我慢すれば済むことだ。


「それじゃあ、『バーサンさん』、しばらくご厄介になります」

 俺がそう言うと……


「チョット、カイセイ! その『ばーさんさん』ってなにヨ! アンタ、ふざけてるの?」

 ホニーが口をはさんできたのだが……


 あれ?


「おいホニー。お前、なんで俺が『バーサンさん』って言ったのがわかるんだよ? 俺が口にした言葉は自動翻訳機能さんを通して、この世界の言葉に変換されて——」


「う、うっさいわネ! アンタ、そんな細かいこと気にしてると将来ハゲるわヨ!」

「俺の家系はみんな髪の毛フッサフサなんだよ! だから俺もハゲねえよ!」


「もう、二人とも止めなさいよ。恥ずかしいわ」

 アイシューがそう言うので、これ以上の追求は止めることにするが…… なんか釈然としないんだけど。まあ、いいか。



 さて、黙っているのもなんだか気まずいので、世間話でもして時間を潰すことにしますか。


「あの…… バーサンさんはこの仕事、長いんですか?」


 俺が尋ねると、バーサンさんは、

「ハァー……」

と、大きくため息をついた。そして——


「テラ様が女神になられて…… さて何年になるかねえ。とにかくこの祈祷所は、テラ様が女神になられた時に作られたんだよ。あたしはこの祈祷所ができた当時からここに勤めてるもんでね……」

 とても疲れたご様子で話をされるバーサンさん。


「え? どうしてため息混じりなんですか? 女神テラ様のお側で働けるなんて、とても素晴らしいことだと思うのですが?」

 アイシューが不思議そうな顔をして尋ねる。


「……あんた、本気でそんなこと思ってるのかい? あたしはさっき、女神様から聞いたよ? あんたらここまで、猛スピードで連れて来られたんだって? お昼過ぎにキタノ国の北の端を出発して、どうしてこんな時間にここまでたどり着けるのやら……」


「うっ……」

 言葉につまるアイシュー。


「それになんだい、あの変なお面。あたしゃ、この年になるまで、あんなヘンテコなお面を被ってる人なんて見たことないよ」


 女神様ってばバーサンさんに、コテラなる女神の使徒に変装してるって設定、話してなかったんだな…… どんだけウッカリ者なんだか。本人認定いただいちゃったじゃないか。


「あんたらは今日だけだろ? あの女神様に会うの。あたしゃ、毎日会ってんだよ? あたしの人生、毎日が奇想天外だよ」


「……バーサンさん、ご苦労されてるんですね。心からご同情申し上げますよ」

「……あんただけだよ、あたしのことをわかってくれたのは」


 こうして俺は、バーサンさんの心の友になった。



『ちょ、ちょっと、何の話をしてるんですか! もう準備ができましたから、今すぐ本殿に来て下さい! それからバーサンさん、私は別に、このお面を特別気に入っているわけじゃありませんからね!』


 天井近くに掲げられていた変なスピーカーみたいな物体から、女神様の声が聞こえてきた。どうやらこれ以上、俺たちに都合の悪い話を聞かせたくないようだ。


「仕方ない、じゃあ案内するとしますかね」

 そう言ってバーサンさんは立ち上がった。そして——


「そうだ、青い髪のお嬢さん。あんた、ここに就職する気はないかい?」

「そ、そんなこと急に言われましても…… それに私などに巫女などという大役が務まるかどうか……」

 恐縮した様子でアイシューが応える。


「ハァー…… やっぱりそうかい。いいんだよ、気にしなくても。あたしも定年退職まであと2年。なあに、あと2年の辛抱さ……」


「……バーサンさん。心からご同情申し上げますと、もう一度言わせていただきます」

 俺がそう言うと、彼女はフっと力なく笑った。



 俺たちはバーサンさんに導かれ、本殿奥にある天界へと通じる扉の前に到着した。


「バーサンさん、ありがとうございました。それでは行って来ます」

 俺がそう言うと——


「いいかい、あんたら。例えどんなことがあろうとも、決してガッカリしちゃあいけないよ? 女神様への信仰心が無くなったなんて言われたら、あたしゃ悲しいんだからね? ヘンテコな女神様だけど、あの人にも良いところはいっぱいあるんだからね!?」


 バーサンさんを巫女に選んだ女神様の気持ち、そしてバーサンさんが巫女を続けている気持ちが少しわかったような気がした。


 バーサンさんの心温まる本音の言葉を背に、俺たちは天界へと至る扉を開けたのであった。

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