女神の使徒コテラ 前編
ここはジョーキューシャーの街の商業エリア。オシャレな建物が立ち並び、なかなかの賑わいを見せている。東京で言うなら原宿みたいな場所だな。
……申し訳ありません、嘘をつきました。俺、ちょっとだけオッサンなんで、本当のトコは東京のオシャレな街なんてよくわからないんだ。とにかく大勢の人であふれかえっていて、とても歩き難い。
さて、もちろん俺の側にはパーティメンバーの、ホニー、アイシュー、ミミーがいるのだが……
物珍しそうに周囲を見渡しているアイシューに向かって、上機嫌のホニーがつぶやく。
「ぷぷ。アイシューってばキョロキョロしちゃって、まるで『モノポリーさん』みたいネ」
……たぶんそれ、『おのぼりさん』って言いたいんだろうな。アイシューは小さな街の出身だから、都会が珍しいのだろう。
昨夜飲みすぎた俺はホニーやアイシューに小言を言われながら、このエリアを散策している。もちろんいつも笑顔のミミーも一緒だ。なんだか昨夜はこのお嬢様方に多大な迷惑をかけたそうで、そのお詫びとして買い物に付き合わされているのだ。
まあ、別に買い物に付き合うのはいいのだが…… まったく、女の買い物というのは、なんでこんなに時間がかかるんだろう。なんでもいいから早く決めてくれよ、って、なんだか日本でもおんなじこと言ってたような気がするぞ。フッ、所詮俺は、どこの世界でも荷物持ちがお似合いなのさ……
やっとお目当てのアクセラリーやら何やらを買い終わったご様子のホニーとアイシュー。ちなみに、ミミーはほとんど屋台で買い食いをしていた。
さて、俺たちは宿屋へ戻るべく、商業エリアの出口目指して歩いていたところ——
ん? ホニーが何か見つけたようだ。
「ねえ、ちょっと、アイシュー、見てよアレ。あの通りの真ん中に突っ立ってる女の人。聖堂服みたいなの着てるけど、アレ、あんたの知り合い? スっごく通行のジャマなんだけど」
「もう、何言ってるのよホニー。確かに私は元聖堂士だけど、この国の聖堂士全員と知り合いなわけないじゃない。それに、少し私達が着ていた聖堂服とは違うようだわ」
通りの真ん中に立っている女性が着ている服は白を基調とたもので、以前アイシューが着ていた聖堂服のようにも見える。だがよく見てみると、上は袖口が広がっており、下は袴のような形をしている。日本の神社の巫女さんの装いに近いかな。
「あの服は、聖堂服でも神官服でもないわ。たぶん、『巫女服』だと思うんだけど……」
思案顔のアイシューがつぶやく。
やっぱり日本の巫女さん装束に似てるよな。それにしても、その巫女服っていうの、俺、初めて見たぞ。
その巫女服を着た女性は、まるで俺達一行を見つめるように大通りの真ん中に突っ立ってる。それにしてもあんな所に突っ立って、よく人や馬車にぶつからないものだ。動きに無駄がない、というか風魔法使って高速移動してるだろ、あの人。
「チョット、アイシューってば! あの巫女服さんこっちに近づいて来たわよ。なんか怖い顔してるし。やっぱりアンタ、なんかヤラカシタんじゃないの?」
「やらかしたって何よ、ホニーじゃあるまいし。ねえ、カイセイさん、いきなり攻撃されたりしないでしょうね?」
「ムムっ? オレっちには敵意があるようには見えないゾ?」
「ああ、俺もミミーが言うように、あの人、攻撃の姿勢はとってないと思うぞ」
俺たちが、ああだこうだ言っている間に、巫女服を着た女性が、俺の目の前で立ち止まった。アイシューの前にではなく俺の前だ。この人の顔をよく見ると……
「あああっっっ! あなたは!!!」
そう、俺はこの人をよく知っている。いや、忘れることなどあるはずがない。でも…… なんだか俺に対して怒っているようだ。
眉間に皺を寄せ、口角をつり上げながら微笑みを浮かべる女性の唇から音が紡がれる。それは言葉というよりも美しい音楽と言った方が適切かもしれない。
「もうお買い物は済みましたか、カイセイさん?」
「……そ、そのお声は。間違いない! やっぱりあなた、女神様じゃないですか!!!」
その美しい容姿と声。間違いない。女神テラ様だ!
女神様はとても美しい。その見た目は10代のようでもあり、なんなら30代のようにも見える。美しすぎて年齢がよくわからないのだ。究極の美は年齢を超越するようだ。
でもこの人、超絶美人なのに口を開くと台無しなんだよな……
「今、何かとても失礼なことを考えてませんでしたか?」
「い、いえ、そんなことは決して……」
俺が大声で叫んだせいで、周囲の人々が怪訝な目で俺たちを見つめている。
「どうやらカイセイさんは勘違いしているようですね。私の名前はコテラ。女神テラ様にお仕えする、女神の使徒コテラです」
…………また変なこと言いだしたよ。
コテラ? こと女神テラ様が、アイシューを振り返り——
「あなたがアイシューさんね。ヒトスジー領では女神様にご助力いただいたとか。女神様はとても感謝しておられましたよ」
……あれは『ご助力』じゃなくて、勝手にアンタがアイシューに責任を擦りつけたんじゃなかったけ?
今まで状況がつかめずポカーンとしていたアイシューが、ハッと我に返り、右膝を地につけ、両手を胸の前で組み合わせ頭を垂れる。
これは『騎士の礼』の聖職者バージョンみたいなもんだったと思うんだけど……
「何やってんだ、アイシュー?」
「も、もう! カイセイさんはやっぱりバカなの? 使徒様っていったら、女神テラ様のお言葉を直接うかがうことが出来る、とても神聖な存在なのよ!」
「……俺も女神様と、ちょくちょくやりとりしてるけど。ひょっとして俺も神聖な存在なのか?」
「まあまあ、そこにいる『やっぱりバカ』なカイセイさんは放っておいて、まずはアイシューさん、お立ちください。私はそのように礼を向けていただくような者ではありませんので」
このポンコツ女神様め。調子に乗りやがって……
アイシューがなんだか敬虔な態度をとったもんだから、俺たちの周囲に人だかりが出来て、ヤイノヤイノと騒ぎ始めた。
「ここは人が多いので、場所を変えましょうか。みなさん、私について来て下さい」
そう言うと、謎の人物コテラに成りすましたつもりになっているポンコツ女神様は、商業エリアの出口目指して歩き出した。
ついて来て下さいって…… 俺たち、もともと出口に向かってたんだけど。はじめから出口付近で待っとけばいいのに。
商業エリアから抜け出した俺たちは、大通りに面した小さな公園にたどり着いた。
「さて、ここならいいでしょう」
俺たちの前を歩いていた、どこからどう見ても女神テラ様が立ち止まった。
「ねえ、女神様。これはいったい何の遊びなんですか?」
きっとまた変なこと考えてるんだろうと思いつつも、一応女神様のご意思を確認してさしあげることにした。
「もう、本当にカイセイさんはポンコツなんだから。私の服をよく見て下さい。私は巫女服を着ているでしょ? 女神様のお召し物とは違うじゃないですか」
確かに以前俺が女神と会った時、女神様は白一色のドレスのような衣装? を身につけていた。巫女服は日本の巫女さんの装束のような形をしており、白色の布地の上に赤、青、緑、黒、クリーム色のラインが入っている。たぶん5種類の魔法を表現しているのだと思う。しかし——
「そんなの、着替えたら済むことじゃないですか?」
「あ?」
今『あ?』って言ったな? ひょっとして、完璧な変装をしたつもりでいたのか?
「ちょっと待ってて下さいね」
女神様はそう言うと、近くにあったお土産物屋さんの中に、いそいそと入って行った。
何やってんだ?
しばらくして店から出てきた女神様の顔には、変なお面がつけられていた…… それは日本の『ひょっとこ』によく似ていた……
「何やってるんですか?」
「うるさいわね! これしかなかったのよ!」
「いや、別に俺はそのバカっぽいお面のフォームについて語りたいんじゃなくて——」
「さあ、これでどこからどう見ても、私が女神様ではないということがハッキリしましたね!」
どうやら俺の話なんて、まったく聞くつもりはないようだ。




