後日談 〜ジョーキューシャーの街② 教会にて〜
冒険者ギルドで宴会が行われた翌日の午後。
俺はミミーと二人でジョーキューシャーの街をブラブラと歩いていた。
アイシューとホニーの二人が怖いんだよ……
まだ昨夜のことを怒っているようで、二人の視線が恐ろしい。
それに寝不足だとか言っていた。今朝ミミーから聞いた話によると、寝不足なのは二人で喧嘩してたせいじゃないのか?
仕方ないので俺は、『二日酔いを覚ましてくる』と言い置いて、そそくさと宿屋から逃げ出して来たのだ。実は自分で治癒魔法を使い、酔いはとっくに覚めていたのだが。
俺が宿を出てしばらくすると、笑顔爆発少女ミミーが追いかけて来た。だからこうやって、ミミーと二人で街を散歩してるってわけだ。
街の中心から少し離れた場所までやって来た俺たちの前に、小さな子どもたちの集団があらわれた。人間族の子どもたちに混じって、獣人族の子どももいる。
子どもたちの背後には教会の建物が見える。
「この子たちは、教会が開いている『学校』に通ってるんだな」
俺がそう言うとミミーは、
「オレっちも昔、ハジマーリの街の教会で勉強を教えてもらってたゾ!」
と元気に答えた。
この世界には、小さな子どもが通う公的な学校は存在しない。多くの子どもたちは、教会が慈善事業で行なっている読み書きと簡単な計算を学ぶことができる『学校』のようなものに通うのだ。
それも毎日通うのではなく、週に1〜2回程度、時間も午後から2時間程度とごくわずかなものだ。
『学校』帰りの子どもたちは、ミミーに興味を持ったようで俺たちの目の前にやって来た。一人の少年がミミーに向かって口を開く。
「おい、お前どこから来たんだ?」
「ムム? オレっちはハジマーリの街から来たんだゾ!」
「なんだコイツ、変な喋り方!」
「「「「「 ハハハハハ!!! 」」」」」
ふぅ…… 日本に出没するという恐ろしいモンスター、『モンスターペアレント』の気持ちが少しわかったような気がした。このクソガキども、風魔法を使って縛り上げてやろうか! と思っていたところ……
「コラ! あなたたち何してるの!? よってたかって、女の子をイジメちゃダメでしょ!」
そう言いながら、一人のシスターが教会の敷地から飛び出して来た。
「ごめんなさーい!」
子どもたちは散りじりに街の方へ走って行った。
「まったく、あのヤンチャ坊主どもときたら…… お嬢ちゃん、ごめんなさいね。あの子たちも悪気はないのよ? あなたがかわいいから、きっとお友だちになりたかったんだと思うの」
年の頃は30代半ばぐらいだろうか。とてもハキハキとした感じの人で、小学校の先生を絵に描いたような人物だ。
「オレっち、ぜんぜん気にしてないゾ! この喋り方のカッコ良さが理解出来ないなんて、アイツらまったく子どもだと思うゾ!」
「ふふ、あなただって、まだ子どもじゃないの」
「ムムっ!? オレっちは小さいけど、立派に冒険者として働いてるゾ! オレっちはこの若さで市民の役にたってる立派な納税者だゾ!」
冒険者ギルドに魔獣を収めた際には、一部税金として差し引かれるから、まあ納税者って言えばそうなるのかも知れないけど…… お前、ちょっと前まで、市民のみなさんの税金をいただく国営ダンジョン嘱託冒険者(公務員)だったじゃねえか……
まあ、そんなことはどうでもいいや。あれ? なんだかシスターがミミーを見つめているぞ?
「あなた、働かされてるの?」
あれ? なんか話が食い違ってないか?
「隣にいる人は…… お父さんじゃないわよね?」
そうだよな。種族が違うから父親には見えないよな。
「ひょっとして、人さらいとか……」
ハァ…… この目の前のシスターといい、ハジマーリの街の淫魔神官バインバイーンといい、どうして教会の連中は、こう思い込みが激しいヤツばかりなのだろう。
「ムムムっっっ! オニーサンはオレっちの師匠で、ウチのパーティのリーダーだゾ! オニーサンはいい人なんだゾ!!!」
「あらあら、そうなの? じゃあ、謝るわ。ごめんなさいね」
そう言って、シスターは笑顔でミミーの頭を撫でた。
「でも…… ねえ、そこのお師匠さん。いくらなんでも、こんな小さい子を冒険者パーティに加えるなんて…… やっぱり危険じゃないかしら?」
そう言われてみればそうかも知れないけど…… なんてことを考えていたところ、ミミーがまた口を開いた。
「ムッフン! オレっちはオニーサンと出会う前から、既に冒険者稼業を生業にしてたんだゾ!」
「あら、そうなの? あなた、この辺りでは見ない顔だから…… 以前は違う街で、冒険者をしてたのかしら?」
「オウっ! オレっちは、ヒガシノ国のハジマーリの街にいたんだゾ!」
「まあ、そんなに遠くからここまで来たの? 偉いわねぇ…… って、あれ? ちょっと待って。ハジマーリの街…… 獣人族の女の子……」
ん? どうしたんだ、この人?
「……そちらの方、ひょっとして異邦人なのでは……」
なんだよ、もう俺がダンジョンボスを倒したこと、噂になってるのかよ。
「ええ、確かに俺は異邦人です。でもダンジョンボスを倒せたのは、仲間たちの協力があればこそと言いますか——」
俺のカンジのイイ話が終わる前に、シスターは俺たちに背を向け、教会の敷地の方へ顔を向けた。
なんだよ! 人がせっかくイイ話をしようとしてるのに。
そして——
シスターは教会の敷地内に残って遊んでいた子どもたちに向かって全力で叫んだ。
「あなたたち! 今直ぐ教会の中に入りなさい!!! 特に女の子は早く!!!」
あっ、なんか嫌な予感がして来た……
シスターは振り返り——
「あなたですね! ハジマーリの街から来たという異邦人は!」
「ええ、そうですよ? でも、それがどうかした——」
「ヒガシの国の神官バインバイーン様から、情報が回って来ているのです!」
そういうことか…… バインのヤツめ、異国であるキタノ国にまでその影響力を伸ばしていたとは……
「ちょっと、それは誤解で——」
俺は話し合いでの解決を試みるがもう遅い。
「みなさーーーーん! ここに変態がいますよーーーー! 誰か、衛兵さんを呼んでくださーーーーい!!!」
あっ、テメー、なに大声で叫んでんだよ! うわっ、ご近所のみなさん、そんな目で俺を見ないで下さいよ!
「チクショウ、バインのヤツめ、覚えてろよーーーー!!!」
俺は風魔法を使い大空目指して逃げ出した。クソッ、太陽の光が目にしみるぜ。目から汗が流れてきたじゃないか。べ、別に、悔しくて泣いてるわけじゃないからな!




