いつものように
「じゃあ、俺は一旦宿に戻ることにする。また帰ってくるから、ちょっとは食いモン残しとけよ、このハイエナ野郎ども!」
俺が宴会会場にいる冒険者どもに告げると——
「え? なんで宿に戻るんだ?」
イノチシラズーがキョトンとした顔をしている。
「娘さんたちを宿まで送って行かなきゃならネエからな。夜道を娘さんたちだけで歩かせたら危ネエだろ」
「おいおい、冗談はやめてくれよ。あの嬢ちゃんたち、メチャクチャ強いじゃねえか。さっきダンジョンの入口で、いったいどれだけの魔獣を仕留めたことか」
「バーカ。俺が心配なのは娘さんたちじゃネエよ。アイツらのことをよく知らずに、ちょっかいをかけてくるバカな男どもを心配してるんだよ。アイツらが本気を出してみろ。邪な心を抱いた男どもは、あっと言う間にあの世行きだ」
「ちげーねーや! ガハハハ!!!」
「「「「「「 アハハハ!!! 」」」」」」
こうして俺は、『シャブシャブー』と『ヤキトリー』をきっちり1食分確保した後、娘さんたちと一緒に、宴会会場を後にした。
もちろん超級魔法の魔法陣はちゃんと消しておいた。
♢♢♢♢♢♢
宿屋へと向かう道すがら。
辺りにはすっかり夜の帳が下りており、長かった1日の終わりをしみじみと感じることになった。本当に今日は長い1日だったよ。
「今日は朝から大変だったな。アイシュー、疲れてないか?」
俺がアイシューに体を気遣う言葉をかけたところ——
「え? あの…… いいえ、大丈夫です……」
なんで敬語なんだ?
なんだかアイシューとホニーの表情が固い。
「おいホニー、どうしたんだよ?」
「え? アタシ、アノ、ツカレ、ナイ、ヨ……」
なんでカタコトなんだ?
いったいどうしたんだよ?
「おいミミー、なんとか言えよ」
「ムムムムムム……」
「…………別に無理して、オチをつけなくてもいいんだぞ?」
「ホッ、だゾ。なんだか3度目に話を振られると、最近ちょっとプレッシャーを感じるゾ」
苦労をかけるな…… なんてことはいい。でも、どうやらミミーはいつも通りの様子だが……
「おい、アイシュー、ホニー。お前らどうしたんだよ? なんか様子がおかしいぞ?」
二人はお互いに見つめ合いながらモジモジし始めた。そして意を決したように、アイシューが口を開く。
「あの…… 今日のカイセイさんは、なんだかいつものカイセイさんじゃないような気がして……」
「え? それはどういうことだ?」
「だって…… 喋り方ひとつにしたって、いつも私たちに向けて話すような感じじゃなかったし……」
ああ、そういうことか。
「俺も昔は冒険者だったんだ。冒険者には独特の話し方みたいなものがあるからなあ…… 荒くれ者たちと話す時は、やっぱり俺も冒険者口調になってるんだろうな」
自分では意識してなかったけど、冒険者時代のちょっとお下品な口調に戻ってしまってたんだろうな。
「それにさあ。アンタ、さっきまで激怒してたじゃないのヨ!」
「え? なに言ってんだホニー。俺、別にそれほど怒ってないぞ? そりゃあ、冒険者のヤツらが勝手に宴会なんか始めやがって、多少はイラッとしたけど……」
「じゃあ、あれはそんなに怒ってなかったってことなのネ?」
「ああ、もちろんだとも。多分、ガラの悪い口調だったんで、相当怒っているように聞こえたんだろうな」
「もう! カイセイさんが超級魔法の魔法陣を出した時、本当に驚いたんだから!」
「……悪かったよ、アイシュー。あれは冗談というかネタ披露的なつもりでやったんだけど……」
うーむ…… どうやらアイシューをヒヤヒヤさせてしまったようだ……
「ムムっ? オレっちは、さっきのオニーサン、カッコいいと思ったゾ?」
嗚呼、ミミー。お前ってヤツはなんて素敵な娘さんなんだろう。俺のこと、よくわかってるじゃないか、と思ったのだが……
いや、残念ながらそうじゃないな。単にミミーは荒くれ冒険者たちに慣れてるんだろう。
「いつものナヨナヨしたオニーサンも好きだけど、冒険者っぽいオニーサンも、オレっちは好きだゾ!」
ありがとう…… でも普段の俺は、ミミーから見るとナヨナヨしてるように見えるんだな……
「それからちょっと気になってたんだけど……」
アイシューがまたモジモジしながら口を開く。そして——
「カイセイさんって、私たちと一緒にいる時、ひょっとして無理してるのかなって思って……」
ああ、わかった。これはアレだ。休みの日に家でダラダラしている父親しか見たことがなかった娘が、何かの拍子に職場で働いているお父さんを見て、『あれ? お父さんって、こんな人だったの?』って驚くヤツだ。
小さい子なら、『いつものお父さんじゃない』って言うかも知れないな。
「いいかアイシューよ。大人は家にいる時の顔と職場にいる時の顔は違うものなのだよ」
「どういうこと?」
「そうだな…… 俺の知り合いの冒険者で、顔つきも言葉遣いも、そりゃもう恐ろしいヤツがいたんだよ。でも、ソイツってば、家に帰ったら自分の子どもに向かって、『ただいまでちゅ〜』とか言ってやんの」
「あー、それはなんとなくわかる気がする」
「だろ? だから多分俺も、お前たちの前ではリラックスしてるんだろうな」
「ふーん…… じゃあ、私たちと一緒にいる時は、家族と一緒にいるような気持ちなのね」
「ああ、多分そうなんだろう。なんならお前もミミーみたいに、俺のこと『お兄ちゃん』って呼んでもいいんだぞ?」
「……それは前にも断ったはずよ。どちらかと言えば『お父さん』だって」
「……それは前にも断ったはずだ。気持ち的にはお前らのお父さんでも構わない。だが、妙齢の女性陣から『えっ、この人、見た目は若いのに、こんなに大きな子がいるってことは、結構オッサンなのかしら……』とか思われるのが嫌なんだ」
「なに言ってんだか…… でも、いつものカイセイさんに戻って安心したわ」
そうだな。まあ、なんとなく、みんないつもの調子に戻ったかな。
もともとよく知らない者同士が集まったんだ。きっとこれからも今日みたいに、相手の意外な一面を見て驚くこともあるだろう。
でも慌てることはない。これからゆっくり、お互いのことを知っていけばいいじゃないか。なんたって俺は、まだピチピチの36歳なんだから!
でも念のため言っておく。俺はコイツらのことを自分の子どものように思ってるけど、決して結婚を諦めたわけじゃないからな! ハジマーリの街のナミダーメさん、今頃どうしてるかな……




