自分のカネで祝勝会
「さあ! じゃあこれから、このダンジョン始まって以来のダンジョンボス攻略者、カイセイの旦那の『ダンジョン制圧祝勝会』をおっ始めようぜい!」
「「「「「「 オオオオオーーーー!!! 」」」」」」
ここはジョーキューシャーの街にある冒険者ギルド。いつもなら仕事を求める冒険者たちで溢れているロビーというか待合室というか、とにかく結構な広さのある憩いのスペースが、今は宴会会場に様変わりしている。
そして今、俺は司会役の冒険者とともに、変なひな壇っぽい所に立たされているのだが……
数時間前、ダンジョンで魔獣の暴走を引き起こしてしまった俺だったが、ダンジョン内で金になりそうな魔獣を倒しまくったところ、なんとダンジョンの鎮圧化に成功してしまったのだ。これでもうダンジョンから魔獣が溢れてくることはないだろう。
討伐した無数の獲物を冒険者ギルドに納めたところ…… なんと、莫大な討伐料が俺の懐に転がり込んできたのであった。
「いやー、流石はカイセイの旦那だ!」
「こんな凄い人を見ることが出来て、私は幸せ者だよ!」
「アンタはこの街の英雄だ!」
……コイツら、都合のいいととばかり言いやがって。特に最後のヤツ。お前、ついさっきまで俺のこと『疫病神』とか『借金王』とか言ってたじゃネエか。
俺はスタンピードのせいで魔道具を置いて逃げて来たヤツらや、テントを壊されたヤツらから弁償しろと責め立てられたため、討伐料の一部をソイツらの補償金に当てることにした。
まあ、これでも俺は冒険者の端くれのつもりだ。俺も前回のターンでは、強い冒険者に助けてもらったこともあったからな。
でも、補償金だけで話は終わらなかった。
とりあえずダンジョンの鎮圧化には成功したが、ギルド職員が、念のためしばらくダンジョンは閉鎖すると言い出したのだ。
それを聞いた冒険者の連中ときたら…… 俺のせいでしばらく稼げなくなったんだから、働けない期間の生活費を保証しろとヌカしやがって……
なんだよ、それ? 俺はひとりハローワークかってんだよ。お前ら受給者証でも持ってんのかって言いたいぜ。
数の暴力に屈した俺は仕方なく、冒険者の連中の生活費を支払うことにした。
でもまあ、俺も冒険者の端くれだ。俺も前回のターンでは、一発当てた冒険者にタカった経験もあるからな。
でも、やっぱり生活費の支給だけで話は終わらなかった。
生活費を支払っても、まだまだ俺に討伐料が残ると知った冒険者の連中は、俺に何の相談もなく、勝手に『ダンジョン制圧祝勝会』なんてものを企画しやがった。もちろん金を払うのは俺だ。
まあ、俺も冒険者の端くれだが………… お前ら、やり過ぎなんだよ!!!
いったいどれだけ酒を注文したんだよ。ギルドの中が酒樽で溢れてるじゃネエか。
あっ! あそこのテーブルの上にあるのは『シャブシャブー』と『ヤキトリー』じゃネエか! アイツらいつのまに調理したんだよ! 水魔法で冷凍保存して、ちょっとずつ食べようと楽しみにしてたのに!
「じゃあ、宴会を始める前に、カイセイの旦那から一言お願いします!」
司会役の冒険者よ。お前今、宴会って言ったよな? お前ら単にタダで飲み食いしたいだけじゃネエか……
「まったく、しょうがネエな……」
俺は司会役の冒険者に促され、口を開こう思ったのだが……
その前に、俺は会場内でコソコソと不審な動きをしている、ある冒険者に向け無詠唱で風魔法を放った。
「「「「「「 む、無詠唱だと!!! 」」」」」」
お約束ありがとう。
「おい! そこの意地汚いテメー、なに勝手に『シャブシャブー』を食おうとしてんだよ! 人の話はちゃんと聞きましょうって、先生に教わらなかったのか! いいか、俺が食ってもいいって言うまで食うんじゃねえぞ! 勝手に食ったヤツは地獄行きだ!」
まったく…… 『シャブシャブー』と『ヤキトリー』は、そんなにたくさん持って帰ってきてないんだよ。
あっ、マズイ。意地汚い冒険者をぶっ飛ばしたせいで、会場全体が緊張で包まれてしまった。しかし——
「テメーら、好き勝手なことしやがって! なにが『ダンジョン鎮圧祝勝会』だ。テメーらがタダで飲み食いしたいだけじゃネエか! このハイエナ野郎どもめ! だが…… 俺も冒険者の端くれだ。俺だけ儲けを独り占めするつもりはネエよ。今日は好きなだけ飲み食いしやがれってんだ、このクソ野郎ども! さあ、宴会の始まりだ!!!」
「「「「「「 ウオオオオオーーーー!!! 」」」」」」
意地汚いハイエナどもの祝宴が始まった。でもまあ、こういう連中も嫌いではない。明日をも知れぬ人生を送っているヤツらだ。せいぜい今日は楽しみやがれってんだ。
「あっ、ただし『シャブシャブー』と『ヤキトリー』は全部食うなよ。娘さんたちの今日の晩飯として、一食分は宿に持って帰るからな」
娘さんたち3人は、宴会会場の端の方で待機させているのだ。
「え? お嬢さん方は参加しねえんですかい? ダンジョンから湧き出す魔獣を倒すのに大活躍だったじゃねえですかい?」
司会役の冒険者が尋ねてくる。
「当たり前だ。アイツらはまだ未成年だからな」
「へえ…… 旦那は意外とカタブツなんですねい」
いや、ウチの上品な娘さんたちに、呑んだくれのキッタネエおっさんの姿を見せたくないってものあるんだが。
カタブツと言えば…… そうだ、大事なことを忘れてた。
俺は超級魔法のどデカい魔法陣を3つ、宴会会場の天井付近に展開させた。
再び会場に沈黙が訪れた。流石冒険者たちだ。こんなデッカい魔法陣から魔法をぶっ放されたらエラいことになるってことをよく理解している。
「すまない、言い忘れていたことがあった。聞いてくれ。お前らの当面の生活費についてだ。ギルドの職員さんと話し合った結果、S級、A級冒険者にはこれから1週間、B級以下の冒険者には2週間生活費を支払うことになった。これから1日1回、冒険者ギルドに来て金を受け取ってくれ」
俺がそう告げると——
「あのー、ちょっといいか?」
会場にいた一人の冒険者が口を開いた。
俺はまだ魔法陣を展開したままでいる。どうやらコイツは、それでも口をきけるほど、腹のスワった男のようだ。
ユニークスキル『人物鑑定』でコイツを調べたところ——
『種族:人間族
個体名:イノチシラズー
レベル:45』
なるほど。でも命は大切にしろよ?
「なんだ? 言ってみろよ」
俺はイノチシラズーに発言の続きを促す。
「そんなメンドセーことしなくても、1回で全額支給すりゃあいいじゃねえか?」
「バーカ。テメーらに大金渡したら、あっという間に使っちまうだろ。それじゃあ、生活費にならネエだろうが、この散財野郎どもめ!」
「ちげーねーや! ガハハハ!!!」
「「「「「「 アハハハ!!! 」」」」」」
会場に笑い声がこだまする。悪くないな、こういう雰囲気。前回のターンで俺が冒険者だった頃を思い出す。
確かに俺はカタブツかも知れない。でも、俺が冒険者だった頃なら間違いなく、パーティメンバーだったあの無駄遣い神官バインバイーンが1日で使い切っただろうからな。
くそっ…… また嫌なことを思い出してしまった…… 俺はバインの悪夢から一生逃れられないのだろうか?




