ミミーの愛情
俺はダンジョンに戻って冒険者たちを助け出し、風魔法を身に纏って助けたヤツらを出口まで送り届ける。
これを何度も繰り返した。
いったい何往復程しただろう。
やっとダンジョン内にいた全ての冒険者を救出出来たようだ。
ユニークスキル『広域索敵』を使ってみる。
よし、もうダンジョンの中には誰もいないぞ!
ダンジョンの入口付近では、魔獣を街に逃さないよう、娘さんたち3人が頑張ってくれていたようだ。
現在は魔獣の流出がおさまっているため、3人とも俺の近くで休憩している。
「中にいる者は全員救出しました。負傷者はいますか?」
俺はダンジョンの入口付近に駆けつけていた、冒険者ギルドの職員のおじさんに尋ねた。
「軽傷の者が数名いるだけで、死者並びに重傷者は一人もおりません」
よかった。じゃあ、怪我人にヒールでもかけてやることにするかな。
「ありがとう、本当に助かりました」
「あなたがいなかったら、いったいどうなっていたことか」
「アンタはこの街の救いの神だ!」
俺が救出した冒険者たちが口々に感謝の言葉を述べている。
よせやい、照れるじゃないか。
俺は当然のことをしたマデディ…… って、ダメだ。普段使い慣れない言葉は使わない方がいい。ちょっと噛んでしまった。なんてことはどうでもいいや。
「でも、なんでこんなことが起こったんですか?」
俺はおじさん職員に尋ねる。
「おそらく、誰かがダンジョンボスを倒したんだと思います」
「えっ?」
「この街のダンジョンボスを倒した冒険者はいないのですが、他の比較的難易度の低いダンジョンでは、ボスを倒すとダンジョン内のパワーバランスが崩壊し、魔獣達が暴走を始めたという報告がありますので……」
「…………それって有名な話なんですか?」
「いいえ。いくら難易度の低いダンジョンでも、ボスを倒すなんてこと、そうそうありませんよ。私も昔の資料を読んで知っていただけですから。おそらく、ここ100年ぐらいは、ダンジョンボスを討伐した人なんて、いないと思いますよ」
「…………そうなんですか」
じゃあ、俺が知らなかったとしても、それはきっと俺のせいじゃないよな。
うん、俺のせいじゃないともさ。
「しかし…… 困ったことになりましたね」
ため息交じりに、ギルド職員のおじさんがつぶやいた。
「え? 重傷者を出さずにボスを倒したんだから、これっておめでたいことじゃないんですか?」
「それはそうなのですが…… 資料によると、魔獣たちの暴走状態はしばらく続くそうで、当分はダンジョンの入口を封鎖しないといけないそうです。その間冒険者はダンジョンに入れず、我々ギルドも収入を得ることが出来ず…… ハァ…… 経済的損失は測りきれません」
「………………」
アイシューと目が合った。アイシューが目で語っている。
『ダンジョンボスを倒したことは黙っておきましょうね』
ホニーと目が合った。ホニーも目で語っている。
『これ、ヤバそうだからサッサとズラかるわヨ』
ミミーと目が…… 合わなかった……
「オオオウっっっっっっっ!!! オニーサン、スゴイぞ! オニーサンはダンジョンボスを倒して、100年に一人の男になったゾ! ダンジョンボスを倒したのはオニーサン…… むぐっ!?」
ミミーの左右から、アイシューとホニーがミミーの口をふさぐがもう遅い。
「ひょっとして…… あなたがダンジョンボスを倒したのですか?」
怪訝な顔をしたおじさん職員が俺に問いかける。
「いや、倒したっていうか何というか…… ハハハ……」
アイシューとホニーの腕を振り払ったミミーが声高らかに叫ぶ。
「オニーサンことキシ・カイセイ、ダンジョンボスを討ち取ったりだゾ!!!」
今まで暖かな雰囲気に包まれていた周囲の空気が急速冷凍されたようだ。冒険者たちがまるで冷たい氷のような言葉を放ってきた。
「テメー、俺たちは魔道具やらなにやら、全部置いて逃げてきたんだぞ!いったいどれぐらい金をかけたと思ってんだよ!」
「ダンジョンには私の屋台があるのよ! まだローンだって残ってるのに!」
「お前はこの街の疫病神だ!」
「なんだよテメーら! さっきと全然態度が違うじゃネエか!」
コイツら…… さっきまで、あんなに感謝の言葉を並べてたくせに!
「魔道具代、弁償しろよ!」
「そうよ、テント代払いなさいよね!」
「お前はこの街の借金王だ! 借金返すまで許さないからな!」
「ああ、もうわかったよ! この恩知らずどもめ! ミミー、ホニー、アイシュー! ここはお前らに任せたぞ!」
俺は娘さん3人に向かって叫んだ。
「カイセイさん、どうするつもり?」
心配顔のアイシューが尋ねる。
「もう一回ダンジョンに入って、金目のモノをとってくるよ。そんでもって、ソレを売っぱらって金に替えてやるさ」
「危険…… なことはないわね、あなたなら」
「ああ。俺が帰って来るまで、入り口は塞ぐなよ」
俺はダンジョン目掛けて風魔法を使いダイブした。こうなったらもうヤケだ。ついでにドラゴンの巣にあった、デッカい魔石も回収してくるか。
そういえば…… 女神様からのメッセージを確認してなかったな。ここなら電波もよく届くだろう。飛翔しながらステータス画面開示っと。
『50層の魔獣『トカゲモドキー』はダンジョンボスです。もちろん強いですが、今のカイセイさんなら、容易に倒すことが出来るでしょう。でも——』
そう、この後が途切れてたんだ。それで?
『でも、ダンジョンボスを倒すとスタンピードが起こるので、今日は討伐を見送った方がいいでしょう。スタンピードって…… ああ、あのお得なハンコを押してもらう紙のことね、って、おいおい、それは『スタンピード』じゃなくて『スタンプカード』だろ! なんちゃって。お笑いもイケるクチのテラより』
「なんだよ、それ! ただのダジャレじゃネエか! しかもあんまりオモシロくネエし!」
『抱腹絶倒』って言うから、どんな面白いことが起こるのかちょっと期待していた自分を大いに罵りたい気分だ。
まったく…… スタンプカードがどうとか、ホントどうでもいいんだよ。スタンピードのこと、もっと早く教えてくれればいいのに! まったくもって、使えない女神様だよ。




