レベル上げ開始
「よし、じゃあ、確認するぞ」
俺は娘さん3人に向かって話し出す。
「俺は魔獣の背後に回ってここまでヤツらを追い立てて来る。だから最初の攻撃には加われない。今回はミミーに司令塔の役目を担ってもらおうと思う。どうだミミー、出来るか?」
「オウっ! オレっちにババーンと任せろだゾ!」
「よし。じゃあミミーは索敵能力を使って、魔獣が80m辺りまで近づいたら2人に教えろ。その段階で2人は詠唱開始だ。その後、魔獣が50m辺りまで近づいたら、ミミーが攻撃担当のヤツに攻撃するよう指示するんだ」
「ムムっ! 責任重大だけど、オレっち頑張るゾ!」
「ああ、任せたぞ。その後の攻撃については臨機応変って感じで俺が指示する。それから、中級魔法の詠唱は時間がかかるから、攻撃担当者は最初の攻撃が終われば、初級魔法の詠唱をして待機するように。ここまでで、何か質問はあるか?」
「あの…… カイセイさんは最初の攻撃には加わらないの?」
アイシューが少し不安そうな表情でつぶやく。
「ああ。俺は魔獣どもの背後に回って、ここまでヤツらを追い立てないといけないからな」
魔獣はレベルが高い相手を見ると、基本的に退避行動を取る。俺がここにいたんじゃ、魔獣が寄って来ないんだよね。
「カイセイがいなくて、大丈夫なの?」
ホニーもアイシュー同様、少し不安なようだ。
「心配するな。ちょっと距離は離れてるけど、もし危ないと思った場合は俺も魔獣の背後から攻撃する。ああ、それから。俺は魔獣達の背後にいるけど、俺のことは気にせず中級魔法を打っていいからな。退避なり防御なりするから遠慮なく魔獣に向けて魔法をぶっ放してくれ」
こうして、俺達パーティの、記念すべき初ミッションが開始された。
♢♢♢♢♢♢
「ミミー! 撃ち漏らした右の1体を仕留めろ!」
「オウっ!」
「ホニー! 攻撃魔法の位置が高すぎる! もっと下を狙え!」
「おおっ!」
「アイシュー! 防御魔法の威力が弱い! もっと魔力を送り込め!」
「はいっ!」
魔獣討伐を始めて数時間。娘さん達は俺の指示に従い、順調に討伐を進めている。俺はほとんど手を出していない。まあ、この3人のレベルは高いんだから、実戦経験を積んで連携が上手くとれるようになれば俺の出番はないはずだ。
ここまで見たところ、やはりミミーは経験者だけあり非常に的確な判断が出来ていた。
「よし。ここからは全てミミーが指示を出してみろ。危ないと思った時だけ俺が追加で指示を出すことにする」
「オウっ!!!」
♢♢♢♢♢♢
更に数時間が経過。いやはやたいしたものだ。俺、全然喋る機会がないんですけど。なんか俺、完全に魔獣を追い立てる係に成り下がってるんですけど。それはそれで、ちょっと寂しいんですけど……
「おい、一旦休憩にしよう! たぶん体力はまだ残ってると思うけど、お前ら、顔がヤバいことになってるぞ」
俺は娘さんたちに向かって叫んだ。
3人共HPはほとんど減っていない。ただ、アイシューとホニーは、ここまで気を張っていたせいか、精神的にかなり疲れているようだ。
「アイシュー、ホニー。ちょっと疲れたか?」
「そうね…… ちょっと頭がボーっとしてきたかな」
「なんか頭の中がグルグル回ってるような感じネ」
「よし! じゃあ今日の魔獣討伐はここまでにしよう。残りの時間は『黒魔石』を探すことにしたいんだが。ホニー、アイシュー、それでいいか?」
二人とも少し疲れた顔をして頷く。やっぱりちょっと無理させちゃったかな。
ミミーはハイテンションで不思議な踊りを踊り出した。お待たせしましたって感じだ。
「はい!」
なんだ? おもむろにホニーが手を上げたんだけど?
「どうした、ホニー?」
「ワタクシは自分勝手な発言をして深く反省しているホホニナ=ミダ・ヒトスジーであります。これは押し付けとか命令とかではなく、提案であります。もう一度48階層に行って、そこで黒魔石を探してはいかがでありましょうか?」
……なんだよ。やっぱりお金製造機トウタスーのことが忘れられないのかよ……
「……お前、たくましいな。お前なら、きっとどんな世界でも生きていけると思うよ」
珍しい魔石は下層に行くほど多くなる。黒魔石を探すなら、もっと下層へ行く必要があるから、別に48階層に行ってもいいんだけど。
『ハァーーー』と、わざとらしく大げさにため息をつくホニー。そして——
「ねえ、クローニン侯爵が言ってたこと覚えてる? 領地経営って、ホントに大変なのよ。アタシってば勝手なこと言って、セバスー達に面倒くさい仕事押し付けちゃったから…… ここで稼いだお金を、セバスー達に仕送りしたいのよね……」
仕送りって…… お前、田舎の母ちゃんかよ? でも、そんなこと言われたら断れないじゃないか……
「あの、もしカイセイさんが良ければの話だけど…… 私も、勝手にミズーノの街の聖堂会から出て来ちゃったから、聖堂会のみんなに少しでも寄付出来たら嬉しいな、なんて思ったりして……」
うーむ…… アイシューも同じようなことを考えていたのか。
「ムムムム…… オ、オレっちも、お世話になったカカリチョウとかに、その、エット……」
うーむ…… ミミーは周りの雰囲気に流されているだけのようだ。
「いいんだよ、ミミー。アイツら公務員だし結構稼いでると思うから。下層に行っていっぱい稼いで、帰りにまた屋台で美味しいもの食べような?」
「オウっ! 流石はオニーサンだゾ!」
それじゃあ、48階層に行くとしますか。まあ、ちょっと気になることもあったんで、ちょうどいいや。
実はホニーとアイシューのレベルのことなんだけど…… あまり経験値が稼げなかったのだ。ホニーのレベルは一つ上がって58になったが、アイシューは58のままだった。せっかく頑張ったのに、結果が伴わないと意欲が下がるんだよな。
ならば、レベルの高い魔獣がいる下層に行き、俺がこっそりレベルの高い魔獣を狩って、パワーレベリングしちゃいますか。『共闘の指輪』を装備してるんで、俺がレベルの高い魔獣を倒せば、その分の経験値もパーティメンバーに入るのだから。ホニーもアイシューも一生懸命頑張ったんだ。レベル60にしてやりたいからな。今日だけは特別だ。これからは、こんな甘いことはしないからな…… 多分。




