ホニーを叱る
48階層から上層に戻った俺達は、今44階層に到着したところだ。ここはデッカいカバやゾウのような魔獣が棲息するエリアである。コイツらは長距離攻撃を仕掛けてくるわけでもなく、魔法耐性が高いわけでもない。移動速度も遅いときている。防御力とHPが高めなのが難点なのだが、娘さん3人組の攻撃力の前ではまったく脅威にならないと言っていい。ホニーとアイシューの攻撃魔法が最も効果を発揮する階層だ。経験値稼ぎにはもってこいだと思う。
「さあ、じゃあここで魔獣討伐を始めるぞ」
俺は3人に、この階層に棲息する魔獣の特徴を説明し、そして——
「ウチのパーティには盾役がいないから、アイシューかホニーのどちらかが、ウォーターウォールかファイアーウォールを展開して、防御役を担当してもらう。一人が攻撃担当、もう一人が防御担当ってわけだ。ミミーは攻撃魔法で仕留め損ねた魔獣を狙え。だから攻撃が始まってもしばらくは待機だ、いいな?」
「ムムっ…… それじゃあオレっち、あんまり活躍出来ないゾ……」
ミミーがちょっとしょげてるが、これは仕方のないことなのだ。俺の治癒魔法(白魔法)は人間族のホニー、アイシューの二人に対しては効果を発揮する。しかし、獣人族で黒属性のミミーには効かないのだ。
もちろんHPが回復するポーションは持ってきているが、万が一のことを考えると、やはりミミーに危険なポジションを任せるわけにはいかない。
白魔法を黒魔法に変換する『黒魔石』を見つけるまでの辛抱だからな。我慢してくれよミミー。俺がそんなことを考えていると、アイシューが——
「いい、ミミーちゃん? 一番強い人は最後にカッコよく登場するものなのよ。私達が危なくなったら助けてね?」
「オウっ! オレっちが後ろに控えてるから、デデーンと任せてくれていいゾ!」
流石アイシュー、いやアイシューさん。ミミーの扱い方は天下一品だな。ミミーの機嫌が直ってホッとしていたところ——
「じゃあ、まずはアタシが攻撃を担当するから、アイシューは防御担当をお願いね」
「は? なに言ってるのホニー? カイセイさんは交代でって言っただけでしょ? 勝手に順番決めないでよね」
また喧嘩かよ…… それにしてもホニーのヤツ、勝手なことばっかり言いやがって。いつもなら笑って許してやらなくもないが、ここはダンジョンだ。しかもこれから魔獣討伐を始めると言うのに。流石にいつものお気楽気分ではいられない。
「おい、ホニー。いい加減にしろ。いいか、よく聞け。パーティではリーダーの意見が最優先であり、このパーティのリーダーは俺だ。別に俺が偉いからリーダーなんじゃない。一番強いのが俺で一番経験があるのも俺だからだ」
別に普段の生活の中で、俺の考えをホニーに押し付けるつもりはない。しかし、ここはダンジョンの中なのだ。
「いいかホニー。多少の面白トークぐらいは許してやるが、自分勝手な判断を仲間に押し付けるな。ダンジョンで判断を誤ったら、最悪命を落とすことだってあるんだぞ。自分が死ぬのは勝手だが、あんまり聞き分けのないことばっかり言ってると、仲間まで殺しちまうことになる。お前、それでいいのか?」
「わ、わかったわよ。悪かったわ、勝手なこと言って……」
ホニーは素直に謝ったので、まあ許してやることにするか。
うーむ…… しかし子どもを叱るのって、本当に難しいな。あまり強く言って、シュンとなってしまっても困るし…… まあでも、パーティを組むと言うことは、仲間と命の預け合いをすると言うことなのだ。このぐらいのことは言ってもいいだろう…… と思う。
それにしても、世間のお父さん達は、いっつもこんな葛藤を抱えて子どもを叱ってるのか? まったく、心から尊敬したい気分だよ。
「じゃあ、日本の伝統、『五十音順』に則り、『ア』から始まるアイシューから先に攻撃を担当させる。いいな?」
俺がそう言うと、ホニーが目を大きく見開いて——
「チョ、チョット! 何よソレ!」
コイツ…… まだ文句言うつもりか?
「『ごじゅう……』? アタシ、そんなの聞いたことがないんだけど!」
ホニーめ…… まだゴネるつもりなのか? ここはもう一度叱った方がいいんだろうな。仕方ない、また心を鬼にするか。
「おいホニー! お前、いい加減に——」
「宿に帰ったら、その、ごじゅうナントカ、アタシに教えてよネ!」
「えっと、いい加減に…… ではなく、その…… ちゃんとしっかり教えてやるさ。ああ、教えてやるともさ。で、攻撃の順番はアイシューからでいいんだな?」
「ええ、もちろんよ! アタシは日本の伝統に従うワ!」
ホニーは本当に難しい娘さんだ…… ホニーの師匠が苦労したの、よくわかるよ。日本の伝統を尊重してくれるなら、いっそのこと俺も日本の伝統をでっち上げて、ホニーに言うことをきかせるか? いや、それはダメだ。一時の安楽に身を任せては、俺まで書き置きを残して身を隠すハメになるぞ。




