守銭奴を見てはいけない
ホニーのせいで多大な精神的苦痛を負った俺であったが、なんとか食欲と物欲が渦巻く魔の第1階層を抜けることに成功した。ここからは一気に風魔法を使って、かなり下の階層を目指し飛翔する。あんまり難易度の低い階層で戦ったら、他の冒険者達の獲物を横取りしちゃうことになるからな。
他の冒険者の邪魔にならないよう出来るだけ高速で移動したいので、左右の腕でアイシューとホニーを抱きかかえる。ミミーには背中におぶさるよう伝えてある。
言っておくが下心などこれっぽっちもないからな。抱きかかえた方が速く飛べるだけなのだ。年長の娘さん二人も、風魔法で移動するときは俺とくっつくのを嫌がらないんだよ。まったく勝手なヤツらだ。
俺達は風魔法で飛翔し、一気に地下48階層を目指した。このダンジョンでは、48階層より先に進んだ者は誰もいないとのこと。魔の48階層と呼ばれているらしい。ミミーの嗅覚やホニーの金銭感覚を狂わす魔の第1階層とは異なり、こっちの『魔』がつく階層は、本当にやっかいな魔獣が生息しているのだ。
この階層にいるのは亀のような魔獣トウタスー。コイツが数多くの冒険者の行く手を阻んでいる。
トウタスーは硬い甲羅で自分の体を保護しているため、物理・魔法、どちらの攻撃も効きにくい。狙うとすれば、甲羅から飛び出している顔と手足ということになるのだが、コイツ、すぐに顔と手足を甲羅の中に引っ込めちまうんだ。
「というわけで、ほとんどの冒険者は、コイツを倒すことが出来ないんだ」
48階層に到達した俺は、顔と手足を引っ込めたトウタスーを遠目に眺めながら話し始める。コイツは危険を感じると手足を甲羅の中に引っ込めてしまうんで、逃げられずにじっとしてるんだよね。でも近寄ると、急に攻撃を仕掛けてくるから注意が必要だ。
「しかし! 上級魔法が使えると、ほら、こうやって魔法陣を移動させられるだろ? コイツ、顔を甲羅の中に引っ込めてるけど、表面は甲羅で覆われてないから魔法が通りやすいんだ。だからこうやって、ヤツとの距離を保ちつつ、頭を隠してる場所まで魔法陣を移動させて——」
俺はトウタスーの顔の近くまで魔法陣を移動させ、そして——
上級水魔法を放つ! トウタスーは完全に沈黙した。
「この通り。コイツは接近すると襲って来るんだけど、敵との距離があれば甲羅の中に顔を隠してじっとしてるんだ。だから、この48階層を抜けるためには上級魔法が必要になるってワケよ」
俺は前回のターンにおいて、魔人族領のダンジョンでコイツとはよく戦っていた。戦時はダンジョンで食料を確保していたのだ。
この世界では、北へ行けば行くほど、魔獣のレベルが上がってくる。
ジョーキューシャーのダンジョンは、人間族領にあるダンジョンの中では最も北に位置する。しかし、魔人族領はジョーキューシャーの街より更に北にあるため、魔人族領内にあるダンジョンは、どこもかしこも高難易度ばかりだったのだ。
「トウタスーの肉は滅多に市場に出回らないんで、バカみたいな高値で取引されるんだ。それから何と言ってもこの甲羅だ。コイツは高級武具の素材になる。その値段たるや…… おい、ホニー。よだれが出てるぞ?」
「し、失礼なこと言わないでよネ! これは…… そう、これは涙よ。口から涙が出てるのヨ!」
なにが涙だよ。それなら、クチカラナ=ミダ・ドバドバーにでも名前を変えろよ…… ってダメだ、俺。俺には自動翻訳機能さんみたいなネーミングセンスがない……
なんてことはどうでもいいや。話を続けよう。
「それから、ここから先の階層はまだ誰も足を踏み入れてないだろ? といことは、どんな魔獣を持って帰っても、高値でサバけること間違いなしだ。フッフッフ……」
「オオゥ…… オニーサンとホニーが、悪い顔になってるゾ……」
「ミミーちゃん、見ちゃダメ。あなたまで守銭奴になるわよ」
「おいアイシュー、なんて言い草だよ! 俺はお前達の装備代を稼ごうと懸命にだな——」
「アタシ、今日ほど上級魔法が使いたいって思ったことないワ……」
おもむろにホニーがつぶやいた。まあ…… ホニーがやる気になってくれたようなので、それはそれでいいことにしよう。でもミミーには絶対、ホニーの姿を見せないようにしよう。
その後俺は、数体のトウタスーを退治した。まあ、これぐらいでいいだろう。俺は仕留めたトウタスーを風魔法で宙に浮かせ、上階に戻るよう3人に伝えた。そう、間違えてもらっては困る。俺は別に大儲けしようと思っているわけではない。後払いにしている装備代を稼ぐため、トウタスーを仕留めたのだ。決して守銭奴などではないぞ? アイシューとは後で話し合う必要がありそうだ。たぶん言い負かされるとは思うけど。
「ネエ、カイセイ! もっとトウタスーを狩りましょうヨ!」
「ホニー…… お前、本来の目的を忘れてないか? 早く上級魔法を覚えて、自分の力で一儲けしてくれ」
とりあえず装備代は確保出来たので、俺達は再び上層へと舞い戻った。




