ジョーキューシャーのギルドで
「ねえ、カイセイさん。パーティ名は何にするの?」
俺達は今、ジョーキューシャーの街の冒険者ギルドに来ている。パーティ登録をするためだ。パーティ登録をするとメンバー全員に、魔道具『共闘の指輪』が支給される。これを装備すれば、俺の無駄に多いMPをパーティメンバーで共用出来るようになる。娘さんたちの魔法の練習にはうってつけなのだ。
残念ながら、受付カウンターには美人のお姉さんがいなかったので、普通のおじさんに対応してもらうことになった。まったく。お約束は守って欲しいものだ。
俺はこの世界の文字が理解できないため、いろんな書類に必要事項を記載する仕事はアイシューに任せていた。そのアイシューが、俺たちのパーティ名を何にするか尋ねてきたのだが……
「オレっちは『オレっちとオニーサンと愉快な仲間達』がいいと思うゾ!」
今日も元気いっぱいのミミーが声をあげる。
「チョット、ミミー。それじゃあ、アタシは『愉快な仲間』その1って言うこと?」
不愉快そうな顔そのままに文句を言うホニー。
「ン? その1はアイシューで、ホニーはその2だゾ?」
「調子に乗るんじゃないわよ、このガキンチョ! あっ、ちょっと待ちなさいヨ!」
「わーい、ホニーが怒ったゾー」
「待ちなさいってば!」
笑顔で逃げるミミーを、ぷんぷんしながら追いかけるホニー。おいおい、ここ冒険者ギルドの中だぞ? 場違い感がこの上ないな。
こうなってくると、お決まりのシチュエーションが起こるんだよ。
「おい、お前ら。ここは幼稚園じゃねえんだよ」
ほらな。いかにも『俺、荒くれ冒険者だぜ』みたいなのがカラんできたよ。それから、ここにいる全ての冒険者が、悪意のある目で俺達を見てるよ。
「しょうがないな。おい、アイシュー。ここはひとつ、中級水魔法『スノーシャワー』でもお見舞いしてやれよ」
「もう、なんで私なの? ミズーノの街であなたが使ったやつでしょ? やりたいなら自分でやりなさいよ」
「わかった」
俺はもちろん無詠唱で『スノーシャワー』を発動。
「もう! ホントに使ってどうするのよ!」
アイシューは『ウォーターウォール』を発動させ、自分と受付職員のおじさんの周囲を防御。しかし、詠唱に時間がかかった分だけ、少し俺の『スノーシャワー』をくらったようだ。まつ毛が若干凍っている。うーむ…… これはまた、後で怒られそうだ。
「お、お助けを……」
「寒い…… 何か温かいものを……」
「バナナで釘が打てそうだ……」
荒くれ冒険者達の悲痛な声が聞こえてくる。
大袈裟だよ。だからバナナで釘が打てる程の低温じゃないよ。とか思っていたら……
「オレチ…… オシコ行きたいゾ……」
「チョト…… アタシ、ガリガリさんじゃナインダケド……」
お前ら、ちゃんと喋れてないぞ。それからホニー、そのガリガリなんとかの性別間違ってるぞ。
「あ、悪い。お前らがいるの忘れてた。ホニー、悪いけど自分で火魔法使って、温まってくれ」
ホニーは寒さでガチガチ震えながらも、なんとか詠唱を完了。ギルド内の天井スレスレのところに、炎の雲のようなものを出現させた。
「へえー。ホニーやるじゃないか。それって中級魔法なのか? こんな使い方もあるんだな」
「ふふっ。これは私が考案した魔法、名付けて『天井サウナ』よ!」
「おお! じゃあ、俺がこれに風魔法を付け足したら、『エアーサウナ』になるかな?」
「なにヨ、それ複合技? ちょっとカコイイんだけど!」
「もう! あなた達、いい加減にしなさいよ! こっちはすっごく暑いんだから!」
アイシューはそう言うと、ホニーが発現させた炎の雲を、水魔法を使って吹き飛ばした。
あーあ、ギルドの中がめちゃくちゃになっちゃったよ。
「おい、ミミー。お前、風魔法を身に纏う『風魔装』が使えるようになっただろ? とりあえず、床に落ちてるコップとか皿とかをテーブルの上に片付けてくれないか? 俺も一緒にやるから競争だ。行くぞ!」
「オウっ!」
風魔法を身に纏った俺とミミーは、目にも留まらぬ速さでコップや皿を拾い上げて行く。
「まあ、こんなもんだろ。パーティ名は…… とりあえず『カッコカリ』にしておこう。また後日、違う名前にしてもいいからな。じゃあ、受付の職員さん、そういうことで。さあ、ダンジョンに向かうとするか」
俺は冒険者ギルドを後にした。ミミー達も俺の後に続く。
ダンジョンへ行く道すがら、アイシューが俺に声をかけてくる。
「もう、カイセイさんってば! あんなことして本当に良かったの?」
アイシューは本当に真面目だな。
「いいんだよ、あれで。というより、あれは必要なことなんだ」
「どういうこと?」
不思議そうな顔をしてつぶやくアイシュー。
「なあミミー。ダンジョンの中で、一番危険な存在ってなんだかわかるか?」
「フフフだゾ。オレっち、オニーサンの言いたいこと、よくわかるゾ」
珍しいな。まあいいや、それで?
「魔獣も危険だけど、一番危険なのは『人』だと思うゾ!」
「流石ミミー、その通りだ。弱っちい冒険者は、ダンジョンの中で他の冒険者達から狙われるんだよ」
「チョット、何よそれ! 冒険者ってそんなに悪い人達なの?」
ホニーが驚いた顔をして尋ねてくる。
「みんながみんな、悪いヤツってことはないけど、中にはそういうヤツもいるってことさ」
実際、ダンジョンから帰って来なかったヤツも、本当に魔獣にやられたのかどうかわかったもんじゃないからな。
「ムッフン! オレっち、さっきコップ拾うフリして、オレっちを睨んでたオジサンの足を蹴っといてやったゾ!」
「あー、あれな。ちょっと面白かったよ」
「オウっ! 流石はオニーサンだゾ。オレっちの蹴り、見えてたのカ?」
「当たり前だ。でも…… 次からは、ちょっと加減してやれよな」
「チョット! アンタ達二人の会話って、なんだかベテラン冒険者って感じがするわネ」
またまた驚きの声を上げるホニー。
「「 おうっ!(オウっ!) 」」
俺とミミーは、ホニーの問いに笑顔で答える。
「あっ! ひょっとして、ミミーちゃんのその喋り方って、冒険者ふうだったの?」
なんだ、アイシューのヤツ、今まで気づいてなかったのか? ひょっとして、ミミーってちょっとバカな子だって思われてたのかな?
「あっ、そうだ。ダンジョンに向かう前に、ちょっと武具屋に寄って行こうか」
このメンバーなら、いくら人間族領最難関ダンジョンとはいえ、命がけで戦うような事態にはならないだろう。でも、用心するに越したことはないからな。




