年頃の娘さんはムズカシイ 後編
「オニーサン! じゃあ、ダンジョンに行くのカ!?」
嬉しそうな表情を浮かべたミミーが叫ぶ。
「そうだな…… 手っ取り早くレベルを上げるなら、ダンジョンに潜るのが一番だな。ダンジョンには魔石が落ちてることもあるから、白魔法を黒魔法に変換してくれる『黒魔石』が落ちてるかも知れないしな」
「オォォウゥゥッッッ!!! オニーサン、早速ダンジョンに行くぞだゾ! 今すぐダンジョンで『黒魔石』を探すぞだゾ!」
「ミミー。興奮しすぎて、語尾がおかしいぞだぞ?」
「ん? オニーサン、ナニ言ってるのかわからないゾ?」
「冷静になったようだな。俺は嬉しいぞ」
獣人族で黒属性のミミーには、俺の治癒魔法(白魔法)が効かない。黒魔石があれば、ミミーの傷を癒してやることが出来るようになるのだ。
「いいかミミー。ダンジョンに潜っても、必ず『黒魔石』が見つかるってわけじゃないんだからな? それからもし見つかったとしても、特殊な魔法で加工しないといけないから、すぐには使えないんだぞ? ……って、お前なにしてんだ?」
なにやら笑顔でハイテンションなミミーが、不思議な踊りを踊っている……
「なあミミー。そのヘンテコな踊りは何だ?」
「ン? 嬉しくて、じっとしてられないだけだゾ?」
「そうか…… まあなんというか…… 期待に応えられるよう頑張るよ」
しまった…… 過剰な期待をさせちまったか?
まるでサンタさんからのプレゼントを待ちきれない、日本の子どものようだ。
「じゃあもう、こうなったら善は急げだ。今からダンジョンに向かうぞ!」
ここまで、新しく仲間に加わったホニーとの親睦を深めたいという気持ちもあり、徒歩でゆっくりと街道を進んで来た。
お互いのことは、もうだいたいわかったと思う。ここからは風魔法を使って、一気にダンジョンに向かうとするか。
♢♢♢♢♢♢
食事処を離れて数時間。俺達は、今、女神様がいるというホコーラの街の上空を飛んでいる。風魔法を使えば、ホコーラの街まであっという間に着くんだな。こんなことなら、もっと早く来てもよかったのかも知れないな。
まあいいや。今、俺達が目指しているのはここから更に北西の方向に位置するジョーキューシャーの街だ。この街は人間族領最北の国、キタノ国のこれまた北の果てにあるのだ。
この街には、人間族領最高難易度のダンジョンがある。ここでホニーやアイシューのレベル上げやら、ミミーのための『黒魔石』探しやらをするつもりだ。
アイシューとホニーのレベルが60になったら、またホコーラの街に来ることにしよう。女神様に会うのは後回しだ。
♢♢♢♢♢♢
ホコーラの街上空から更に数時間。俺達はジョーキューシャーの街に着いた。到着したのが夕方だったため、宿屋で部屋を取ろうとしたところ……
「おい、お前らなにやってんだ? なんで2部屋も取るんだよ? 別に4人1部屋で十分だろ?」
「ハア? アンタなに言ってんの? レディなアタシが、なんでオッサンなアンタとおんなじ部屋に泊まらないといけないワケ?」
「ぷっ。おいホニー。そんな台詞は、あと8年程してから言いやがれってんだ」
「……カイセイさん。私やホニーは着替えとか水浴びとかしたいんだけど…… ひょっとして見たいの?」
「そんなわけないだろ? そういう場合は、ちゃんと目をつむっておいてやるよ。森で野営する時なんかは、いっつも近くで寝てたじゃないか? なあ、なんで宿屋だと嫌なんだ?」
すると、アイシューがムッとした表情をして——
「……女性にはいろんな身だしなみがあるのよ。カイセイさん、女心がわからないとモテないわよ?」
「おいおい…… 女性って言ったって、お前らまだ子どもじゃないか…… あっ、いえ、なんでもないです……」
ふくれっ面のアイシューが、ホニーと一緒にサッサと自分達の部屋に向かって歩いて行った……
なんだよアイツら! 都合のいい時だけ俺を利用しやがって! まあでも…… 確かアイシューは、『今までワガママを言ったことがない』って言ってたな。これって、俺にワガママを言えるようになってきたってことでいいのか? それって俺を信頼して甘えてるってことなのか?
うーむ…… よくわからない。わからないけど…… まあ、しばらく娘さん達のワガママに付き合ってやることにするか。
「オニーサン! オレっち達も、早く部屋に行くゾ!」
笑顔で俺を見つめるミミーが、俺の服の袖を引っ張る。
「なあ、ミミー。お前はアイシュー達と別の部屋でいいのか?」
「ン? オレっちはオニーサンと一緒がいいゾ? 今日はオニーサンを独り占めだゾ!」
嗚呼、ミミー…… お前ってヤツは……
今すぐ役所へ行って、戸籍をいじって俺の娘にしたいぞ! この世界にはなんで戸籍が無いんだよ! この世界の公務員は怠慢じゃないのか? やっぱり子どもを作るなら、女の子がいいな!
いや、でもちょっと待てよ。ミミーはまだ8歳。アイシューやホニーは12歳だ。やっぱりミミーもそのうち、『もう! 下着は別々に洗濯してって言ってるでしょ!』とか言うようになるのかな…… お父さんって寂しい生き物なんだな、きっと……
「なあミミー…… お前はあんまり早くお姉さんになるなよ」
「ン? オニーサン、ナニ言ってるのかよくわからないゾ?」




