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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
③炎の令嬢ホホニナ=ミダ・ヒトスジー 編

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モッハベルト

 俺はヒトスジー軍の兵士達に向け叫ぶ。


「ここにいるのが、水の聖女ことアイシューだ! 顔を知ってるヤツもいるだろ!? いろいろあって俺とパーティを組むことになった。そして俺は——」


 俺は自分の頭上に超級火魔法の魔法陣を出現させる。


「——この世界最強の魔導士、キシ・カイセイだ!!!」


 俺は天空に向け超級火魔法を放った!


 その後は例のように超級水魔法で巨大な水柱を出現させ、最後に超級風魔法を使いキレイさっぱり周囲の霧を消し去った。そして俺は話を続ける。


「いいか! さっきの放送は間違いなくアイシューがやったんだからな? 絶対、天界から流れてきたんじゃないからな? わかってんだろうな!」


「あ、ああ。あの声は間違えなく水の聖女殿の声だ」

「て、天上の女神様の声なんかじゃないとも」

「お、俺、最初から、水の聖女様の声だと思ってたんだ」


「よし! じゃあ、この話はこれで終わりだ! これ以降、この話は禁句だからな!」

 ふう。どうやらヒトスジー軍のみなさんも、納得してくれたようだ。


「カイセイさん…… どういうつもりなの?」

 何やってんだこのバカ、みたいな顔をしたアイシューが口を開く。


「おいアイシュー。あんまり大きな声で喋るなよ。せっかくヒトスジー軍のみなさんが納得してくれたっていうのに」

 まったく。俺の苦労を台無しにしてくれるなよな。


「なんなのよ、この茶番?」

 ホニーが何か言ったようだが放っておこう。


「ムムっ! オニーサンの脅迫技術が進歩してるゾ!」

 これは脅迫ではない。説得と言うのだよ。この件については、後日じっくりミミーと語り合うことにしよう。


 あっ、そうだ。またミミーの目の前で超級魔法使っちゃったな。ミミーの様子を見ると…… よし、大丈夫だ。今回はチビってないようだ。


 さて、これで女神様の話は一件落着だ。反論は認めないからな。では本題に戻るとしよう。


 さっきヒールをかけたセバスーさんはというと…… HPは回復したが、とてもお疲れだったのだろう。今は眠っている。起こすのも悪いので、ホノーノさんにでも現在の状況を聞いてみるか。


「では、改めましてホノーノさん。あなた方の目的は何ですか?」

 俺が尋ねるが……


「……あなたは一体何者なんですか?」

 恐怖を懸命にこらえているような表情のホノーノさん。そうだな、相手に質問する前に、まずはこちらが何者なのか説明しないと話が進まないだろう。


「失礼しました。俺の名前は岸快晴と言いまして、こちらの世界で言うところの異邦人です。ああ、それから、元水の聖女アイシューの盟友でもあります。ここ、重要ですからね。それで——」


 俺が話をしている最中さなか、ホニーのヤツが俺を押し退けて、ホノーノさんの前に立ちはだかった。


「ここにいるカイセイは、アタシのパーティメンバーなのよ。見たでしょ、いまの魔法。コイツってば超級魔法を使えるのよね。まあ、アタシから言わせると、まだまだってトコロなんだけど」


「おい、ホニー。お前、いつから俺のパーティメンバーになったんだ? その話はセバスーさんと相談してからだって言っただろ?」


「じゃあ、今、セバスーと相談しましょうよ。そこにセバスーがいるんだから」

 寝ているセバスーさんの元へ向かおうとするホニー。


「おい、バカ、止めろよ! セバスーさんはお疲れのご様子じゃないか。もう少し寝かせてあげようっていう心の優しさがお前にはないのか?」


「ぐぬぬぬ…… じゃ、じゃあ、セバスーが起きたら、ちゃんと話をするんだからネ! セバスーがダメだって言うはずないから、カイセイはアタシのパーティメンバー確定ってことね。そういうことよ、ホノーノ!」


「いや、あの…… おっしゃっておられる意味がサッパリわからないのですが……」


「でしょうね……」


 仕方ない。俺はこれまでの経緯をかいつまんで、ホノーノさんに説明した。


「なるほど、そういうことでしたか。しかし……」


 そんな話をしている時、ヒトスジー軍の後方から、50人程度の一団がやって来た。伝令か何かなのかな?




「どうしたのだ、ホノーノ。先程の炎や水の大爆発は一体何だったのだ? 後方からではよく見えなかったのだが?」

 きらびやかな軍服を着た人物がホノーノさんに問いかける。


「それは、本隊の遥か後方からではよく見えないでしょうな」

 不愉快そうな顔で答えるホノーノさん。


「なんだと、ホノーノ。お前はこの私が考えた軍の配置に、何か不満でもあるのか? 総大将の身に万一のことがあった場合、我が軍は、いや我がヒトスジー領は瓦解してしまうではないか? 私は軍や領民のため、心ならずも、本隊の後方に布陣しているだけだ」

 自分の保身を正当化しようと懸命なこの人物。たぶんコイツがホニーのバカ兄貴なんだろうけど……


 誰だコイツ? こんなヤツの顔、見覚えないぞ? ということは、前回のターンの対魔人族戦には参戦していなかったんだろうな。


「あなたの身に何かあった場合、ホニー様が伯爵位を継げば良いだけのことです」

 うわっ、ホノーノさんったら、なんか反抗的な態度とっちゃってるよ。大丈夫か?


「ホノーノ、キサマ…… よほど命が要らぬようだな…… ん? おい、そこにいるのはホニーじゃないか? 間違いない、我が妹ホニーよ! 私の元へ帰って来てくれたんだね。セバスーに騙されて、きっと怖い思いをしたんだろう。もう、大丈夫だから——」


 あっ、ホニーが火魔法の詠唱を始めた。


「——さあ、一緒に家に帰ろう…… って、あれ? おい、ホニー。なんで詠唱を……


あ、熱っ、熱っ、あっっっつうぅぅぅーーーー!!!


な、何をするんだ!」


 あーあ。バカ兄貴のヤツ、初級火魔法を浴びて、髪の毛チリチリになっちゃったよ。なんだっけ? モッハベルトだっけ? 確かモーツァルトとバッハとシューベルトが混ざって…… くそっ、ホント、この情報どうでもいいな。


「兄さま、いえ、このバカ兄貴。よくもセバスーにヒドいことしてくれたわね。今日という今日は、絶対、許さないんだから! 火魔法をお見舞いしてやるんだからね、覚悟しなさいヨ!」

 ……もう、お見舞いしたじゃねえか。お前の兄貴、モッハベルトになってるぞ?


 ホニーがまた詠唱を始めたけど…… って、おい、それ中級火魔法の詠唱じゃないか!

 俺は慌てて風魔法をホニーの口元に吹きかけ詠唱を中止させる。


「チョット、カイセイ! アンタ、何すんのヨ!」

「それはコッチの台詞だよ! こんなトコで中級火魔法使ってどうすんだよ!」


「威力は抑えるわヨ!」

「バカ! ホノーノさん達まで巻き添えになるだろ!」


「ホノーノ達には、ちょっと我慢してもらえばいいのヨ!」

「ヒトスジー家にはバカしかいないのかよ……」


「ホニー様、どうぞ我々のことはお構いなく! 中級火魔法をこのバカな領主にかましてやって下さい!」

「ホノーノさん…… それじゃあ、アンタも髪の毛チリチリになって、モッハベルトの仲間入りですよ?」


 ここで頭チリチリのバカ兄貴が口を開いた。

「ふっ、仕方ないな。おい、お前達、周りをよく見ろ! お前達は包囲されているのだ! バカな妹よ、私に無礼をはたらいたことは許してやる。命が惜しくば、サッサと私に従うことだ。でも、家に帰ったら、絶対、仕返ししてやるからな!」


 確かにホノーノさんを中心とした一団、約3千の兵士達の周囲に、百人程度の兵が所々散らばっているのだが…… これで包囲と言えるのか? コイツ、いったい何がしたいんだろう?


「申し上げます!」

 バカ兄貴の側近と思われる人物が声を上げる。


「本隊3千人のうち、ホノーノ隊長を始めとする反乱部隊を包囲するよう、事前に命令していた約2千の兵が動きません! 今、周囲に展開しているのは、伯爵直属の近衛兵のみです!」

 あー、そういうことね。これって伯爵家の相続を巡るお家騒動みたいなもんなんだね。これを機に、バカ兄貴に反抗的なホニー派を一気に粛清するつもりだったんだ。


 でも残念だったな。中級魔導士のホニーが目の前にいるんだから、ここにいる3千の兵士の皆さんも、そう簡単にはアンタの命令に従わないだろうよ。


「そういうことか。この機会に、あなたに服従しない私や、私と同じ立場の者を葬り去ろうとしていたのか。まったく、小心者の考えそうなことだ」

 ホノーノさんがバカ兄貴に向かって、悪意のある言葉を吐き出した。


「な、なにを言うか! キサマ、伯爵である私に逆らうのか!」


「ああ、ようやく私の腹は決まったとも。我がヒトスジー伯爵家は、先代、マホウノ=ミチ・ヒトスジー伯爵が、魔法の力で作り上げた家ではないか。先代を慕って多くの者が仕官した。私もそのうちの一人だ」

 ホノーノさんが怒りのこもった声を発する。更に——


「初級魔法さえ使えないあなたに仕える気など、私にはサラサラない。私がお仕えするのは、この国に3人しかいない中級魔導士のお一人、ホホニナ=ミダ・ヒトスジー様だ!」


「「「「「 おおおおおーーーーーー!!!!!!」」」」」


 周囲から歓声が沸き起こった。どうやら多くの兵が、ホノーノさんに賛同したようだ。


「ホニー様。どうか我が領地にお戻りになり、新しい領主として、我々の前にお立ち下さい!」


 ホニーに向かって騎士の礼を示すホノーノさん。なんだかスゴイ展開になってきたぞ。ということは、ホニーが次の伯爵になるってことか。なんだよホニーのヤツ、みんなから慕われてるじゃないか。『アタシには居場所がない』なんて言っちゃってさ。


 ホニーとはここでお別れすることになるんだろうな。でも仕方ないか。ホニーの幸せを考えれば、これが一番良いことなのだろう。


 ホニーがホノーノさんはじめ、ホニーを慕う兵達のいる場所へと歩みを進めた。これから、何か話をするのだろう。流石、伯爵令嬢って感じだな。堂々としたもんだよ。


 胸を張り、威厳に満ちた態度でホニーは口を開いた。


「嫌よ」

「え?」

 あれ? なに言ってんの、ホニーさん?


「嫌なのよ」

「え? ナニイッテンダ、お前?」

 俺の聞き違いじゃないよな?


「嫌だって言ったのよ! チョット、アンタ達聞いてなかったの? アタシはカイセイとパーティを組んで、冒険者になるのヨ! だいたい、父さまが亡くなった1年前にもおんなじコト言ったでしょ? アタシは誰にも縛られずに生きるのヨ!」


 今すぐウインドロープでグルグル巻きに縛ってやろうか? なに言ってんだよコイツ。

 お前、本当に日本の文化が大好きなのか? 日本人は空気を読むのが結構得意だと思うんだけどな。

 ホノーノさんはじめ、ホニーを慕うみなさんからの冷たい視線が俺に突き刺さる……


 ちょっと待って下さいよ…… 俺がホニーを誘ったんじゃないんですってば……

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