女神様のメッセージ
クローニン侯爵の長い話——途中、侯爵の愚痴を聞かされる場面もあったが——を聞いたアイシューは、自分を騙して連れ去ろうとした件について、『不問に付す』と言ったので、この話はこれで終わりということになった。
『許す』と言わないところが、アイシューの怖いところなんだよな。本人には絶対言わないけど。
俺はその後も侯爵と話を続けている。まあ、世間話の延長みたいなもんだけどね。
「私が自らの意志で他領に侵攻することはございません。もちろん、それが人間族の危機と言うのであれば、その限りではありませんが」
おっと。なんか気になるワードが出てきたぞ。『人間族の危機』ね…… 一応確認してみるか。
「侯爵にうかがいたいのですが、もし仮に、仮にですよ? 人間族以外の勢力が攻めて来たとしたら、侯爵はどうしますか?」
「ひょっとして、何かそのような予兆があるのですか?」
あっ、ヤバイ。前回のターンでは、これから3年後に魔人族が攻めて来たんだけど…… でもこれって言っちゃあいけないのかな?
「あっ、いや、そういう訳でもないんですよ、ハハハ……」
俺が笑って誤魔化そうとしたところ——
——ピコーン!!! ピコーン!!! ピコーン!!!
うわっ、なんだ? ビックリした。
また俺の目の前に、強制的に開かれたステータス画面が現れた。今回は効果音までつけてやがる。無駄にバージョンアップしやがって。
「どうかされましたか?」
怪訝な表情を浮かべるクローニン侯爵。
「す、すみません。ちょっとお時間いただけますか?」
俺はそう言うと、慌ててステータス画面を確認する。
あーもう、メンドクサイ。上から確認してっと…… レベルなど変わりナシ。一番最後に…… やっぱりあの訳のわからないユニークスキル『話し合い』があって、と。あっ、やっぱり女神様からの新しいメッセージがある。まったく。ステータス画面をメール代わりに使うなよ……
『なにやってるんですか? クローニン侯爵を味方につけるチャンスでしょ? 早く味方に引き込んじゃいなさいよ!』
味方に引き込むって…… なんだか悪いことしてるみたいだぞ? でも、いいんですか女神様。話の成り行き上、前回のターンの話になるかも知れませんよ?
ーーーーーーー(シーン)ーーーーーーー
なんだよ? なんで反応がないんだ? あれ? ひょっとして、俺が頭の中で考えただけじゃ、女神様には伝わらないのか? じゃあ、ちょっと試してみるか。
「では、コホン。えー、女神様のポンコツ〜」
あっ、反応があった。
『誰がポンコツですって! カイセイさん、私のことをそんな風に思ってたの! ぷんぷん!』
最後の一言余計だよ……
でも、このメール、じゃなくてステータス画面? 着信専用じゃないか。もう、発信機能もつけとけよ。ホント、使えない女神様だな。
仕方ない。女神様に口頭で伝えるとするか。
「コホン。あー、えーっと、今から話しますよ? いいですね? えっと、この先の数年後に、あることが起こるかなって気がしなくもないんですが。その件について、口にするのはいかがでしょうか?」
あっ、また反応があった。
『え? カイセイさんナニ言ってるの? 何かヘンな物でも食べたの?』
「遠回しに言ってんだよ! わかれよ、このポンコツ! まるで俺がバカみたいじゃないか?! 3年後に起こることを侯爵に言ってもいいのかって聞いてんだよ!」
また反応あり。
『人のことをポンコツって言う人がポンコツなのよ、このポンコツめ!』
「ポンコツのところはいいから、早く結論を聞かせて下さいよ! それから、女神様も人のことをポンコツって言ってるから、女神様、ポンコツ確定ですからね!」
えっと反応は……
『は、嵌めたわね…… この策士め!』
「もうそいうのはいいんだよ! 俺とのコミュニケーションを楽しんでんじゃネエよ! 早く結論を言えよ!」
反応……
『ハア…… カイセイさんは本当に短気ね。結論を言うなら、時間を巻き戻したことは言ってはいけません。3年後に魔人族が人間族領に攻めて来ることは、クローニン侯爵にだけ、口止めをして伝えて下さい。なぜそんなことがわかるかと聞かれたら、この私、正真正銘の全知全能(ココ、重要!)たる女神テラから聞いたと伝えて下さい』
さっき俺が『全知全能』って言われたのが羨ましかったんだな……
「了解です。それと、あんまりちょくちょくメッセージ飛ばさないで下さいね。俺、忙しいんで。以上です」
俺がそう言うや否や——
——ドオーーーーーン!!!
天空から、俺の5mほど隣に、雷みたいなものが落ちてきた……
ステータス画面を確認すると……
『日本では、頑固オヤジって人は雷を落とせるんでしょ? 私もちょっと真似してみました。うふ』
カミナリオヤジ云々は比喩だよ。本当に雷落としてどうすんだよ…… そうだ、この人、じゃないこの女神様、喜怒哀楽が激しいんだった。ヤバイ、気をつけねば、俺、いつかヤられるかも……
そして最後に、俺は天空に向けて大声で叫んだ。
「いつでもメッセージ、お待ちしております!!! 以上で通信を終わらせていただきます!」
ふっ、こう見えて俺は、長いものにはすぐに巻かれる男なのだ。
全員が驚きの表情で俺を見ている。だろうな……
「みんないろいろと聞きたいこともあるだろうし、俺も言いたいことがある。でもその前に、クローニン侯爵と二人だけでお話しさせていただきたい。女神様からのメッセージをお伝えしたいのですが、って、あれ? 侯爵、大丈夫ですか?」
「アワワワワワ……」
侯爵が完全にフリーズしている。どうやら侯爵は誤解しているようだ。
「あの、女神様は怒ってるわけじゃないんですよ? 女神様はとっても美人でお優しい方ですから。ええ、そりゃあもう。ただ、なんと言いますか、ちょっと変わってらっしゃるというか……」
俺は両手で自分の頭を庇いながら天を仰ぐ。大丈夫だ。雷が落ちる気配はない。よし、これだ。2回褒めて、最後に少し真実をボヤかして表現する。よし、今後はこの方針で行こう。
「今の落雷は、なんていうか、そう、女神様なりの素敵で陽気なおふざけみたいなものですよ」
えっと、『素敵』は褒め言葉だけど『陽気』は褒め言葉に入るのか? ああ、なんか面倒くさい。俺はちょっと強引に、クローニン侯爵を風魔法で宙に浮かせ、少し離れた場所まで移動したのであった。




