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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
第1章 女神様と3人の少女  ①獣人族の少女ミミー 編
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異世界生活やり直し②

 俺に向かって『オレっちミミー。オジサン、よろしくだゾ!』と、元気よく挨拶した獣人族の少女ミミー。


 そうそう、このちょっと変わった話し方、よく覚えてるよ。

 ちょこんと飛び出した可愛らしい耳も5年前のままだな、って当たり前か?

 この子から見ると俺は初めて見る人なんだろうけど、俺にとっては5年振りの再会なんだよな。


 このミミーという少女。見た目を表現するなら…… うーむ、ちょっと難しい。

 耳を見ると猫獣族のようだが、尻尾は短いんで狸獣族? って感じかな。

 目はちょっとタレてるので、やっぱり猫っぽいかな?


 俺はロリコンではないので、少女の描写がザックリとしたものになるのは許して欲しい。



「ムムっ? オジサン、どうかしたのカ?」

 ちびっ子が不思議そうな表情で俺の顔をのぞき込む。

 あっ、いかん。少々考えごとをしていたようだ。


 それにしても…… 見た目はとても愛らしい少女なのだが、しかし、俺を見ておじさんと言うとは何事か!

 ここは年長者として明らかな誤りはキッチリと正してやる必要がある。


「おい、ちびっ子非正規雇用冒険者。俺はおじさんじゃないぞ。まだれっきとしたおにいさんだ!」


「ならオニーサン、よろしくだゾ!」

 とびっきりの笑顔が返ってきた。

 本当に元気を絵に描いたようなちびっ子だ。


 ここでナミダーメさんが、少しすまなさそうな顔をして口をはさむ。

「こ、これは失礼しました。ミミーさんは冒険者としての実力は確かなのですが、その…… なにぶんまだお若いもので、ご無礼お許し下さい」


「いえいえ、まったく怒ってませんよ」

 そう、俺は怒っていない。明らかな誤りを訂正しただけだ。


 俺の実年齢は41歳だが、5年時間が戻ったので、俺は今36歳の若さを取り戻したってわけだ。

 どこからどう見ても青年ではないか! 反論は受け付けないぞ。


「じゃあ、カイセイさんは、おいくつで…… あっ、いえ! な、なんでもありません。なんでもありませんから!」


 うーむ…… なんだか気まずい雰囲気になってしまった…… よし、ここは話題を変えよう。


「あの、別に怒ってませんからね!? いや、ミミーさんってば、見た目は可愛いのにホント、頼もしいですね。あっ、でもやっぱり一番頼りになるのは、なんと言ってもナミダーメさんですけどね。ハハハ……」


 これは嘘ではない。この世界のギルド職員は単なる事務職員ではない。優秀な冒険者がギルド職員を兼務することになっているのだ。

 こう見えて、ナミダーメさんも凄腕の魔導士なのだ。


「やっぱりナミダーメさんに同行していただけるのでとても安心ですよ」


「あ、あの、私、ここに来たのは見学会の説明をするだけでして、この先、同行はしないんですが……」


 …………やっちまったか、俺?


「い、いえ、やっぱり私も同行させていただきます! 非才の身ではありますが、私も全力でカイセイさんをお守りすることをお約束します!」


 あれ? なんだか俺がナミダーメさんに同行をお願いしたみたいな感じになっちゃったけど、いいのかな? 5年前はどうだっけ…… よく覚えてないや。



「いいぞ兄ちゃん、もう一押しだ!」


 俺やナミダーメさんを取り巻いている野次馬の中から、ひときわ大きな声が響き渡った。この声はオセワスキーさんだな。

 異邦人が珍しいのか、ここにも俺の顔を一目見ようと結構な人だかりができていたのだ。


「ヒュー、ヒュー!」

「よっ! この色男」

「テメー! ナミダーメちゃんは俺のものだからな!」

 周囲の野次馬からも、冷やかしや非難の声が上がる。


「も、もう! オセワスキーさん、皆さんもやめてください! そんなんじゃないんですってば!」


 照れたナミダーメさんも可愛いな。

 ナミダーメさんが冷やかしてくる野次馬に向かって可愛く口を尖らせながら『もう、知りません』とか『もう、本当に困ります』とか言うたびに、周囲の野郎どもからは至福の笑顔が溢れてくる。


 なんだこれ? 今日はナミダーメさんのファンクラブの集まりでもあるのか? 実はみんな握手券とか持ってるのか?

 それにしても、野次馬の皆さん、アンタらみんな中学生かよ? ヒューヒューってなんだよ。

 いやその前に、アンタら仕事しなくて大丈夫なのかよ?


「あ、あの…… 取り乱しまして…… も、申し訳ありませんでした!」

 俺に向かって勢いよく頭を下げるナミダーメさん。ちょっと顏を赤らめている。


「いえいえ、こちらこそ…… なんかスミマセンでした」

 きっと俺の頬も、赤く染まってるんだろうな…… なんだよ、俺も中学生かよ。



「で、では気をとり直しまして! こちらのパーティの皆さんにも、ご同行いただきます。こちらの皆さんは——」


「やっとボクの出番だね」

 ん? なんだコイツ? ナミダーメさんの発言をさえぎり、小太りの兄ちゃんが前に出てきた。


「ボクの名前は、クチダ=ケワ・イッチョマーエだ。ボクのパーティが君の護衛をすることになっているんだよ。光栄に思い給え」


 なんだ、このいかにもイケスカナイおぼっちゃまは? 5年前、こんなヤツいたっけ?

 あっ、そうか。俺、5年前はビビっちまって、結局ダンジョンに見学に行ったのはもっと後になってからだったな。

 だからこのおぼっちゃまとは一緒にダンジョンに行ってないんだ。


 ちなみに、人間族の世界で姓を持つのは貴族だけだ。

 コイツの場合、クチダ=ケワが名前で、イッチョマーエが姓である。

 従って、誠に遺憾ながらコイツは貴族ということになる。



 ナミダーメさんがとても嫌そうな顔をしながら口を開く。

「こちらの方は…… 冒険者ギルドでブラブラしておられたので、私・で・は・な・く、他の職員が、た・ま・た・ま、声をかけさせていただいたイッチョマーエさんです……」


 うわっ、ナミダーメさんのテンションが一気に下がったよ…… このボンボン、相当嫌われてるんだな。


「嫌だなぁ、ナミダーメ嬢。ボクのことはクッチーと呼んでくれって言ってるじゃないか。ナミダーメ嬢のためなら、ボクはなんだって出来るんだよ!」


 なんだ、コイツ? コイツはアレだ、状況判断が苦手なタイプだ。

 ナミダーメさん相当嫌がってるじゃないか。ここは俺からお断りした方がいいのかな?


「あの…… ナミダーメさんが護衛についてくれるんなら、それで十分なんですけど?」

 俺は控えめにお断りの言葉を述べるが——


「ふふ、どうやら君はナミダーメ嬢の善意を好意と誤解しているようだね。全く滑稽だよ。ナミダーメ嬢の心は、もうボクによって盗まれているのだよ!」


 ぶわっ、と大袈裟に着ていたマントをひるがえし、オーバーに両手を広げてナミダーメさんを見つめるバカ貴族のおぼっちゃま。


「盗んだんなら窃盗罪だよな。誰か衛兵呼んでこいよ」

 野次馬の中から声が上がる。またオセワスキーさんだ。

 それにつられて周囲からドッと笑いが起こった。


「キィィィー! 誰だ今言ったのは! 庶民の分際で貴族を侮辱するとは! 出てき給え、決闘を申し込む!」


 手袋を外して投げつけようとしたが、手袋はつけていなかったようだ…… とてもカッコ悪い。

 それにしても、面倒くさいことになってきた。

 このままだと野次馬の皆さんがとばっちりを受けそうだ。なんだか申し訳ない。

 仕方ない、ナミダーメさんには悪いがコイツも連れて行くか。


「あー、じゃあ、一緒に行きましょう。ナミダーメさんも一緒なんですよ? ここで問題を起こしたらナミダーメさんと一緒に行けませんよ? どうします?」


 俺の言葉を聞いたボンボンは悔しそうに、むむむ、と唸り声を上げながらも、ナミダーメさんと同行するチャンスを失いたくないのか、『ふん、ボクは先に行ってるからな!』と捨て台詞を吐いた後、そそくさとその場からいなくなった。


 おぼっちゃまのパーティメンバー4人も『やれやれ』といった表情でその後に続いた。

 先に行ったら護衛の意味ないだろ? まったくやれやれなヤツだ。


 ナミダーメさんが申し訳なさそうな視線を俺に向けている。

 いえいえ、こちらの方こそ、勝手に決めちゃって申し訳ない。


 あっ、獣人族のちびっ子も出発するようだ。

 仕方ない、それじゃあ俺もサッサと出発することにしますか。



「あっ、すみません! 最後にもう一人!」

 ナミダーメさんが慌てて声を上げる。なんだ、もう一人いたんだ。


「万が一のことを考え、念のため教会から治癒魔法を使える神官の方を呼んでいます。きっと後から来られると思いますので……」


 なんだよ、勝手に先に行っちまうヤツがいるかと思えば、遅刻してくるヤツもいるのかよ。

 2度目の異世界生活はまだ始まったばかりなのに前途多難だな、まったく。

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