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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
③炎の令嬢ホホニナ=ミダ・ヒトスジー 編

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ジンセイ=ズット・クローニン侯爵

 只今俺達一行——俺、ミミー、アイシュー、ホニー、それから直前に拾い上げたセッカチーの5人——は、コッキョーノ山脈上空を飛翔中。俺は上空からクローニン侯爵を発見したため、地上に降りることにしたのだが……


「あのー、初めまして。俺、魔導士やってます岸快晴っていう者ですけど。間違ってたら申し訳ないのですが、クローニン侯爵とお見受け致しますが…… 」


 なんだこの自信のない挨拶は、などと思ってはいけない。『人物鑑定』を使ってみても、この目の前にいる人物がクローニン侯爵であることに間違いないと思うのだが、その、なんと言うか…… お召しになってらっしゃる甲冑と思しき御召し物がボロボロなのだ。


 隣にいる魔導士っぽい人物なんて、ハアハア息を切らして仰向けでぶっ倒れてるし。まるでタスキを渡し終えた駅伝ランナーのようだ。思わずお疲れ様と言いたくなる。どれだけ急いでここまで来たんだか……


 すると、俺の姿を見たクローニン侯爵と思われる人物は、慌てた様子で騎士の礼——さっきコヤクニーン改めセッカチーがやってたやつ——を、俺に向けてきた。それを見た従者2名もそれに習い、セッカチーまでそれに従った。


「あの…… ちょっと状況が理解できないんですけど。誰かと人違いされてませんか?」


 マズイそ。侯爵サマなんぞに膝をつかせたことが世間に知れたら、俺の異世界人脈獲得大作戦が台無しじゃないか?


 緊張した面持ちのクローニン侯爵が口を開く。

「お初にお目にかかります、猊下。私はナカノ国クローニン領の領主、ジンセイ=ズット・クローニンと申します。先ずは我らが猊下に対し奉り、畏れ多くも弓を引くような愚か者ではないということ、どうかご理解いただきたく存じます」


 あれ? なんでこんな低姿勢なんだ? 恐る恐る、俺は侯爵に尋ねる。


「いや、なんと言うか、とてもご丁寧なご挨拶…… 痛み入ります? でいいのかな? ちょっとやめて下さいよ! 本当に誰かと人違いしてませんか?」


「いえ。そこに直りますコヤクニーンより、猊下のお話はうかがっております。今、猊下は大空より、我々の元へ舞い降りて来られました。余人と間違えるなどあり得ません!」


「それは、俺がちょっと強めの風魔法を使えるだけすよ。俺なんか、そんな丁寧な口調に値するような人間じゃないですから」


「猊下は高潔なお方のようですね。受け賜わりました。私も過度に言葉を飾り立てぬよう注意致します」


「いやいや、もうめちゃくちゃ飾られてますよ? あの、俺のことを『ゲーカ』って言われてますけど、俺のいた世界では、確か高僧とか宗教関係のすっごく偉い人のことを猊下と言ってたように記憶してるんですが、この世界では違うんですか?」


「なんと?! やはり猊下は異邦人だったのですね! あっ、これは失礼致しました。猊下のご質問にお答えしますなら、我々の世界でもそれは同じであるということになります」


「なら、やっぱりおかしいでしょう? 俺、自慢じゃないけど、教会とか聖堂会とかでエラソーなこと言ってる連中大っ嫌いですから。ミズーノの街の聖堂長なんて、特に酷かったから。ぶっちゃけ、女神様のことだって、あんなポンコツで大丈夫か心配してるぐらいですもん」


「……カイセイさん。それは流石に言い過ぎだと思うわ」

 不満そうな顔をしたアイシューが話に割って入ってきた。


「あっ、そうか。アイシューは一応、元聖堂士だったな。別にアイシューの悪口を言ってるわけじゃないぞ?」


「もう、違うわよ!私も今の聖堂会のあり方には疑問を感じてるわ。そうじゃなくて女神様のことよ! あなたはちょくちょく女神様の悪口言ってるじゃない。私、もう聖堂士とは無関係だけど、女神様への信仰は生涯変わらないんだから!」


「……一度会ってみたら、一瞬で変わると思うぞ。まあ、女神様の話はちょっと置いておこう」


 この世界の魔導士の多くは教会か聖堂会に所属している。確かヒガシノ国の宮廷魔導士長も、身分は聖堂士まま、ヒガシノ国にレンタルされてるって話を聞いたことがある。でも、強力な魔法が使える者イコール聖職者ってわけじゃないんだけどな……


「話が逸れましたが、クローニン侯爵、私のことは『カイセイさん』とでも呼んでいただければ十分なのですが?」


「それでは釣り合いが…… もし私が猊下のことを『カイセイさん』と呼ぶのであれば、私のことは『この薄汚ねえブタ野郎』とでも呼んでいただかないと、釣り合いがとれません」


「アンタ実はドMだったりするのかよ? あっ、いえ、なんでもありません。でもなあ……」


「あー、もう! アンタ達見てるとイライラするわ! 」

 わかりやすいほどイラついた様子でホニーが叫ぶ。


「何よコレ、宴席で上座を譲り合ってる副部長と部長代理みたいだわ。どっちが偉いのかよくわかんないのよ! みんな好きなところに座ればいいし、みんな呼びたいように呼べばいいのよ!」


「お前の例え話の方がよくわかんないよ…… それから、この世界にも上座とかあるのか? ひょっとして、それ日本の話をしてるのかよ? じゃあ、答えてやるよ。俺も副部長か部長代理か、どっちが偉いのか知らねえよ!」


「もう、カイセイさん、何言ってるの? 話の内容が全然見えてこないんだけど」

 アイシューがあきれ顔でつぶやく。いや、なんとなくホニーの物言いにイラッとしただけだ。気にしないで欲しい。


「オレっちは、『ミミーちゃま』がいいゾ! なんかカッコカワいいゾ!」

「あー、なんか放ったらかしにして悪かったな、ミミー。それは要検討ということにしておこうな」



 さて、俺達がそんなどうでもいい話をしていたとき、侯爵のお供の男性が懐から笛を取り出した。日本にあるホイッスルみたいなやつだ。それを目ざとく見つけたホニーが、一目散にその男性目掛けて駆け寄った。


「チョット! アンタその笛どうするつもり?!」


 おっ、やるじゃないかホニー。ひょっとしたら、その笛が魔道具だったりして。いきなり魔法で攻撃されるかも知れないからな。


「い、いえ、我々は少人数で本陣から離れて来ましたので…… この笛を使って、侯爵様の無事を本陣に知らせようと思いまして…… も、もちろん、猊下のお許しなく使用するつもりはありませんでした! 一度手に持って確認しようとしただけです! ど、どうかお許しを!」


「いえいえ、そんなにかしこまらないで下さい! 信用してますから、って、おい、ホニー! お前、何やってんだ?!」


 何を思ったか、ホニーのヤツがお付きの人から笛をフンダくり、吹き口をゴシゴシと自分の服で拭いている。何やってんだコイツ?


——ピイーーーー


 信じられねえ…… ホニーのヤツ、自分で笛を吹きやがった。ん、待てよ? ホニー、ひょっとしてお前…… その笛が本当に危険なものかどうか確かめようとして、自分で吹いて確認してくれたのか? お前ってヤツは、そんな危険なことをしてまで…… って、あれ、違うのか? ホニーが俺の前までやって来て、おもむろにぐいっと笛を俺に押し付けてきた。


「お、おいホニー。いったいこれは何のマネだ?」


 ホニーはニヤリと笑い、口を開く。


「アタシ、知ってるんだからね。日本人の男子はみんな、女の子が使った笛をコッソリめるんでしょ? しょうがないわねえ、まったく。今日は特別に私が吹いた笛をあげるわ。特別なんだからね。ああ、それから皆んなの前でめるのはやめてよね。流石にそれは恥ずかしいって言うか——」


「テェメェーーーー!!! 全日本男児に謝れよ!!! お、おいっ、ミミー、アイシュー、そんな顔で俺を見るなよ! ちょっと、侯爵も侯爵家の皆さんも!」


「もう、そんなに照れなくてもいいじゃない。日本の伝統文化なんでしょ? アタシにはよく理解できないけど」


「お前バカじゃネエの!!! 俺にはお前の頭の中の方が理解できないよ! それに、残念だったな、ホニー。俺たちがめるのは縦笛だよ。そんなちっこい笛じゃネエんだよ!!!」


「…………やっぱりめるのね」


「あっ、違うんだアイシュー! 俺はめたことないけど、今言ってるのは、一般的にめるヤツの話で…… って何言ってんだ、俺?」


「やっぱりめるのヨネェ〜」


「おい、ホニー…… テメー、微妙に言い方を変て、アイシューの真似すんなよ。思わず『うん』って言いそうになったじゃねえか」


 この後、俺の懸命な釈明の甲斐あって、なんとか俺の無実は証明された…… と思う。いや、そうであって欲しい。



「ハァ…… なんだか疲れたよ。あっ、そう言えばずっと立ちっぱなしでしたね。すみません、気が利かなくて」

 俺はそう言うと、いつものように無詠唱で風魔法を使い、周辺の木を切り倒して切り株を作った。腰を掛けてもらおうと思ったのだが…… あれっ、マズかったのか?


 俺は最大の敬意を払い、侯爵サマのためにイスを用意したつもりだったんだが…… 侯爵サマ御一行の顔色がみるみる青く染まってしまった…… ん? なんだこの反応? 俺が使ったのは単なる初級魔法だぞ? ひょっとして、勝手に木を切っちゃダメだったのか? この辺りは神が住む聖域だったりするのか?


「あっ、スイマセン、なんか勝手に切っちゃって。あの、切り倒した木はちゃんと加工してお返ししますんで! あっ、木彫りの人形なんかにしてもいいかな、なんて…… そうだ、なんなら、ここにログハウスっぽいイカした建物でもご用意しましょうか? あの………… 他の場所ではこんなことしてませんからね、本当ですよ!!! 俺、どっちかっていうと環境問題に興味あるタイプなんですから! シーオーツーめっちゃ減らしたいですもんね!?」


「オニーサン、何言ってるのか全くわからないゾ?」

 ミミーがつぶやく。

「……ああ、まったくだ。俺も後半は何言ってるのかわからなくなってきたよ」


「カイセイさん、ひょっとして森の木を勝手に切ったことを謝ってるつもりなの?」

 アイシューが尋ねる。

「そりゃそうだろう! ナカノ国の皆さんの表情が一変したじゃないか」


「はあ? チョット、アンタ何言ってんの? あちらサンの顔色が変わったのは、アンタの魔法を見たからでしょ?」

 ん? 何言ってんだ、ホニー。


「お前こそ何おかしなこと言ってんだよ? 俺が使ったのは初級風魔法だぞ? 侯爵のお付きの人の中にも風魔法が使える魔導士さんがいるみたいだから、それぐらいの魔法で驚くワケ——


「『無詠唱』 だからだゾ!」

「『無詠唱』 だからでしょ!」

「無修正は おたからでしょ!!!」


「ホニー!!! オマエどんだけ日本文化に詳しいんだよ! 言っとくけど、俺は持ってネエからな!!! 」

 本当に持ってないからな?


「それに、微妙に言い方変えんなって、さっき言っただろ! しかも上手いことオチつけてんじゃネエよ、っておいホニー、なんでオマエちょっと嬉しそうなんだよ?」


「ムムっ? オレっち『むしゅうせい』って、なんのことかわからないゾ?」


「ああ、それはね、ミミー。日本のエッチな——」


「おい、やめろよホニー! ミミーに教えんじゃネエよ! 教育上、良くないだろうが!」


「…………教育上良くないことなのね」


「おい、アイシュー…… もうカンベンしてくれよ……」


「教育上良くないことなのヨネェ〜」


「ホニー! テメー、本当いい加減にしろよな!!!」


 ハァ、そうか。侯爵達は俺が無修正、いや違った、無詠唱で魔法を使ったから驚いてたのか…… なんだか、今となっては、もうどうでもいい気がするよ……


 俺はその後、アイシューから向けられる軽蔑の視線になんとか耐えながらクローニン侯爵との話し合いを続けることになった。

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