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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
③炎の令嬢ホホニナ=ミダ・ヒトスジー 編

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ホニー登場②

「おい、ちょっと落ち着けよ……」

 オレは炎の令嬢こと、ヒトスジー伯爵家のホニーから質問責めにあっていた。まあ、日本大好きホニーさんのことだから、いろいろ聞きたい気持ちが溢れてくるのはわかるけど、ちょっとガッつき過ぎじゃないか?


「お嬢様、カイセイ様がお困りですよ。少しお慎みを」

 ヒトスジー家の老執事セバスーさんがホニーをたしなめる。ちょっと低めの声で……


「そ、そうね、アタシとしたことが…… わかったわ。まだ時間はたっぷりあることだし、ここは先に夕食を済ませましょうか」

 コイツはどこまでマイペースなんだよ?


「……おい。お前、なに当たり前みたいに俺たちのメシにありつこうとしてんだよ?」

 オレがちょっと意地悪してホニーに一言告げるや否や……


「これはこれは…… 誠に申し訳ありません」

 セバスーさんがホニーをひと睨みした後、オレに向かって頭を下げた。


「いえいえ、冗談ですよ、冗談。実はお二人が近くにおられることは事前に把握しておりましたので、こういうこともあろうかと、少し多めに食材を用意しておきました」


「ムムっ! オニーサン…… そのお肉、全部オレっちのために用意してくれたんじゃないのカ?」

「……おい、ミミー。そもそもオマエが全部肉を食ったら、オレやアイシューの分が無くなるだろ」


「ムムムっ! アイシューはともかく、オニーサンは野菜中心の食生活を心掛けた方が良いと思うゾ」

「オレはまだそんな歳じゃネエよ、この食いしん坊め!」

 確かに日本にいた頃は、健康診断で血圧が高めだと言われたが……


「オ、オウっ! オニーサンはまだちょっとだけ若いゾ! だからさっき言ったのは冗談だゾ。それからオレっち、そんなに食いしん坊じゃないゾ」

 嘘だ…… コイツは嘘を…… まあいいや。


「もし足りなかったら、私のお肉を少しあげるわ」

「オウっ! アイシューは聖女サマじゃなくて女神サマみたいだゾ!」


 そんな微笑ましいミミーとアイシューのやり取りを、ホニーは羨ましいそうに見ていた。ホニーを見つめるセバスーさんも少し寂しそうだ。うーむ…… 伯爵家の令嬢で中級魔法が使えるヒガシノ国有数の魔導士ホニー。きっとホニーも、同年代の友達なんていないんだろうな…… それならば——


「あのー、セバスーさん。もうおわかりのことと思いますが、俺たち3人はミズーノの街から来ました。あの街の代官やら商会長やらが色々と悪巧みをしていたのですが、どうやらあなた方のヒトスジー領もこの騒動と無縁では無いようです。宜しければその辺りのことについて…… ここではナンですから、少し向こうでお話を聞かせてはいただけないでしょうか?」


「これはこれは…… 実は私も先ほどからその話を詳しくうかがう機会を探しておりました。ご配慮いただき感謝します」

 そりゃそうだろうな。街の中心から離れたこんな場所に二人だけで現れるなんて、何かトラブルを抱えているに決まっている。


「それでは情報交換といきましょう。そういうわけだから、お前ら3人で先に食べといてくれ。それからミミー、オレとセバスーさんの肉はちゃんと残しておいてくれよ」


「ムムっ! オニーサン、オレっちはそんなに食いしん坊じゃないゾ! 大事なことじゃないけど2回言うゾ!」

 

 ぷりぷり怒っても可愛いミミーをなだめた後、オレはチラッとアイシューを見た。『もう、仕方ないわね』とでも言いたげな顔で、アイシューはオレを見つめ返す。流石アイシュー、本当に聡いヤツだ。ちゃんとオレの意図を汲んでくれているようだ。


 さっきはちょっと意地悪な面ものぞかせたが、基本的にアイシューは困っている人を見ると、放っておけない性格の持ち主なのだ。さっきもホニーやセバスーさんの寂しそうな顔をチラチラ見てたからな。きっとアイシューなら上手くやってくれるだろう。それじゃあ3人で仲良く友情を深めてくれ!


「重ね重ね、ご配慮感謝致します」

 どうやらセバスーさんも、俺の意図に気付いているようだ。


「いえいえ。それでは我々大人は退散しましょうか」

 俺とセバスーさんは、娘さん3人衆から少し離れた場所に腰掛けた。ここからだと3人の話し声は聞こえないが、様子をうかがうことは出来る。何かあったら直ぐに駆けつけることができるベストポジションだ。


「いやはや…… カイセイ様の気配りは天下一品ですね」

「俺なんかに『様』は必要ありませんよ。このままだと恐縮し過ぎて上手くお話しできないかも知れませんよ?」


「ふふ、ご冗談もお上手なようだ。それでは失礼ながらカイセイさんと呼ばせていただきましょう」

 あー、こんな落ち着いた大人のやり取り、久しぶりだな。流石セバスーさんだ。俺なら話の流れ的に、『じゃあ、カイセイで』とか呼び捨てにしてボケるだろうに。セバスーさんがボケるとこなんて想像できないや。さて、それはさておき……


 俺はミズーノの街で起こった出来事を話し、セバスーさんはヒトスジー領で生じた騒動について話してくれた。



♢♢♢♢♢♢



「今、カイセイさんから教えていただいた情報を、早くご当主にお知らせせねば…… しかし………」

 セバスーさんは判断をしかねている。


 セバスーさんによると、新しく領主になったホニーの兄、オノレノ=ミチ・ヒトスジーは、なんでも自分のことをたいそうな戦略家であると勘違いしている困った人物であるそうだ。


 今回の騒動でも、ヒガシノ国のダマシー将軍とナカノ国のクローニン侯爵の両軍をまずぶつけて、両軍が疲弊した頃合いを見計らい、中級火魔法を操るホニーを先頭に押し立て、クローニン侯爵領を占拠するつもりでいたそうだ。うん、普通だ。欲深くて自分に力のないヤツが、他人の力を当てにするごく普通の作戦だと思う。


 そのごく普通の計画を事前につかんだセバスーさんが、ホニーを戦争の道具にするたくらみに憤り、彼女を連れてここまで逃げてきたとのことであった。


「ホニーの兄貴が、何も知らずに単独でクローニン侯爵領へ攻め込んだら大変なことになりますね。クローニン侯爵は名うての戦略家だと聞いていますから」


「ええ、その通りです。仮にお嬢様がご不在でも、中級魔法を使える水の聖女様がおられれば、なんとかなると言えなくもありませんでしたが…… クックックッ……、おっとこれは失礼。その聖女様が、まさか私の目の前におられたとは。いやはや、こんなに驚いたのは久し振りです。失礼ながら思わず笑ってしまいました」


 俺は前回のターンで何度かセバスーさんと会ったことがあるが、この人が笑ってるところを見たのは初めてだ。なんだかちょっと怖いぞ……


「それに、ミズーノの街とクローニン侯爵領をつなぐ街道を、カイセイさんが魔法で塞いだとは…… 流石のダマシーも、大人しく王都に帰るしかありますまい。これでご当主は孤立無援ということですな」


「ヒガシノ国の連中と連絡ぐらいはしてたでしょうから、いくらボンクラ…… あっ、失礼しました、いくらなんでも、単独で攻め込むことはないと思いますが…… 問題はクローニン侯爵だと思います」


「ほう? それはどういうことでしょう?」


「俺がミズーノの街へと至る街道を封鎖してしまったので…… ヒガシノ国のグン=ジン・ダマシーのおっさん…… あっ、また失礼しました、将軍が襲って来ないとわかると、ひょっとしてヒトスジー伯爵領に兵を向けるのではないかと思いまして」


「ふふふっ。ダマシーめはおっさんですか。いえいえ、いいのですよ。私も若い頃には、あのわからず屋と随分やり合ったものですから」


「へえー、そうだったんですか。まったくアイツはアイシューのことを『人間最強兵器』なんて言いやがって…… まだ12歳かそこらの子どもを戦争の道具にしようだなんて、ホント、腹わたが煮えくり返りますよ」


「……まったく。今日、あなたのような素晴らしい方と巡り会わせていただいたこと、女神様に感謝しなければなりませんね」

 いえセバスーさん。女神様はなんにもしてないと思いますよ?


「いやいや、そんな…… あっ、すみません、話が脱線しちゃって。それでどう思いますか? クローニン侯爵の件は」


「そうですね…… 我が領土にそれ程の魅力があるとは思えませんが……」


「でもホニーを狙いに来るとは思いませんか? 直接ホニーを捕らえることが出来なくても、ホニーの親しい人物をさらって、その後でホニーに言うことを聞かせるとか?」


「それなら…… 大いにあり得ると思います」


 この後、俺とセバスーさんは話し合いを続け、明日の朝、セバスーさんはヒトスジー領に戻り状況を伝え、俺はクローニン侯爵領に向かい一言釘を刺してくることにした。


 正直言って、今の俺のレベルなら、魔法の力でクローニン侯爵に言うことを聞かせることは、そんなに難しいことではないと思う。ただし、今後の対魔人族との…… 戦闘というか交渉というか…… まあ、魔人族と接触する際のことを考えると、このクローニン侯爵は是非とも味方につけておきたい。侯爵に不快感を持たれないよう、今回の一件を上手く収束させたいのだ。


 まあ、なんとかなるだろう。そんな希望的観測を持ちながら、俺とセバスーさんは、娘さん達が待つバーベキュー会場に戻ることにした。


 なんだなんだ。俺達の心配をよそに、娘さん達は結構盛り上がってるじゃないか。


「お前もちゃんと食ってるか?」

 俺はさり気なく、ホニーに声をかける。


「オマエって言わないでよ! アタシにはちゃんとホホニナ=ミダ・ヒトスジーって名前があるんだから! でもまあ、特別にホニーって呼ぶことを許してあげるわ」


「お前もちゃんと食ってるか、ホホニナ?」

「ホニーって呼べって言ってるでしょっ!」


 そう、ホニーってヤツは、とてもイジリがいのある少女なのだ。


 とりあえず明日の朝までやることがないので、ホニーとセバスーさんは、俺達の野営地で一晩共に過ごすことになった。


♢♢♢♢♢♢


 翌朝、俺達は隣国クローニン領へ、セバスーさんはヒトスジー領へとそれぞれ向かうことになったのだが……


「チョット、カイセイ! あんたアタシを置いていくつもり? アタシも一緒に連れて行きなさいヨ! 今日はアタシのスッゴイとこ、見せてあげるんだから!」


 うーむ…… 嫌な予感しかしない。ただ、セバスーさんについて行くと、たぶんコイツのボンクラ兄貴に身柄を拘束されてしまうだろうから……


「そうだな。じゃあ、ついてくるか?」

 アイシューとミミーについては、何やら昨晩から今朝にかけ、ホニーと仲良くなったようだから構わないだろう。


「セバスーさん、それで構いませんか?」

「はい。ご配慮感謝します」


 こうして俺は娘さん達3人を連れて、風魔法で空を舞いながら、一路クローニン侯爵領を目指すのであった。

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