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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
②水の聖女アイシュー 編

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22/219

二日酔いのオッサン

「ミズーノの街の皆さんにお話しした通り、私はこの街を出ます」

「それは身勝手というものではないか? この国で受けた恩は、この国に残って返すべきだ」


 アイシューとダマシー将軍とのやり取りが続いている。将軍のヤツは、俺よりアイシューの方が御し易いと睨んだのか、俺を無視してアイシューにばかり攻撃の矛先を向けている。


「確かに私はこの街の聖堂会で魔法を学びました。それと同時に、私は女神テラ様の教えも学びました。女神テラ様はこの国の人々のためにだけ魔法を使うことを望んではおられません。種族を越えたこの世界全ての人々のために魔法を使うことを望まれています」


 アイシューのヤツ、そんなことを考えてたんだな…… だから隣国の災害にも、自ら進んでおもむこうとしてたのか。俺は立派だと思うぞ。今回のターンでは、アイシューが絶対に自分の魔法を魔人族との戦争のために使うことがないよう、俺も自分に出来ることを全力で取り組もう。俺は改めてそんなことを考えたのだった。


「しかし実際問題として、聖女がいなくなると、隣国ナカノ国のクローニン侯爵軍が侵攻して来るではないか? この点については、聖女にも責任があるだろう。この話は、もともと聖女がナカノ国に行くと言い出したことから始まったのだから」


 将軍の話を聞いたアイシューが、チラッと俺の方を見た。そうか、国境付近の道は俺が超級魔法でぶっ飛ばして通行不能にしたんだった。その話をしてもいいのか、俺に確認したいんだな。


「わかったアイシュー。ここからは俺が話すよ。ナカノ国からの侵攻はない。なぜならさっき、俺が魔法を使って国境を越える道を封鎖したからだ」


 俺の話を聞いた将軍は…… なんだ? 薄っすら笑ってやがる。


「あれは火山の噴火だろう。あれを貴公がやったというのか? 確かに貴公は卓越した能力を持つ魔導士であることは万人が認めるところだ。しかし、火山を爆発させる魔法など…… ふふっ、冗談も程々にしてくれ。まったく…… 天才となんとやらは紙一重というが…… クックックッ」


 将軍の発言を聞いた周囲の市民達まで笑い出した。まったくこの将軍ときたら、検察官や弁護士の才能まであるようだ。聴衆の心をつかむ話術が巧みだ。


「オニーサン…… オレっち、ちょっとカチンときたゾ……」

「奇遇だな、実は俺もなんだよ、ミミー」

「ちょ、ちょっとカイセイさん! まさかここで本気出したりしないわよね?」


「安心しろ、アイシュー。俺は冷静だ。冷静に俺の魔法の力を将軍達に見てもらおうと思う。実際に見てみないと、やっぱりわかんないだろうからな」


「オウっ! 将軍のオジサンめ! オニーサンの実力をよく見とけだゾォ!!!」


「もう! ミミーちゃんまで、何言ってるの?! まさか…… まさかとは思うけど、超級魔法なんて使うつもりじゃないわよね、カイセイさん?」


「オゥゥゥ!!! オニーサン、やってやれだゾ! オニーサンの実力を存分に見せてやるがいいゾ! オレっちが許可するゾォォォ!!!」


「……どっちが師匠なんだか。ちょっと落ち着け、ミミー。それから安心しろ、アイシュー。俺は冷静だ。俺は魔法を使って火山の噴火とやらのタネ明かしをしてやるだけだよ」


 俺は自分の頭の上に、巨大魔法陣を出現させた。超級火魔法の準備完了だ。


「カ、カイセイさん!!! あなたやっぱりバカなの?! それさっき見せた超級魔法の魔法陣じゃない!!!」

「……やっぱりってなんだよ。お前、俺のことバカだと思ってたのかよ…… 大丈夫だよ、上に向けて打つだけから」

 

 俺は上空めがけて超級火魔法をぶっ放した。無数の巨大な火柱が、大空目掛けて吹き上がる。言われてみれば、火山の噴火に似ていなくもないな。


 次に俺は魔法陣を変更した。今度は超級水魔法だ。上空に駆け上がる無数の炎目掛けて、今度は大量の水柱を放った。凄まじい勢いの水流が、大空目指して吹き上がる。その様は、まるで巨大な間欠泉のようだ。上空で炎と水はすべて打ち消し合い、空一面濃い霧に覆われた。


 となると、当然最後は風魔法だ。超級風魔法を使い、空を覆った霧を一気に吹き飛ばしてやった。


 さて、周りの様子を見てみると…… まあ、予想はしてたけど、やっぱりやり過ぎだよな。みんな大きな口を開けてぽかーんとしてるよ。えっ、あれ?


「おいミミー。なんでお前までぽかーんとしてるんだよ」

「……オニーサン」


「なんだ?」

「オレっち…… ちょっとチビったゾ……」


「あっ、なんかごめん…… 後でちゃんとパンツ洗ってやるから……」

 さっきまでの勢いはどこへ行ったのやら…… ミミーでも間近で超級魔法を見ると、やっぱり怖いんだな。


 改めて俺は周囲を見渡す。こりゃ結構な数の人がチビってるな。この後、この街の人は洗濯で大忙しだな。あっ、アイシューは大丈夫だろうか? 俺はアイシューに悟られないよう、さり気なく様子をうかがうと…… 良かった、アイシューは大丈夫だ。アイシューにチビらせたりなんかしたら、後でエライことになるところだった。


 なんだかとても気まずいので、さっさと目的を果たすことにしよう。俺はダマシー将軍に向かって——流石に将軍はチビってないようだ——言葉を放つ。

「わかっただろ? 国境の峠を封鎖したのは俺だ。この街と隣国を結ぶ道は一本しかないんだから、敵がこの街に攻めてくることはない。じゃあ、そういうわけで、俺たち行くからな」


「……待て」

「なんだよ? 平和が保たれたんだから、もういいだろ?」


「……交易はどうするつもりだ?」

「え?」


「交易だ。隣国に通じる唯一の道が閉ざされた今、荷物や商人をどうやって隣国に運ぶのだ? 国境の再整備には、やはり聖女の魔法の力が不可欠だ」

「あれ? 隣国とは敵対してたんじゃないの?」


「これまで、ミズーノの街はナカノ国と友好的に付き合ってきた。今回たまたま代官のバカが隣国のクローニン侯爵と裏取引をしようとしただけだ」

 あっ、まさか…… またやっちまったのか、俺?


「カイセイさん、騙されちゃダメよ!」

「ん? どういうことだ、アイシュー?」


「軍が通れるような大きな道は一つしかなかったけど、商隊が通るぐらいの小さな道なら、他にもいくつかあるわ」


「……テメーいい加減にしろよ、このウソ八百将軍め…… そんなにアイシューを人殺しの道具にしたいのか…… 温厚な俺でも、いい加減…… 怒るぞ……」


「…………私はヒガシノ国を愛している。それだけだ」

「それならきっと、ナカノ国の人達もナカノ国を愛してる思うし、獣人族の国に住む人達も、みんな自分達の国を愛してると思うぜ……」


「それは詭弁だ。そんな話は——」

「うっせえんだよ!!!」


 俺は将軍の言葉を遮った。これではキリがない。ひとこと言って、もう終わりにしてやる。さあ、言ってやるか、俺が今まで一番言ってみたかった台詞を。前回のターンで俺の先輩冒険者だった、オトコノフェロ=モン・デマクリーさんがよく使っていた、超カッコイイあの台詞を!


「……オマエ、いったい誰の前に立っているつもりだ?」

 言ってやった! でも実際言ってみると、ちょっと恥ずかしいぞ!


「オレっちがその気になれば、オマエの命やオマエの国など、あっという間に無くなるんだゾ。ふっ、命拾いしたな、ショーグンさんよ、だゾ」


「……ミミー、ひょとして、今のは俺のモノマネなのか? 元気を取り戻したようで俺は嬉しいんだが、でも勝手に俺の話の内容をイイ感じに膨らませるのは止めてくれないか? 言っとくけど俺、そんなおっかないこと考えてないからな?」


「…………キサマは我が国を滅びに導く悪魔だ」

 ダマシー将軍が恨みのこもった低い声でつぶやく。まったく、ミミーのせいで悪魔呼ばわりだよ…… でも、ミミーがニヤリと笑いながら満足そうな顔してるし、まあいいとするか。


「誰が悪魔だよ。この街を救った英雄の間違いだろ? 言っておくが隣接するナカノ国の領主、ジンセイ=ズット・クローニン侯爵はかなりのキレ者だ。テメーなんぞじゃ、とても太刀打ち出来ないと思うぜ。戦争にならなくてよかったな、まったく…… 命拾いしたな、ショーグンさんよ」


 一応ミミーを尊重して、最後のところは引用しておいた。ただし、将軍の命を奪う役目はクローニン侯爵になすりつけておいた。


 それにしても…… チッ、人をイラつかせるヤツだぜ、このデマカセ将軍め。さあ、本当にもうこれで終わりだ。それではちょっと急ごうか。ミミーは笑顔だが、パンツの方は大変なことになってそうだしな。


「さあ、ミミー、アイシュー、行くぞ!」

 俺はそう言うと、風魔法で自分と二人の体を宙に浮かせた。空に向かってめいっぱい、俺たちの体を風の中に泳がせた。こっそりミミーの下半身に混合魔法ドライヤーを使ったのは、二人だけの秘密だ。


 上空から見たミズーノの街の景色は…… あまり良くないや。市民の皆さんが怯えた表情で俺を見てる…… そういえば、せっかくアイシューが頑張ったのに、結局最後はいい意味でも、悪い意味でも、俺が目立ってしまったな……


「なあ、アイシュー。なんか悪かったな。アイシューがあんなに頑張ったのに、最後台無しにしちゃって。そうだ! 俺とミミーはもっと上空で待機してるから、アイシューは市民の皆さんの頭上あたりを何周か旋回して、サヨナラを言ってくればいいよ。俺が水の聖女様の旅立ちを演出してやろうじゃないか!」


「…………なんだか嫌な予感しかしないわ」


「まあそう言うなって。これでも俺は高校に入学した時、部活見学で演劇部を見に行った男だ。任せとけって。住民の顔がわかるぐらいの高さで旋回させてやるから、手でも振ってやれよ」


「もう! 何言ってるのかよくわからないわ! よくわからないけど、それって結局、入部してないってことよね? うわっ! ちょっと待ってよ!」


 俺はミミーと共に上昇し、アイシューだけ少し高度を下げてやった。


 さて、上空からアイシューの勇姿を見守るとしますか。なんだよアイシューのヤツ。嫌がってたわりには、嬉しそうに手を振ってるじゃないか。なんか市民の皆さんも笑顔で手を振り返してるし。うんうん、いい感じだ。でも、ちょっとカッコイイ感じが不足してるかな?


 飛行機っぽい感じで飛行機雲なんかをなびかせながら、優雅に飛行したらどうだろう。おっ、我ながらナイスアイデアじゃないか! じゃあ、火水風の混合魔法でアイシューの足の裏から煙を出して、っと。あっ、アイシューのヤツ驚いてる。気にするな。次は煙をもうちょっと大きくしようか。うんうん、いい感じだ。更に煙の勢いを鋭くして……


 あっ、風向きが変わった…………


 あっ、背後の煙が風に流されて、アイシューの体の方へ…………


「……こほん。……ゴホゴホ。 ……ゴホッ、……オェ ……オエエ


ゲェェェェェーーーーー!!! オゥエエエエエエエエエーーーーー!!!


もう! オェ…… カイセイさん! オェ…… いい加減にしなさいよォォォーーーー!!!」


「ああ、聖女様がエズいていらっしゃる……」

「なんと野太い声でエズいておられることか……」

「二日酔いのオッサンでも、こんな声は出るまいて……」


「「「流石です、聖女様!!!」」」


 市民の皆さんには、きっと良い思い出になったことだろう。これはこれで良かったのでは? うん、そう言うことにしておこう……


 この日、水の聖女ことアイシューは、二日酔いのオッサン顔負けの野太い声を大地に残し、故郷ミズーノの街から旅立ったのであった。

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