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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
②水の聖女アイシュー 編

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18/219

聖堂長の名前は知らない

 水の聖女アイシューを仲間に加えた俺とミミーは、 アイシューが暮らしていた聖堂会を後にして、一路ミズーノの街の中心部へと向かっていた。アイシューは決意に満ちた双眸を、敵が待つであろう市内中心部へと向けている。そう、俺たちは決着をつけに行くのだ。



 話は少し遡る。聖堂会にて、聖堂長達の悪事の証拠をつかんだ俺達は、聖堂長室内で今後の方針につい話し合っていた。


「なあ、アイシュー。それでお前はこれからどうするつもりなんだ?」

 俺は困惑した様子のアイシューに尋ねる。


「そうね…… なんだか疲れたわ。こんなことなら聖堂会に立ち寄らず、さっきカイセイさんが言ってたみたいに、さっさとこの街を出て行けば良かったって思ってるぐらいよ」


「おいおい、今更そんなこと言われてもな…… なあ、お前、聖堂長達に騙されて、利用されてたんだぞ? 腹が立たないのかよ?」


「そりゃ、腹立たしいわよ。でもね…… 」

「おい、でも何だよ? 言ってくれないと——」


「私…… 怒ったこと無いのよ……」

「ん? それはどういう意味だ? お前、さっきからずっと俺に怒ってるじゃないか?」


「もう! うるさいわね! 今はもう怒ってないわよ、ちょっとしか…… あなたは何ていうか例外なのよ。私だって、あなたに対する自分の態度にびっくりしてるぐらいなんだから」


 アイシューが言うには、特に聖女と呼ばれるようになってから、人々の模範となるような生き方をするよう、自分自身に言い聞かせてきたそうだ。喜怒哀楽を表に出さず、心静かに人々と接するよう常に心掛けてきたとのこと。


 うーむ…… どこかの女神様に聞かせてやりたいものだ。それはさておき、そのような理由から、アイシュー自身、聖堂長をはじめとする悪党達に、どのように振る舞えばいいのかわからないそうだ。


「ムムっ! そんなの簡単だゾ! オニーサンみたいに、悪いヤツはブッ飛ばせばいいゾ!」

 ミミーがいつものように、唐突に言い放つ。


「ちょっと待て、ミミー。俺を暴力大好き人間みたいな言い方をしてくれるなよ。だいたい、ミミーの前で誰かをブッ飛ばしたことなんてないだろ? 俺、これでも情操教育には気をつけてるつもりだぞ?」


「ムムっ! でも、冒険者は力が全てだゾ!」

「待て、ミミー。いいか? 世の中には力以外の解決策もあるんだ。例えば、話し合いを通してだな……


あれっ? 今なんて言ってんだ、俺?


なんだよ話し合いって!!! これはひょっとして…… 女神様に洗脳されてるのか? ミミー、お前ひょっとしてあの人が遣わしたエージェントなのか? 」


「オニーサン、いつも以上に何言ってるのかサッパリわからないぞ?」


「そうだな。俺も何言ってるのかサッパリわからないや。もう、女神様のこと考えるのはやめだ。あの人の言ってること真面目に考えると疲れてくるんだ」


「なんだか女神様に対してとても不心得なことを言っているような気がするのだけれど、そろそろ私の話に戻ってもらっても良いかしら?」

 アイシューがあきれた顔をしている。


「すまない。女神様のことを考えると頭がおかしくなるんだ、良い意味でも悪い意味でも」

「どっちなのよ……」


「まあ、それはいいとして。それでどうするんだ、アイシュー? 別に悪人どもをブッ飛ばさなくてもいいけど、文句の一つぐらい面と向かって言ってもバチは当たらないと思うぞ」


「そうね。怒るとか文句を言うとかは置いておくとして、やっぱりこのままじゃ、あの人達がまた悪いことをするかも知れないわね。この街の人達のためにも、事実は明らかにするべきだと思えてきたわ」


「なんかやっぱり聖女サマなんだな…… あっ、これは良い意味だけで言ってるんだからな!」


「もう、わかったわよ」

 そう言うと、アイシューは少し微笑んだ。そしてその微笑みは不敵な笑顔へと変わった。


「さあ、決着をつけに行きましょう!」

 どうやら腹をくくったようだな、アイシュー。自分では意識してないかもしれないが、お前、結構腹黒なところがあると思うぞ。特に俺との会話において、その傾向が顕著に現れているように思うんだが…… おっと、本人の前で言ったらまた怒られそうなので気をつけよう。


♢♢♢♢♢♢


 俺達は歩みを進め、ミズーノの街の中心部、代官所の前にたどり着いた。俺のユニークスキル『広域索敵』と『人物鑑定』を使ったところ、代官と商会長、聖堂長がここに集まっていることが判明したため、ここまでやって来たってわけだ。ついでに言うと、ダマシー将軍もいるようで好都合だ。きっとアイシューが見つからないんで、もう一度代官にアイシューの行き先を問いただすつもりなんだろう。代官所の周りには人だかりができていた。



 さて、状況はどうなっているのかと、人だかりの向こうへ目を向けようとしたその時——


「うわっ、びっくりした! なんだこれ?!」


 突然俺の目の前に、ステータス画面が現れた。


「あれ? 俺、ステータス画面なんて開いた覚えないんだけど?」


「ムムっ? オニーサン、なんか一人でブツブツ言ってるゾ?」


「あっ、すまん。こっちの話だ」


 俺が戸惑っていると、ステータス画面が赤色に変わり、激しく点滅を始めた。こんなこと、前回のターンでも無かったんだが…… でもまあ、ステータスを早く確認しろってことだよな?


 俺は急かされるように、ステータス画面を確認した。レベルは99のまま。使用可能な魔法も特に変化はない。ユニークスキルも『広域索敵』と『人物鑑定』っと。ふむふむ、これも変わりはないな…… あれ? なんだ? ユニークスキルがもう一つ増えてるぞ?


 ユニークスキルを表示する画面の下の方に、新しいスキルが付け加えられていた。それは——


『ユニークスキル 『話合い』: 話合いを行う際使用できる』


 うわっ、マジか! 女神様は本当に話し合いで世界を救うつもりなのか? こんなスゴいスキルがあるなら世界平和も夢じゃないんじゃないか?! ハジマーリの街でステータスを確認した時は…… ユニークスキルまで確認しなかったな。


 そうだ、レベルが99になってるのを見て興奮しちゃって、ユニークスキルまで確認する余裕がなかったんだ。その後、『広域索敵』と『人物鑑定』がいつも通り使えたから、ステータス画面を確認しようなんて気は起こらなかったんだよな……


 まあいい、落ち着け、俺。まだ続きがあるぞ。高ぶる気持ちを抑えつつ、俺はステータス画面の続きに目を走らせる。


『効果:話し合いが成功する確率が


 たぶん3%ぐらい


 上がると思う』


「…………なんだコレ? 俺、やっぱりあの女神様におちょくられてるのか? 『たぶん』とか『思う』って、どんだけ自信なさげな言いぐさなんだよ? それから確率3%って…… これって昔の消費税か何かなのか?」


「ねえ、カイセイさん。さっきから一人でなにブツブツ言ってるの? 気持ち悪いわ。それから『しょうひぜい』ってなんのこと? ねえ、あなた、頭お花畑になってない?」


 あっ、しまった。心の叫びが声に出てしまったようだ。それにしても、アイシューのヤツ、よっぽど『頭お花畑』が気に食わなかったようだな。とりあえずアイシューには、適当に愛想笑いを向けておくとして……


 これ、ひょっとしてスキルじゃなくて呪いの一種なのか? あるいは、話し合い云々ってこと自体がネタなのか? それとも、この不確かな3%の中に、女神様の平和への願いがギッシリと詰まってる…… わけないよな。


 あれ? よく見るとまだ続きがあるぞ、なになに……


『要は、気持ちが大事なんだと思うのよね。話し合いは大事だぞっていう気持ちを大切にして、これからも頑張ってネ! それから、くれぐれも短気を起こしちゃダメだゾ! by あなたのテラ』


 ナンダコレ? えーと…… ステータス欄って、メール代わりに使うもんだっけ?


 本当に、話合いで世界を救うつもりあるのかよ…… こんなのスキルじゃないよ。単なる応援じゃないか……

 短気を起こすなって言ってるけど、俺ってそんなにキレキャラだと思われてるのか? そう言えば、さっき聖堂長室でアイシューにも同じようなこと言われたし……

 ついでに言うと、これ、応援メッセージだけ送ればいいんじゃないの?

 別にこんなよくわからないユニークスキルいらないよ……


 でもまあ、このタイミングでこんなメッセージを送って来るということは、この後よっぽど腹に据えかねるようなことが起こるという警告なのかも知れないな。


 わかりましたよ女神様。この岸快晴41歳、いや5年若返って36歳、年齢に相応しい、大人の対応を見せて差し上げますとも。どうぞ安心して天界からご覧くださいってんだよ!



 女神様からのメッセージの内容を心の奥底に封印した俺は、気持ちを切り替え今度こそ人だかりの向こうに目を向けてみると——


「おい、悪代官! キサマ、聖女の身柄を隠しているんだろう! サッサと白状しろよ!」

 商会長マミーレが代官マックローに詰め寄っている。おっ、今度は演技じゃなくて、本当に切羽詰まった様子だ。


「言いがかりはよして下さい。今頃はきっと国境を越えて、ナカノ国に到着されておられるのでしょう」

 代官は余裕の表情で聞き流している。


 それを受けて、今度はダマシー将軍が口を開く。

「あり得ない…… 聖女が出立した時間から考えて、絶対に国境を越えたとは考えられないのだ。現在も我が兵士達に聖女を探させているが、未だ発見の報告は受けていない。あまり考えたくないのだが…… ひょっとすると峠付近で起きた火山の噴火に巻き込まれて、あるいは……」

 いや…… あれ、火山の噴火じゃないんだけど……


「ヒ、ヒエー!!!」

 商会長の背後から、みっともない叫び声が聞こえてきた。どうやらコイツが聖堂長らしい。コイツの名前は…… 人物鑑定スキル使うの面倒くさいな、そんなに強そうでもないし。なんかもういいや。コイツは聖堂長、それでいい。それにしても、なんか目だけ異様にギラギラした冴えないオッサンだな。


「も、もし聖堂士アイシューの身に何かあったら……」

 何かあったらどうなんだよ?


「私は左遷させられてしまうではないですか!!! ああ、なんという恐ろしいことに……」

 ……取り乱しすぎだよおっさん。本音を力一杯叫んでどうすんだよ。アイシューの命より、自分の出世の方が大事なのかよ。流石に周りにいる市民の皆さんも引いてるよ……


 俺はアイシューの表情をチラッと見た。あっ、憤怒の表情に変わってる。ふふ、聖堂長のおっさんよ。どうやらお前はアイシューの怒りの炎にガソリンを撒いちまったようだな。


「あれっ? あなたはひょっとして水の聖女様ではありませんか?」

 市民の一人がアイシューの存在に気付いたようだ。


「本当だ、聖女様だ! 聖女様はご無事だぞ!」

 また一人の市民が大声で叫ぶ。それを契機に代官所前に集まった市民からは大きな歓声が上がった。ここに集った人々は皆、安堵の表情を浮かべていた。ただ一人の人物を除いて。そう、代官だけは苦虫を噛み潰したような顔をしているのだ。そりゃそうだろう。お前とナカノ国の計画は失敗したのだから! アイシューはナカノ国に行ってねえんだよ!!!


「うおぉぉぉ、聖堂士アイシュー! 無事だったのですね!」

 聖堂長のおっさんが人混みをかき分け、アイシューに向かって駆け寄ってきた。


 アイシューの表情はと言うと…… うわっ、なんか汚い虫を見るような目で聖堂長を見てるよ……


「ウインドウォール」

「げふっ!」


 俺は聖堂長のおっさんがアイシューに近付かないよう、風魔法で壁を作った。さて、アイシューはと言うと…… ダメだ、怒りで体が震えている。プルプルしてるよ。皿の上に落とされたばかりのプリンみたいだ。うーむ…… 仕方がない。この場は俺がなんとかするか。


 女神様からのメッセージもあることだし、とりあえず、ここは平和的解決を目指しますか。あんまり実用性は感じられないんだけど、さっきもらった『話し合い』スキルも一応使ってみるかな。それにしてもこのスキルどうやって使うんだ? 常時発動してるのかな? オンオフの切り替え方法がわからないんだけど…… まあいいや。


「あー、聖堂長さん、ちょっと落ち着いて下さい。あなたの前に風魔法で壁を作っているので、前にはすすめませんよ」

「うるさい! お前は何者だ!」

 おい、ここは『む、無詠唱だと!』とか言って驚くとこだろ。まったく取り乱し過ぎだよ。お約束は守れよな。


「あー、俺は聖女様と一緒にコッキョーノ山脈からここまで来た者です。ここに来る前にですね——」

「お前、聖堂士アイシューに何をしたんだ!」


「いや、だから俺達はここに来る前に聖堂会に寄ってだな——」

「さては、お前、嫌がる聖堂士アイシューに、あんなことやこんなことを——」


「だから話を聞けよ。俺達はアンタの部屋で証拠をだな——」

「汚らわしい! その顔でよくもまあ、恥ずかしげもないもんだ!」


「……………………」

「おい、衛兵はいないのか! その破廉恥なブ男を捕まえてくれ!」


「ウッセーんだよ、テメー!!! 俺の顔は関係ネェだろ! 俺の両親に今すぐ謝りやがれ!!! くらえ、ウインドロープ!!!」


 俺は魔法でロープ状の風の流れを作り、そいつを聖堂長の体に巻きつけ上空に吊し上げてやった。あっ、いや、これは決して怒りに任せてやったことではない。そう、これは計算通りで…… チクショウ!なんだか女神様に負けたような気がして悔しい。


「ヒ、ヒエェェェー! た、助けてくれ! 降ろしてくれ!」

「心配するな。わざと落としたりしないよ。お前はそこで頭でも冷やしとけ。ついでにお前らもな」


 俺は代官と商会長も同様に、風魔法を使って上空に吊し上げた。

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