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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
②水の聖女アイシュー 編

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人生の教訓

 アイシューを仲間に加えた俺とミミーは、とりあえずコッキョーノ山脈を下山し、アイシューが住んでいるという聖堂会に向かうことにした。俺はアイシューとの関係を深めたいという気持ちから、風魔法を使い上空から一気に進むのではなく、お互いに話をしながらゆっくり徒歩で下山することを選んだのだった。


「私は今12歳なんだけど、8歳の頃に魔法の才能を認められて、それ以来ずっと聖堂会で暮らしてきたの。両親は私が10歳の時、流行り病にかかって亡くなっちゃったから、私に家族はいないの」


 淡々と俺達に自分の身の上を語るアイシュー。きっと俺達にいらぬ心配をさせないための気遣いなんだろう。でも少し、しんみりとした雰囲気になった。


「オウっ! オレっちも家族がいないから、おんなじだゾ! じゃあ、今日からオレっちとアイシューとオニーサンで、家族になればいいと思うゾ!」


 まったくミミーってヤツは、なんてスゴいヤツなんだろう。ココって時にコレ以外無いって言葉を、意図も簡単に口にするんだからな。実は、コイツ天使だったりして。今度、羽が生えてないか確認しておこう。


「そうだな。俺も父ちゃんと母ちゃんはアッチの世界にいてもう会えないから、ちょうどいいかも知れないな」

 こんなふうに、お互いの境遇を話したりしながら、俺たちは穏やかの雰囲気の中、聖堂会を目指して歩みを進めていた。


 実を言うと、俺はこのままこの街を出ても良いんじゃないかと言ったのだが、なんでもアイシューが言うには、女性には旅立つ前にいろいろと準備が必要なんだとか。さて、何の準備が必要なんだか。パンツとかなら新しいの買ってやるのに。本人に言うと怒りそうだから言わないけど。


 まあ、男の準備ならわからないでもない、と言うよりよくわかる。ハードディスクの中身の整理とか、一昔前ならベットの下にある書物の整理とか。ああ…… 俺が日本にいた時に使ってたあのパソコン。あのデータ、誰も見てないだろうな……


♢♢♢♢♢♢


 聖堂会に到着したが建物の中には誰もいなかった。というより、面倒くさいことにならないよう、誰もいないことを確認してから建物の中に入ったのだ。きっと今回の騒動で、他の聖堂士達も探索に駆り出されているんだろう。


「みんなの顔を見たら悲しくなるから……」

 だから誰にも会わない方がいい。アイシューはそう言っていた。そしてミミーを連れて、さっさと自分の部屋へと向かった。俺に部屋を見られるのは嫌なんだと。別に俺、子どもの部屋を見て欲情なんかしないぞ! まったく心外だ。


 そんなわけで、俺は今とても暇を持て余していた。じっとしてても退屈なんで、建物の中でもブラブラしてみますか。


 やはり聖職者達の住まいだけあって、質素な造りになっているな、なんて思っていたところ…… なんだかとてもゴージャスな扉があるぞ。扉の上には…… なんか書いてあるが読めない。俺、この世界の文字、読めないんだよな。文字は自動翻訳してくれないから。仕方ない、中に入って確かめてみよう。鍵がかかっているようなので風魔法で鍵を壊してみた。乱暴に見える? いや、これにはちゃんとした理由があるのだ。それは——


「やっぱり。ドアだけじゃなく、この部屋の中もめちゃくちゃ怪しいじゃないか」

 思わず独り言をつぶやく。


 どこの豪華ホテルなんだと思わせるような内観。キラキラと輝く装飾品の数々。荘厳な机の上には、何やら読みかけの手紙が置いてある。まったく不用心だな。ちゃんと戸締りしとけよ。あ、鍵壊したの俺か。


「もう! カイセイさんったら! 何処ほっつき歩いてるのよ、って、え! なんなの、この部屋」

 自分の部屋から戻ってきたアイシューが驚きの表情を浮かべている。


「おい、アイシュー。それはこっちの台詞だよ。なんだよこの金の匂いがプンプンする部屋」

「し、知らないわよ! 私だってここに入るの初めてなんだから! 聖堂長室には誰も入っちゃいけないって言われてたんだから!」


「ほう…… ここは聖堂長室なのか……」

「ムムっ! オニーサン、顔が怖いゾ……」


「いやぁ、この部屋を見る限り、ろくでもねえヤローの住処すみかなんだろうなと思ってな。聖職者だのなんだのと偉そうなこと言うヤツに限って、金に汚ねえんだよな」


「ちょ、ちょっとカイセイさん! 私はそんな人間じゃないからね! それから、ここでまた超級魔法とか使うの、絶対にダメだからね!」


 わかってるよ、まったく…… 一体俺を何だと思ってるんだか。今時の若者みたいに、すぐキレたりしないよ。あっ、若者ってところは別に否定しないが。


「何言ってんだよ、アイシュー。俺はとても冷静だ。宇治金時ぐらい、俺の頭の中はキンキンに冷えてるぞ。あー、また食べたいな、宇治金時。最後に食べたのいつだっけ? 小倉あんと白玉のマッチングがまた最高で…… って、あれ、なんの話だっけ? あっ、そうだ、手紙だ! 机の上に手紙があるだろ? なんて書いてあるんだ? 俺、異邦人だから、文字を読むの苦手なんだよ」


「もう! いくら部屋が怪しいからって、勝手に人の手紙を読むのは…… って、あれ? なんだか私のことが書いてあるみたい……」


 アイシューは手紙を読み始めた。読んでるじゃん、手紙。なんだかんだ言って。まあ、俺にとってはその方が都合がいいので一向に構わないが。


 手紙を読みふけるアイシューの表情が、次第に険しくなる。そして、手紙を読み終わるや否や、今度は机の引き出しや周囲の小物入れなどを猛烈なスピードで物色し始めた。新たに見つけた書類やらメモやらを読み漁っている。なんか…… ダンナの留守中に浮気の証拠を探し出そうとしているオクサンみたいだ……


 まあ、感情を押し殺した聖女様の姿より、よっぽど人間味溢れていると言えなくもないが…… でもやっぱり、正直ちょっとコワイぞ。俺は心のメモに『結婚したら絶対、奧さんに隠し事はしない』と書き込んだ。まさか、こんなところで人生の教訓を得ることになろうとは。


 そんな時、ふとミミーがつぶやいた。

「オニーサン、『うじきんとき』って、そんなに美味しいのカ?」

 うーむ…… そこがずっと気になっていたのか、ミミー。


 鬼気迫る様子のアイシューに声をかけられずにいた俺は、しばらくの間、宇治金時の苦さと甘さの繊細で優雅な調和について、また小倉あんと氷水の不可思議でありながら不可分なるめくるめく邂逅について、微に入り細に入りミミーに語りながら時間を過ごした。…………要するにすっごく暇だったのだ。もういいだろ、アイシュー? 早くしてくれよ。




 どのくらい時間が経っただろうか。やっとアイシューの手が止まり、『ふぅー』と大きく息を吐き出す様子が目に映った。やっと終わったか。もう宇治金時について語ることは何も無いぞ?


「あのー、アイシューさん。そろそろ宜しいでしょうか?」

「もう! 何よその物言い。私がすごく怖い人みたいじゃない」

 ええ、正直怖かったですもん。


「ふん、まあいいわ。おおよその流れはつかんだわ」


「それで? やっぱり聖堂長は代官とグルだったのか?」

「それがそうじゃないのよ」


「えっ? 金目当てに代官と共謀して、アイシューを隣国に売っぱらったんじゃないのか? そんでもって、アイシューが高値で売れたから、この部屋に金目のものがいっぱいあるのかなって思ってたんだが違うのか?」


「……もうちょっと人を思いやった表現というものが出来ないのかしら。イライラするわ……」


「……スミマセン。悪かったよ、機嫌直してくれよ……」

「ふん! 別に機嫌悪くなんてないわよ」


 うーむ…… 年頃の娘さんの扱いは難しい…… まあ、でも今はそんなことより——


「まあ、その話は置いておくとして…… それで? 一体何がわかったんだよ?」

「そうね、今はそんなこと言ってる場合じゃないわね。実は——」


 アイシューが語った内容は、俺が考えていたものよりも、もう少し複雑な内容であった。


 アイシューの話によると、まず、この街の行政の長であるマックロー代官が、隣国ナカノ国の領主と密約を交わし、アイシューを隣国に送り出すことにした。


「隣国の国境沿いの街に水害が起こったから援助に来て欲しいっていう嘘情報だろ? さっき善良な特殊工作部隊の連中が言ってたよな?」


「ええ。その情報をつかんだ聖堂長様…… いえ、聖堂長がその情報を悪用したのよ」


 情報をつかんだ聖堂長は、マックロー代官と対立関係にあるマミーレ商会長に密告。代官の悪巧みを逆手に取り、この機に乗じてこの両名は、更なる利益を得ようと画策した。


 しかし二人だけの力では、いかんせん力不足の感が否めないため、ミズーノの街に隣接する地域の領主であるヒトスジー伯爵家に相談を持ちかけたそうだ。ヒトスジー伯爵家はヒガシノ国有数の有力貴族である。


「おい、待てよアイシュー。ヒトスジー伯爵って、あの『マホウノ=ミチ・ヒトスジー』伯爵のことか?」


 前回のターンで、俺はこの人物の噂を聞いたことがある。自動翻訳機能さんの素晴らしい翻訳の通り、この人物はいわゆる魔法バカという類の人であったそうだ。ちょっと常人とは異なる思考の持ち主だという話だったが、政治的な野心も持ち合わせていたのだろうか? 俺の疑問をアイシューにぶつけてみた。


「もう! なんであなたはそんなことまで知ってるのよ。確かにマホウノ=ミチ・ヒトスジー伯爵は、地位や権力には無頓着な方だったそうよ。でもね、伯爵は1年ほど前にお亡くなりになったの。ご子息の後継者オノレノ=ミチ・ヒトスジー伯爵は…… あまり良い評判は聞かないわね」


 先代はすでに他界していたのか。

 あれ? ちょっと待て。前回のターンでは、対魔人族戦役が始まった頃の伯爵家当主は、マホウノ=ミチ・ヒトスジーの息子ではなく娘だったんだけど。

 まあ、今はその話ついては置いておこうか。とにかく、どうやら今回の件については、その評判の悪い息子の方が一枚噛んでいるらしい。



 アイシューが語るヤツらの計画について俺なりに整理してみた。先ず、商会長と聖堂長は代官の計画を黙認し、水の聖女をナカノ国領に向かわせる。次に聖女を奪還するためヒガシノ国の国軍をナカノ国に送り込み、どさくさに紛れて隣国兵との戦闘を開始する。聖女様奪還のための聖戦の始まりである。それにしても、商会長は大した役者だな。さっき大声で怒鳴り散らしてたのも、全部計算ずくだったんだ。


「ということは、グン・ジン=ダマシー将軍は、単に利用されただけってことになるのかな?」


「ええ、そう思うわ。少なくとも、この部屋にある資料からは、ダマシー将軍が積極的に悪事に関与している証拠は見つからなかったから」


 さて、話を続けよう。こと両国が開戦する事態に至っては、流石に頭の中がお花畑の聖女様でも代官達の陰謀に気付くだろう。しかし戦闘が始まっているのだから、聖女様もヒガシノ国の兵士達に協力して戦うしかない。人間最強兵器と呼ばれる水の聖女が参戦すれば負けるはずがない。と、こんな感じなるのかな、アイシューよ。


「誰の頭の中がお花畑ですって…… それから、私、人間最強兵器なんて呼ばれたこと一度もないんですけど? ひょっとして、あなたが持ってるというユニークスキルって、私をイライラさせることに特化しているのかしら?」


「笑顔が怖いぞ、アイシュー…… なんていうか、そう、言葉のアヤってヤツだ、たぶん。ああ、それから、人間最強兵器ってのは、俺が言ったんじゃなくて、ダマシー将軍が言ってたんだ! 女の子に向かってそんな言い方は無いよなって、俺も激しく抗議したい気持ちになったよ。嘘じゃないからな!」


「ふーん…… じゃあ、『頭お花畑』っていうのは、あなたのオリジナルなのね?」

「…………スミマセンでした」


「ムムムムム…… お話が長いゾ……」

「悪かった、ミミー。もう少しで終わるから。で、その後の聖堂長達の思惑についてまとめると——」


 ヒガシノ国軍の圧勝を確認した後、ヒトスジー伯爵領からも派兵し、ナカノ国側国境地帯を占領。この地域をヒガシノ国ヒトスジー伯爵領に編入する。商会長は占領地域の代官におさまり、聖堂長は占領地域に新しくできるであろう広大な聖堂会教区の責任者に就任する。大体こんな流れで合っているだろうか——


「そうね、『頭お花畑』以外は、概ね正しいと思うわ」

「悪かったよ、アイシュー。機嫌を直して——」


「ムムっ! なんかとってもメンドくさいゾ! 俺っちなら、ヨソの土地なんて欲しくないゾ!」

 ナイスだミミー! 話の流れを変えようぜ。今の俺にとってはアイシューの小言の方がメンドくさいぞ!


「それはね、ミミーちゃん。このミズーノの街はあんまり広くないのよ」

 よし! アイシューの意識がミミーに向いたようで何よりだ。


「カイセイさん…… 今、助かったとか思ったでしょう?」

「……ひょっとして、お前、精神魔法か何か使って、俺の心を読んだのか?」


「精神魔法なんてこの世界には存在しないでしょ。もう…… バカはほっときましょうね、ミミーちゃん」

 バカってなんだよ…… でもまあ、ずいぶんと心を開いてくれてきた様だな、俺は嬉しいよ。俺はそう思うことにするよ……


「話を続けるわよ? 悪い人達が乗っ取ろうとしてる場所は、とっても広くて豊かなの。野菜とか麦とかいっぱい採れるんだから! 牛や馬だっていっぱい飼えるのよ。だからお隣の国を乗っ取ると、とっても得をするの」


「オウゥゥゥー! アイシューはお話の天才だゾ! とっても良くわかったゾ! お隣の国を乗っ取ったら、ウハウハだゾ!」


「あのー、アイシューさん。心を入れ替えました私めからも、一つ質問させていただいてよろしいでしょうか?」


「もう、調子がいいわね、まったく。いいわよ、カイセイさん、何でも言ってみて。でも、カイセイさんにも知らないことがあるのね?」


「ああ。俺はヒガシノ国のことなら、そこそこ詳しいつもりなんだけど、ナカノ国のことはさっぱり知らないんだ」

 実際のところ、俺は前回のターンではナカノ国にはあまり行ったことがない。もっぱらヒガシノ国を中心に活動していたのだ。


「ヒトスジー家の連中達は、ナカノ国のどの辺りまで占領するつもりなんだ?」


「ナカノ国の東部には大きな侯爵領があるのよ。ヒガシノ国のミズーノの街とかヒトスジー伯爵領に、コッキョーノ山脈を挟んで接している領地ね。そこを丸々併合しようっていう算段のようだわ」


「ふーん。そんなに大きな侯爵領があったんだな。ちなみに、その侯爵家の名前はなんて言うんだ?」


「クローニン侯爵家よ」


 クローニン侯爵か…… それはちょっとマズいぞ。


 前回のターンの対魔人族戦において、後方からの人員や物資の補給を一手に引き受けていたのはこの人物である。この人の手腕は誠に見事であった。前線で滞りなく戦闘が進められたのは、まさにこの人の功績であると言っても過言ではない。実際、この人をよく知る者達は皆、声をそろえてその政治的・軍略的手腕を褒め称えていた。


 ただ、前線にいた俺はクローニン侯爵と直接会ったことはない。クローニンって、きっと『苦労人』ということなんだろう? 髪の毛が真っ白だったり、目の下にクマなんかがあったりするのかな? 実年齢より見た目がずっと老けてたりして、なんてことを想像していただけだ。


 まあ、どんな容姿をしているのか興味は尽きないが、とりあえずそれは置いておくとして。さて、これはとんでもなく厄介な人物が今回の一件に関係しているようだ。正直言って、こういうキレ者とは敵対したくないな……

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