インチキ魔導士誕生
「大魔導士様! 今回のご温情、このコヤクニーン、生涯忘れませんぞ! 」
えっ? あっ、そうだ。アイシューのことやら前回のターンのことなんかを考えてて、コヤクニーン達のこと、ちょっと忘れてたよ…… なんか申し訳ない。
「大魔導士なんて大袈裟だよ…… 俺なんてインチキ魔導士と言ったところが関の山だよ」
「ほう、『いんちき』とは…… 我々無知なる者には理解の及ばぬ言葉ですが、何やらみやびな響きの言葉ですな」
あれっ? ちょっと待って。この世界にはインチキって言葉が無いのか? いや、そもそもインチキっていう概念がないから翻訳出来ないのか? なんだかこの世界はとても平和な様だ。
「おおっ! 『いんちき』魔導士とは何と崇高な響きであろうか!」
「『いんちき』魔導士様! 俺たちもこのご恩、生涯忘れません!」
「俺、子どもが生まれたら、『いんちき』って名前にします!」
特殊工作員の皆さんが口々に叫び出す。やめろよ! 特に最後の人、絶対やっちゃダメだからな! あー、でもなんか訂正しにくい雰囲気だ。皆さんの幸せな気分に水を差す様な気がするよ。まあ、いいか。もう会うことも無いだろうから。
「あの峠を壊しちまったから、アンタらも真っ直ぐ国に戻れなくなっちゃたな…… 国境を越える他の道も近くにはなさそうだし。まっ、時間はかかるだろうが、どっか遠回りでもして、無事にナカノ国まで帰ってくれよ」
よし、これでいい。もう、これでいいことにしよう。
「「「「「「『いんちき』魔導士様、バンザーイ!!!」」」」」」
そう言いながら、コヤクニーンをはじめとする特殊工作員の皆さんは、とても素敵な笑顔を残して去って行った。
うーむ…… 感謝されてるのはわかるんだが…… なんだろ? 壮大な悪口を言われている様な気分になる……
「なんか俺が全部決めてしまったけど…… 聖女サマはこれでよかったのかな?」
賑やかな特殊工作員一行が去り、とりあえず静寂が訪れたことを確認してから、改めて俺は水の聖女アイシューに尋ねた。
「はい。私には何の不満もありません。むしろ、『いんちき』魔導士様の寛大な御処置に感謝しております」
「あのー…… そのインチキ魔導士って言うのやめない?」
「まあ、どうしてですか? 浅学の身の私にも、その言葉の意味はよくわかりませんが、何やら妙なる響きの言葉のように思いますが?」
「インチキが妙なる響きなのか……」
この世界の美的感覚がわからない。
「オウっ! オニーサンはオニーサンって呼べばいいゾ!」
おうっ、ナイスだぞミミー。
「いや、それはちょっと……」
ちょっとアイシューさん。それはないわー、みたいな顔をするのはやめていただきたい。俺はこれでもまだれっきとした若者なのだ。反論は認めないぞ。
「ムムっ! じゃあ、オジサン…… は、オニーサンがダメだって言ったから……」
ミミーがまた『ムムム……』と言いながら、頭を抱えてしゃがみこんだ。やっぱりこれ、とても癒されるな。
「わかった。普通にしよう。別に俺は、ポップでキャッチーなクールネームなど求めてないぞ。そうだよな、ミミー」
ミミーの『ムムム……』が、一層深まった……
「『ぽっぷ』が『きゃっち』で、それから…… ムムム……」
「…………ゴメン、ミミー。ミミーがあまりにも可愛かったもんで、つい……」
「あのー、お取り込みのところ申し訳ありません。お二人が仲良しなのはよくわかりましたから…… それで、結局何とお呼びすれば宜しいのでしょうか?」
「ああ、そうだったな。俺の名前は岸快晴って言うんだ。ちなみに異邦人って言うやつなんだけど、この世界の人間からは、カイセイと呼ばれることが多いんだ、だから——」
「げえええええっっっ!!! あなたは異邦人だったの!」
あっ、そこに反応するんだ…… それから…… ほんのちょっぴりだが、はしたないぞ、聖女サマ。 でもまあ、そっちの方が素の可愛らしさがあって、俺にとっては好ましいのだが。
「まあ、そうなんだけど…… その話は追い追いするとして、とりあえず、インチキ魔導士って呼ぶのはやめようか?」
「では…… 『カイセイ様』?」
「いや! 様はいらない。『カイセイ』! 堅苦しいのは無しにしよう。ついでに敬語もいらない」
「でも…… では『カイセイ殿』?」
呼び捨てにするのは抵抗があるようだ。それならいっそのこと……
「じゃあ、『お兄ちゃん』でどうだ!」
あっ、また、絶対ないわー、みたいな顔してる。アイシューさん、是非ともその顔、やめていただきたい。
「では…… 『カイセイ卿』?」
んっ? むしろ若干ランクアップしてる気がするぞ?
「じゃあ! 『カイセイさん』! これが精一杯の妥協点だ。これ以上、絶対譲歩しないからな!」
「ふっ、ふふふ…… あはははははは!!! もう、あなたって本当に面白い人ね! わかりました、いえ、わかったわ! カイセイさん、宜しくね! それから、私のことは聖女ではなく、アイシューって呼んでね」
「さん、は付けた方がいいかな?」
「いらない! ただのアイシューよ!」
あふれんばかりの笑顔で、アイシューはそう言った。それは今まで俺が見た中で、一番とびっきり素敵な笑顔だった。
さて、その後、アイシューの質問責めが始まった。『女神様には会ったの?』 『あなたの世界はどんなところなの?』『あなたには子どもが何人いるの?』………… 最後の質問は余計だ。子どもがいるのは確定なのかよ。
「なあ、アイシュー。異邦人が珍しいのはよくわかるんだけど…… 興味があるならまた改めていろいろ説明するから、まずは自分の今後について考えないか?」
アイシューはキョトンとした表情を浮かべている。
「何から説明すればいいか…… そうだ、さっき俺、超級魔法で峠をぶっ壊して、道を通れなくしただろ? 何やってんだコイツ?コノ常識知らずの無法者! とか思わなかったか?」
「うーん…… そこまでは思わなかったけど…… 本当はね、ちょっとやり過ぎかなって思ったかな」
「だろうな。実は峠を壊したのには、他にも理由があるんだよ」
俺はヒガシノ国のグン=ジン・ダマシー将軍が、聖女をダシにしてナカノ国に攻め込もうとしているのではないかという疑念を彼女に伝えた。国境に繋がる道を封鎖したから、しばらくはダマシーのおっさんが隣国に侵攻することはないだろう。
「オオオウっっっ!!! あのクッソでっかい頭のイカれた魔法を使ったのには、そんな理由があったのカ! でも、俺っちはオニーサンの弟子だから、オニーサンにシンエンなるケーリャクがあることは、とっくに見抜いていたゾ!」
「そうか、見抜かれていたのか。流石はミミーさんだ。さて、ミミーさん。俺はこれから話を進めたい。しばらく俺の話に静かに耳を傾けてもらえないだろうか?」
「オウっ! 俺っち、全力でカタムケるゾ!」
まったくミミーの言葉使いはとてもチグハグだ。クソとかイカれてるとか汚い言葉は、たぶん周りの冒険者達を真似たんだろう。一方、深淵とか計略とか小難しい言葉は、恐らくミミーの親代りだった、前任の係長が使ってたんだろう。年齢相応の言葉遣いをして欲しいものだ。
俺は気を取り直し、俺とミミーのやり取りを微笑んで見つめていたアイシューに向き直る。
「悪い、話が逸れた。それで…… これは俺たちがミズーノの街で見聞きしたことなんだが…… アイシューにとってあまり知りたくない話かも知れないけど、聞いてくれるか?」
「ええ。私も全力でカタムケるわ。ふふふ」
なんでだろう? はっきりとした根拠は無いが、今のアイシューなら、自分の身の回りの汚い大人達の話を聞いても、きっと大丈夫なような気がした。
「正直に言うと、街の有力者達が私を利用しようとしていることも、薄々感じていたの。私は何も出来なかったけれど…… 私が世間知らずの小娘であることはよくわかったから、真実を全て教えて欲しいの」
「そんなに自分を卑下する必要はないと思うんだけど…… まあ、とにかく俺の知ってることを全部話すよ」
俺は代官や商工会議所のヤツらの悪巧みや、現在国軍がこちらへ向かっていることなど、俺が知っている情報を余すところなくアイシューに伝えた。
さて、事実を知ったアイシューはというと……
「はあ……」
と、ひとつ大きくため息をついて——
「私はこの街にいない方がいいようね…… 前からわかっていたのよ。私がいると争いが起きるの…… 水の聖女なんて言われてるけど、本当のところ、私なんてただの厄介者なのよ」
アイシューの表情は切なげで…… なんだか見ているこちらも苦しくなる。
「おい、アイシュー…… 何もそんな言い方しなくても……」
「いいえ、事実なのよ…… 私なんて何処にも居場所が無いのよ」
「いや、そんなことは……」
俺が次の言い淀んだその時。
「行くとこが無いなら、オレっちとオニーサンと、一緒に来ればいいゾ!」
ミミーが笑顔を爆発させながら叫んだ。
「えっ?」
驚いた表情でミミーを見つめるアイシュー。
「オレっちみたいに、オニーサンの弟子になればいいゾ! オニーサンはお金持ちだから、弟子の一人や二人、養うことなんてナントモないゾ!」
うーむ…… 俺はミミーを養ってたのか?
「それから、オニーサンはこれからも前金持ち逃げでウハウハするから、お金の心配することないゾ!」
「言ってる意味がわかんねえよ…… それから前金持ち逃げなんてしねえよ……」
アイシューが不安そうに、その瞳を俺の方に向け直す。
「いいの…… かな?」
アイシューが震えるような声でつぶやいたその直後!
なんと!!!
アイシューの背後に
まばゆいばかりの白い光が発現したのだ!!!
俺は日本で不動明王の木像を見たことがあるが、木造の背後に炎がブワッと立ち上ってる、あんな感じの光——炎じゃなくて白い光なんだけど——がアイシューの背後に現れた。日本ではこういう聖なる光のことを『光背』というらしい。
さてこの『光背』について説明しなければならないだろう。女神様が我々転生者に与えた特典の一つに、『あなたにおススメ、パーティメンバー発見特典』というものがある。自分で言っててとても恥ずかしい。でも、これは俺が勝手に名付けたものではないのだ、信じて欲しい。これは前回のターンで女神様が言っていた言葉なのだ。
この『光背』が出現しているヤツをパーティに勧誘すると100%成功する。これは前回のターンで実証済みだ。発現の条件は、まず本人が俺のパーティに入りたいと思っていること。その他の条件については…… 俺もよくわからない。俺は単純に、女神様から見て『この人はおススメだ!』と思う人物を、俺に勧めてくれてるのかなと思っていたのだが。
ただ、俺は前回のターンでアイシューと出会っている。しかし、前回のターンではアイシューに『光背』は見られなかったのだ。前回と今回では、女神様がパーティメンバーに求める条件が違うのか? それとも、女神様がその日の気分によって決めているのだろうか? いや、なんかちょっとそんな気がしてきたぞ。
でも、まあ…… いずれにせよ——
「女神様のお導きってことだよな」
「えっ?」
俺の予想外の言葉を耳にし、戸惑うアイシュー。いや、きっと俺の方がもっと戸惑っていると思う。
結局のところ、俺にも今の状況がよくわからない。しかし、しかしだ! 『光背』云々についてはよくわからないが、俺が今、言うべき言葉ははっきりとわかる! そう、『光背』があろうがなかろうが、今の俺には関係ないのだ!!!
「アイシュー。もし嫌じゃなかったら、俺たちと一緒に来ないか!?」
俺は強い意志を込めた言葉をアイシューに贈った。
「……一緒に行っても良いの?」
「ああ、もちろんだ。別に俺の弟子になる必要はないさ。俺とミミーはしばらく冒険者稼業を営むつもりなんだ。だから俺たちのパーティにメンバーとして加わらないか?」
「パーティのメンバーって…… カイセイさん、とっても強いんだから、私なんかがいてもいなくても……」
「そんなことはないぞ。大勢の敵に囲まれたら、流石に俺一人だけじゃ危ないからな。その点、実力者のアイシューなら、背中を預けても安心できる」
「それは嘘………… いいえ、そうですね、わかりました。ありがとうございます! 是非、私を連れて行って下さい。よろしくお願いします!」
「オウっ! オレっちに、デデーンと任せておけばいいゾ!」
「頼もしいな、ミミー。俺も嬉しいよ。なんせ、ミミーだけ連れて歩いてると、なんだか人さらいだと思われそうだからな」
それに旅の商人から聞いた、良からぬ噂もあるからな…… チッ。
「ムムっ! 俺っち、そんなに子どもっぽくないゾ!」
「ふふふ。本当にあなた達は仲良しね。私もそんなふうになれるのかな?」
「「すぐになれるさ(ゾ)」!!!」




