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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
②水の聖女アイシュー 編

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アイシューという名前の少女

「おい、大丈夫かよ…… 別にお前を殺すつもりなんて、これっぽっちも無いんだぞ? かと言って、お前にやられてやるわけにもいかないし。さて、どうしたもんかな」


 俺は派手にふっ飛んだコヤクニーンを眺める。さて、コイツらの処遇をどうすれば良いのやら。


「あのー、お困りのようですね。何なら私が騙されたフリをしてナカノ国に行きましょうか?」

 心配顔のアイシューが俺に語りかける。


「いやいや、それはダメだよ。だって君、向こうの国に着いたら何されるかわからないよ?」

 最悪の場合、ナカノ国の戦力に組み込まれてしまうことだってあるだろう。それは絶対にダメだ。


「うーん…… そうですね。はあ…… 私ってやっぱり世間知らずのお嬢さんなんですね……」

「いやいや、そんなことないよ、うん。あれだっ、そのー、それはきっと、君の心が澄んでる証拠だよきっと、うんうん」

 

 何言ってんだ、俺? 弱気な後輩を慰める部活の先輩かよ? あー、なんか話がメチャクチャになってきたぞ。そんなことを思っていると——


「「「「「うわーーーん」」」」」」


 なんだ? 特殊工作部隊の人達が泣いてるぞ。『全特殊工作部隊が泣いた』みたいになってるぞ?


「ウッウッ、ズまねえ、おデたちのダめにぃぃぃーー」

 コヤクニーンが泣きながら、俺に向かって謝罪している。


「おい、泣くことはないだろう……」

「いや、もういいんだ…… 俺たちはこんないい人達に迷惑をかけたんだ。自業自得だよ。俺たちはこのまま国に帰るよ。なに、いざとなったら家族を連れて国外にでも逃げてやるさ。お前らもそれでいいよな?」


「「「「「おーーーー!!!」」」

 あっ、さっきまで寒さで震えてた人達が元気になった。


「うーん、そう言ってもらえるとありがたいんだが、なんか後味が悪いなぁ…… なあ、ミミー。なんか良いアイデアはないか?」

「ムムっ! そんなの簡単だゾ。オニーサンが魔法で、ナカノ国の偉い人をブッ飛ばせばいいゾ」


「……むむっ、ミミーお前、時々恐ろしいことを言うぞ」

 でも…… ブッ飛ばすか…… 待てよ!


「そうだよ! 偉い人をブッ飛ばすのはちょっとはばかられるが、山をブッ飛ばすぐらいなら出来るぞ!」


「……オニーサン、人の話はちゃんと聞かないといけないゾ?」

「ちゃんと聞いてるよ! 憐れな人を見るような目で俺を見るなよ! おい! 聖女様も特殊工作部隊の皆さんもなんて顔してんだよ!!!」


 憐れみを含んだ顔で、コヤクニーンがつぶやく。

「山をブッ飛ばすって…… これから馬車でも用意して、峠辺りで高速ドリフトでもキメるのかよ?」

「そういう意味じゃねえよ! 俺は走り屋じゃねえし。 もういいよ、見てろよ!」


 チクショウ…… オマエらよく見てろよ。そうだなぁ…… あの国境越えの峠辺りがいいな。


「まず始めに言っておく。俺は……特殊な能力、広域索敵能力を持っている。あの峠の周囲に人はいない。間違いない。絶対だ」

 俺は周囲の人間に伝えるため、出来るだけ大きな声で話し始める。そして——


「次に、魔法陣を用意する。ほら、俺の指先にあるの、わかるだろ? 中級以下の魔法の場合、この魔法陣は指先とか、魔法用の杖の先とか、いずれにせよ動かすことが出来ないんだが——」

 具体的に実演しつつ、俺は更に続ける。


「上級以上の魔法になると、ほら、こんなふうに動かすことが出来るんだ」

 俺はそう言いながら、自分で作った魔法陣を峠の方角に向け移動させる。


「えええっ!!! これってもしかして上級魔法なの!? 知識としては知ってたけど…… 実際に使える人を見るのは初めてよ!」

 アイシューが驚きの声を上げる。


「まあ待て。上級魔法ではあまり魔法陣は大きく出来ないんだが、超級魔法になると——」

 峠の上空に移動させた魔法陣を巨大化させる。


「えええええっっっ!!! 魔法陣が大きくなってる…… ここからでも見えるわ!」


「で、最後に…… 地面に向かって超級火魔法をブッ放す!!!!!!」


 上空から無数の火柱が峠目掛けて降り注ぐ。その様はまさに地獄絵図。もしこの付近に生命体がいたならば、まず生存の望みは無いだろう。


 驚いたアイシューが大声で叫ぶ。

「ちょ! あなた何してるんですか!? わっ、地揺れが起こってますよ!」

「あっ、ホントだ。ちょっとした地震みたいだな」


「もう! 落ち着いてる場合じゃないですよ! あっ、 峠の方から落石が!!!」

「ウインドカッター 乱れ撃ち」

 俺は風魔法を使い、転がり落ちてくる岩石を全て打ち砕いた。


「これ、ウインドカッターって名付けた中級風魔法なんだ。超級魔法は派手でカッコイイけど、さっきみたいに使うといろいろ弊害が出るんだよね。その点、中級魔法は見た目地味だけど、結構使い勝手が良いだろう?」


「あの…… その説明みたいなくだりは、ひょっとして…… ひょっとしてですが、私に向けてお話しされているのでしょうか?」

 困惑した表情でアイシューが答える。


「ん? いやさあ、さっき風魔法とか無詠唱とかに興味がありそうだったから。あっ、それからさっき『ウインドカッター』とか、ちょっと恥ずかしそうにつぶやいたアレ。アレは詠唱じゃなくて、パーティメンバーにどんな魔法を使うか伝えるためで——」


「いえいえいえいえ、十分です! はい、もう十分です! お腹いっぱいです。もう入りませんから!!!」


 あれ? 俺、ちょっとやり過ぎたんだろうか? さっき昔のことを思い出したんで、つい勢いでやってしまったのだが…… まあいいや。俺は気を取り直して、今度はコヤクニーン達に向かって語りかけた。


「これで国境の道が通れなくなっただろ? アンタ達は原因不明の自然災害発生のため、やむなく任務遂行が困難になったってことだ」


「そっ、それはどういう意味…… でしょうか?」

 あれ? コヤクニーンのヤツ、なんで敬語になってんの? やっぱり俺、ちょっとやり過ぎたんだろうか?


「いや、だからさあ、道が通れなくなったんだから、聖女様を連れて帰るとか、そんなこと言ってる場合じゃないだろ? 手ぶらで帰っても、多分おとがめはないと思うんだけど……」


「まさか…… あなた様は我々の身の上を案じてこの様なことをされたと?」

 感動に身を打ち震わすコヤクニーン。


「……そんな『なんて良い人なんだ』みたいな目で見ないでくれよ…… あのー、なんかちょっと恥ずかしいデス…… ハイ……」


「ムムっ! オニーサンは実際、ホントに、ダンゼン良い人だゾ!」

「……ありがとな、ミミー。なんでだろ? ミミーにそう言われると、なんだかとっても嬉しいな」


「オウっ! オニーサンはお金で人を買収したり、前金をふんだくってウハウハしようとしたりするけど、オニーサンはやっぱり良い人だゾ!」

「……ミミーさん。それは言わない約束だろ」


「もう、あなた達って…… とても仲良しなんですね。なんだか羨ましいな」

 そう言って、アイシューは微笑みながら俺とミミーを見つめた。なんだ、アイシューもそんな顔するんだな。前回のターンも含めて、俺はアイシューの笑顔を初めて見た気がする。



 前回のターンで俺がアイシューと出会ったのは、魔人族との戦闘が本格化した頃だから…… 俺がこの世界に来て3年ほど過ぎたあたりだった。アイシューの姿は、日本でいうなら高校生ぐらいの年齢に見えた。


 真面目で責任感の強いこの少女はいつも冷静だった。戦場では常に先頭に立ち、人間族の同胞を鼓舞しながら戦い続けていた。鉄の意志を持つ少女だと思っていた。


 そんなある日、俺は所用があり自分の部隊から離れた際、アイシューが一人、人目につかない場所で慟哭している姿を目にしたのだ。俺はその時…… 声をかけることが出来なかった。自動翻訳機能がこの少女に『哀愁』という名前を割り振った理由を、俺はその時初めて理解した。溢れんばかりの悲しみをその小さな胸の中に抱えながら、それでも自分の役割を全うしようと真摯に励んでいた少女を前にした俺は…… 何も出来なかったのだ……


 そんな昔のことを思い出しながら、改めて俺は目の前にいるアイシューを見つめる。本当に素敵な笑顔だと思った。

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