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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
②水の聖女アイシュー 編

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特殊工作部隊長コヤクニーン

「でも、悪い人達には見えないのですが…… 小さな女の子もいるようですし」

 水の聖女アイシューが、茂みの中から出てきた怪しげな男に話しかけている。


「いいえ! 人を見かけで判断してはなりません! 」

 誰だコイツ? 一応ユニークスキル『人物鑑定』を使ってみるか。


 氏名 コヤクニーン

 種族 人間族

 Lv 22


 コイツがこの集団の親玉ってところかな。まあ、人間族でLv22って言えばそこそこ強い部類に入るが、俺やミミーの敵ではない。


「おいおい…… アンタこそ何者なんだよ」

 俺の問いかけに対しコヤクニーンが答える。


「……ワシはナカノ国に住む、ごく一般的な農民じゃ」


 何だその明らかに怪しい挨拶? 名前から察するに、『小役人』、つまり下っ端の公務員ってことじゃないか? よし、ちょっとカマをかけてみるか。レベル22なら街の衛兵ってよりは国軍の兵士ぐらいかな。人間族はレベル20前後の『強者』は、国軍の部隊長クラスに任命されることが多い。


「おや? よく見たらアンタ、コヤクニーンじゃないか? アンタ確かナカノ国の国軍にいたんじゃなかったか? 俺だよ俺! いやぁ、久し振りだなぁ」

 異世界にもオレオレ詐偽ってあるのかな?


「アワワワ、な、何故俺の名前を! 俺、いや私? 違う! ワシはただの善良な農民だ…… 農民じゃ! お前の知っているコヤクニーンとは別人だ!」


 ビンゴ! それにしてもコイツ——

「……慌てすぎにも程があるだろ。さあ、聖女様。あなたはどちらが怪しいと思いますか?」


「コヤクニーンさん。あなたはナカノ国の国境沿いにある村の村長さんではなかったのですか? あなたの村が水害に見舞われて、どうしても治水工事が必要になったのでは? そのために、私に来村を依頼されたのではなかったのですか?」


「はいっ! まったくもってその通り…… ですじゃ! 間違い御座いませぬゆえ……はい。ワタ…… ワシらの村を助けていただきたいので…… ござりまするのじゃ?」


「アッハッハッハッーーー!!! このオジサン爆笑だゾぉ! なんかワタワタ言ってるゾぉ!」


「プッ、まあ、ミミーよ、クスクス…… そう笑ってやるな…… プププッ このおじさんも一生懸命演技してるんだから、クックックッ……」


「プッ、でもオニーサンも笑ってるゾ! あああっ、聖女サンも笑ってるゾ!!!」


 ミミーに言われて聖女アイシューを見てみると——

「プッ………… コホン。私は……ププッ………… クククッ、笑ってなど………… おりゅいません…… クックック」


「いや、顔真っ赤にして笑うの耐えてるじゃないか。 あっ、今、右手で左手の甲つねっただろ! ずるいぞ!」

 ……思わずツッコんでしまった。


「あああああああーーーーーー!!! うっせーんだよお前らぁぁぁーーー! 誰がおじさんだって? 俺はまだ若いんだよ! 人のことバカにしやがって!!! ああ、そうだよ! 所詮、俺にはこんな任務向いてねえんだよ、悪かったな!!!」


「コヤクニーン様! 何を言ってるんですか!」

「ちょっと、冷静になって下さいよ!」

「そうです、ここは穏便に……」

 コヤクニーンの背後に広がる茂みの中から声が聞こえる。こんな使えない上司を持つと大変だな。ちょっと同情するよ。


「ウッセイやい! ここまで来たら、ナカノ国まではもう少しだ! この礼儀知らずのおっさんとチビをぶっ倒せ! そんで世間知らずの嬢ちゃんをさらって逃げるぞ!」


「誰がおっさんだ!」

「誰だチビだゾ!」

「誰が世間知らずですか!」

 あっ、なんか今、俺たち3人の心が一つになったような気がする。


「いいか、お前ら! いくら聖女が強いからって、こっちは6人いるんだ。サッサと囲んじまえ! 聖女には後ろから攻撃だ!」


「お二人とも逃げて下さい! ここは私が——」

「大丈夫だ。『スノーシャワー』!」

 俺はコヤクニーンの背後の茂みに向かって、中級水魔法スノーシャワー(命名はやはり俺)を発動させる。中級魔法はいわゆる広域魔法というやつで、今の状況のように複数の敵が遮蔽物の中に潜んでいる場面には、特にその効果を発揮するのである。


 要は、雪を広範囲にぶち撒いて、敵の体温を奪い戦闘不能にする優れ技だ。炎で森を焼いたり風で木をなぎ倒したりしないので、とても環境に優しい魔法でもある。そう、俺は環境にも配慮できる男なのだ。


 ちなみに、今更言うのもどうかと思うが、俺って火、水、風、全ての属性魔法が使える上に、初級から、中級、上級、超級に至る全ての等級魔法が使えるのだ。もちろん白魔法も使えるし、黒魔法は魔道具さえあればそこそこ使いこなすことが出来る。魔法の詠唱を省略することも可能だ。


 これだけ言うと、チッ、なんだよそのチート、アリエねーなどと思われるかも知れない。もちろん俺も元からこんなに強かったわけではないのだ。前回のターンの後半戦、超強敵魔人族との防衛戦や侵攻戦等を通して一気に経験値を獲得することになり、レベルや使える魔法の等級も爆上がりしたのだ。


 だから、前回のターンで共に戦った転生者や人間族の魔導士の中には、俺より強い者も大勢いた。特に転生者に限って言うなら、俺はあまり強い部類には入っていなかったように思う。なにせ俺の保有するユニークスキルは『広域索敵』と『人物鑑定』だからな。



 さて、昔話はこのぐらいにして、今は目の前の状況に集中だな。


「おいっ、お前ら早く出てこい! 出てこないと凍え死ぬぞ!」

 コヤクニーンが叫ぶ。しかしもう遅い。


「お、お助けを……」

「寒い…… 何か温かいものを……」

「バナナで釘が打てそうだ……」

 

 茂みに潜んでいた、たぶんナカノ国の兵士であろうと思われる5人が、ガタガタと震えながら姿を現した。全員両手を上げている。降伏のゼスチャーは日本でもこの世界でも同じなのだ。ちなみに、俺はバナナで釘が打てるほどの冷気を撒き散らすような外道ではないことだけは声を大にして言いたい。


「おいっ、お前ら! なんだ情けない! お前らそれでも選ばれしナカノ国特殊工作部隊の精鋭か!」

 コヤクニーンが声を荒げる。


「……特殊工作部隊だったんだ。まあ、そんな感じだろうとは思ってたけど。アッサリ白状してどうすんだよ、まったく。やっぱりアンタこういう隠密みたいな仕事向いてないよ。あっ、別にアンタを非難してるんじゃないんだよ? そうだ、人事の奴らが悪いんだよ、きっと。軍人だって公務員なんだろ? なら、国に帰ったら異動願い出したらどうだ? アンタきっと嘘がつけない誠実な人なんだよ、うんうん」


「ぐぬぬぬ…… 同情してんじゃねえよ!!! なんだよ、テメーは俺の親友か? チクショー、なんで俺、相談に乗ってもらってるような気分になってんだよ!!!」


「まあ、とにかく。ここは穏便にこのまま国に帰れよ」

「ウッセイんだよ! 国には家族がいるんだ。俺が任務に失敗して帰ったら、家族に迷惑がかかるんだ! このまま何もせず国に帰れるかよ!!!」


「……なんかこの世界の公務員って大変だな。日本の公務員にも教えてやりたいよ」

「チクショー! 勝てないまでも一矢報いて死んでやる!」

 そう叫ぶと、コヤクニーンは隠し持っていた短剣を手に、俺に向かって突進してきた。


「ウインドウォール、本日2回目」

 俺は勢いよく突っ込んで来たコヤクニーンの前に、風魔法で壁を作った。


「ごぶっ!!!」

 あーあ、コヤクニーンのヤツ、派手にぶつかって吹っ飛んじまったよ。大丈夫か?

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