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虫ガール!  作者: 鈴ノ音鈴
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しょうかじあい

 「日夏ちゃん。この人達と知り合いなの?」

 「知り合いっていうより……他人に近いけどね……」


 

 日夏ちゃんがそう言うと、中心にいる男の子がフッと鼻で笑う。



 「やっぱり俺は日夏の眼中にも無い訳か……。その余裕、今日の決闘で消し去ってやる!」



 鼻に絆創膏を張り、いかにも少年という雰囲気を漂わせている。それより、菜の花如きで決闘って……。



 それよりも、日夏ちゃんが凄くめんどくさそうな表情をしている!? 笑顔以外に顔を変えることがあるとは……。



 「そういう意味じゃないんだけど……はぁ、めんどくさいから早くやろうよ……」

 「えぇ!? 決闘なんてしたら危ないよ!」



 因みに、決闘は法律で禁止されている。そんなことしたら警察のお世話になっちゃう!


 

 バチバチと火花を散らして睨めあっている二人の間に、私は「ストップ! ストップ!」と言いながら介入する。



 「お? なんだお前?」



 首を突っ込んでほしくなかったのか、その男の子は私に向けてガンを飛ばす。まだ幼いのにも関わらず、その厳つい目は大人さえも怖がらせてしまいそうだった。



 蛇に睨まれた蛙の様にビクビク震えていると、私の前に日夏ちゃんが庇うように立ち塞がった。



 「あー。この子は蜜花ちゃん。私の友達だよ」

 「日夏の友達か……遊ぶ時間を奪って悪いな。でもな、こいつとの因縁の対決を制さなきゃ腹の虫が治まらないんだ。少しだけでも時間をもらっていいか?」

 


 あれ? 目つきが怖いから性格も同じ様な感じと思ったら……結構気遣いできている……? 



 これがギャップとかいうやつなのかな? 違うかな?



 「直ぐに終わらすからいいよ。蜜花ちゃん、少しだけ待っててね」



 日夏ちゃんは声色を優しくして、私に笑顔を見せる。



 「う……うん」

 「そんじゃ、今日の決闘内容は『テントウムシを先に飛ばした方が勝ち』だ!」 



 あ、決闘ってそういう感じなのね。一安心……。



 体全体に入っていた力が、スーッと抜けていく気がした。



 「テントウムシって言っても……私、捕まえるためにここに来たんだから持ってないよ?」

 「ならそこから好きな奴を選べ! その代わり、負けたら元の場所に返せよ?」

 「分かってるー」



 日夏ちゃんは菜の花の茂みに手を突っ込み、テントウムシを探す。その様子を見ていると、男の子の友達二人が謙遜しながら私に声をかけてきた。



 「ごめんねぇ。あいつ、いつもあんな感じなんだよ。悪い奴ではないから大目に見てくれ……」

 「言い出すと止まらないんだよねぇ……。あいつに変わって謝るよ。ごめん……」



 あの子は血が盛んな子供みたいなのに、友達の方は大人っぽい。案外バランスがとれてるなぁ。



 「いや! 別に平気だって! それより、なんであの子はあんなに対抗心を燃やしているの?」

 「簡単な話だよ。五十四勝負中、五十四連敗だからね。いい加減勝ちたいんでしょ」



 それだけであんなに対抗心を燃やしているのか……。それよりも、五十四連勝している日夏ちゃんは強いなぁ。あの子が弱いだけかもしれないけど……。



 話している内に、日夏ちゃんはテントウムシを選び終えたようで、菜の花から手を取り出した。



 日夏ちゃんの指先には、黒い水玉模様の赤色の虫がつまんであった。あれがテントウムシっていう虫だろう。



 「ほいっ! 見つけたから始めよう」

 「まず、自分のテントウムシをこの木片に乗っける。そしたらテントウムシを飛ばす! これだけだぁ!」

 


 意外に簡単そうではあるけど……テントウムシが飛ぶなんて完全にテントウムシ次第だし、実力勝負ではないのでは?



 不公平な勝負内容なので、日夏ちゃんは納得しないと思ったが、決して首を横に振らず、それどころか不敵な笑みを浮かべた。



 「……分かった。それじゃあ始めよ」

 「ふっ! 俺のテントウムシに敵う奴はいない! よしお前ら! 試合開始のゴングを鳴らせ!」

 「はいはい。呼び鈴をゴングっていう癖は止めましょうね。それでは……よーーい……」



 『スタート!』



 ゴング……ではなく呼び鈴を鳴らしたと同時に、二人はテントウムシを飛ばすための行動を開始する。



 結果が既に見えているのか、男の子の友達二人は全く興味を示していなかった。



 そんなことも気にしないで、男の子は一生懸命木片にチョコンと乗っかっているテントウムシを飛ばそうと声を掛ける。



 「頑張れぇぇぇぇ! 俺のテントウムシぃぃぃぃぃ!」

 「…………」



 一方日夏ちゃんは、私と話しているときよりも冷静沈着な雰囲気であった。いつもと違う一面だったので、少しだけカッコよく感じた。



 全くテントウムシに声をかけていない日夏ちゃんに向かって、男の子は勝ちを確信した表情で笑った。



 「ふははははは! なんだ日夏! 木片を空に掲げたとしてもテントウムシが飛ぶかどうかは気分次……」



 男の子の言葉が途中で途切れた。それもそのはず。日夏ちゃんが掲げた木片からテントウムシが、空の彼方にある太陽へと飛んでいったからである。



 日夏ちゃんを見ると、木片を太陽にかざしていた。その姿はまるで女神のようだった。



 「ええええええええええええええええ!? なんでだ!? なんでそんなあっさりテントウムシが飛んだんだ!?」



 男の子が目の玉を飛び出す勢いで驚くと、日夏ちゃんは淡々とその原理を説明し始めた。



 「テントウムシは光に向かっていく走光性であり、鞘翅(さやばね)前翅(まえばね)の下に折り畳み式の後翅(うしろばね)が収まっていて、地上では障害物が多すぎて充分に開けないから、こんな感じで木片の先を上げたら飛んでいくんだよ?」

 「そ、そうこうせい……? まえばね……うしろばね……。ああああああ!! わかんねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



 そうか。男の子が勝てない理由は、日夏ちゃんと違って虫についての『知識』の無さ。日夏ちゃんはテントウムシの知識をしっかりと使ったから簡単に飛ばせたんだ。



 結局、男の子のテントウムシは木片から一歩も動かず、その場でチョコンと佇んでいただけだった。



 放心状態の男の子には目もくれず、日夏ちゃんは飛んでいったテントウムシの着地地点まで走っていった。



 その地点に到着すると同時に、テントウムシが空から下降してきたので、日夏ちゃんは優しくテントウムシをキャッチした。



 「はい。五十五連勝目。そんじゃあテントウムシもらっていくよ。大事に育てるから心配はいらないよぉ~」

 「くっっっっっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 泣きわめく男の子を眼中にもとどめない日夏ちゃんは、捕まえたテントウムシをしっかりとかごに入れ、私の手を引っ張ってその場から立ち去ったのであった。



 

 

 


 

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