リズと青い鳥 感想
どうも。ごきげんよう。お久しぶりでございます。初めましての方もいらっしゃるかもしれないです。まぁなんでもいいです。
以下の文章は、リズと青い鳥を二回観た人間の感想文になります。エッセイですらないです。
本来はブログとかでやるべき事なんでしょうけれど、あいにく持っていないもので、新たに開設するのも面倒くさいからまぁこっちでいいかって感じです。駄目だったらごめんなさい。削除するんで言ってください。
ちなみに小説に関してはこの一年くらいシコシコとプロット作成しては投げ捨てる作業を繰り返していて、河原で石を積んでいる気分になってました。最近プロットがちょっと固まって下書き始めたところなんで、このまま面白そうだなぁと思えば頑張ってたくさん書いて投稿していこうと思ってます。大抵、本文書き始めると「は? おもんな。なにこれ」ってなって心が折れるので、そうならないことを祈ってます。
はい、ということで、以下ネタバレありの感想文になってます。映画未見の方は三万回見てからまた来てください。
※あらかじめ予防線を張っておきますが、二回観ただけなのでいろいろ記憶違い、勘違い等あるかもしれません。登場人物のセリフなどもうろ覚えで引用していますので、一字一句同じとはいきません。また原作も一巻しか読んでいません。なので解釈違いや、想像によって塗り固められたトンデモ理論が含まれているかもしれません。そういった部分を見つけられた際は、ご指摘いただけると助かります。
~~~~~~~~~~~~~~~以下ネタバレ~~~~~~~~~~~~~~~~~
●希美とみぞれの物語と『リズと青い鳥』の対比
私が本作において最も気になったのは、みぞれが圧巻の演奏をするシーンが、リズと青い鳥の童話内においてどの位置に属するか、という点でした。
一回目鑑賞後は、あのシーンは少女が青い鳥へと戻り、リズの元から飛び立ったシーンだと思いました。
なぜならば、以前に希美が二人の少女について『飛び立った鳥も帰ってくれば良いのに』というようなことを言っていたからです。
個人的にこのセリフがものすごく印象に残っていて、きっとこれが物語において重要な要素になっているだろうという前提を立てて鑑賞していました。
このセリフに則って物語を考えてみると、演奏シーンでみぞれが希美の元から飛び立つ。希美はそれを涙で見送る。そしてその後、孤独になった希美の元へ、みぞれが戻ってくる。
そこで起きた互いの感情のぶつけ合いは、童話では描かれなかった、ほかならぬ彼女ら自身の物語だったのです。
という感じで考えていたのですが、二回目をそのつもりで見たら、ちょっとこの解釈は無理があるなと感じました。
何が問題かと言うと、みぞれの圧巻の演奏シーンを青い鳥が飛び立つシーンに当てはめると、その前、リズと少女が感情をぶつけ合い、リズが扉を開けるシーンが存在しないのです。
ということで、以下、時系列を整理しながら、二つの世界を見比べていきます。
●転換点
まず、希美にとってターンポイントとなるのが、久美子と麗奈の演奏です。
作中でコメントされていた「『じゃ、元気でな』って感じの演奏だったね」という感想通り、力強く爽やかな別れが疑似的に描かれます。
二人の演奏を受けて、希美は、本当に音大を受けたいのか自問自答。やがて、自分は青い鳥ではなくリズであって、翼を持つみぞれをかごの中に閉じ込めてしまっていたのだという事に気づきます。
何故気づいたのかというのは明示されていないので何とも言えないのですが、一つに、麗奈という『本気でプロを目指す強い意志を持ち』『才能にあふれた』『自分とは距離の遠い』人を見たことで、自分が音大に行く器ではないことを認めることができたのかもしれないなとは感じました。特に重要なのが三つ目で、希美にとってみぞれは距離が近すぎる上、基本自分がマウントを取っていた立場だったため、自分の方が劣っているという事を認めるのが難しかったのでしょう。
あと、想像ですが、このシーンでは彼女の中での『別れ』に対するハードルが下がったのではないかな、と思います。しんみりとしたものではなく、明るい別れ。『帰ってくればいいじゃん』『物語はハッピーエンドが良いよ』というかつての自身の言葉を思い出したのかもしれません。
一方みぞれはというと、久美子と麗奈の演奏に気づき、窓を少し開けるも、逡巡の後、再び閉めてしまいます。これは、希美と別れることを拒絶する心情の現れでしょう。
みぞれにとっての変化のきっかけは、その後。新山先生との会話の中にありました。
リズ視点での物語が理解できないというみぞれに対し、先生は青い鳥の視点から見たらどうかと問いかけます。
すると、「飛び立つ。リズが言うなら、飛び立つしかない」「幸せかどうかはわからないけれど、リズには幸せになってもらいたいと思っている」と、するする言葉が出てきます。
青い鳥の気持ちがすんなりと理解できた彼女は、自身がリズではなく青い鳥であったことに気づきました。
そして物語を結末まで知っているみぞれは、自分は希美の元を飛び立つべきなのだと、考えます。
その決心が現れたのが、全体練習で、「第三楽章を通しでやりたいです」と意思表示をした場面です。
もしも仮に彼女は何も決意しておらず、『この第三楽章をどう吹けば良いのか理解できて嬉しい』という高揚感だけを持っていたのならば、このセリフは出てきません。
希美に、自分が大空を飛べるのだという事を見せるための、覚悟のこもった言葉です。
●演奏の意味
二人が自分の立ち位置を自覚した後に演奏が入りますが、一つだけ念頭に置いておかなければならないことがあります。それは、互いに、相手が自分の立ち位置を理解したことを知らない点です。当たり前のようですが、希美は「自分はリズだった。でもみぞれがどう考えているかはわからない」と思っていますし、みぞれも同様です。
さて、演奏が始まり、ソロパート。ここにきて、みぞれが圧倒的な演奏を見せます。このパートはそれ以前の二人のソロパートと比べてみると、みぞれがいかにのびのびと演奏しているかが見て取れて、とても感動しました。それは音もそうなのですが、二人の身体の動きに注目するともっとわかりやすいです。
バンドのライブとか見ると、なんかやたらと身体全体でリズムを取っていたり、とにかく身体を動かしながら演奏している人って多いですよね。あれって、結局、音楽を楽しんでいる、感情のままに奏でているという事だと思うんです。自分は楽器はやらないですけど、カラオケとかで楽しくなると結構身体を動かしますし。
それはともかく、以前は、希美が身体をゆらゆら揺らしながら演奏していたのに対し、みぞれは微動だにせず、じっと演奏していました。
それがこの場面では、対照的に、希美がじっと演奏しているのに対し、みぞれは身体を揺らしながら演奏しています。
みぞれが、感情をしっかりと乗せて演奏し、希美がそれに圧倒されているのです。このシーンは、見ていて本当に驚きました。
ともあれ、この場面で、みぞれが自分の翼の大きさを、希美に見せつけます。自分は青い鳥で、羽ばたける、羽ばたかなきゃいけないんだと決意を表明をするのです。
そして希美も、みぞれの可能性の大きさを認め、彼女を自分の手元から解放する決断をします。彼女の流した涙は、悔しさだけではない、様々な感情の混ざった複雑な意味合いを持っていたでしょう。
●希美とみぞれの大好きのハグ
フグの部屋にて一人たたずんでいた希美の元を、みぞれが訪れます。
別れの決意を固めたリズの元へ、いつも通り帰ってきた青い鳥の場面です。
希美はみぞれを突き放します。冷たいことを言って、彼女に嫌われよう、彼女を自分の元から離そうと、必死になって言葉を並べます。両手を後ろに隠しているのは、うしろめたさや辛い心を隠しているのかもしれません。
たぶん、嫉妬の感情や私怨も混ざっていたでしょうが、本質は、みぞれを自分の元から離すためには、こうするしかないと思っての言葉たちでしょう。
あるいはみぞれが自身を青い鳥であると理解したことを知っていたら、こんなに冷たく当たらなくても良かったのかもしれませんが、希美は知りません。だから、痛む心を押さえつけて、一生懸命、みぞれを攻撃します。
これらのセリフは、すべて、扉を開けたリズの『愛してるわ』です。
希美は、みぞれを傷つける言葉をたくさん挙げ連ねながら、彼女への愛を叫びます。
この時、みぞれは察したのでしょう。希美も、みぞれが青い鳥であったのだと気づいていることに。
そして、その構図において発せられる希美の言葉たちが、何を意味するのかも。
だから、驚かない。傷つかない。
代わりに、彼女には、選択肢がありません。本当は離れたくない。みぞれとずっと一緒にいたい。
でも、彼女自身、理解しています。
『リズが言うなら、飛び立つしかない』
だからみぞれは、「聞いて」と、本編中で初めて、希美の言葉を遮ります。
そして、これまでにない力強い声で、希美の良いところ、好きなところをたくさん挙げていきます。
青い鳥からの『私も愛してる』というアンサーです。
そして、みぞれのアンサーに対して、希美はやっとの思いで言います。
「みぞれのオーボエが好き」
『あなたの翼を見せて。飛んでいくところを、見送らせて』と、別れの言葉を切り出したのです。
●希美の大笑い
二回目見て一番引っ掛かったのが、二人が愛を語り合った(語弊あり)後、希美が大きく笑ったことです。
この理由がいまいち理解できず、困惑しました。今でもしています。
一応自分は、このシーンこそが童話では描かれなかった、二人が別れた後のシーンで、青い鳥を見送った後のリズは一種のすがすがしさにも似た、爽やかな気持ちだったのかな、と考えました。が、いまいちしっくりこないので、何か別の解釈をした方はコメントお待ちしております。
●希美とみぞれは、どちらがリズでどちらが青い鳥なのか
ここまでの話の流れを見ると、どう考えても希美がリズで、みぞれが青い鳥です。才能を翼に見立てるというのはよくある話だし、本編中でも二人がそうであったと気づきます。
ですが、私は、そうではなく、両者ともがリズであり、青い鳥でもあったと考えています。
そこらへんの考察についてはいろんなサイトでなされているので、そちらを参考にしてください(と言い始めるとこの感想文の存在意義がなくなるけど気にしない)。
私が語りたいのは、では希美を青い鳥、みぞれをリズと考えた場合に上記の流れとどう合致してくるのか、という話です。
やはり二人にとっての転機は、麗奈たちの演奏と、先生との会話です。
希美は自分がリズだったと思い、かごの開け方を何故教えたのですかと神様に問う。
みぞれは自分が小鳥なのだと思い、自分が飛ぶべきであると気づく。
そして、みぞれの決意を込めた、圧巻の演奏。
それが、意図的か否かはわかりませんが、リズであるみぞれが、小鳥である希美に向けて、扉を開け放つ行為であり、同時に、「愛している」というメッセージでもあるのです。
では、希美を閉じ込めていた籠、希美の翼を奪っていたのは何か。
それは、みぞれの存在そのものです。
本編中、希美はみぞれに対し、ものすごい執着を見せています。冒頭、階段を先に行くも、振り返ってみぞれを待つ、でも最後まで待たずに自分が先に行く。みぞれの言葉を遮ってまで話す。祭りに誘い、プールに誘う。みぞれが他人も誘いたいと言うと表情を凍らせる。みぞれとの才能の差を突き付けられると、嫉妬の感情をこらえきれなくなり、表出してくる。
執着とは、つまり、対象に対する強烈な関心、感情です。興味のないものには、好きも嫌いもありません。麗奈に対し、何の感情も見せなかったように。
希美は、みぞれに対し、好きも嫌いも含め、猛烈に執着しています。
それが、彼女自身の進路、ひいては将来の可能性を、閉じ込めていたのです。
みぞれの演奏に対し、希美も最初は頑張って応戦する。
「あなたは自由よ」と言うリズに対して、青い鳥は「私はここにいたい。望んでここにいるの」と拒絶するのです。
しかし、やがて希美は、演奏できなくなり、フルートを握りしめ、うつむき、涙を流します。
リズに対して、抵抗ができなくなったのです。だって、リズのことが大好きだから。
青い鳥は、リズの言う通りにするしかありません。
そうして、演奏の終盤で、再び、何とか希美は、吹き始める。弱々しく。
おそらくこのシーンで、彼女は、みぞれの元を、力なく、飛び去ったのでしょう。
その後、フグの部屋での二人のやり取りは、最初に言った『帰ってくれば良いのに』に該当します。つまり、ここからは、童話にはなかった、二人だけの話。二人だけで、すべてではないけれど、本音を伝え合う。そうして、別れる前より、少しだけ距離が近づく。そんな話でした。
という感じで、まぁ半分くらい思い付きでこじつけてみたのですが、案外解釈のしようはあるなと思いました。
●あと個人的に印象に残ったところ
冒頭、胸を張り、顔はしっかり前、若干上を向いたままズンズンと音がしそうなほど勢いよく歩く希美。前かがみの姿勢でうつむき、小さな歩幅で歩くみぞれ。
彼女らの歩く足音と同時に、テーマ曲みたいなのが流れます。
最初、みぞれの足音に付随する曲は、とても静かで、朧気。
次に来た知らない人の足音には、音楽はありません。
この時点で、その音楽が、みぞれの心なのか、足音の主の心なのかはわかりません。
が、その次に来た、希美の足。それが希美のものであるとみぞれが知覚する前に軽快な音楽が鳴り響きました。
なので、これはみぞれの心ではなく、希美の心の内を表現していると言って良いでしょう。
その軽快な心が、みぞれと会える喜び故か、練習が好きだからか、はたまた別の楽しみがあるのかはわかりませんが。
階段をズンズンと飛ばして歩くけれど上段でみぞれを待つ姿を見るに、みぞれと二人きりで練習できる時間が彼女にとって特別なものであり、少しでも長くその時間を保てるように急いで歩いているのかな、と想像しました。
ちなみに彼女らの姿勢は、音大の話が出たときに物凄くわかりやすく対比されていて、すべてが逆になっています。彼女らの立ち位置、向いている方向、姿勢、顔の角度。まさに彼女らの心が、冒頭と正反対であることを示しているのでしょう。
プールに行こうという希美の提案に対し、みぞれがほかの人も誘って良いか尋ねた場面。
一瞬、希美の表情が見事なまでに凍りました。
次の瞬間、彼女の前を女子生徒が横切ります。
彼女が去ると、希美はすでにいつもの笑顔に戻っていました。
この一瞬の出来事に、私は、ものすごく希美らしさが詰まっているなと感じました。
というのも、希美はとにかく素の自分を隠すのが上手いんですよね。冒頭からして、みぞれの疑問を遮って自分の話をしたり、みぞれの『嬉しい』を『この曲になったのが嬉しい』と解釈しておきながらこの曲を知らないと答える彼女に何も言わない。何か面倒くさい話になりそうになると、上手いこと避けるんですよね。表情にも出さない。月並みな表現ですが、笑顔の仮面を常に被っているわけです。
それが、みぞれが自分以外のものに興味を示したという事実に、素の感情を見せてしまう。驚きと、戸惑いと、たぶん、嫉妬や失望など。
でも、希美は、その表情が、もとに戻る瞬間を、見せない。気づいたら、いつも通りに戻っている。まるで、さっきの表情が見間違いだったかと思わせるように。
この、リカバリーの早さと上手さが、ああ、希美の生き方だなぁと感じました。
あと『らしさ』という意味では、個人的には麗奈がみぞれに直談判したシーンが一番印象に残っていて、『ああ、麗奈なら絶対これ言うなぁ』と思わず感動してしまいました。久美子らしさが出たシーンがなかったのは残念でしたが、まぁ仕方ない。
●まとめ
とても面白かったです(こなみ)。
感想文と言いつつほぼ後半しか扱っていないのですが、前半部分まで書き始めるとたぶんキリがないですし、細かい描写の妙だったりというのはたくさんのブログが熱く語っていますので、今更私がああだこうだと言う事ではないかなと。
最初にも書きましたが、今回の感想文は、前提知識の不足した状態で二回観ただけの人が記憶を掘り起こしながらえっちらおっちらしたためた文章なので、いろいろガバってる部分はあるかと思います。すみません。
まぁ、そんな感じで、とても好きな映画なので、また今度三回目観に行こうと思います。きっと違った感想が新しく生まれるんじゃないかな、と、今から楽しみです。
●●●追記6/16●●●
四回目の鑑賞をしました。ここまで書いてきた事についていろいろ違ってたかなーとか思ったんですけど、突き詰めていくとたぶんキリがないしぶっちゃけ面倒くさくなってきたので直しません。
で、腐っても小説書く人なんで、一応ストーリーについても触れてみます。たまにリズ鳥にはストーリーがないって言う人いるけど全然そんなことないからな!!!
●13フェイズ構造
13フェイズ構造とはいったいなんぞやという話ですが、これは沼田やすひろ氏が書かれた『超簡単! 売れるストーリー&キャラクターの作り方』という創作ハウツー本の中に描かれているストーリー作成術で、氏曰く『良いプロットには必ず13段階のフェイズがある』『これは人間が、本能的に、面白いと感じるプロットの展開』なのだそうです。
ざっくり説明すると、以下の通りになります。
①日常…冒頭。主人公の日常生活と、抱えている問題を描く。その問題の解決が作品のテーマ。
②事件…何らかの出来事により、主人公がそれまでの日常から引き離されてゆく。
③決意…主人公は、その特異な状況に飛び込んでいくことを選択する。
④苦境…主人公自身の変化に向け、決意に基づいた行動を開始する。苦しみがあったりなかったりするが、あった方が面白くなりやすい。
⑤助け…苦境に陥った主人公を何者かが助けてくれる。
⑥成長・工夫…苦境から脱するために成長・工夫する。
⑦転換…成長・工夫によって得られた快感と、その後の転落の予兆。
⑧試練…成長・工夫を利用し、助けなしで試練に立ち向かってゆく。二つ以上あるのが望ましい。
⑨破滅…主人公の試練は、あえなく破滅を迎える。
⑩契機…破滅の中から、変化を遂げるきっかけを見つける。
⑪対決…変化を遂げた主人公が、敵との対決をする。
⑫排除…主人公が成長してきたすべての伏線を使い、敵を排除する。
⑬満足…全部解決。やったぜ。
大前提として、本作は、みぞれの13フェイズと、希美の13フェイズが区別され、並行して物語が進んでいきます。
という事で、上記の13フェイズに本編の内容をあてはめていきましょう。
●ほんへ
①日常…みぞれと希美が一緒に音楽室まで歩き、二人で練習を始める。そこまでが日常です。希美が胸を張って先を歩き、みぞれが憧憬とも恋慕とも見える、なんとも言えない表情で追いかける。通常このシーンはさらっと流し、事件から決意までの流れを急いで描かないと観客が退屈してしまうのですが、本作は細やかな描写や音楽によって、ぐっと引きこまれる冒頭になっていました。
ここで描かれているみぞれの問題は、『希美に過度な幻想を抱き、依存している事』でしょう。これが、本編での成長を通じて、改善されるべき要素です。
②事件…リズと青い鳥の童話を知る事と、希美の『これ、なんか私たちに似ているな』という発言が、今後みぞれの中でずっと尾を引きます。希美との過去の別れを思い出され、未来の決別を予感させるそれらの要素は、とても大きな恐怖として彼女を押しつぶします。
③決意…絵本を返したみぞれは、図書館でリズと青い鳥の本を借ります。リズと青い鳥の別れを自身と希美に当てはめ、恐怖しているにも関わらず、そこから目をそらさず、向き合うことを選択したのです。
④苦境…フルートとオーボエが噛み合っていないと、滝先生から注意を受けます。ここから彼女は、リズの気持ちが理解できない事や、希美を独占できない事実などに苦悩していきます。わかりやすいのは、希美の持つフルートの光がみぞれに当たって笑い合ったが、気づくと希美が見えなくなっていたシーン、新山先生とのリズ鳥に関する相談のシーンでしょう。
ここでみぞれは、新山先生から音大受験を勧められ、そのことを希美に話します。
で、ポイント。
ここまでが、希美にとっての①日常、です。ここまでで描かれた、希美の抱えている問題は、『みぞれへの執着』でしょう。
そしてこの、みぞれだけが音大受験を新山先生に勧められたことを知った場面。これが②事件。ほぼ勢いで言った「私、ここ受けようかな」が、③決意となります。
この後のピアノを前にした四人組のやり取りから、希美の④苦境が始まります。見栄と勢いで始まった音大受験の意思表示でしたが、みぞれの場合と異なり誰からも喜ばれないという事実に、彼女の首が絞まってゆくのです。
⑤助け…みぞれにとっての助けは、剣崎です。人懐っこく、自分を慕ってくれる後輩は、大変可愛いものです。希美のみに執着し、心を向けていたみぞれでしたが、剣崎の熱いアタックに、徐々に天の岩戸を開け始めます。
⑥成長・工夫…そんな彼女の成長が大きく花開いたのが、プールに他の人も誘って良いか希美に尋ねたシーンです。このシーンは、『オーディションに落ちて悲しむ剣崎を慰めてあげたいという思いやり』『希美に対する、自己の意思表示』の二点において、ここに至るまで全く見られなかった要素です。特に前者は、あがた祭りの時に誘う相手がいないと答えた部分と比較するとわかりやすいでしょう。
剣崎の助けを借りて得た、明確な、彼女自身の成長です。
⑦転換…剣崎によるプールの写真、それを送ったときの『大好きです』という言葉、そして、二人で演奏した時の、のびのびとした音と、青い空に鳥が飛ぶ風景。みぞれの成長を、これでもかと祝福しています。
が、演奏を聞いた希美の表情が、一瞬、凍ります。破滅への予兆です。
⑧試練…新たなコーチから、改めて、オーボエとフルートが噛み合っていないことを指摘されます。まずこれが一つ目の試練。二つ目は、優子との会話です。ここで彼女は、本当に音大に行きたいのか、このまま希美に依存していて良いのかと、先送りにしていた課題を突き付けられます。そして三つめは、麗奈による『希美先輩と相性悪くないですか』という爆弾発言。これらの試練に応えようとして、しかし応えきれず、どんどんと追い詰められていきます。
⑨破滅…そして決定的な破滅が、希美からの拒絶です。大好きのハグを要求し、「また今度ね」と突っぱねられたシーンです。本編中、希美は要求をかわすかそもそも要求させないスタンスでやり過ごしていましたが、ここにきて、初めて両者の間に隔たる壁を可視化させました。自分を取り繕うことができないほどに、希美も苦境続きで疲弊していたのでしょう。
そしてここにきてようやく、希美は次のフェイズ、⑤助けの手を差し伸べられます。それは、夏紀との会話です。ここでは特別彼女を救う言葉は出てきません。が、そもそも、本編中において、夏紀はしばしば希美を助ける存在として描かれます。音大を受けることをカミングアウトしたシーンでは、凍った空気、爆発しそうになる優子の意識を、さりげなく引きつけます。また希美が音大受験をやめると発言したシーンでは、怒る優子を何度もなだめ、「なんでも話すわけじゃないもんね」と優しく語り掛けます。これは妄想になりますが、夏紀は、自分も辞めてはいないものの不真面目組だったから、希美に対してシンパシーみたいなものを感じていたし、同様の感情を希美も夏紀に対しても持っていたのではないかな、と思います。
⑩契機…みぞれの契機と、希美の⑥成長は、同時進行で描かれます。
まず、みぞれの契機。これは、新山先生との会話です。ここで彼女は、新山先生のアドバイスを通じて、自分が青い鳥であったことを自覚します。
一方、希美は、久美子と麗奈の演奏から、自分が音大に行きたいわけではないことを自覚します。そして自分がみぞれより音楽の才能において劣っていることをハッキリと認め、それを優子と夏紀に対して話します。常に笑顔の仮面をかぶり、誰に対してもうまくやり過ごしてきた彼女が、初めて、自分の本心、弱さをさらけ出したのです。彼女自身の、成長です。
希美の⑦転換に該当する部分は難しいのですが、おそらく、「どうして籠の開け方を教えたのですか」と、山の上の展望台から夕焼けを眺めているシーンが当てはまるでしょう。『本編中、最後以外で学校の外に出ているシーンがここのみである』『みぞれの⑦転換の場面でも空が映っていた』『みぞれの時と比べて空の色が違うのは、二人の成長速度の違いを表現している』などの理由をこじつけておきましょう。
⑪対決…みぞれの演奏です。同時に、希美にとってこのシーンは、⑧試練となります。みぞれの圧巻の演奏に対し、最初こそ希美は食らいついていきます。が、圧倒的な技量と才能の前に、涙を流し、演奏ができなくなります。⑨破滅です。
その後のフグの部屋で一人たたずむ希美の元に、みぞれがやってきます。希美にとっての、⑩契機です。
心配するみぞれを、冷たく突き放します。⑪対決です。
⑫排除…冷たい言葉を矢継ぎ早に繰り出す希美を制止して、みぞれは希美の良いところを挙げ連ねます。大好きのハグをして、好きなところをたくさん口にします。全部が好きだと言います。そんな彼女に対し、希美は、「みぞれのオーボエが好き」と、一言返します。
みぞれの課題『希美への過度な幻想と、依存』、希美の課題『みぞれへの執着』が、彼女らの成長によって、少し、改善されたのです。
⑬満足…ハッピーアイスクリーム!
ということで、以上、ざっくりとストーリーラインについてまとめてみましたが(終盤雑なのは許して)、ややこしいので時系列で揃えてみます
●みぞれ●希美
①日常 ①日常
②事件 ↓
③決意 ↓
④苦境 ↓
↓ ②事件
↓ ③決意
↓ ④苦境
⑤助け ↓
⑥成長・工夫 ↓
⑦転換 ↓
⑧試練 ↓
⑨破滅 ↓
↓ ⑤助け
⑩契機 ⑥成長・工夫
↓ ⑦転換
⑪対決 ⑧試練
↓ ⑨破滅
↓ ⑩契機
⑫排除 ⑪対決
↓ ⑫排除
⑬満足 ⑬満足
うろ覚えなところもあるので、もしかしたらストーリーが前後している部分もあるかもしれません。すみません。
個人的に、みぞれの物語の方が常に希美より先を進んでいるところに、面白さと痛々しさを感じました。冒頭から締めに至るまで、道を歩く時は必ず希美が先を歩いているのにね。
さて、何故本作がストーリーが存在しない云々と言われるのかと言うと、たぶん二つ理由があります。
一つ目は、二人の物語がものすごく複雑に入り乱れている点です。上記の通り、本作は希美とみぞれの物語が、別々の速度で進行します。さらにその間に、童話世界の話がちょいちょい割り込んできます。また両者ともに④苦境の時間がかなり長く、その間にも感情の上げ下げがあるため、起承転結や序破急などのテンプレートに当てはめるのが難しくなっているのです。
もう一つの理由は、感情の上げ下げが小さい点です。数行前と言ってることが違うようですが、そういうことではありません。基本的に観客の感情は、③決意から登り始め、⑦転換で一旦のピークを迎えます。それが⑧試練から⑨破滅で一気に最下層まで叩き落されます。そして⑩契機で上昇の兆しを見せ、⑫排除、⑬満足で、過去最高潮に達します。ですが本作では、基本的に二人とも、④苦境に陥ってる時間が異様に長い。そしてその後の⑦転換は、みぞれはそれなりの快感があるけれども、希美の方は快感どころかむしろ苦みの方が強いくらい。そして最後、最高潮に盛り上がるべき場面においてすら、ものすごく様々な解釈があり、素直に良かった良かったと万雷の拍手を送ることが許されない。テンションが爆上げになるはずの場面で、上がり切っていない。
きちんとテンプレートを踏襲しながらも、その通りの鑑賞の仕方を許さない、極めて意地の悪い作品だったと思います。もちろん褒めてます。
※大好きのハグの後の、希美の大笑いについて
三回目、四回目の視聴で、何となく理解ができたので、自分なりの解釈を書きます。
「みぞれのオーボエが好き」から大笑いの間、鳥の羽ばたく影が描写されます。あれは、みぞれが飛び立った瞬間であり、今後大空へ羽ばたいてゆくみぞれを想像した希美の心情でもあったのでしょう。その、想像したみぞれの姿に、期待に、笑いがこぼれたのかな、と考えました。
この後、帰ろうと言って一人で歩いているときにみぞれとの出会いを鮮明に思い返し、くふふと笑っています。彼女がいつか世界的な音楽家になったときに、私が彼女を見つけたんだと誇っている自分を想像したのかな、と感じました。
まぁ、全く根拠のない妄想なんですけどね。わっかんね。