第6話 ダンジョンへ
自己紹介を終えた二人は、再度受付へと向かった。
担当は先ほど曜と――曜が一方的に――言い争いをしていたお姉さん。
「よう、お姉さん。戻ってきたぜ。今度は二人でな」
どうだ? すごいだろ? と不敵に笑う曜に、
「何がすごいのか分かりませんが、仲間が見つかってよかったですね」
営業スマイルを浮かべて、心の声に毒を吐きつつも、答えくれるお姉さん。
「で、俺たちは稼ぎにいけるんだよな?」
一度屈辱を味わっている曜は確認する。
「はい。行けますよ。ダンジョンへ潜る資格は一応満たしていますから」
「それじゃ、決まりだな。さっそく行くかっ!」
「はいっ! 行きましょう行きましょう今すぐ行きましょうっ! 秘宝が私たちを待っていますっ!」
お姉さんのGOサインが出て、張り切り出した二人だったが、
「お二人はどこへ行けばいいのか分かっているのですか?」
「「あ、そういえば……」」
秘宝という甘い誘惑のことで頭がいっぱいだった二人は、同時に呆然とする。
お金だお金だ、モテルぞモテルぞ、しか頭の中にもはや無かったのである。
「俺たちどこ行きゃいいんだ……? そもそもダンジョンってどこよ?」
モイモイに真顔で問いかける曜に、
「私が分かるわけないじゃないですかっ! でも……、ほんとどこ行けばダンジョンってあるのでしょうか……」
なぜか逆切れしながらも、困ったという顔をするモイモイ。
そんな途方に暮れる二人に、助け船を出したのはやはりお姉さんであった。
「ダンジョン区画第一区の初心者ダンジョンから始めてみてはどうでしょうか?」
――ダンジョン区画?
この町に来てから初めて聞く単語に首を傾げる曜。
はてな顔をする曜にお姉さんは説明を続ける。
「ダンジョン区画は町の入り口とは逆の位置にあります。全部で十区画あって、第一区は比較的、訓練した後ならば簡単に踏破できますし、内部構造も滅多に変化しないので冒険者になりたての人たちが一番最初に行くならおすすめですよ。ギルドが看板も設置してますし。あとギルドとしても初めにそこでダンジョンというものを知るのを推奨しています」
「なるほど。てことは、とりあえず初心者ダンジョンとやらに行けば、秘宝を手に入れられると?」
「はい。その認識で間違ってはいないですね。ダンジョン区画まで行けば、どこに初心者ダンジョンがあるかすぐわかりますよ。この番号に書いてあるダンジョンに潜ってくださいね? 他のダンジョンならこんなことしないんですが、初心者ダンジョンは一パーティーしか入れないぐらい狭いですから。あと冒険者ギルド前のギルド直営店で物資を購入していくことをおすすめします」
「物資?」
「はい。ダンジョンでは色々と物が入用ですからね」
「わかった。感謝する」
「いえ、仕事ですから」
さも当然のことだ、と営業スマイルで頷く受付のお姉さんだった。
♢
冒険者ギルド直営店で、物資を購入した二人はダンジョン区画へと向かう。
ちなみに、物資は金貨一枚と思ったよりも安かったが、おかげで手持ちの資金はほぼゼロに近い。
さらに、二人分の料金は曜が払っている。
それ以前にモイモイは購入資金すら出していない始末だった。
理由は明快。彼女、モイモイは路銀を一銅貨すら持っていなかったのだ。
彼女曰く――
「えっ? 獣に襲われた時に落としたに決まってるじゃないですか?」
また非常用のお金も全部食べ物と冒険者登録に消えたという。
バカなことを聞くなという顔をして言ってきたので、こいつはたいてやろうかとも曜は思ったが抑えた。ここで仲間解消されても困るためだ。
だが、当たり前のことを聞くな、というあのバカにした態度には毎度毎度堪忍袋の緒が切れそうになる。
いくつ堪忍袋があっても足りないぐらいモイモイは、口を開けば他人をイラつかせるのだった。
というか、モテない理由ほんとそれだよな。
それと昨日は野宿したらしい。
で、購入物資の内訳はこうだった。
縄、松明、非常食、応急セット、ナイフ。
縄は、要所要所で必要になるとのこと。
松明は、無くても通路はどういう原理か明るいから問題ないけれども、真っ暗闇の通路も存在するため持っとくのが基本。
非常食は、干し肉と黒パンと飲料水。
応急セットは、包帯や止血剤などなど。
ナイフは、素材はぎに基本つかうとのこと。だけど初心者ダンジョンは素材になるような標的はいないとか。
これらのセットの名は、初心者パック。
ギルド直営のため、費用は安く抑えられているらしい。
しかしながら、欠点もあって、それらの品質はいまいちとのこと。
もし、万全を期したいのならば、ダンジョン区画入り口付近に建ち並ぶ店に行けとのことだった。その分値段は跳ね上がるがな、と店員が言っていた。
もちろん、金がない俺たちは前者を選んだのだが。
「なんかこんな激安のセットで大丈夫かなって心配になってきたんだが……」
ここにきて、もっと何か他の方法でお金を稼いでから、万全の準備を整えて望めばよかったんじゃないかと不安になっている曜に、
「何言っているんですかっ! 初心者ダンジョンですよ? 初心者って名がついているんですから余裕に決まっていますよ! さっきまでの威勢にはどこに行ったんですか?」
確かに。
自分としたことが、ゲームなどに出てくるダンジョンを想像してしまい珍しくネガティブになっているらしかった。
これがマリッジブルーというやつだろうか。
ダンジョンにお嫁に行くのに、不安になっちゃったんだな。
そんな風に意味の分からない思考をしていた曜に、モイモイが急に声を上げる。
「あっ! ヨウさん! 着きましたよ! ここがダンジョンみたいですよっ!」
「おぉ……」
腕を組んで、下を向きながら歩いていた曜は顔をあげると――
『ダンジョンへようこそっ! さあ、冒険者たちよ、秘宝を追い求め旅立つのだ!』
と、これまた胡散臭いアーチ型の大きな看板が立っていた。
「なんというか……」
ほんと不安になってきた。
こういう胡散臭い文言見ると何か危ないことが起こってしまうんじゃないかと邪推してしまう。
――冒険者やめようかな?
冷静に考えてみれば、大金が無くてもモテルことはできるよな。
ようやく今になって冷静に考えることができるようになってきた曜であったが、
「あっちが第一区画みたいですよっ! さあ、秘宝が私たちを待っています! モテるためにはお金が必要なんですっ!」
いまだ盲目的に金さえあれば愛も買えると思い込んでいるモイモイが無慈悲に曜を急かす。
だが、曜は切り替えも早い人物であった。
――だよな。
自分はなぜネガティブになっていたのだろうか。
モイモイの張り切るはつらつとした声音を聞いていたら、余計なことを考えるのがバカらしくなってきた。
一度自分で決めたことじゃないか。
金さえあれば、何でも思いのままなんじゃなかったのかよ!
お前の目的はなんだ? モテルことだ。
お前の願いは? モテルことだ。
そのために必要なのは? 金だ。
じゃあ、何をすればいい? 手っ取り早く冒険者で一攫千金だろっ!
もはや、モテルことに関していえば、曜は短絡的で論理が破綻する性格の持ち主だったため、ノリと勢いのまま突き進むことに決める。
もう思い悩むことをやめた曜は、早くしてくださいのろまっ! というモイモイの後に続いて初心者ダンジョンへ向かうのだった。
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