第18話 修業 曜の場合
修業三日目。
町のとあるところにて。
パシーンッ! 女性が手首をスナップさせ、地面を鞭で強かに打ち鳴らすと、
「うふっ。準備はいいかしら?」
妖艶な女性が怪しい薄笑みを浮かべ目の前の少年に続けて尋ねる。すると少年は後ろに手を組んで、足を肩幅に開いた直立の状態で、
「イエスマムッ!」
元気よく返事をした。そして、続く女性の問いかけに次々と答えていく。
「あなたは何?」
「家畜でありますっ!」
――パシンッ!
「存在意義は?」
「家畜でありますっ!」
――パシンッ!
「あなたの主人は?」
「家畜で――パシーンッ!――っ⁉ 貴方様でありますっ!」
――。
「……よろしい。あなたの目的は?」
「貴女様の忠実な家畜になることですっ!」
――パシンッ!
「そのために必要なのは?」
「家畜としての修業でありまーーーーーーーーすっ!」
――パシンッ!
「よくできたわね。褒美を与えてあげるわ。そこに膝間つきなさい!」
「イエスマムッ‼」
少年は徐に地面に四つん這いになり、そしてその上に女性が優雅に座った。
こうして今日も曜の修業が始まったのである。
♢
修業一日目前半。
ダンジョンの町某所。
「うふっ。私のお店へようこそ。ここが今日から行う修業の場所よ」
と、女性が目を怪しく光らせながら言った。女性の発言に、
「お店? ですか?」
曜は当然の疑問を浮かべる。
修行場というのは、もっと競技場みたいなものをイメージしていたからだ。
「ええ。そうよ。お店と言ってもちゃんと耐久力はあるから大丈夫よ? うふふ。もしかして心配してくれてるのかしら?」
「……いえ、そういうことではなくて」
自分が質問した意図と少しズレた返答が戻ってきて戸惑いながら、曜はもう一度《修業の場》だという部屋を見回す。
何度見ても、何度見ても、部屋の模様は変わらない。
曜は勇気を振り絞ってもう一度女性に尋ねる。
「あの……、修業の場――ですよね?」
「うふっ。さっきからそう言ってるじゃないの。何か不満でもあるのかしら?」
女性の目が一瞬不機嫌そうな色をした気がしたが、
「い、いえ。その、不満があるというわけではないのですが……」
「さっきから煮え切らなわね。うふっ。お姉さん怒らないから素直に言ってごらんなさい」
さきほどから言葉を濁している曜に、妖しい笑みを浮かべ、目を細めながらそう促す。
その女性の言葉を受けて、視線を何度もさまよわせ、また幾度も口をパクパクさせながらも、やっと決心ができたのか、曜は逸らしていた視線をしっかりと女性に合わせて、こう口を開いた――
「修行場以前にここって何のお店なんでしょうかっ!」
ずっと言いたかったけれど、勇気が出なくて中々言い出せなかった疑問を口にした。
曜の力強い視線を受けた女性は、
「なあに? うふふふっ。そんなことが気になっていたのね」
「あのー、教えてはもらえないのでしょうか?」
「企業秘密――と言いたいところだけど。そうね~。お姉さん優しいからヒントだけはあげる。一つ目。いかがわしいお店じゃないわよ~。二つ目。みんな喜んでくるから問題ないわよ~。三つ目。お店の子たちはみんな鞭使いね。まだ聞きたいかしら? うふっ」
「い、いいえ。もう結構です。これ以上聞かない方が身のためだとわかりましたので」
「あら~。つれないこと言うのね~。別にあなたも来てもいいのよ? お金があればね。 そうはいってもこれからここで調きょ――じゃなかったわ、うふっ、修業するのだからいいのだけどね。うふふふふふ」
ゾクゾクゾクッ。曜の背筋に寒気が走った。
そして一瞬女性の目がキランッと光った気がした。
――自分は一体これからどのような修業を開始するのだろう。
曜はこの部屋の雰囲気と先ほどから女性が右手に握っている鞭を見て、急に悪い予感がした。
♢
修業一日目後半。
「スキル――ですか?」
曜はこの世界に来てから人の口から初めてスキルという単語を聞いて、顔をキョトンとさせる。
「うふっ。聞いたことないかしら? もしかしていいところのお坊ちゃまかしら?」
「あ、いえ、お坊ちゃまというわけではないのですが、スキルという単語は初めて聞いたので」
もちろん嘘だ。しかし、この世界のスキルがどのようなものなのか分からなかったため、言葉を濁したのである。
自分が知っているスキルと言えば蘇生スキルと育毛スキルだけだ。
そして、蘇生スキルに関しては、完全には把握していないが、その特性と使い方はなんとなくわかる。
だが、この世界のスキルについては全く知らなかったので、とぼけて見せたわけであった。
「そうなのね。じゃあ、お姉さん優しいから一から教えてあげる」
と言って説明を始めた。
お姉さんから聞いたこの世界のスキルはこんなものだった。
曰く、スキルとはある種の能力のこと。
曰く、誰でもスキルを身に着けることは可能だが、特殊なスキルなどは素質が必要。
曰く、スキルを身につけてもある程度の人は限界がある。
曰く、スキルは伝授可能だが、伝授されたスキルはオリジナルの人より限定的な力に限られることが大半。
曰く、スキルの派生で身につく能力の解放条件は不明。
曰く、突発的に関係のないスキルが身につくことがある。
曰く、悪用性の高いスキルをもつものは少ない。
「ちなみに私が使えるスキルは鞭スキルよー」
と、続けて自分のスキルの説明を交えながら復習してくれる。
鞭スキルを例にとって説明するとこんな感じだ。
自称お姉さんの場合は突発的に鞭スキルが発現した。このスキルは戦闘系に属するそうだ。このスキルは伝授可能だが、大体の人はお姉さんのスキルの派生――技――の一部しか使えないとのこと。人によってはお姉さんが使えない技も使えたりする。またお姉さんが使えるスキルの技は二十程度。半分攻撃系、半分支援系らしい。そして、戦闘系スキルを持つ者たちの大体は冒険者になるのだとか。
また、悪用性の高いスキル所有者に対抗するために、国が兵を募集しており、国軍に属する者たちも多いらしい。
冒険者以外の人たちはどうなのかというと、料理スキルや農業スキルなどの役立つスキルを身に着ける人が大半らしい。
命の危険を冒してまで戦闘系のスキルを取得しようなどと考える者はすくないのだとか。
だから、冒険者は血の気の荒い者か、一攫千金を夢見る者たちが多いらしい。
「なるほど。分かりました。ありがとうございます。それで自分は何のスキルを身につけるのでしょうか?」
なんとなく予想しているのだが一応聞いてみる。
「うふっ。もちろん鞭スキルよ」
「理由を聞いても?」
「もちろん私が使えるからよ」
「なぜ俺の師匠にあなたが?」
「もちろん私が選んだからよ。だって若い男の子は調教のしが――うふっ、可愛いものね。ギルドの受付嬢があなたたちと私たちが顔見知りだと知って、依頼してきたのよ。でも二人のうちの中であなたを選んだのは私の独断ね。うふふ」
ん? 今いけない単語が聞こえた気がしたが……気のせいか。
でも、顔見知しりってどこで知ったんだ?
ああ、そうか。受付嬢に森でのことを説明した時に言ったんだっけか。二人組の冒険者らしき人たちに助けられたって。
「そ、そうですか。それでどんな修業なんでしょうか?」
「そうね~。まずは鞭を使うのに全身を鍛えないといけないわね。あと、特に腕ね。じゃあ、とりあえずそこに四つん這いになってもらえるかしら?」
「へっ? 四つん這い……ですかっ?」
「そうよー? 基礎訓練よ? 何か文句でもあるのかしら?」
女性は渋った曜に対して目を細める。それを見た曜は、
「い、いえっ、何もありませんっ」
「じゃあさっさと四つん這いになりなさいっ!」
「え、あ、はいっ」
「ダメな子ね。これから返事はイエスマムになさい? これからお姉さんがみっちりねっとり鞭スキルを教えてあげるわっ! 準備はできたかしら?」
「イッ、イエスッ! マムッ!」
急に妖艶でおっとりとしていた態度を豹変させた女性は、右手に持つ鞭を思いきりしならせ――パチーンッ!――と思い切り地面を打ち鳴らし、曜へ怪しい薄笑みを浮かべるのだった。
♢
修業六日目。
《鞭スキルを取得しました》
蘇生スキルを手に入れた時と同じ文言が曜の頭に浮かんだ。
お読み下さりありがとうございます。
新作考えるのに夢中で更新忘れてました……。
ショートショート、最強モノ、コメディ、書きたいものが多くて困る。
だけど、一番困るのは設定は思いつくのにストーリーとキャラの性格が思いつかない事だったり。
修業回、次回はモイモイ編です。




