第10話 何度目?
まずは、左手で持ったボーボーと火が燃え上がる松明をスライムに近づけた。
すると、
『ウニョリ』
明らかに火を嫌がるような素振りで曜がいる位置とは反対側に体を逸らすスライム。
しかし、後ろに逃げようとしたスライムを逃がすつもりはなく、曜は続けざまに火をスライムに押し当てる。
その瞬間――スライムの体が水に入れた角砂糖のように溶け始めた。
そして、最終的にスライム全体の体が溶解したが――
「……っ?」
残っている紫色のコアを中心として肉体が再生し始めた。
どうやらコアを破壊しなければ、完全には倒せないらしい。
「マジかよ」
しかし、曜は冷静であった。
そうと分かった曜は、再度スライムの肉体を溶かし、右手に持っていたナイフの柄ででコアを思いきり、叩く。
瞬間、ガラスが割れた時のような澄んだ音が響きコアが粉々に割れた。
その作業を次は一匹一匹慎重に行っていった。
♢
『パリーンッ』
「ふぅ……」
最後の一匹も無事に倒し、額に浮いた汗を手の甲で拭う。
流石に十匹以上いたスライム全部を始末するには、それなりの労力と時間を要した。
ほんとにモイモイには感謝してほしい。
このダンジョンに来てから、なぜ自分だけこんなにも苦労しているのか彼女に問いただしたいと曜は思う。
しかしながら、今回もまた曜に苦労を掛けさせ、そして次もまた苦労を重ねさせるであろうモイモイは――口から泡を吹いて死んでいた。
スライムの粘液を身体中に付着させ、着ている服もろとも濡れている。
一見、艶めかしくて、エロそうにも見える状態なのだが、この少女、モイモイにおいてはそんな感想の一つも出てこなかった。
なぜならば――
一つ、
「またか……」
死んでいるから。そして、
二つ、
「なんて面なんだ……」
――死に顔が気持ち悪い。
この世に神がいるならば、もう少し慈悲を与えてあげようよ、と思うくらい、毎回のことながら死に顔が酷いのだ。
あ、神っているんだっけ……。
そして、もはやお決まりの、
「蘇生ッ!」
憔悴した顔をする曜はまじないの言葉を唱え、世の理を覆す。
眩い閃光ののち、
「私死にましたっ⁉」
「死にました」
「ヒイエエエエエエエエエェェェェェェェェッ!」
今回は死んだ前の記憶がはっきりしているのか、自分で、死んだことを確認してくる。
いや、死んだことはいつも聞いてはいたか。
それでも、新パターンだなと取りとめもなく思い、なんとなく感動する。
なるほど……、あのやり取り飽きてきていたのか? だから新パターンが嬉しかった?
と、本当に取りとめもないことを考えていた曜に、
「まっ! そうじゃないかと思っていたんですけどね! 今回もどうやったか分からないですけどご苦労様です!」
もはや反射的に叫んだのか、そうでないのか、だけれど、ひとしきり叫んだあとに、早々に切り替えて、これまた上から目線で労をねぎらってくる。
「なんで上から目線なんだよ」
心の中で思ったことを、思わず口に出してしまう。
意図せず、口に出してしまうくらいモイモイの態度が傲岸不遜極まりなかったのだ。
「そりゃあ、決まってるじゃないですか! 私の方が上だからですよ?」
はっ?
「いつからお前が上になった?」
曜は呆けて唇を丸くする。
「えっ? 会ったときからずっと私の方が偉いでしょ?」
何当たり前のこと言ってんだよ、といわんばかりの表情と仕草で告げるモイモイ。
しかし、
「なんでそんな勘違いしてんだ? 俺の方が偉いだろ?」
負けじと曜も否定の言葉を発する。
曜は続けて、そう考える理由をモイモイに言った。
「お前、俺に何回命救われてると思ってんだ? もはや、命の恩人なんてレベルじゃないぞ。俺に膝まずいてもいいぐらいだ。そうだよ。お前の命は俺のもの、と言っても誰も文句なんて言わないだろうさ」
別に曜は、恩着せがましい性質をもっているわけでもなく、はたまた相手を従属させたいなどという支配者欲求なども持ち合わせていない。
しかし。
それでもだ。
ここまで身を挺して命を救ってきたと言うのに、自分の方が偉いと言い張るその態度にはさすがの曜も我慢できなかった。いいや、我慢してはいけなかった。
ここでモイモイの言い分を認めてしまったのならば、これから先もずっと、何においても主導権を握られている、という心理を抱えながらいることになる。
それだけはダメだ。忘れてはいけない。
このモイモイという少女……、
『バカ』なのだ。
もしも、間抜け、や、アホ、であったならば、もう少し、ほんの少しだけだが可愛げもあったのだろうが、バカじゃどうしようもない。
これからもずっと一緒に仲間として冒険していくのであれば、なおのこと彼女に主導権を握らせてはいけないのだ。
バカは、絶対に何かをやらかす。
曜の知っているバカはそうだし、曜の知らないバカもそうであろう。
だから、
「よーく聞け。お前はバカだから分からないだろうが、この世は賢い者の方が偉い。賢い者は考える。賢い者は生き残る。そしてその賢い者とは――俺のことだ!」
ドヤッ! という顔をしてモイモイに現実を言い渡した。
が。
「はんっ。ヨウさんが私よりも賢い? バカ言わないでください。私の方が賢いに決まっているでしょ!」
「――――――」
一瞬驚きのあまり言葉が出なかった曜だったが、
「――ふんっ。まあいいさ。じゃあこうしよう。次の戦闘で、もしお前が生き残ったなら、今の俺の言葉は撤回しよう。だが、お前が死んだなら、その時は、俺の指示にこれからは従ってもらうぞ」
「ええ、いいですとも! 私は賢いですからね。そう簡単には死にませんよ」
今まで通算六回死んでいるやつがいう事ではないと、曜は思ったが、
「よし、じゃ、決まりだな。さっそく次進むぞ!」
二人はすっかり秘宝のことなど忘れ、どちらがこれからの主導権を得るか、のことしか考えておらず、
「命令しないでください! あ、でももし死んでもちゃんと生き返らせてくださいよ⁉」
今回もまた猪突猛進よろしく、目の前のことしか見えていないのである。
しかし、この勝負の行方なんてどうでもよくなるぐらいのことがこの後に迫っているなどとこの時は二人はまだ知らなかった。
お読みくださりありがとうございます!
久しぶりのあとがきコメント。
物語が終わるまでにヒロインは何回死ぬのか…
書き終わってますが実は数えてなかったりします。
次作はたぶんショートショートやります。
いわゆる日常系的なやつです。




