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戦場に生きる者たち  作者: ブラックシェパード
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ふと思い立って書いてみました

舞台は現実の兵器の名前など出てきますが、似て非なる世界です、パラレルワールドの一種が一番分かりやすいかも

自分が抱く戦場のイメージによりブラックジョークなども出てきますので、それらも苦手な方はご注意を

ーーーーとある戦場ーーーー

「くそくそくそ!

おい、味方の増援部隊はまだかよ!?

このままじゃ、全滅するぞ!」

「黙ってろよ!今通信が………繋がった!

もしもし、聞こえるか!?

こちらポイント30にて敵と交戦中のサーベル3!!

至急増援を…………え!?

ちょ、待て、おいっ!?」

「おい!?何だよその不吉な途切れ方は!?」

傍らで敵を必死に足止めしている相棒に向けて、無線機を持っている、まだ20歳にも達していないような若い、学生時代にはモテたであろう容姿をしている彼、ユーリ・クェスベル二等兵は、引きつった笑みを浮かべながら言った。

「……………墜ちたって」

「はっ!?」

「だから墜ちたんだよクソッタレ!

俺たちの帰りのバスになるはずだった味方のヘリが敵のSAMで墜とされたんだ!!」

「なっ…………あっ…………」

その言葉を聞いて、ショックのあまり、思わず銃撃を止めそうになったユーリと同じく20歳ぐらいの、爽やかな好青年といったユーリとは対照に、少し野性味がある、身も蓋もない言い方をすれば粗野な印象を受ける彼、ジル・ヴィルトミス二等兵は、慌てて放心しかけた自分を叱咤し、敵への牽制を再開する。

しかし、彼の、いや、二人の抑えきれない不満は閉じた口を開かせるのには十分なのだった。

「「ちくしょう!!何でこんなことになったんだあああ!!」」

ーーーーーーーーーーーーー

戦争と聞くとどんなイメージを思い浮かべる?

もちろん、人は大勢死ぬ、軍人も時には民間人だって、万単位で犠牲になることも珍しくはない。

それに伴って悲劇も生む、子を亡くす親、逆も然り、恋人を亡くす人だっているだろう。

最近では昔の軍隊がばら蒔いた地雷も問題になっている。

対人地雷なんてのは、軽く人の足を吹き飛ばすぐらいの威力はあるから、地雷が埋まっている地域の人は歩くのにも命懸けになるだろう。

どれもこれも戦争で起こる、様々な問題だ。

戦争なんて起こらないのが一番良いし、起こすなんてのはもっての他、戦争反対を訴え続ける人達は、確かに正しいことをしているのだろう。

でも……………と、ユーリは教壇に立ち、熱弁を振るっているつもりで、眠気を撒き散らしていることに気づいてないらしい教官を見るーーフリをしつつ、反戦団体が軍の施設の撤去や、軍事費の削減を求めるデモを起こしていると伝えるニュースを、小型端末を使い、見ながら思う。

戦争は確かに起こさずに済めば良いものだ、だがこちらがいくら平和を訴え続けたところで向こうが話を聞かず、銃を手に迫ってきたら結局は戦うしかないのだとも思う。

それが戦争と言う行為になるのだとしても、黙って銃を持った相手に従うか、撃たれるのは誰しも嫌だろうからだ。

中には聖人のように、暴力を振るうぐらいなら黙って撃たれるような人もいるかもしれないが、そんな自己犠牲を本気で実行できるのはほんの一部だ。

誰だって、命は惜しいし、そのためなら例え相手を撃つことになっても我が身を守るためならばそのぐらいするだろう。

だから、とユーリは小型端末の中の反戦団体に冷たい目を向けながら思う。

こいつらも平和を謳い、武器を無くせ、武器がなければ戦争は起こらないと叫んではいるが、いざ敵に襲われ目の前に銃を突きつけられても、それでも武器を捨てた自分達の行動を後悔しないのはどのぐらいいるだろうか、あと数秒後に自分達が殺されそうな状況になっても、平和を訴え続けられるのか、その覚悟を持ってやっているのか、とユーリは教官の熱弁をBGMに考える。

そんな覚悟もないなら、少なくともその平和主義は、実際に命を懸けて戦っている軍人には届かないだろう、軍人に届かなければ戦争も止まるはずがない。

正しいはずの主張にこんな否定的な思考を抱いてしまうのは、やはり自分が卵とは言え、軍人だからだろうか。

と、反戦団体に言ったら取り囲まれてボコボコにされそうなことを考えていると、ちょうど教官の話がやっと終わり休憩時間になるところだった。

教官が出ていくと同時に、欠伸をしたり、友達と話をしたり、休憩時間を満喫し始める級友達に習うように、ユーリも近くにいた友達の傍へ行き、無駄話を始めることにする。

「よう、ジル。

相変わらずお前、座学の時間は眠そうだなぁ」

「うるせえよユーリ。

お前だって暇潰しに端末弄ってたろうが、丸見えだったぜ」

「げ、マジかよ。

教官にバレてないだろうな………」

「バレてたら今ごろ、あの無駄にデカイ声と無駄に鍛えてる拳から洗礼受けてんだろ。

知ってるか?あいつが座学の教官にも関わらず鍛えてんのって、そのためだけにらしいぜ?」

「可愛い生徒を殴るためだけにトライアスロンしてるって?

凄い愛だな、生徒思いの教官を持って俺たちは幸福者だよ」

話しかけたのは小中高、そしてこの軍事学校にまで一緒となった幼馴染みのジルだ。

幼馴染みと言えば甘酸っぱい、時には恋にも発展する関係であるにも関わらず、自分の幼馴染みはコレである。

ユーリはもし神様と言うのが本当にいるのなら、アサルトライフルのフルオート射撃をお見舞いしてやりたいと時々思うぐらいには、この状況を嘆いていた。

いや、正確には幼馴染みはもう一人いるのだが………

「…………二人とも、なに話してるの?」

馬鹿話をしていたジルとユーリの耳に、澄んだ風のような声が聞こえてきた。

振り返るとまさに今、考えていたもう一人の幼馴染みがこちらへ歩いてくるところだった。

肩の辺りでバッサリ切り落とされているプラチナブロンドの髪を揺らしながら歩いてくるのは、一見すると冷たい目をした、人形のように無表情な女だった。

彼女の名はミリア・ファーティクベト。

彼女は見た目はユーリ達と同い年には見えない、幼い容姿と、同世代の人と比較しても可哀想なぐらい背が低いのだが、これでも状況を的確に判断し、迅速に味方に伝える重要な戦場オペレーターである。

しかもまだ卒業してないのにも関わらず、スカウトが放っておいても来る、いわゆる勝ち組だった。

ちなみにユーリとジルの兵科はそれぞれ、工作兵と突撃兵。

理由は一方が「裏でこそこそ工作する兵科ならそうそう死なないだろ」というのと「やっぱり銃をバカスカ撃ちたいよな」というものである、二人はこれを志望理由に書いて教官に殴られた。

兵科の違う三人が揃っているのは今の授業が『戦争の悲劇を知り、自分達が同じ悲劇を繰り返さないためにはどうあるべきか』という全兵科共通の授業だったからだろう。

それでも割り振りは適当に決められるので、この三人が揃うというのは、つくづく縁があるんだなぁ、とユーリは粗野な顔つきの悪友と、自分達が一緒にいるには不釣り似合いな容姿のそれぞれの幼馴染みを見る。

ミリアは誰の目で見ても美少女で、それは毎月何人かが、告白していることからも明らかなのだが(ちなみに告白した人は全員、ミリアの冷たい声と目に涙目で走っていくとか)、何の因果かユーリ、ジルとの縁は今日まで切れず、ついにはこんな所にまで一緒になってしまった。

そのせいで過去に、ジルと一緒に盛大な勘違いをし、夕日をバックに殴り合い、ボロボロの体を引きずって告白をしに行ったら微塵も動揺を見せず「………新しい冗談?」と真顔で返された苦い経験からユーリはこのクールな幼馴染みがちょっと苦手だ。

余談ではあるが、その後は、ジルの元へ走って行き、二人で大泣きしたという、これまた思い出したくない過去だ。

ユーリはそんな、余計なことまで思い出してしまった自分の頭を殴りたいのを我慢しつつ、首を傾げるミリアに言葉を返す。

「ああ、いや、大した話じゃないんだ。

世界平和について考えててさ」

「それ、本当?」

「当たり前だろ?

俺たちは平和を守るために戦う正義のヒーローなんだからな」

「………本当に正義のヒーローなら、教官の話中に端末で暇潰しはしないと思う」

「お前にまで見えてたのか…………?

本当によく見つからなかったな俺…………」

「……………幼馴染み、だから」

自分の杜撰な隠蔽工作に呆れていると、ミリアがそんなことを言い出した。

ユーリも好きな日本のライトノベルの展開的には、これは脈ありと見ても良いのだろうが若い頃の苦い記憶通り、本人に自分への甘酸っぱい思いなど恐らく微塵もない。

それに…………

「やっぱりミリアは可愛いけど見た目が幼すぎるよなぁ。

せめてもうちょっとこう、ボンッ、キュ、ボンなナイスバディのお姉さん、ぐらいになってもらわないと………特にボンッが足りな」

「おい馬鹿、ミリアにその話題は!?」

「えっ!?

しまった声に出てたぐえっ!?」

ジルの慌てた制止にはっと気づくも、時遅く、オペレーター志望のくせに生真面目故に習得している近接格闘術で床に投げられたミリアはカエルが潰れたような声を出して呻く。

と、その直後カチャと頭にひんやりする物が押しつけられ、ユーリは思わず「ひいっ………!?」と声を漏らす。

ユーリを投げたミリアは先程と変わらないようでいて、確実に2、3度落とした声で淡々と言う。

その手には、テロ等の非常時に備えるため、また銃器へ慣れさせるために、学校から一人一丁ずつ渡されている拳銃が握られている。

「今、何て、言ったの…………?」

「すすすすすまん!

悪気はなかったんだ、本当!

ただ、もう少し体にメリハリが欲しいなという自分の願望が声に出てただけでいだだだだだっ!?」

「…………弁明になってない………二本あるから、一本ぐらい良いよね………?」

慌てて弁明するも逆効果だったみたいで、関節を極められ悲鳴をあげるユーリ。

痛みもそうだが、その後の発言が問題だ、今のこの状況、何を『折っても良い』というのか、余程の馬鹿でも分かるだろう、分かりたくなくても。

「ま、待て!話し合おう!!

そうだ、確か今日はお前の好きなハンバーグが出るだろ!?

それ半分やるから!」

ピタッ、と腕にかかる力が止まった。

ユーリはミリアの返答を冷や汗を(それと痛みによる脂汗を)垂らしながら、固唾をのんで待つ。

ちなみにジルはというと、友達の危機に関係ないとばかりに明後日の方向を向いていた、こいつは後で一発殴ってやろうと心に密かに決める。

「……………ポテトも付けてくれる?」

「つ、付ける付ける!」

「……………なら、良い」

ハンバーグに心動いたのか、それとも必死なユーリの姿に哀れみを覚えたのか、とにもかくにもミリアは極めていた腕を外し、ユーリから離れてくれた。

ちなみに関節を極めている間、ミリアはユーリに馬乗りだったのだが、痛みに悶えていたユーリには、ミリアの体温や感触を感じる暇はなかった。

そのことをやや…………いや、かなり残念に思いながらもユーリはホッと安堵の息を吐き立ち上がる。

と、事態が沈静化したのを見てか、ジルが声をかけてくる。

「おいおい、この変態。

こういうシチュ何度繰り返せば気が済むんだよ、クセになるのも良いが程ほどになーーー」

ユーリはふざけたことを言っているジルを迷わず殴り飛ばした。

吹き飛んで、床に滑ったジルは、しかし流石は前線で戦うために鍛えられているお陰か、すぐに立ち上がって文句を言った。

「おいっ!?いきなり何しやがる!

俺はお前と違って男に殴られて喜ぶ趣味はねえぞっ!?」

「俺だってねえよ馬鹿野郎!

これはさっき俺を見捨てた分だ!」

「テメエだって同じ状況なら見捨てるだろうが!?」

「その後にお前も同じように殴るだろ!

だからこれは当然の行為なんだよ!」

「そうか!それは納得!

だがムカつくからやっぱり殴らせろテメエ!」

「タダで殴られると思うなよ!」

馬鹿二人の喧嘩は教官が入ってきて物理的に黙らされるまで続くのだった。

ーーーー数週間後ーーーー

「分かってはいると思うがもう一度確認する!

今回の見学の目的はなんだ!?

答えろそこの馬鹿、いや、ユーリ二等兵!」

「今馬鹿って言いましたよね!?」

口答えすると鉄拳制裁が飛んできたので渋々答える。

「…………実際に装備を持って歩き、戦場の雰囲気を少しでも感じ、自分の体へと慣らすためです」

「そうだ!指定されたルートを装備を持って歩く、これだけのことだが、これをどう自分達の経験にするかはお前ら次第だ!

では、一組ずつ進め!」

教官の声に合わせ、正規兵の護衛付きの車列で警戒しつつ進むクラスメイト達を眺めながら自分の番を待つ。

班分けはこれまたジルと一緒である、これが女の子なら運命を感じるところだが、相手が男では感じようもない。

ちなみに場所はつい先日までは戦場となっていた、とある地域の一角にある街だ。

民兵だか、ゲリラだかと戦い、追い出したばかりのまさに安全に戦場の雰囲気を感じるにはおあつらえ向きの場所、ということらしい。

自分達の番が来るまで暇なので、隣にいる腐れ縁の友と話しながら待つ。

「それにしても、思いきったことするよなぁ」

「何がだ?」

「安全になったとは言え、ついこの間までは戦場だったんだろ?

そんな場所で社会見学するなんてさー」

「だからこそだろ。

敵は敗走、味方は周りに駐屯してるし、戦場の雰囲気も感じられる。

社会見学にはちょうど良いだろ?」

「でも、もしも、だぜ?

その民兵かゲリラがこの辺に潜んでて反撃の機会を伺ってたらどうする?」

「……………………」

「……………………」

ユーリの言葉に、本人含め二人、黙り込む、が、ジルは嫌な想像を吹き飛ばすように笑いながら言った。

「だ、大丈夫だろ!

この辺の残敵はあらかた駆逐されてるし!」

「そ、そうだよな!

それに周りには頼りになる先輩方もいるし、ヘリや戦車もあるし!」

「そうそう、敵も馬鹿じゃねえさ、無謀な戦いを仕掛ける訳ねえだろ!」

はははは!と二人は笑い合う。

ちなみにミリアの兵科はオペレーターのため、後方にある司令部で社会見学だ、ここにはいない。

そんな話をしているとやっと二人の番が来た。

「次、なんだ、馬鹿二人か」

「その言い方には断固抗議しますよ!」

「そうだ!そうだ!こいつはともかく、俺が馬鹿な訳がない!」

「おい、誰が馬鹿で誰がマトモだって?」

「おいおい、自分の鏡見ろよ?

お前のどこに知性があるように見えるんだ?」

「なるほど、お前の言い分はよく分かった、よし、ぶち殺す」

「やってみろよ」

互いに安全装置のかかった銃を突きつけあっていると、教官がはあとため息を吐いた。

「良いからさっさと乗れ馬鹿ども!

それとも俺の愛をその身で味わいたいか?」

「い、いえ、教官の愛は色々と重いし痛いので遠慮しておきます………!」

「は、早く乗ろうぜユーリ!」

俺とユーリは教官の愛が炸裂する前に慌てて四輪駆動車、俗に言う「ハンヴィー」と呼ばれる車に乗った。

運転は正規の兵士、周りには装甲車が二台、前と後ろに付き、さらにその後ろと前には機関銃を据え付けたハンヴィーが二台、ユーリ達の乗るハンヴィーを守るように挟み込んでいる。

車列はゆっくりと、観光案内でもするかのように走り出す。

「すげえな、俺らVIP待遇じゃん。

こんな観光バスなんて他にないぜ」

呑気な感想を漏らすジルに、ユーリは「うーん」と首を捻った。

「何かさ、嫌な予感がする」

「何がだよ?」

「いや、漫画とかだと警備が厳重な時に限って襲われたりとかするじゃん?」

「お、おいおい、不吉なこと言うなよ。

これはただ単に、俺らに万が一何かがあったら警備体制とか色々問題が出るからだろ?

あとは卵達に本物の鶏を見せて、早くこうなれよというメッセージの意味もあるとか?」

「まあその可能性もあるけどさ…………」

ユーリは言い澱んだ、どうにも嫌な予感が頭から離れないのだ。

しかし、確信があるわけではない、しかもルーツは創作なので結局はユーリもそれ以上は考えないことにした。

この地域の主だった敵はほぼ壊滅、おまけに味方は大部隊でこの地域を確保している。

そんな状態で攻撃を受けるなど、普通ならあり得ない、だから深く考える必要はないと。

彼らは忘れていたのだ、戦争に絶対はないということを。

ーーーーーーーーーーーーー

しばらく経っても何も起こらないとなると、すっかり緊張も解け、ユーリ達は無駄話をしながらまさに観光気分で楽しんでいた。

その矢先、突如戦闘の装甲車が派手な音とともに爆発した。

「な、なんだなんだっ!?」

「せ、整備不良!?

ガソリンにでも引火したのか!?」

「違う!RPGだ!

民兵の残党だ!襲ってくるぞ!」

混乱するユーリ達にハンヴィーに乗っていた正規兵達が外へ出て応戦する。

「ちょ、マジ!?

何で当たってほしくない方がいっつも当たるんだ!?」

「おいおいおい、やべえって!これやべえって!?

洒落になんねえぞマジで!!」

「降りろ卵ども!

そのまま火だるまになりたいか!」

二人はパニック状態ながらも、正規兵の言葉にすぐさま反応し、ハンヴィーを降り、地面にダイブするように身を伏せ耳を塞ぐ。

その直後、彼らが乗っていたハンヴィーはRPGの直撃を受け、爆発、炎上する。

「お、俺たちの観光バスが…………!?」

「おい、そんな場合じゃねえぞ!」

ジルの声に顔をあげればベストもつけてない一般人のような格好をした厳つい男達が、銃をこちらへ向けガガガガガガッ!!と絶え間なく射撃を行っていた。

ユーリ達は匍匐で必死に弾が当たらないようにしながら訳のわからない状況に叫ぶ。

「くそ、何だってんだ!?

何で民兵どもがこんなにわんさかいるんだよ!?」

「というかヤバイぞ!

敵が多い!このままじゃ包囲されて殲滅される!」

ほとんど悲鳴に近い声で叫びながらユーリ達はやっとの思いで、この分隊の隊長の元へと近づく。

隊長は無線機を使い、必死に味方へと呼び掛けていた。

「こちら、サーベル3!

ポイント30にて敵の襲撃を受けている!

繰り返す!サーベル3、ポイント30にて敵の襲撃を受けている!

早く救援を送ってくれ!

このままじゃ全滅する!」

『………ガガッ-ベル3………よく…………ザザッ………ない…………』

「くそ!?ジャミングか!?

無線の調子が…………!?」

そう言ってさらに声を張り上げようとした隊長から、突然血飛沫があがった。

隊長は無線機を転がしながら自らも、地面にどうっ!と倒れ伏し、そのまま動かなくなった。

目の前であっさり、何の脈絡もなく人が死んだ事実は、嫌が応にも彼らにここは戦場だということを突きつける。

「…………ジル、軽機関銃は持ってるよな?」

「そ、そりゃ持ってるけどよ?

どうするんだ?」

「このままじゃ俺ら全員、殺される!

俺が無線で応援を呼ぶから、お前は近くに敵が来ないようにとにかく銃弾をばら蒔いてくれ!」

彼らは卵とは言え軍人だ、当然、真っ先に銃の撃ち方は叩き込まれてる。

「で、でもよ!

俺らまだ正規の軍人じゃないんだぜ!?

勝手に発砲しても良いのかよ!?」

「じゃあ黙って突っ立ったまま死ぬか!?

死にたくなければ後で軍法裁判にかけられようがやるしかないんだよ!」

ユーリの必死な形相に、ジルはたじろみーーー

「…………クソッ!分かったよ!

やりゃ良いんだろやりゃ!」

ジルは初めてとは思えない手つきで銃へマガジンを込め、安全装置を解除すると、敵の方へ向いた。

「おらおらおら!

死にたくなければケツ捲って逃げろこらあ!」

ヤケクソ気味に叫び、ダラララララ!と点ではなく、面の射撃を開始するジル。

機関銃は当てることではなく、その連射性能から敵を足止め、身動きさせなくする武器だ。

敵は思わぬ方向からの銃撃に動揺し、物陰に隠れるためにバラバラと散らばる。

敵からの攻撃が一時、弱化したことにより、残った正規兵達が態勢を立て直すために陣形を組み直す。

その内の一人が、こちらへと近づき「君たち…………っ!?」と制止しようとして、地面に血溜まりを作って倒れている隊長を発見し、息を呑む。

しかし、そこはプロの軍人、すぐに状況を把握すると「ダイヤモンド陣形!」と、無線機を持っているユーリ達を守るように展開する。

敵はすでに動揺から立ち直り、射撃を繰り返しつつ、距離を詰めてきていた。

「装甲車を前に出せ!

ハンヴィーで前方と後方警戒!」

「敵のRPGは!?」

「歩兵で対処だ!

見つけたら優先的に攻撃しろ!」

恐らく、死んだ分隊長の次に階級が高いであろう人が指示を出し、他の人はそれを受けて動いていく。

「俺はどうすれば良いですか!?」

「君は友達を守ってやれ!」

「了解!ちっ、どうせ守るなら可愛い女の子が良かったぜ!」

「俺も隣にいるなら美少女の方が良かったよ!」

ジルは軽機関銃を持って周りを警戒しながら、敵を見つけると弾丸をばら蒔き足止めする。

しかし、敵は多数、こちらは数で負けている上に、徐々に包囲されつつある、このままでは遠からず撃たれるのは誰の目から見ても明らかだった。

「くそくそくそっ!

おい、増援はまだか!?

このままじゃやられるぞ!」

「黙ってろ!今、通信を…………繋がった!」

敵のジャミングが何らかの理由で弱まったのか、無線機がようやく繋がった。

ユーリは隊長が言っていた情報を思い出しながら無線機の相手へと呼び掛ける。

「もしもし!?聞こえるか!?

こちらサーベル3!現在、ポイント30にて敵と交戦中!」

『え……………?

ユーリ……………?』

「なっ…………!?

ミリア…………!?」

ユーリは無線機の向こうから聞こえてきた声が幼馴染みのものであることに驚くも、すぐ傍をチュインッ!とゾッとするような音ともに弾丸が通りすぎ、すぐにそんな場合ではないと首を振って驚きをかき消す。

「ミリアでも何でも良い!

こちらサーベル3はポイント30にて敵と交戦中だ!

すぐに増援をよこしてくれ!」

『サーベル3…………ポイント30…………その無線の周波数はその分隊の隊長の無線機のはずだけど…………』

「…………死んだよ、目の前であっさりな」

『…………分かった。

周辺にいる味方部隊との通信をお願いします…………それとヘリを…………』

無線の向こうがにわかに騒がしくなり始める。

流石は優秀なオペレーターだ、理解から行動までに迷いやラグがなく、行動も的確だ。

「おい、通信はできたのかよ!?」

ジルが弾をばら蒔きつつ言うのに、ユーリは頷いてみせた。

「ああ、相手が予想外だったけど、通信は繋がった。

今から救援のヘリと増援を回してくれるらしい、もう一頑張りだ!」

ユーリがそう声をかけた瞬間だった。

無線機から突然、『なにっ!?』という男の声が聞こえ、ユーリは嫌な予感を覚え無線機を耳に当てる。

「もしもし!?

どうした、何かあったのか!?」

『サーベル3!

落ち着いて聞いてほしい!

君たちの近くにいたヘリが救援に向かっていたが、敵のSAMにより撃墜された!

繰り返す、救援ヘリが撃墜された!』

声がミリアから知らない男のものに変わっていたが、それに気を取られる余裕はなかった。

「はあっ!?

敵は民兵でしょ!?

何でSAMなんか持ってるんですか!?」

『不明だ!

恐らく、鹵攫したこちらのSAMを使ったと思われるが、憶測の域を出ない!

だ………ガガッ…………ポイン………47………に変…………ザザッ………いそ………げ…………ザザザザザッ!』

「おい、ちょ、待て!?」

『ザザザザザッ!!』

「くそったれが!」

敵のジャミングが復活したのか、再びノイズのみを撒き散らすようになった無線機から耳を離し、ユーリは毒づいた。

「おい、どうした!?

何だよその不吉な途切れ方は!?」

「…………墜ちたって、味方の救援ヘリが敵のSAMに撃墜されたんだ!」

「なっ…………ふざけんな!

あいつらの銃見てみろよ!

二、三世代も前の武器使ってるような奴等がフレアもチャフもあるウチのヘリを撃墜できるようなそんなSAM持ってたって言うのかよ!?」

「知るかよ!

っ!おい、後ろ、敵、30メートル!」

「っ!!ちいっ!!」

話している間に近づいてきた敵兵を慌てて軽機関銃で蜂の巣にしながら、それでもジルとユーリは思わずといったように叫ぶ。

「「ちくしょう!何でこんなことになったんだ!!」」

しかし、嘆いたところで敵が攻撃の手を緩めることはなく、それどころか、さらに攻撃は苛烈さを増していく。

「ぐわあああ!?

腕がああああ!!」

「大丈夫か!?

メディック!

下がらせて応急処置を!」

「メディックはとっくに撃たれて転がってます!」

「くそ、次から次へと………!」

「弾薬がもうじき切れます!

このままでは!!」

状況の悪化を示すように、周りの正規兵達の叫び声がそこかしこから聞こえ、ジルの顔に絶望が浮かび始める。

「くそ、こんなところで死んじまうのか…………まだ彼女もできてなかったのに…………!」

「諦めんな!

まだ、何か………!!」

そこでユーリは思い出した、通信が切れる前、相手は何か言ってなかったか?

「そう、そうだ…………ポイント47、確かにそう言ってた!

すみません!」

「なんだ坊主!

悪いが今は授業をしてやる余裕はねえぞ!」

「違います!ポイント47ってどこか分かりますか!?」

「ポイント47!?

それはこの先を抜けて、メインストリートを直進した先だ!

それがどうした!?」

「通信で言ってたんです!

そこへ行けって!

きっとそこに救援が…………!!」

ユーリの言葉に周りの兵士に希望の表情が浮かぶが、すぐに曇ってしまう。

「………坊主、せっかくの希望に水を差すようで悪いが………メインストリートは今、あいつらがバカスカ撃ちまくって来ている、あの先だ。

装甲車を盾にして突っ込めば、突破はできるが今はこの状況だ、負傷者もいる、呑気にドライブしようとこいつに乗り込もうとしたら蜂の巣にされちまう!

せめて、敵の攻撃が少しの間だけでも弱まるか、止まってくれねえと!」

ユーリが話しかけた正規兵はバンッ!とハンヴィーを叩いた。

ハンヴィーはこれでも軍用車両だ、普通の車より頑丈にはできているが、四方八方から銃弾を浴びせられれば中にいる人間がどうなるかは火を見るより明らかだ。

「……………待てよ、火…………?」

ユーリは背中のバックパックを下ろし、ごそごそと中を漁る。

ユーリの兵科は工兵だ、そして今回の社会見学の元々の目的は、武器を持ち、戦場に近い場所で戦場の雰囲気を味わうこと。

ならば……………アレが入っていてもおかしくない。

「……………あった!!」

ユーリは目当ての物を見つけると、正規兵に再び話しかける。

「すみません!」

「なんだっ!?

今はお喋りしてる余裕はないんだが!」

「相手に隙を作れる方法があるんです!」

「なにっ!?」

「ただ、それには必要なものがあって…………」

ユーリが必要なものを話すと、正規兵は臨時の隊長へと話しに行った。

臨時の隊長はポジションを変わると、ユーリの元へ身を伏せながら近づいてきた。

「さっきのは君の発案か!?」

「そうです!無理でしょうか!?」

「いや、ハンヴィーが一台余る!

使っても構わない!」

来るときには満員だったハンヴィーが一台余るということはそれだけ、乗る人が減った、ということを示していた。

ユーリはそのことを考えないようにしながら「ありがとうございます!」と叫んで、ハンヴィーの一台へと向かう。

ハンヴィーの一台に取りつき、ごそごそと何かしているユーリが気になったのか、ジルがマガジンの交換作業のついでにユーリへと近づく。

「おい、何してんだ!?」

「これを付けてるんだ!」

ユーリはバックパックに入っていた物をジルへと見せる。

それは俗にC4と呼ばれる、爆弾だった。

ジルは首を傾げる。

「そんなもの、どうすんだよ?

敵へピザ屋みたいに配達する訳じゃないんだろ?」

「こいつだけじゃ、敵は怯まない、でも、もっと大きな爆弾があるだろ?」

そう言われ、ポンとハンヴィーを叩くユーリにジルは「ああ!」と声をあげる。

「そうか、こいつを突っ込ませて爆発させれば…………!」

「燃料がある分、爆発は派手だ、敵は必ず動揺する!

その間に、車に乗り込んで突破できる!」

ユーリの話を明るい表情で聞いていたジルだが、急に真顔になった。

「でもよ、敵に突っ込ませるってことは…………そこまで誰かが運転しないといけないんだよな?」

ある程度スピードがつけば、後は慣性の力で動くが、そこまでは人が乗り、エンジンを動かして進ませなければならない。

当然、敵の銃弾が一番集中する超危険地域だ、おまけに銃弾が当たらなくても爆発のタイミングが悪くても火だるまになって死ぬ、命がいくつあっても足りないぐらいだ。

ユーリはジルの言葉に目を伏せながら言った。

「それは…………俺がーー」

「いや、俺がやるぜ」

「ジル!?」

ジルの言葉に驚き、顔をあげるとジルはすでに車内へと乗り込んでいた。

「おい、ジル!

何やってんだよ!降りろ!」

「しょうがねーだろ、どうせお前まだ車の運転講習はしてないんだろ?

そんなヘロヘロ運転で横転でもしたら俺ら終わりだぜ?」

「うぐっ…………」

ジルの指摘に図星を突かれ、思わず呻くユーリへジルはさらに言葉を重ねる。

「先輩方は敵への対応へ必死だ。

なら、俺が行くしかねえだろ、このままじゃ殺されるだけだしな」

「ジル…………」

「おっと、勘違いすんなよ?

俺はまだまだ死ぬつもりはねえ、まだ彼女もできてねえのに死んでたまるか」

そう言って笑うジルにユーリも笑いかけた。

「それより、爆発のタイミングが大事だからな、しくじって俺ごと火だるまにすんなよ?」

「大丈夫だ、安心しろ。

何年、お前と幼馴染み、やってると思ってんだ?」

「はは、違いねえ。

そうだよ、もう一人、幼馴染みいるじゃねえか。

もしかしたら、あの冷血女も、流石に今回ばかりは帰ったら感極まってキスの一つでもしてくれるかも知れねえぜ?」

「マジかよ、俄然やる気が出てきたぜ、お前天才だな。

なら……………抜け駆けされないためにも絶対に生き残らないとな」

「ああ、てめえだけおいしい思いさせてたまるかよ」

ジルはそう言ってニヤッと笑った。

「じゃあ、行ってくるぜ!!」

「ああ!」

ジルはドアを閉めると、メインストリートへの道を封鎖している敵へ突っ込んでいく。

「作戦が始まったぞ!

総員、車を援護しつつ、離脱用意!」

隊長が指示を出し、他の隊員が指示通りに動き始める。

ユーリは慎重に、ジルの動向と相手との距離を見守る。

「まだだ……………まだ、あともう少し…………!」

車は銃弾を受けながらも確実に敵との距離を詰め、そして

「今だっ!!」

ユーリは無線機でジルへと指示を出し、それとほぼ間もなくジルが車の扉を開き、勢い良く地面を転がる。

ブレーキもかけられてない車は運転手が出ても勢いのまま突っ込んでいく。

ユーリは起爆用のスイッチに手をかけた。

こちらの意図に気づいた敵は慌てて回避しようとするが、もう遅い。

「今まで散々よくやってくれたな!

吹き飛びやがれっ!!」

そしてスイッチを押し込んだ。

ドガアアアアアアンッ!!

と、敵のド真ん中で燃料を積んだ車ごとC4が爆発した。

歩兵を吹き飛ばすには十分な威力の爆風が、封鎖していた歩兵を薙ぎ倒し、道を作った。

「ひゃっはーーーー!

派手な花火だなおい!」

「突っ立ってないで早く乗れ坊主!」

正規兵の怒声に押され、ユーリは慌ててハンヴィーへ乗った。

「乗ったな!?よし、行くぞ!」

「待ってください!

まだあいつが!」

「途中で拾う!」

ハンヴィーと装甲車が走り出した。

装甲車が先導し、爆発で動揺している敵の列へ走りながら重機関銃をばら蒔き、敵を足止めする。

ハンヴィーは装甲車の後を追いつつ、ジルの方へと近づく。

ジルは転がった時にできたのか、全身傷だらけだったが、転がり方が良かったのか、骨折などをしている様子はない。

「止まれますか!?」

「この状況で止まったらRPGに撃たれる!

できる限り減速するから飛び乗れ!」

「…………だってよ!」

ユーリは無線機越しに、ジルへと正規兵の言葉を伝える。

『おいマジか!?

銃弾掻い潜って走ってる車に飛び乗れとかどこのアクション映画だよ!?』

「止まったらやられる!

もう一頑張りしてくれ!」

『クソッタレ!

良いさ、やってやるよこんちくしょう!』

ユーリはハンヴィーの扉を開け、ジルが乗る座席を開ける。

「援護射撃!

敵を黙らせろ!」

隊長がハンヴィーの砲手に指示を出し、ジルへ攻撃を加えている敵へ制圧射撃を行う。

「うおおおおおおおっ!!」

ジルは開いた扉から車内へダイブするように身を突っ込んだ。

ユーリは突っ込んできたジルを少しでも奥へ引っ張るように手を掴み、車内へと引きずり込む。

「っっは~~~!!

ったく、こちとらハリウッド男優じゃねえぞ!」

「こういう役って今は大体スタントマンがやってるんじゃない!?」

「どっちでも良いぜ、どうせ映画じゃあスタントマンの名前は出ねえしなーーうわっ!?」

ジルがハンヴィーに乗り込むのを確認すると、車は一気に加速を始めた。

装甲車とハンヴィーは敵の包囲を突破すると、路地を抜け、車数台は通れそうなメインストリートへと出た。

「振り切ったか…………!?」

「いや、敵が追撃してきてる!

しかもMG積んだテクニカル付きだ!」

後方を見ると、数台の車が追ってきており、その中には機関銃を据え付けてあるものもあった。

ハンヴィーからジルや正規兵が弾丸をばら蒔き、敵を少しでも足止めしようとしているが、大した効果になっていないようだった。

そして軽い上に地形を知り尽くしている相手側が徐々に、こちらとの距離を詰めてきていた。

「やべえぞ!

このままじゃ追い付かれる!」

「じゃあ何とかして止めろよ!」

「できるならやってる!

つーか文句言う前にてめえも敵の足止めしろよ!」

「いや、俺工兵だし!

お前みたいな武器は持ってないし!」

あるのは余ったC4だけだ、適当に投げても運良く敵の車に当たる確率は限りなく低いだろう。

「くそ、もう少し………ここを抜ければ助かるのにーーいや、待てよ。

直接、くっつけて撃破できなくても足止めになれば………」

ユーリはぶつぶつとそう言うと残ったC4をバックパックから取り出した。

それに気づいたジルが軽機関銃を乱射しつつ言う。

「おい、そんなものどうする気だ!?

放り投げても敵の車に都合良く当たるとは限らねえぜ!」

「いや、もっと効果的なやり方がある!」

ユーリはハンヴィーの扉を開け、セットしたC4を車から投げず、地面にそのまま転がした。

「何やってんだ!?

まさか……………!」

「今だ!」

ユーリは敵の車が、置いたC4の上を通った瞬間、スイッチを入れた。

ドガッ!!と爆発が近くの車両を巻き込みながら起こった、それだけではない、急に目の前で起きた爆発に慌ててハンドルを切り、近くの建物に突撃するもの、横転するもの、そしてそれに突っ込むものなど、後ろはまさに大パニックだった。

「っしゃあ!

どうだ、見たかこのヤロー!!」

「うわ、えげつねえ真似するな!?」

「訳も分からず攻撃されたんだ、このぐらいは許容範囲さ!」

もちろん、これで敵を撒けるわけではない、すぐに態勢を立て直し新手が追撃してくるだろう。

だが今、振り切れば良いのだ、そうすれば後は味方の部隊が待っているはずなのだから。

「もうすぐポイント47だ!」

正規兵の言葉にユーリとジルは思わずガッツポーズを作った。

「ユーリ、美少女からのキスの用意は良いか!?」

「ダメだ、緊張しすぎて心臓がバクバク言ってるよ俺!」

死の恐怖から解放された反動でおかしなテンションになっている二人を乗せたハンヴィーは、メインストリートの路地を右折し、そのまま勢いのまま直進しーーー

やがてハンヴィーと装甲車は、何もない空き地で停止した。

そこには何もない、救援のヘリも、戦車や装甲車もいなければ、歩兵すら一人も、いなかった。

「……………え?」

「なん………だよ…………これ…………?」

二人は目の前の信じられない光景に、自分達の正気を疑う。

だが、何度見ても、何度目を擦っても、そこに味方の部隊はいなかった。

他の正規兵達もフラフラと車両から降り、「そんな…………」「嘘…………だろ」と絶望を口々に出していた。

通信は確かにした、相手とも話している、それなのにも関わらず救援がいないということは必然的にある事実を全員に突きつけていた。

「見捨て………られた…………?」

「ーーーーっ!!」

ユーリの囁くような呟きに、ジルが胸ぐらを掴み、叫んだ。

「ふざけんな!!

そんなわけねえだろ!

そんな、そんな…………っ!!」

ジルの手から徐々に力が抜け、足の力もなくなったのか、ドサッと、同じく力の抜けたユーリと一緒に膝から落ちる。

遠くからはブオン、ブオンと民兵達が迫る音が着実に近づいてきていた。

「くそ………………おっさん達の追っかけが来るぜ…………」

「鉛玉持ってラブコールか、ゾッとしねえな…………」

ユーリとジルはそう軽口を叩き合うも、その声には、絶望の色が色濃く滲み出ていた。

そう話している間にも民兵達の車は、もう視認できる距離にまで達していた。

ここに来るまでに派手にやったこちらを敵が見逃してくれるとは微塵も思えない、それはまだ正規の軍人ではない二人も一緒だろう。

どうせ殺されるなら、捕まって拷問された後に殺されるより、今から特攻して死んでやろうか、そうユーリは自棄気味に考えながらぼんやりと考えながら、迫る車を見つめる。

と、ふと、気づく、車の音ではない、何かの音が聞こえることに。

それも聞き間違いを疑うような小さな音ではない、確かな存在を持って、確実にユーリの耳へ届いてくる。

「おい、この音、聞こえるか?」

「聞きたくねえよ、恐怖感が増すからさ………」

「違う、車の音とは別に何かーー」

言いかけたユーリの声を遮ったのは、いつ繋がっても良いように、電源を入れっぱなしにしていた元、分隊長の無線機からだった。

『全機、攻撃開始』

声と同時に、先頭を走っていた民兵の車が次々と爆発し、吹き飛んだ。

さらにそれだけではなく、後ろの車も後を追うように爆発、炎上していく。

『敵が車から降りてバラけます!』

『機銃を使え、味方に当てるなよ!』

今度は爆発ではなく轟音が響く。

そしてその轟音が響く度に、敵は空から降り注ぐ大量の弾丸を浴び、ぼろ雑巾のようになって次々と倒れていく。

二人はその様子を、未だ理解できずポカンと、間抜けな顔をして見ていた。

そんな二人の元へ無線機から声が響く。

『大丈夫かサーベル3?

こちらスカイブレード1、聞こえてたら応答せよ』

「なっ………あっ…………ど、どうして…………?」

『ん?声が若いな、もしかして君が、君たちが例の………ま、待て、ちょ、ちょっと落ちーー』

『ユーリ!ジル!無事………無事なの!?』

「み、ミリア…………!?」

無線機から聞こえた声にようやくショックから立ち直り、無線機を掴んで声を出す。

「ど、どうしてここに…………?

というか、まだ状況が追いついてないんだがっ!」

混乱をそのまま伝えるユーリに返答したのは、通信を変わったのか、男の声だった。

『ま、まあ、その辺の話は後でしよう。

なあに、時間はたっぷりあるからな』

見ると、周辺には複数機の攻撃ヘリがユーリ達のいる場所を守るように展開し、敵へ機銃やミサイルを使い追い払っていた。

敵はすでに交戦能力を失い、撤退の兆しを見せている。

その様子を見て、ようやく、自分達が生き残った実感をじわじわと味わいながら、ユーリ達は空き地へ降り立つヘリをジッと見つめるのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

ミリアとは違うヘリへ乗ったため、帰るまで話す機会はなかった。

ようやく到着し、帰還した彼らを待っていたのは暑い抱擁だった、ただし、美少女ミリアの、ではなくーー

「このバカどもぉ!

よく、戻ってきてくれたぁ!」

「ちょ、苦しい、教官、苦しい!」

「いでででっ!?

染みます、全身擦り傷やら色んな傷がある体に教官の愛が染みます!!」

ひとしきり、教官の暑い抱擁を受けていた彼らは、いつの間にか消えていたミリアに気づくのが遅れ、さらに医療班に傷の手当てや精神カウンセリング等を受け続けさせられ、気がつけば、もう夜になっていた。

生き残った喜び、それももちろんあるのだが、現金な二人は命が助かると、想像していたミリアの何らかのアクションがないことに心底ガッカリしていた。

「はあ~…………分かっちゃいたけどさー…………やっぱりあいつにそういうご褒美を期待するのが無理な話かー…………」

「でも、ヘリが救援に来れたのは、この地域での戦闘データや、最初のヘリがSAMに堕とされた時のデータとかを使って、敵のSAMの位置を特定したミリアのお陰だって、ヘリのおっちゃんが言ってたじゃないか。

SAMがあるから救援には行けない、と言っていた司令部に『なら、今から敵のSAMの位置を特定します、だから早く救援に行って下さい………!お願いします…………!!』ってすごい必死な形相で言って、しかも特定まで一時間もかからなかったって。

それだけ必死に俺たちのことを助けようとしてくれたんだろ?」

「まあな、それ聞いた時は何の冗談かと思ったけどよ………」

聞いた話は確かに普段のミリアからは想像もできない話だ。

「…………普段が普段だからなぁ」

「アレだろ、確か軍人は感情を表に出すべきではない、とかどっかの教えを忠実に守ってんだろ?」

「無表情って怖いよな………あの顔で罵倒されたらゾクゾクしちまうよ」

「お前、そんな趣味あったのかよ。

だから未だに口滑らせて関節技かけられたいのか?」

「恐怖の方でな。

まだ人形の方が愛想あるよなーー」

「……………人形よりは愛想はある」

「「み、ミリアっ!?」」

馬鹿二人は、突然現れた幼馴染みにおろおろと、どうしよう聞かれてた!?とりあえず土下座するか?そのまま踏み潰されるのが目に見えるよ!と、さっきまでの感謝はどこへやら動揺して狼狽える。

「……………」

ミリアはザッとこちらへと無言で近づいてくる。

「(おい、どうしよう!?

よりにもよって一番聞かれたらマズイとこ聞かれた!?)」

「(助けた相手が自分の悪口言ってたらどういう気持ちになると思う!?)」

「(少なくとも笑顔で歓待はしてくれないと思うぜ!)」

「………………二人とも」

「「は、はいぃっ!?」」

ミリアの声に思わず直立不動で返事をする二人。

そんな二人にミリアは近づいてーーーー二人を引き寄せるように腰に手を回し、そのまま、二人のお腹の辺りに顔をうずめた。

「えっ、えっ?み、ミリアさん?」

「一体どうしーー」

「二人とも…………本当に………………良かった………!…………生きてて…………!

私、二人が、襲われたって…………聞いて…………二人が死んじゃったらどうしようって………………ぐす、う、ううっ………………!!」

「………………」

「………………」

ユーリとジルは顔を見合わせ、泣きじゃくるミリアを無言で見つめる。

ミリアは基本的に感情はあまり出さない。

行動に出すことはあっても、顔にまで出るのは稀だ、幼馴染みの二人ですらつい最近まで分からなかったほどだ。

そんなミリアが、人目も気にせず、涙をポロポロと流しながら泣きじゃくっている。

どれだけ、この幼馴染みに心配をかけたのだろう、どれだけ不安な気持ちにさせたのだろう。

そんなミリアの胸中に気づけなかった己を恥じながら、ユーリとジルは、ミリアの両手を腰から離しそっと握った。

「ミリア、大丈夫だ」

「俺たちは生きてる、ここにいるから。

だから、もう心配しなくても良いから、な?」

「……………うん………ジル…………ユーリ…………」

ミリアは握られているそれぞれの手にぎゅっと力を込めた。

二人も、それに応えるようにミリアが痛くならない程度に力を込める。

手を握り合う三人を、基地のスポットライトが、優しく、明るく、照らし続けるのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

『ーー今回の戦いにおいて、機転をきかし、分隊の突破口を開いたユーリ・クェスベル、実践経験がないにも関わらず、自ら銃を手に戦い、また敵の包囲網突破時には自ら車を運転し、突破のきっかけを作ったジル・ヴィルトミス、両名は前へ』

「「はっ!!」」

壇上にいるおっさんの声に合わせ、敬礼し、近づいていくのは、儀礼用の制服に身を包んだユーリとジルであった。

二人は学生でありながら、今回の襲撃事件において、正規軍の分隊員達の命を救った功績が認められ、今回、学生には本来贈られることのない勲章が贈られることになったのだった。

「(くう~~~!!

見ろよ、クラスの奴等の唖然とした顔!

命張った甲斐があったぜ!)」

「(その程度で張れるとか安い命だなおい………)」

しかし、クラスメイト達が思っていたのは嫉妬ではなく、『あの馬鹿二人がまさか表彰される日が来るなんて…………天変地異の前触れか』と思っていたのだが、もちろん、二人には知るよしもない。

ユーリとジルは拍手の中、勲章を胸につけてもらう。

一際、大きな拍手が起こると、壇上のおっさんに促され、二人はぎこちなく手を振る。

「(いやあ、これで卒業すれば士官は確定じゃねえか!?)」

「(偉くなればそれだけ危険な戦場は減る!しかも給料は高い!)」

「(階級が上なら女の子達にもモテモテ!

彼女作り放題!)」

それぞれ邪な欲求を抱いていた二人だが拍手の中、続けて発せられた言葉にそんな余裕はなくなってしまう。

『なお、今回の功績を持って、二人には軍事学校の卒業資格を与え、早速、前線へと赴いてもらうことになる』

「「はっ!?」」

初耳だと言わんばかりに声をあげた二人だが、その声は鳴り響く拍手にかき消され誰にも届いてないようだった。

『それと敵が鹵攫したSAMの位置を迅速に突き止め、分隊の生存に多大な貢献をしたミリア・ファーティクベトは、勲章こそないものの、本人の希望によりユーリ・クェスベル、ジル・ヴィルトミスへの同行を希望したため、同じく卒業とし、両名と同じ部隊へ配属されることになる』

「「はあっ!?」」」

さらに告げられた事実に声をあげ、バッ!と二人でミリアの方を見ると、ミリアは「よろしくね」と言わんばかりに、ひらひらと手を振るのみであった。

この様子、知らなかったようには見えない、周りも同じで、知らないのは自分達二人だけのようだった。

「(おいおい、どうなってんだ!?

もう卒業!?在学中に彼女、十人は作ろうと思ってたのに!)」

「(それよりその後の言葉だろ!

前線!?俺、工兵なのに!

安全な後方支援が主じゃないのか!?)」

「(知らねえよ!!

つーかこれ、絶対、誰かが意図的に情報止めてただろ、一体誰がーー)」

『なお、二人には実はこの瞬間まで秘密にしてサプライズにして欲しいとの“指導教官”たっての希望により、この事実は今日に至るまで伝えていない』

「「貴様ああああああっ!!」」

犯人が分かり、教官のいる方を睨み付けるユーリとジル。

教官は他のお偉いさんから見えないように口元をニヤッと歪ませる。

恐らく、このことを伝えれば二人が仮病などの理由をつけて出席しないと踏んだのだろう、表彰式に主役が出ないとなれば指導役の責任も問われる。

その判断は正しい、故にユーリとジルは妙に朝から機嫌が良く、やたらと自分達の周りからSPのように離れようとしなかった教官の真意を見抜けなかった自分に歯噛みするしかない。

『今、ここに、勇敢で有能な兵士が三人、新たに加わったことに、皆さん、もう一度盛大な拍手で迎えましょう!』

ワー!!パチパチパチパチパチパチパチ…………

歓声と、盛大な拍手に包まれながら、しかし、ユーリ達の胸中は晴れやかとは程遠い心情に包まれていたのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

「……………………なあ」

「……………何だよ」

「………俺たち………どこで人生間違ったんだろうな…………」

「…………俺が知りてえよ…………」

『二人とも、もうすぐ作戦開始、準備して』

「「へーい…………」」

ユーリとジルは、ミリアの声に促され渋々と準備を始める。

『こちら、オーバーロード、ウルフドッグ1、聞こえるか?

君たちの担当区域に敵の首謀者、アルフドリス・モッカバンチャーの存在が確認された。

君たちはこれより、周りの部隊と一緒にアルフドリスの確保、もしくは抹殺を担当してもらう。

なお、敵の中には装甲車や旧式だが戦車の存在も確認される、留意されたし。

座標は追って送る、アウト』

突如、司令部から告げられた内容に思わず頭を抱える二人。

「おい、ふざけんな、敵の親玉がいる場所って、一番危険なところじゃねえか!」

「しかも航空支援がない状態で装甲車や戦車と戦えって!?

冗談だろ!?」

『…………冗談じゃないみたい、今私のところに座標が送られてきた。

そこから1㎞先』

二人の持っている正規軍の装備の一つであるタブレット端末に場所が赤い点で表示された。

いよいよもって冗談ではなく、司令部は本気で歩兵だけで装甲車や戦車を突破しろと言っていることが分かった二人は、同時に、全ての怒りとやるせない気持ちを込めて叫んだのだった。

「「ちくしょう!!

どうしてこんな事になったんだあああああ!!」」

それはとある兵士二人が英雄、と呼ばれるようになるーーかもしれない話。

ーーーーーENDーーーーー

なお、一応連載作品にしてますが、思い付きな上、まだ他にも書きたい小説あるので続きが出るかは不明です

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