心配してるのに〜by 智〜
「ったく!美奈子は危険に対する意識が低すぎる。」
駅へと急ぐ道中、思わず口をついて出た。
お嬢さん育ちで、のんびりしているというか、ポーッとしているというか。普段はいいけど、こういうことはもっとピリピリすべきだ!俺が止めなかったら、きっと仕事にも行ったに違いない。本当は働く必要だってないのに、働きたいなんて言うし。俺は、そんな甲斐性なしじゃないぞ。美奈子が元気に過ごせるのなら、とパートに出ることを許したけど、これを機に辞めてくれて、ちょうどいいんだ。そうしたら、子供だって…。俺は早く子供が欲しい。特に女の子。美奈子にそっくりな。いや、顔がそっくりで、もう少し、のんびりしていないように育てるんだ。決めた!子供が欲しいって、お願いしよう!…うーん。お願いじゃなくって、雰囲気たっぷりに迫る方がいいかな。
「…おい、本村!何ニヤついてんだよ?痴漢と間違われっぞ。」
満員電車で声のする方に首を動かすと同期の小宮山悟朗がいた。
「新婚は、楽しそうでいいよな。独身の俺は彼女すらいないのに。」
「またフラれたのかよ?」
「ほっとけ!」
小宮山はバツが悪そうに言う。この男、なかなか気の良い奴で、俺は好きなんだが、女の子とは友達になれても“良い人”止まりで、なかなか進展しない。
「で?今度は相手の娘になんて言われたんだ?」
電車を下りてから、会社までの道のり、小宮山の恋バナを聞くことにした。
「良い人だと思うけど、何か違う、ってさ。セックスも何回かしたんだぜ。」
「ヤってから、ソレかよ?」
女の子って、ソノ気がなかったらヤらないものだと思ってた。しかも何回かヤってたとは、意外だな。美奈子とは大違いだ。
そうそう。美奈子と初めてセックスした時、緊張したのか、いよいよって時に急に勃たなくなって、すげー情けなかったんだ。もう、フラれるんじゃないかとまで考えた。でも美奈子は「こんな時もあるわよ。」ってベッドの中で抱きしめてキスしてくれたんだ。救われたな。そしたら、ムクムクと元気になって、そのままセックスができた。俺は、この時にも、また惚れたんだ。
「お前は、美人で料理上手な嫁さんがいて、いいな。誰か友達を紹介してくれるよう頼んでくれよ。」
そうだ!美奈子のことで、会社に着いたらすぐ相談するんだった。早いとこ部長をつかまえないと!
「悪い!急用を思い出したから、先行くわ!」
「おいおい、話をはぐらかすにはベタすぎないか?」
「今度また聞く!」
急がないと!奴が現れる前に。