次は…。
翼が落ちていた数日後、新聞を取りに玄関を一歩、二歩と踏み出した時、何かが美奈子の足に当たった。爪先に、どこか柔らかいような不思議な感触がして、薄暗い中で目を凝らす。
「…っ…ひっ…!」
声にならない声を出す。美奈子の爪先に当たったのは、首の無い鳩の体だった。切り口の血の色がまだ鮮やかで、鋭い刃物で切られたと思われるような、キレイな切り口だ。新聞を取るのも忘れて無我夢中で家の中に飛び込む。先日のスズメと思われる翼のことを思い出して、急に恐怖感を覚える。
「コーヒー、まだ?」
朝のコーヒーを待ちきれずにリビングにやってきた智を迎えたのは、コーヒーではなく、恐怖を震える美奈子の姿だった。
「おい!何かあったのか?」
「鳩…鳩!」
美奈子はそう言って玄関の方を指さすのがやっとだった。
「一体、誰が…!」
首のない鳩の体を目の前に、智はそう言いながらもこのところの夢の相手を疑う。
「警察に相談しよう。」
「やめて。仕返しされるかもしれない!」
「しかし…!」
警察に電話しようとする智を制止して、美奈子は震える声で伯母に電話をかける。事情を説明すると、伯母は静かに言った。
「ジョージの飼い主さんに確認してみるわね。それまでは、美奈子は外出しないようにね。」
「はい。お願いします。」
今日は体調不良ということにして、仕事も休むことにした。そして、智まで休んでしまった。家に居れば大丈夫だからと言ったが、上司に強引に頼み込んで、スカイプで打ち合わせを始めてしまった。
昼になる少し前に叔母が電話してきた。
「ジョージのところの息子さんじゃないみたい。ずっと家から出ていないそうよ。」
「…そう、ありがとう、叔母さん。」
「しばらく、仕事は休んだら?そんな調子でお客様の前に出たって、安いピアスでさえも誰も買ってくれないわよ。」
「そうだね。相談してみる。」
受話器を置いてため息をつく。
…他にも、そういう人がいるってこと?どうして?
「どうだった?」
電話が終わるのを待ち構えていた智が言葉を発する。
「違うみたい。」
「一体、誰が…!」
智は、犯人像が降り出しに戻ってしまったことに苛立ちを覚える。
智が恐る恐る鳩の亡骸を運んで庭に埋め、美奈子と二人で手を合わせる。
「かわいそうに…。」
「ククク…。ご苦労さん。」
陰からその様子を見て、男が呟いた。