表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

いつも同じ格好

 あるSNSのコミュニティで知り合ったそいつは、いつも同じ格好をしていた。そのコミュニティでは、割と頻繁に飲み会やなんかがある訳だが、その度にそいつは決まって同じ服を着て来るんだ。しかも地味な色のツマラナイ服。早い話が、ファッションの類を気に掛けるつもりがまるでない訳だ。

 そいつはなんてぇか、ちょっと変な奴でさ。無表情が常態で、生気の抜けたような喋り方をする。正直、あまり良い印象は受けない。

 それで俺はある日の飲み会の時、そいつに向かってこんな事を言ってやったんだ。

 「人は外見じゃないって言うけどな、外見が人を変えるって事もあると俺は思うぜ。格好だって人間にとって重要だ。いや、それどころか、外見こそが主体だってな連中もいるじゃないか」

 実を言うと、俺はそいつが俺の言葉に納得するとは思っていなかった。そういう考えと相容れないからこそ、こいつはそんななんだろうって思っていたからだ。

 ところが、意外なことにそいつは俺の言葉に大きく頷くんだ。

 「ああ、なるほど。そういう事もあるかもね」

 もっとも、相変わらずに無表情で生気の抜けた様子だった訳だが。ただ、それでもそいつは「偶には別の格好で来いよ、気分が変わるぜ」という俺の提案に対し、淡々とした口調で、

 「ああ、分かった。考えてみるよ」

 と、そう返したのだった。

 そして、次の飲み会だ。そいつも来る事になっていたのだが、姿が見えない。予定が変わったのかな?なんて思って俺はそれを気にしなかった。それでいつも通りに他の常連と飲んでいたんだが、不意に見ない顔の奴が俺の所にやって来るんだよ。

 多分、新人だと思うんだが、俺は新人が来るなんて聞いちゃいなかった。それで訝しげに思っていた訳だが、その新人は妙に馴れ馴れしく俺に話しかけて来るんだ。

 「や、言う通りにしてみたよ。違う格好を選んでみた」

 は?

 と、俺は思った。

 こいつは何を言っているんだ?

 だからこう返した。

 「何を言ってるんだよ? 人違いじゃないのか? 俺はお前なんか知らないぞ」

 すると、その新人はこう返した。

 「なんだって? それは酷いじゃないか。君が言うから、僕はこうして別の姿で現れたっていうのに」

 「だから、酷いもなにも、人違いだって言ってるだろ? 俺はお前なんか知らないって。誰か他の奴と……」

 が、そこで俺は気が付いたんだ。その新人の服装が、例のあいつとまったく同じである事に。

 不気味に思う。

 ……まさか、

 いや、そんな馬鹿な。

 だが、それからその俺の表情に気が付いたのか、その新人はヘラヘラと笑いながらこう続けるんだよ。

 「しかし、君の言う通りだったよ。格好を変えると中身も変わるもんだな。そうだ。今度は君が僕を着てみてくれないか? どうなるのか試してみたいんだよ」

 そう言ったそいつは、それからなんと服を脱ぎ始めた。

 いや、そいつが脱ぎ始めたんじゃない。そいつの服は、自らそいつの身体から離れようとしていたんだ。

 中身のない服だけが、俺を誘うように手招いていた。

 

 「君だって試してみるべきだぜ。外見こそが主体だってな連中もいるんだろう? もしかしたら、君もそうかもしれないじゃないか」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ