いつも同じ格好
あるSNSのコミュニティで知り合ったそいつは、いつも同じ格好をしていた。そのコミュニティでは、割と頻繁に飲み会やなんかがある訳だが、その度にそいつは決まって同じ服を着て来るんだ。しかも地味な色のツマラナイ服。早い話が、ファッションの類を気に掛けるつもりがまるでない訳だ。
そいつはなんてぇか、ちょっと変な奴でさ。無表情が常態で、生気の抜けたような喋り方をする。正直、あまり良い印象は受けない。
それで俺はある日の飲み会の時、そいつに向かってこんな事を言ってやったんだ。
「人は外見じゃないって言うけどな、外見が人を変えるって事もあると俺は思うぜ。格好だって人間にとって重要だ。いや、それどころか、外見こそが主体だってな連中もいるじゃないか」
実を言うと、俺はそいつが俺の言葉に納得するとは思っていなかった。そういう考えと相容れないからこそ、こいつはそんななんだろうって思っていたからだ。
ところが、意外なことにそいつは俺の言葉に大きく頷くんだ。
「ああ、なるほど。そういう事もあるかもね」
もっとも、相変わらずに無表情で生気の抜けた様子だった訳だが。ただ、それでもそいつは「偶には別の格好で来いよ、気分が変わるぜ」という俺の提案に対し、淡々とした口調で、
「ああ、分かった。考えてみるよ」
と、そう返したのだった。
そして、次の飲み会だ。そいつも来る事になっていたのだが、姿が見えない。予定が変わったのかな?なんて思って俺はそれを気にしなかった。それでいつも通りに他の常連と飲んでいたんだが、不意に見ない顔の奴が俺の所にやって来るんだよ。
多分、新人だと思うんだが、俺は新人が来るなんて聞いちゃいなかった。それで訝しげに思っていた訳だが、その新人は妙に馴れ馴れしく俺に話しかけて来るんだ。
「や、言う通りにしてみたよ。違う格好を選んでみた」
は?
と、俺は思った。
こいつは何を言っているんだ?
だからこう返した。
「何を言ってるんだよ? 人違いじゃないのか? 俺はお前なんか知らないぞ」
すると、その新人はこう返した。
「なんだって? それは酷いじゃないか。君が言うから、僕はこうして別の姿で現れたっていうのに」
「だから、酷いもなにも、人違いだって言ってるだろ? 俺はお前なんか知らないって。誰か他の奴と……」
が、そこで俺は気が付いたんだ。その新人の服装が、例のあいつとまったく同じである事に。
不気味に思う。
……まさか、
いや、そんな馬鹿な。
だが、それからその俺の表情に気が付いたのか、その新人はヘラヘラと笑いながらこう続けるんだよ。
「しかし、君の言う通りだったよ。格好を変えると中身も変わるもんだな。そうだ。今度は君が僕を着てみてくれないか? どうなるのか試してみたいんだよ」
そう言ったそいつは、それからなんと服を脱ぎ始めた。
いや、そいつが脱ぎ始めたんじゃない。そいつの服は、自らそいつの身体から離れようとしていたんだ。
中身のない服だけが、俺を誘うように手招いていた。
「君だって試してみるべきだぜ。外見こそが主体だってな連中もいるんだろう? もしかしたら、君もそうかもしれないじゃないか」