表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再開の宝箱~洞窟に潜む罠~  作者: とらまさ
4/4

 横穴を抜けた先の行き止まりに、それは忽然と置かれていた。

 宝箱。そう呼ぶにはあまりにも大きく、まるで棺のような印象を受ける。


「ちょっと、これ持ってて」


 周囲にモンスターの姿がないことを確認すると、イリスは剣を収める。

 そして、ライターをマリーに渡し、片手では開かない宝箱の蓋に両手を添えた。


「ぐっ、結構重いわね……」


 重厚な蓋に体重をかけるようにして押し上げる。音を立てながら、箱がゆっくりとその口を開き出した。

 中から埃っぽさに混ざって、血の匂いが漂ってくる。盗賊が集めたものだけあって、奪った持ち主の血が付着しているのかもしれない。そういうこともあり得ると、イリスは過去の経験から推測していた。

 最後に特段大きな音をあげ、箱が完全に開放される。


「これは……何か、ある!」


 中を覗き込むと、薄ら白い塊が見えた。宝石の類にしては大きく、色もくすんでいる。だが、ただの石ころにしては形が整いすぎているようにも見えた。

 何にしても、底が深くて暗いままでは判断もつかない。


「灯りをもう少し近くに!」

「は~い」


 マリーが軽薄な口調で返事を返していたが、この時イリスはその事を気に留めることはなかった。

 冒険者の性なのだろう。お宝を前にしたイリスは心を躍らせ、その姿を一目拝みたいという気持ちで一杯だった。

 うまいこと窪みに指を引っ掛け、イリスは球体に近いそれを引っ張り出す。

 背後から照らす淡い光が、持ち上げたそれの姿を鮮明に映し出した。そして――


「ひぃっ――!?!?」


 イリスは驚きのあまりに、掴んだそれを投げ捨てた。

 身を引こうとしたその瞬間、突然宝箱の蓋が閉まる。それはとてつもない重量であり、凶器だった。

 劣悪な刃を備えたギロチンのように、挟まれたイリスの腕が二の腕からばっさりと食いちぎられる。

 よろつきながらどうにかバランスと保とうとする、イリス。だが、不意に両足を掴まれ転倒した。


「なにが起きて――!?」


 倒れ込んだイリスは顔を上げ、自分の足元を見た。

 程よく肉がつき健康的なイリスの両足。その足を宝箱から伸びた腕が掴んでいたのだ。


「綺麗な足。丁度新しいのが欲しかったんです」


 声に反応して振り向くと、マリーが横たわるイリスの傍まで歩いて来ていた。

 その時、必然的に衣服の間からマリーの素足が目に入る。

 マリーの両足は太もも辺りから、まるで別のパーツを取り付けたかのように縫い付けられていた。しかも左右が不揃いのように、骨格からして別の物に思える。


「あなた一体……」


 この少女は人間ではない。イリスは驚愕を通り越して、恐怖の色をその表情に浮かべる。

 いま思えば、少女の言動には怪しむべき点がいくつもあった。

 誰が来るとも知れぬ洞窟にいて平静だったことや、誰も持ち帰れなかった宝の場所を知っていたことも、疑問に持つべきだった。

 儚げな少女を装ったそいつは、イリスが隙を見せるその瞬間を虎視眈々と待ち続けていたのだ。


「ぐっ、情けない。せめて一太刀!」


 殺意を込めた一撃を浴びせるため、剣に手を伸ばした――その時。


「……え?」


 宝箱の方から、忘れようもない彼の声が聞こえてくる。

 慌てて振り返ると、イリスはその相貌を見開く。


「イ、リス……イリ、ス……」


 灯りに照らされた宝箱の側面に、紛れもなくイリスの夫の顔が浮かび上がっていたのである。

 それは口の部分を動かしながら、イリスがもう一度聞きたいと願っていた声で、何度も名前を呼んだ。


「だから言ったでしょう。また会えるって」


 マリーの明るい声に、再開を祝う乾いた拍手が続く。

 込み上げてきた想いに、イリスの唇が震えていた。


「本当に、あなたなの……」


 まだ信じられないイリスは、足を掴む手に銀色に輝く指輪を見つける。

 疑惑は確信へと変わる。見間違うはずなどない。それは二人の結婚指輪だった。

 イリスは身体を曲げて、氷のように冷たくなった夫の手に触れた。

 すると、堰を切ったように、イリスの瞳から大量の涙が溢れだす。


「うそでしょ! こんなの――!」


 やりきれない想い。亡くなってても仕方ない。そう口にしながらも、心のどこかでは生きていると信じていた。

 それがこんな形で打ち砕かれようとは思いもしなかった。


「うんうん。手紙を書いてもらった甲斐がありました」


 イリスの嗚咽に混じって、岩肌にぶつかる金属音が響き渡る。

 マリーは転がっていたつるはしを引きずりながら、イリスの元へと近づいた。

 振り下ろされる死神の鎌。だが、イリスは最後のその瞬間まで、愛する夫の手を離そうとはしなかった。


**********


「やっぱり家族は一緒が一番ですね」


 宝箱に腰掛け、少女は新しくなった足をぶらつかせる。

 見下した視線の先には、指を重ねた二つの手。そして、宝箱の側面に男女の顔が浮かび上がる。


「そうだ。せっかくですし、次は子供も仲間に入れてあげましょう」


 少女は飛び降りると、手にしていた頭蓋骨を宝箱の中へと放り投げた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ