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暫くして、ようやく腰の痛みが引いたイリスは立ち上がる。
「さて、私はそろそろ行こうと思うけど、あなたも行くでしょ?」
「あ……いえ、わたしは足がよくないので」
そう言って、マリーは布越しに足を擦っていた。
落下した時に挫いたのか、元々悪いのかはわからない。どちらにしても、自力では壁を登れないという。
「だったら背負ってあげる。それなら問題ないわよね」
マリーは辛い心境に共感し、励ましてくれた。そんな彼女を放って行くなど、イリスにはできなかった。
これでも昔は冒険者として、大陸中を駆け回ったものだ。華奢な少女一人抱えて登るくらい、なんてことはないだろう。
しかし、イリスの提案にマリーはすぐには同意しなかった。代わりに少し考え込む仕草を見せる。
「もしかして嫌だった?」
「あ、いええ。その……出ていく前に、お姉さんに見せたいものがあるんです」
「見せたいもの?」
すると、マリーは自身の背後に続く洞窟の横穴を指差した。
底知れぬ闇に包まれ、先の見えぬ道。頬を撫でる冷気がその奥へと吸い込まれていく。
「本当は秘密なんですが、お姉さんには特別に教えちゃいます。
中身はわたしも見たことがないんですが、この奥に誰も開けたことのない宝箱があるんです」
「宝箱……」
マリーの言葉に、イリスは村人から聞いた噂を思い出していた。
『山賊が隠した財宝が眠っている』
夫も冒険者の端くれなら、そのお宝を狙ったはずだ。ならば、その場所に向かった可能性は高い。
一通の手紙から続く、唯一無二の手がかり。ここでそれを逃すわけにいかなかった。
「わかった。見てみよう」
イリスは用心して剣を引き抜くと、慎重に暗闇の中へと進みだした。