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EP0:邂逅

 

 「ここ、スゲーな」

 琢磨は興味深そうに宛ら子供のように、はしゃぎながら蒼い世界を歩み進んでいる。

 「何が凄いんだ?」

 琢磨の後をついていく幹彦は、琢磨が何をはしゃいでいるのか、問う。

 「ん」

 床を指差す琢磨。

 「蒼い床がどうした」

 琢磨がなぜ床を指しているのかわからず、再び問う。

 「影がないよな」

 「うむ」

 幹彦は自分の足下にあるはず影がないことに気づく。

 「こうやって手の中を覗いてごらん」

 琢磨は手を軽く握って見せ、軽く握った手の中を覗くように幹彦を促した。

 琢磨の言う通り握った手の中を覗いた幹彦は驚く。

 「明るい」

 手の中は光を遮断しているはずなのに、手の中は皺の数を数えられる明るさを保っていた。

 「きっと空間自体が光源なんだ。太陽や電気と異なり、熱を生み出さず光を放つ光源。これだけでも十分すごいけど、さらに驚くべきは眼を瞑ると暗いんだ!」

 琢磨の言葉を確かめるように、眼を閉じる。

 「これって自然現象じゃないな」

 眼を閉じて暗いことを確認した幹彦は無意識に言葉が漏れた。

 「ざっつらい! これは、自然現象じゃない、テクノロジーだ! 眼を閉じた場合には消灯するように条件づけられた現象。プログラミングされているってことだ! たぶん、眠れるように調整してあるんだ!」

 大興奮の琢磨。こんなに馬鹿じゃない琢磨が興奮しているのを、久しぶりに幹彦は見た。

 「ってことは隕石じゃなく宇宙船の可能性があるな」

 「まあ、ここがあの隕石の中かって確証はないんだけどな。いや、そうでもないか」

 琢磨達は、床や柱、空間そのものにあの隕石と共通のものを感じていた。つまり、ここはあの隕石の中なのではないかと。

 「あと推測、1つ。ここを宇宙船と仮定するなら比較的人間に近い宇宙人かもな。少なくとも眼はある」

 空間の光源が眼が閉じた際に消灯するように設定されているのは、設定した宇宙人にも眼がある可能性が高いと琢磨は述べた。それに宇宙を旅してきた宇宙船ならば、外部と別に宇宙船の中に船員に適した重力を発生させているはず。なのに、自分達地球人が船内の重力に全く違和感がないのはなぜか、などと宇宙人と地球人の共通点を飽きることなく挙げ続ける琢磨。


 「そんなことより、彩人と万里を探すのが、先だ」

 琢磨をおいて幹彦は歩き始める。

 「おい、待ってくれ! おいていくな!」

 幹彦の後を追い掛ける。

 「でもよ、当てもなく探すつもりか? たぶん、向こうも探し回ってるだろうし、すれ違うのが関の山だぜ」

 追いついた琢磨は、幹彦を止める。

 「じゃあ、どうしろってんだ!」

 あまり感情を表に出すことがない幹彦は憤りを見せた。

 普段寡黙な人間の怒号に琢磨はものの数秒、思考が止まってしまうほど怯ませた。

 「待つってのはどう?」

 引き笑いしながら、考えついた案を挙げる琢磨。

 「論外だ」

 琢磨がまだ冗談を言ってると判断した幹彦は琢磨の案を一蹴し、再び歩み始める。


 「最後まで話を聞け」

 幹彦の手を引いて止めた琢磨の顔は真剣そのものだった。

 「俺達には他の2人居場所を伝える術がない。けど、できるやつが1人いるんだって。そいつが動くまで待とうって話だよ」

 「そいつってどっちだよ?」


 ーーー!


 幹彦の問いに琢磨が答えようとした矢先、2人は何かが破壊されたような音を聞いた。


 



 轟音の発信元。

 彩人は、飛んでくる破片から身を守るため伏せている。

 「ねえ! アヤト!! こんな具合でドンドン壊していけばいいの!?」

 柱が何本も倒れて積み重なった山の上から、万里が叫んで彩人に確認する。

 「うん! いい感じ!! あ、でも何本か上に打ち上げてくれるかな!!」

 「わかった!!」

 物質が砕ける音が再び轟き始める。

 絶え間なく砕ける音。天に打ち上げられる柱。全て、1人の少女がやってるとは、誰も信じないだろう。

 しかし、小西 万里ならばできてしまう。

 かつて最強の自衛官と謳われた【小西 勝利】三佐の長女の小西万里は父親の化け物地味た力を継承した最強の中学生。彼女の存在は国家機密として扱われ、普段力を発揮することを禁じられている。

 されど、人の眼がない今ならば制限することなく力を発揮できる。万里は日頃、制限された力を発揮し、蒼い空間を次々に破壊していく。

 「バンリ!床も壊せるか試してみてくれ!!」

 「はーい」

 万里は体を伸ばすように両手を合わせた拳を掲げる。

 「はあぁぁぁぁあああ!」

 雄叫びと同時に拳を振り下ろす。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!


 今までの砕ける音と異なり、高音が響いた。その音はまるで剣と剣、鋼と鋼、金属音のさらに何オクターブも上の音域、頭痛をもたらす音だった。


 「いったああい!」

 床にはヒビ1つなく、健在。床は万里でも壊せそうになかった。

 「アヤトー。ごめん。少し、休んでもいい?」

 「ああ、もちろん。お疲れさん」


 その場で座り込んだ万里は、寛ぎ始めた。

 万里ばかり働かせているのに罪悪感を感じていた彩人は、万里が切り開いた空間を散策しに向かう。

 万里が暴れ回ったおかげで一帯の柱を倒れ、見渡しがよくなった。

 幹彦、琢磨、そして、出口らしいものは見つからないが、これだけ暴れれば幹彦達はここを目指して来れるはず、と想定して彩人は万里を暴れさせた。

 しかし、2つほど彩人は気がかりがあった。1つは、この空間がどれほど広がっているか。万里がこれほど暴れたとしてもこの空間がとんでもなく広大だった場合、いくら万里が暴れても幹彦達が気づかない可能性がある。

 そして、空間内に危害を加えてくる存在がいる可能性。彩人は、これだけ未知の体験をした今、宇宙人でも恐怖の大魔王が現れても不思議でもない気がしていた。しかも、宇宙人か恐怖の魔王の所有物を破壊している以上、危害を加えられてもおかしくない。

 以上の2つの危険性を考えていた。が、前者はどうしようもないとしても、後者は意外となんとかなりそうな気がしていた。

 万里、幹彦、琢磨の3人がいれば、どんな敵が出てきても倒せそうな自信が彩人にはあった。


 「じゃあ、始めよっか」

 彩人は柱が続く先を覗き込んでいると、休憩し終わった万里が彼の肩に手をのせた。

 「うん。おねが」

 #。


 突然、彩人は言葉に詰まった。

 「ん?どうしたの?」

 「万里、なにか言った?」

 「え、えっ?なんのこと?」

 「いや、さっき小さぎてわからなかったんだけど」

 ##。


 彩人は気づく。この声は耳で聞いていないことに。

 「声が聞こえる……」

 「そう?アタシは何も聞こえないけど」

 「なんだろ。こっちから聞こえるような気がする」

 声の元を辿り、彩人は柱が続く柱の森の方へ入っていった。

 「ちょ、ちょっとー」

 万里も彩人の後ろについていく。


 「ねえ、その声ってなんていってるの?」

 「わからない。聞き取れないんだ」

 ###。

 少しずつ大きくなっているが、まだ何を言っているかわからない。しかし、その声を聞いていると息苦しさを感じた。


 柱の奥の奥へ。柱を交わしながら、進んでいく。


 「あんまり奥に行き過ぎると、元いた場所わからなくなっちゃうよ」

 「バンリ、少し静かに」

 「もう知らないからね」


 彩人は、もう少しで声が聞き取れるような確信があった。

 ###。


 柱の奥の奥の皿に奥へ。進んでいく。

 ####。


 「あれ?」

 万里は、柱がない空間に出て驚く。

 最初は自分達が壊した場所に戻ってきてしまったのではないかと思ったが、壊した残骸がどこにもない。


 同時に明らかにここだけは特別な場所だと実感できる場所だった。


 円を描くように開いた空間の中心に大樹が悠然と立っている。

 普段見慣れているはずの緑が、無機物しかないこの空間では不純物にしか見えない。


 「誰かいる」

 彩人は木に寄り掛かって座っている者に気づく。

 万里は彩人の後ろに隠れ、木のほうを窺う。

 

 ゆっくり、ゆっくり木のほうへ近づく彩人達。

 しかし、近づけば近づくほど疑問が湧いてくる。

 木に寄り掛かる者は人間ではないのではないかと…。


 木に寄り掛かっていた者は、手足に胴体、頭、背丈は彩人同じぐらい。形は確かに人間と相違なかった。しかし、蒼い肌、頭の後頭部から伸びる長い触手。そして、顔を前面部の大部分閉める縦に伸びた大きな単眼。確実に人間ではない。

 

 「寝てるのかな?」

 顔の大きな眼は閉じられており、万里には寝てるように見えた。


 「この子の声だったんだ」

 彩人は先ほどから聞こえていた声の主が、目の前で眠る蒼い子だとすぐにわかった。

 聞き取れなかった声が蒼い子を目の前にして彩人はようやく聞き取れた。


 苦しい。

 

 蒼い子はひたすら悲痛に苦しいと訴えていた。

 1人で。


 「君、大丈夫」

 蒼い子の肩を揺すり、呼びかける彩人。

 肩に触れた彩人は人間と変わらない感触を感じた。

 

 蒼い子は、ゆっくり眼を開け、彩人に視線を合わせる。

 驚いていないのか、驚く余力すらないのか、どちらかわからないが、蒼い子は全くの無反応で半開きの眼で彩人を見つめている。

 息づかいが荒いとか、心臓の鼓動が早いとか、熱があるとか、苦しんでいるかどうかわかる要因が1つもないが、彩人はわかった。蒼い子が苦しんでいることを。このまま、置いていくことは彩人のポリシーが許さず、助けることを誓う。

 

 「よし、連れて行こう」

 思いつきで、彩人は蒼い子を背中にのせる。

 「本当に連れて行くの?」

 「放っとけないだろ」

 人間じゃない子をどうやって助けるつもりか、と万里は聞こうとしたが、意志の強い彩人がそんなことで諦めるとは思えず、聞くのをやめた。彼なら方法がなくてもなんとかしてしまうとような気がしたらしい。


 「イヤ、オイテユケ」

 金属が擦れる音を立てて、彩人達の正面、連なる柱の後ろから鎧の男が現れた。


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