表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

EP0:自警団

 鬼神神社はコオカ町の住宅街を見下ろせる丘の上に立っている。

 コオカ町から歴史を感じさせる石段を昇り、階段をのぼりきった所にある鳥居まではどこの神社と変わらない。ただ、違いをあるのは、鳥居をくぐってからだ。鬼神神社の敷地は広大で、本堂の周辺の森全て鬼神神社の土地だ。その広大な土地には、公園や道場、自警団コオカ町支部があり、神社がおまけで設けられているかのように見えてしまう。階段をのぼって、すぐに公園。その右側に公園と仕切るように並ぶ花壇の奥にある和風建物は自警団コオカ町支部、その裏に自警団員が鍛錬を積む道場がある。公園を突っ切ったとこに本堂があり、その左手には、先ほどまで彩人達がいた石倉があり、右手には神社の雰囲気を壊している二階建ての家、神社を管理してる七鬼宅がある。


 彩人達がいくように、言われた大広間は支部の一室で会議、宴会に使われている部屋だ。そのまえに石倉で埃まみれなったジャージを着替えに道場にある更衣室へ向かっている。更衣室とは名ばかりで、和室を襖で仕切って、男女に分けてる仮設的なものだ。


 「男は右だよな」

 琢磨が確認するまでもなく、男女を隔てる中部屋の中心には、衝立が立っており、大きく「左は女子、右は男」と書いてあった。

 「なんで師匠、念を押すように言ったんだろうね」

 彩人は不思議そうに首を傾げて、右の部屋に向かう。

 なんでだろうな、と修羅と琢磨も不思議に思いながらも彩人のあとに続く。

 ただ1人、幹彦は考えてこんでいた。


 「ちょっと待て」

 彩人が襖に引き手に手をかけた瞬間、幹彦が制止させようと声をかけた。

 しかし、幹彦の制止は間に合わず、彩人は襖を引いていた。


 スッー。

 襖が開かれた。

 途端、琢磨達の雑談は止み、静まり返る。

 5人は凍りついた。

 彩人が開けた男子更衣室には、万里がいた。

 下着姿の彼女は、背中に手を回したまま固まっている。

 彩人達も固まっている。まるで時間が止まっているかのように。

 「空木。とりあえず、閉めよう」

 いち早く、我に帰った修羅は彩人の手の上に手を添えて、襖を閉じた。



 「え、右側が男子だった!?」

 自警団支部の廊下に万里の素っ頓狂な声が響いた。

 着替え終わり、廊下を行く彩人達は、なぜ4人揃って大胆な覗きに挑んだのか、万里に問いつめてられていた。しかし、彩人達に故意も過失もなく、逆に万里に過失があったことが明るみになり、万里は戸惑っていた。

 「そうかー。アタシの見間違いだったのかー」

 万里には、左が男、右が女、と衝立に書いてあったように見えていたようで、万里が間違えて男子更衣室で着替えて始めてしまっていたらしい。

 「でもさ、でもさ・・・」

 過失が自分にあったと認めても、万里は納得できていないようだ。

 「見られて辱めを受けたのはアタシなんだからさ、一言もらってもいいと思うな」

 万里は、ある言葉を彩人達に求めていた。


 「良い腹筋だったぞ」

 「嬉しくないし、違う。次」

 幹彦不正解。

 「眼福でした。ありがとう」

 「清々しいね。でも、違う! 次!」

 本心を伝えた修羅も不正解。

 「責任とるよ」

 「意味合い的には近いけど、重い!次!」

 ニアピン賞彩人。

 「いいおっぱ、!!!」

 何か言いきる前に、琢磨の顔に万里の拳が打ち込まれた。


 「まあ、いいよ。下着なんて隠してる部分は水着と変わらないもんね。ただし、見たことは全部忘れること、いい?」

 凄む彼女にノーとは言えず、全員が頷いて見せる。


 「おーい!ガキ共、まだか!お腹減ったぞ!!」

 大広間から彩人達を呼ぶ声が轟く。

 「ほら、親父さんが呼んでるぞ」

 行く手を阻むように対面する万里を、幹彦は進行方向へ向き直し、背中を押していく。

 

 「おお、やっときたかお前達。ネタが乾いちまうとこだったぞ」

 超がつくほどの大男が彩人達を待ちわびてたかのように出迎える。

 座敷には長々と続くテーブルの上に寿司やおせち料理が並び、働いた後の彩人達には舌なめずりしたくなる光景だった。


 「すいません。お待たせしました」

 こんなごちそうを前に、食べずに自分達を待っていた大男と大広間で待っていた自警団員達に頭を下げながら、彩人達は席に向かう。

 団長が座る上座から一番離れている席。お酒が並べられていないテーブルが彼ら未成年の席だ。その未成年の席にはすで2人座っていた。


 「遅いよ。どうしたの?」

 未成年の席で、比較的大人びて落ち着きのある少女が声を殺して彩人に尋ねた。長い黒髪の彼女は【深上 葉月】。彩人達より1つ年上で、彩人達のおねえさん的存在だ。

 「ちょっとね」

 万里に口封じされている彩人は、葉月の問いに言葉を濁して答えた。

 「ん?、そう」

 「みなさん、飲み物はどうします?いろいろありますよ」

 小柄な少女が琢磨達のコップに飲み物を注ごうとペットボトルをもって歩み寄った。小柄でドの厚い眼鏡かける彼女は【七鬼 匠子】。彩人達と1つ年下の後輩。

 「大丈夫。ショウコは席に座ってな」

 「あ、はい・・・」

 琢磨に遠慮された匠子は少し残念そうに席に戻っていった。


 「みなさん、行き渡りましたね」

 上座で猪口を掲げた老人が大広間にいる全員の注目を集める。

 「みなさんお疲れさまでした。それと、新年明けましておめでとうございます」

 優しくも迫力のある老人の声は、大広場に響いた。

 「この年になると、どうも話したいことがたくさんあってね。自分でも気をつけてるんだけど、なかなか抑えきれなくていかん」

 大広場で笑いが起こる。年を重ねた者にしかわからない自虐的高齢者ギャグ。彩人達は何がおかしいのかわからないが、とりあえず周りに合わせて笑う。

 「ただひとつ、少しだけごちそうをお預けにさせてもらって、言わせてもらいたい。葉月ちゃん」

 「は、はいっ!」

 突然、呼ばれた葉月は戸惑いながら返事する。

 「立ってもらっていいかい?」

 葉月は言われるがまま立ち上がる。

 「皆さんも知っての通り、マネージャーとして私たちを支えてくれている深上葉月ちゃん。この度、あの龍ヶ峰大学付属高校への推薦入学が決まったそうです」

 おおおおおお!っと暑苦しい男達の声で大広間が沸き立つ。

 葉月は恥ずかしそうに顔を伏せながらも、何度も頭を下げている。

 全員が自分のことのように喜び、彼女を讃えた。

 龍ヶ峰大学付属高校普通科。日本の五指に入る人気進学校で、倍率は約4倍。偏差値は75と日本でもトップクラス。それだけ偏差値が高いと勉強漬けかと思いきや、生徒の自主性に任せており、自由な校風を売りにしている。しかも、名高い龍ヶ峰大学に多くの生徒がエスカレーター式で入学が可能。

 誰もが憧れる高校に入学する葉月はコオカ町に住む全員の誉れであり、喜ばずにはいられなかった。


 「葉月ちゃん、おめでとう。私は鼻が高いよ。これからも頑張ってね。では、みなさん! 鬼祭りの成功と葉月ちゃんの付属高校入学を祝して・・・乾杯!」


 カンパーイ!!!!

 建物が揺れたような錯覚を起こすほど分厚い声が反響した。


 真昼間なのに関わらず、どんちゃん騒ぎが始まった。

 毎年、鬼祭りが行われた後は、派手な打ち上げがある。

 自警団全員がこれを楽しみにしており、ある程度節度を守りながら、めいいっぱい楽しむ。

 

 平和な世の中になった今、自警団とは名ばかりになり、近所の仲良しサークルになってしまっているのは、自警団全員が気づいている。しかし、それでもいいように思えている。こうやって、楽しく宴会したり、一緒に汗を流せる場があれば十分なのではないかと。


 1945年、日本は敗戦した。日本軍は解体され、政府の中枢を担っていた政治家の多くが戦争犯罪者として処罰され、日本は舵をとる人間を失い、日本の混沌期が訪れた。

 日本軍の解体、警察の武装にも制限がかけられたことにより、日本全土の治安一気に悪化した。親を失った子供達、職がない浮浪者達による犯罪が多く見られたが、それ以上に、外国犯罪組織による犯罪が横行した。外国犯罪組織による違法薬物の販売、人攫い、殺人を武装に制限がかけられている警察が止められるはずもなく、日本人はただただ被害に怯える日々が続いた。

 1947年。捕虜として捕まっていた元日本軍の兵士が戻り始めて、状況が一変する。犯罪の抑止、犯罪組織の根絶を目的に有志で結成された自警団が日本各地で発足し、外国マフィアとの抗争が起こる。

 1950年。警察の武装制限が解除され、犯罪組織勢力は一気に減退しはじめる。

 1954年。日本の高度経済成長が始まり、自衛隊発足。しかし、首都以外でのマフィアの活動が衰えない地域が見られ、警察だけでも対応しきなかったため、数多くの地域で自警団を維持させた。

 各市町村ごとに自警団が再配備され、自警団に入団できるのは満12歳とした規約や厳しい審査を通った者のみ帯刀権が与えられるなどを定められた自警団法などが整えられた。

 多くが消防団として役割も兼ねており、海沿いの地域では水防団の役割も兼ねている。


 しかし、日本が豊かに成長していくほど、犯罪組織の活動は数を減らしていき、自警団の本来の目的である犯罪の抑止、犯罪組織の根絶は警察で十分事足りようなり、自警団の存在に疑問を抱く人間が増加していった。

 職場や学校に武器を持ち込むのはおかしい、から始まり、自警団員が犯罪を犯し、反自警団の声が高まり、今では、自警団はかつての軍国主義の悪習を受けついでいる、などと根も葉もない言いがかりつけられてしまっている。


 結果、多くの自警団が解散しつつある。悪評によって入団者が絶えてしまった。市民の総評により解散を余儀なくされた。昨年、行われた国からの自警団への補助金の大幅カットにより組織の維持がかなわなくなってしまった。などなど理由はそれぞれだ。


 幸運にも龍ヶ峰市は自警団への印象は良く、市長も子供の育成の上で必要な団体だと考えており、龍ヶ峰市の自警団は手厚い庇護を受けている。


 ただ、自警団はいつ解体されてもおかしくない状況にある。

 反自警団を唱える日本人は多く、現在多くの支持者を持つ【平和党】は自衛隊の解体を唱えており、先に自警団を解体すると考えも明らかにしており、次の政権交代時に自警団がなくなってしまう可能性は高い。


 確かに自警団がなくなってしまうのは、辛い。でも、仲間達がいれば、仲間達が集える場があればいいように彼らは考えている。自警団がなくなっても、闘技サークルを開いていつも通り集まればいいじゃないかと・・・。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ