EP0:中学生の考察
「…で、腰が抜けて、這って帰ってきたとこに繫がるわけか」
幹彦、琢磨、修羅の3人はベンチに座って、彩人の話を聞いていた。
修羅は首を傾げている。
「どう考えても、お前の散り様がどうのこうっていうのは、話す必要あったか?」
幹彦は彩人の話で無駄な部分があったことを指摘した。
「なるべく鮮明に伝えようと思って。どれだけ僕が驚いてたか、知ってもらいたかったし」
「かっこ良く終わったのに、なんであんな無様な姿で戻ってくるとこに繫がるんだ?」
彩人が神社に戻ってきた時、彩人は鼻水やら涙を垂らし、失禁しながら身を這いずって戻ってきた。琢磨がいうように無様以外当てはまらない姿だった。
「もう言わないで…ある程度美化したよ。隕石が迫ってくる間、足ガクガクだったし、鼻水垂れてたし、漏らしてたし、もう最悪だった」
「そ、そうなのか」
いつも彩人を茶化す琢磨でも、同情してしまい、これ以上茶化せなかった。
「あー、話を整理しよう。確か、最初は流れ星を見たんだっけ?」
修羅は彩人の話の要点をまとめようと話し始める。
「うん。6回連続で流れたんだ。6個目が流れた後、目を閉じて、そしたら……」
「次、目を開けたときには蒼い光が近づいていた、か。音とかどうだんたんだ。やっぱ、隕石が落ちてきてるんだから、空気摩擦的な音はあるんじゃないのか?」
事実を確かめながら、質問する修羅。しかし、彩人の反応は煮え切らない。
「うーん。どうだったかな。音なんてなかった思うけど」
「なんか色々おかしいんだよな。もうすでに」
腕を組んでニヤニヤと笑みを浮かべながら琢磨は話に割って入った。
「神社と俺達の秘密基地はそんな離れてないよな。なのに、神社にいた俺らが、なんでその蒼い光を見てないんだ?」
「まあ、待て。宮沢。要点をまとめてから突っ込もう。いちいち突っ込んでいたら収集がつかなくなりそうだ」
疑問を投げかけた琢磨を制止させる修羅は、一度要点を整理しようと提案した。
「じゃあ、続けるぞ。その隕石は直径約10m、これは間違いないのか?」
「間違いないかって聞かれると自信はないから付け加えると、最小で10mで、最大で20mぐらいだと思う」
「なるほど。次は衝突時かな。蒼い爆発?蒼い光に包まれた時に吹き飛ばされたり、熱かったりしなかったのか?」
「なかったね。これだけは確実」
「そうか。ほかに付け加えるようなことあるか?」
「うーん・・・ああっ!」
なにか思いついた彩人は立ち上がる。
「なんかあるのか?」
「実はさ、僕たち徹夜だから結構疲れてるはずじゃん。けど、妙に爽快感があるんだよね。昨日から」
彩人は肩を回し、体の調子がすこぶる良いように振る舞う。
「彩人もか。実は俺もなんだ。今までにないくらい昨晩から調子がいい」
幹彦は珍しく感情を表に出した。驚いて一瞬だけ、眉が吊り上がった。
「それは関係ないだろ。で、宮沢はなにやってんだ…?」
2人の共通項との隕石の関連性を否定した修羅は、琢磨に意見を求めようと彼に視線を向けると、両手の人差し指で口の前で交差させてXを作り、黙っていた。
「話がまとまるまで口出ししないようにって思って」
「なら、もういいぞ。言いたいことドンドン言ってくれ」
「おう。まずは、さっき口走ったことなんだけど、俺達が隕石に気づかなかったってことだ。音がなかったってのも信じられない。仮に音がなかったとしても、彩人に見えた蒼い光に俺らが気づかないのはありえない。それに10m以上もある隕石が落ちて、実害がないなんて…うーん、どうなんだろう」
「隕石ってどれくらいの規模でどれだけの被害を及ぼすんだ?」
首を傾げて、自問自答する琢磨に幹彦は尋ねた。
「今から5万年前に落ちた隕石はね、直径約1、5km、深さ約170mのクレーターを形成したらしい。たったの直径約20、30mの隕石によってね。隕石を構成する物質によって威力は異なるだろうけど、どんな物質だろうと衝突時の衝撃が生じないなんて、隕石がマシュマロで出来てない限りありえないよ。HAHAHAHAHA!」
「なんだ宮沢。最近、アメリカンコメディでもみたのか?」
「お、よくわかったな。俺ああいうノリ好きなんだ」
「あっそ。で、さっきから空木は黙ってるけど、どうした?」
修羅は浮かない顔の彩人に気づいた。
「だってさ、タクマがさ、ありえないありえないの一点張りでさ、僕が嘘言ってると思ってんだろ・・・ひどいよな」
彩人は不貞腐れている。本人はあったままのことを伝えているのに、嘘と断じられるのが、我慢できないでいる。
「ちょっと待ってくれ!全部、本気にすんなよ」
「僕は真面目に話してるんだ!」
いつも琢磨は基本的に冗談しか言わない。そんなこと付き合いの長い彩人が知らないわけがない。ただ、彩人の心は乱されている。
昨夜のことを話している彩人本人も、真実味がない話をしているのは自覚している。けど、それでも昨夜みたものは本当で、現実である確信もある。ただ、もし昨夜みたものが幻覚だったり、夢なんかだったら、自分の頭がどうかしているのではないか、酷く不安だった。
「わかった。冗談はなしだ」
琢磨の表情は一変した。いつも通りおちゃらけている表情から、稀に見せる張りつめた表情。琢磨が本気になった表情だ。
膝に肘をつき、両手を組むと、口を開いた。
「さっきまで俺は色々言ったな。俺達には光は見えなかった、衝撃がなかった、全部ありえないって。もし、彩人が嘘でも見間違いでもないって断言するなら、頭に異常きたして幻覚を見てた以外考えられないんだ」
3人とも、琢磨の話を黙って聞いている。「僕の話、信じてないんだね」と彩人に不満抱かせることを琢磨が話しているのに関わらず、彩人に不満はない。彩人自身が危惧してることを琢磨が代弁していて、そこに間違っていることは全くなかったからだ。
「ただ、ある一言で全部解決しちまうんだ。思考停止に近いから言いたくなかったんだけどな」
琢磨の勿体ぶったような言い方に、彩人は思わず前のめりになった。
「それはな、宇宙は未知数だってことだ」
「「「は?」」」
3人の口から同時に、声が漏れた。
「簡単な話だよ。宇宙は未知数。付け加えると、この地球でさえ未解明なことだらけ。彩人は偶然にも、運良く、未知との遭遇を果たしたってことだ。宇宙の未知数の物質なら、彩人にしか見えない光を発光してるかもしれない。その物質なら衝突時、衝撃がないかもしれない。ほら、説明できた」
いつの間にか、琢磨の顔から眉間に寄っていた皺は消え失せ、いつものおちゃらけ顔に戻っていた。
「気持ちいいぐらいの思考放棄だな。琢磨ならもっと画期的な考えがあると思ったよ」
幹彦はがっかりして、肩を落とした。
「画期的な考えを聞きたいか?随分とオカルト的な考えだが1つあるぜ。俺達は彩人が見た隕石が衝突時にすでに死んでいて、死んだ俺達は元いた世界から隕石が落ちなかったパラレルワールドに移動したんだよ。死ぬ直前、俺達も彩人と同じく蒼い隕石を目にしてたんだ。けど、それを覚えていたら、不自然だから死因は記憶から抹消した、或はされただ。彩人だけは特別で記憶に残っていたって落ち。これは、世界線は生き物が死ぬ度に分岐していて、自己のそれぞれが最善方法で生存できる世界を構築しているのでは?っていう俺の妄想ね」
「あー。そういう怖くなる話はやめてくれ」
嬉々として自分の妄想を語る琢磨に対して、聞いていた修羅と彩人の顔は青ざめていた。
「それと、なんだかんだ可能性が一番高いのは、UFO説だな」
おちゃらけていた琢磨の顔が少し真面目な表情に戻った。
「UFOなら、目撃者が1人だけって話はざらにあるし、衝突じゃなくて着陸なら、衝撃がないのも頷ける…まあ、これも随分とオカルトだけどな」
「UFO……」
琢磨は、自分が冗談地味ている話をしているだろ、と言っているように笑い出した。しかし、彩人には何よりしっくりくる可能性で、琢磨に乗じて笑うことはできなかった。
「やー、やー、こんなとこにいましたか」
ベンチに座る4人に近づく老人。髪一本ない頭は天を写し出すほどにテカテカと輝き、顔には皺に紛れ隠れる多くの傷跡、小柄ながら服の上からでもわかる老人とは思えないほど張りのある肉体、そんな老人は彩人達は1人しか知らない。
「あ、団長。片付け終わりましたよ」
琢磨は自分達がサボっているわけではないと主張してるかのようだった。
「ほかも終わったよ。みんな君たちが来るのを待っていますよ。着替えて来たら、大広間にきなさい」
「「「はい」」」「はーい」
返事した4人は立ち上がり、更衣室に向かう。
「あー、そうだ。男子更衣室は右側だからね・・・」
老人は、念を押すかのように彩人達に告げた。