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Record of the dead  作者: 水無月ケイ
第1章
9/21

逃げて、隠れて、戦って

やっとゾンビさんが出てきました。僅かながら戦闘シーンがあるので、「残酷な描写あり」指定をしています。

夏生と二人で大学を出発し、電動バイクで国道を疾走すること30分あまり、康一は最寄りの街に近づいていた。街は国道の両側に楕円を描くように広がり、国道を3キロほど行くと市街地を抜けて再び草原ばかりになり、そこから5キロほど行くと目的地の発電所が左手に見えてくるはずだった。

市街地の入口から数百メートルのところでバイクを止め、双眼鏡で様子を伺う。案の定、パッと見だけでも数十体のジキがうろついているのが見えた。

「さて、どうすっかな。」

バイクを止めたままそう呟くと、顎に手を当てて考え込んでいた夏生が何かに気付いたように言った。

「コウちゃん、あれ見て。」

そう言って指し示した先には、国道より随分細い脇道があった。脇道は左右にそれぞれ何本か有ったが、左側の脇道にはなぜかジキがほとんど見当たらなかった。理由は分からなかったけれど、このチャンスを逃す手は無いように思える。

「うし、じゃあ、行ってみるか。」

気負わずそう言って、夏生が頷いたのを確認し、バイクを脇道にずらして止めた。バットを片手で構え、食料その他の品を詰めたバックパックを背負う。まさかこんな状況で盗人も出ないとは思うが、バイクにはちゃんと鍵をかけた。イモビライザーなのでまず心配は無いだろう。電子制御の鍵を掛けるのは、少し不思議な感じがした。こんな近くにもデジタルの超近代的な世界の息吹が残っているというのに、自分達はこれから徒歩で敵中を突破し、向かってくる敵にバットを振り回すのだから。

数分歩くと、すぐに最初の建物が近づいてきた。ジキが視力を保持しているかは不明だったが、聴覚や嗅覚をより重視していることは間違いなかった。そういうわけで、慎重な足取りで建物に近付く。幸いなことに、この建物にジキはいないようだった。壁に背を預け、そっと通りの様子を伺う。脇道は国道に沿って三本走っていたが、真ん中の通りが最もジキが少ないようだった。両側に家並みが広がるその通りで、放置された車の陰に隠れて数少ないジキをやりすごしながら、ゆっくりと慎重に進んで行く。

一時間ほどかけて全体の半分ほど歩いた時、十体以上のジキの集団が目に入った。なぜそこにいたのか、確かなことは分からない。一時的に別の脇道に移ることも考えたが、かなり大回りする必要があって難しかった。近くには遮蔽物となるものも無くて、何とかこの集団をやり過ごす必要があった。

「仕方ない、これを使ってみようかな。」

あまり気乗りしない様子で夏生はそう言って、バックパックからICレコーダーと匂い玉を取り出す。ICレコーダーの出力を最大にして、静寂に満ちた街に悲鳴を響かせる。しかし、ジキの集団までは距離があって向こうは気付かない。夏生の意図が分からず顔を向けると、夏生は黙ってというように口に指をあて、自分に付いてくるよう仕草する。大人しく従って、少し離れたところに止まっていた自動車の陰に隠れた。夏生はそこから、ジキの集団の手前に匂い玉を投げつける。

ガラスの割れる乾いた音ともに、匂いが漂い始めたのだろう、ジキが匂い玉に引き寄せられ始める。続いて二度、三度投げつけると、ジキがこちらにフラフラと向かってくる。やがてICレコーダーから漏れる悲鳴が届く距離に達すると、それまでフラフラと歩いていたジキは俄かに活気づき、小走りで音源に向かっていく。

全てのジキを完全にやり過ごすまで待ってから、夏生は康一の腕を引いて早足でその場を立ち去る。十分距離を取ってから、やっとため息を吐き出した。雪が降りそうなほど寒いのに、冷や汗で背中が濡れている。

「あいつら、随分と人間の悲鳴がお気に召したみたいだな。悪趣味なことだ。」

「人間の嗅覚なんて大したことないからね。もしあいつらが視覚にあまり頼れないなら、音に敏感に反応するのも無理ないことだよ。悪趣味であることに関しては、まあ、悪趣味な映画が現実化したような世の中だからねえ。」

妙にのんびりして聞こえるその言葉に、思わず笑いながら「全くだ」と言って頷く。康一はこういう夏生の飄々としたところが嫌いではなかったし、こういう世の中になってからはそれを頼もしくも感じていた。だから、幼馴染のこの青年がその持ち味を発揮していることは、単純に嬉しかった。

その後はほとんどジキにも出会わず、足取りも軽く街外れまで来た。しかしここで、再び難問に直面する。脇道から国道に戻る必要があるが、その際にジキの大群と出くわす可能性があるのだ。慎重に慎重に、半歩ずつ国道の様子を伺って道を進む。しかし国道には呆気ないほど僅かなジキしかいなかった。拍子抜けしながら国道に出て、発電所に向けての道を進む。

少し進んだところで、なぜ左側の脇道や国道のこちら側にジキが少なかったのか、その理由が分かった。国道は街を出たあたりから緩やかな上り坂になっていて、少し進んだところで街を見下ろせたのだが、そこからは双眼鏡無しでもはっきりとそれと分かる大きなショッピングモールが見えた。場所は、ここから見て街の右側の手前。つまり、街に入る前の康一達から見て左手の奥。そのショッピングモールに双眼鏡を向けると、パッと見でも数百以上のジキが群がっていた。恐らく生存者がいて、それに群がっているのだろう。お陰で、入口から見て左手の脇道や奥の国道のジキが引き寄せられて、そのあたりは少なかったのだろう。

「あそこには生存者がいるんだね。それも多分、かなりの数。」

特に返事を求める風でもなく、独り言のように夏生が言う。無言で頷きながら、あの中に一体どれくらいの人間が生き残っているんだろうとぼんやりと考える。数人か、数十人か、あるいはそれ以上か。いずれにしても、その答えが分かる日は来ないだろう。あれだけの数のジキを倒して中の人間を救出するような余力は、大学にはとても無いのだから。

「少なくとも、一つルートは見つかった。ラッキーだね。行こうか、コウちゃん。」

感情を押し殺した夏生のその言葉の奥にあるものについては敢えて考えず、肩をすくめて「そうだな」と言って足を踏み出した。

一時間ほど進むと、行く手に巨大な風車群が見えてきた。寸分違わぬ外見の数十機の風車が、その三枚の羽を全く一様に回しているさまは、どこか不気味な威圧感を与える。最も、人間が人間を喰らうご時勢に風車が不気味と言っても始まらないし、無言で歩き続けた。さらに半時間ほど歩くと、発電施設群のコアとなる地熱発電所の入口に辿り着いた。ブロック塀の陰から施設の中を伺うと、ふらふらと彷徨う数体のジキが見える。

「襲撃時に中にいた人たちは、ほとんどそのままジキになったと考えて良さそうだね。」

駐車場に整然と並んだ車列を指差しながら、夏生が囁くようにそう言い、康一は無言で頷いた。大学で聞いた話だと、この発電所には運転開始に向けて準備を進めていたスタッフや工事関係者など、300人を超える人員がいたらしい。ここの出入り口はいま康一たちがいる場所しかないし、入ってすぐのところにある駐車場には整然と車が並んでいるところを見ると、中にいた関係者のほとんどは建物や敷地の中で襲われ逃げる間も無かったのだろう。

「もしほとんどが建物の中にいるとすると、かなり厄介なことになるな。」

思わず康一もそう呟く。物陰の多い建物の中は不意打ちの危険が増すし、匂い玉やレコーダーを使ってジキを分散させて集団で叩く戦法もやりにくくなる。そもそも正確な数が把握出来ないから作戦が立てにくいし、自分達の偵察任務の成果もいささか中途半端なものになってしまうだろう。

「仕方ないね、やっぱり管理棟に行くしかないか。」

ため息混じりにそう言って、夏生は駐車場の奥にある灰色の建物に視線を向ける。この発電所には発電施設に加えて、緊急時対応や警備のための管理棟があり、そこにはスタッフが宿泊するための個室も設けられているらしい。そして、その管理棟の警備室からは、発電所中の数十台の監視カメラの映像が見られるらしいのだ。

「電気が通ってりゃいいんだけどな。」

肩をすくめながら康一はそう言って言葉を返す。この発電所が襲撃されて二週間ほど経つが、発電所の運転や管理のための電力は先行して稼働を開始した風力発電や蓄電装置で賄われているはずで、高度な無人化・省力化が進んだここの施設のシステムなら、その程度の期間無人でも稼働し続けているはず、というのが事前に聞いていた説明だった。些か希望的観測が多くて不安な話だったが、今は信じるしかない。バットを握りしめ、管理棟までの距離と、近くのジキをよく観察する。

「11人か、まともにやり合うとキツイな。どうすっかな。」

観察結果を口にしながら思案する。ここから見える範囲では、それだけのジキがふらふらとあても無く彷徨っている。管理棟の近くは開けていて物影が無く、見つかるのは避けられそうもない。さりとて、二人でこれだけのジキを相手するのは危険だし、もっと出てくる可能性もある。強行突破も不可能ではないが、管理棟がジキの巣窟になっている可能性もあり、出入り口付近は確保しておきたかった。色々悩んでいると、夏生が静かな声で言う。

「仕方ないね、出来るだけ倒そう。帰りのこともあるし、危険を排除しておくのも悪くないよ。」

それも悪くないな、と思って無言で頷く。帰りだって、管理棟を出てここから外に出て、徒歩で元来た道を辿ることを思えば、結局あそこのジキと戦うことになる可能性は高い。それなら、先に問題を片付けた方が良いかもしれない。

「よし、やるか。何かいい案あるか?」

康一がそう尋ねると、夏生は頷いて小声で説明した。簡単な作戦で、匂い玉を出入り口付近で破裂させ、施設の外までおびき出して叩くというものだった。ともかくやってみようということで、匂い玉を投げつける。ガラスが割れる音、そして強烈な匂いに釣られてジキが何人かふらふらと近寄って来る。夏生に目配せして、バットを手渡し、康一自身はナイフを取り出す。施設から出てきたところで、夏生がバットを使って転倒させ、康一は組み敷いたジキの首をナイフで断ち切る。

「コウちゃん、次が来るよ。」

一息つく間もなく次のジキがフラフラと姿を見せ、同じように対処する。上手くタイミングがばらけたこともあって、その後も何体か楽に処理出来た。

「一、二、三、四、五、六…結構上手く行ったね。残りは五人、何とかなるかな。」

「まあ、なんとかな。でも、慎重に行くぞ。」

そう言って、ゆっくりと、足音を立てずに出入り口から中に入る。付近のジキはみな匂いに釣られていたので、比較的距離のあるところにしかいなかった。それでも三体のジキが康一達に気付いて早足で近付いて来る。

「まず一番手前のあいつをやる。」

「りょーかい。」

夏生はごく軽い調子でそう言って、目標のジキの足元をバットで巧みに払う。その上から覆いかぶさり、すっかり慣れた手順通りにそのジキを処理する。すぐに視線を上げて、こっちに向かってくる二体に視線を移す。この二体はどちらもほとんど距離が無くて、同時に襲いかかって来るようだったので、これまでのような戦い方は出来ない。一瞬で判断して、夏生に指示を飛ばした。

「まず俺が右のほうの奴をやる。お前は左のほうを牽制してくれ。」

夏生が無言で頷いたのを見て、康一は自分の相手の方に素早く駆け寄る。目の前にいたのは、痩せた中年男性のジキだった。ジキの身体能力は、生前のそれにある程度は比例するらしい。お陰でそのジキの身体能力は、キメラになった今の康一にとってはそれほど強敵とは言えなかった。短時間で決着を付け、夏生の方を見やると、こっちも上手くやっていた。夏生は若い男性のジキの上に馬乗りになって、バットで滅多打ちしている。端正で愛嬌のある顔立ちの夏生が返り血を浴びながらバットを振るっているのは、長い付き合いでこの幼馴染みの屈折した性格を知っている康一にとっても、少しぞっとする光景だった。

「ふう。何とかなったよ。火事場の馬鹿力かな。」

微動だにしなくなったジキから離れて、夏生がケロっとした顔でそんなことを言う。あのジキに思わず同情しながら、無言で頷いて、さっと辺りを見回した。まだ二体のジキが残っているが、いずれもかなり距離があってこちらにも気付いておらず、無理に倒さなくても良さそうだ。

「どうする?ほっといても実害は無さそうだが。」

二体のジキに視線を向けながら問いかけると、僅かな間の後、夏生が答える。

「そうだね、無理に戦うことはないよ。下手に刺激して、物陰にいるジキが出てきたりしたら嫌だし。」

「まあ、そうだな。じゃあ、慎重に行くとするか。」

頷いてそう言って、音を立てないようにゆっくりと管理棟に向かう。幸い、二体のジキはどちらもこちらに気付かなかった。管理棟のひんやりとしたコンクリ製の壁に背中を預けて、ガラス窓からそっと中の様子を伺う。幸い、ガラスの向こうの部屋にジキはいなかったが、部屋の中は薄暗く、電気は付いていなかった。

「うーん、これはシステムがダウンしてるって見ていいのかね。」

ここから見える他の窓からも、一様に光は漏れていない。微かな失望とともにそう言うと、夏生が冷静な声で言った。

「まだ分からないよ。ジキを引き寄せないために、外に面する部屋の明かりを落としたのかもしれないし。」

確かにその可能性はあったが、ここからでは確認しようが無い。そう思っていると、夏生が鋭い声で言った。

「コウちゃん、あれ見て、ほらあそこ。」

夏生の指差した先には、天井に設置された何かの装置があった。火災報知器か何かだと思われるその小さな機械に目を凝らすと、人工的な薄緑の光が確かに見えた。機械の電源が入っていることを知らせる、あの極小の緑のチカチカだ。

「なるほどな、期待してもいいみたいだ。じゃあ、行くぞ。」

そう言って、足取りも軽く管理棟のドアに向かう。ドアは施錠されていたが、鍵は預かっている。ただ、ドアの両脇の窓は曇りガラスになっていて、中の様子が伺えなかった。出来るだけ静かに解錠して、ドアを少しずつ開けて中の状況を確認しながら中に入る。ドア付近にジキがたむろしていたら洒落にならないと思って警戒していたが、幸いなことに付近にはジキの姿は見えなかった。

「助かったな。入ってすぐに襲われたらと思うとぞっとするよ。」

「うん。でも、この建物の中にはかなりの数がいるだろうから、気をつけないとね。」

その言葉に頷きながら、正面右手の階段に向かって進んだ。警備室は建物の一番上の階にあると聞いている。階段付近の廊下で一体のジキに遭遇したが、二人掛かりで難なく処理する。階段を上る途中にもう一度遭遇したが、それも特に問題にはならなかった。最上階に着くと、廊下でもう一体と遭遇し、それも無事に倒して警備室の前に辿り着いた。思わず唾を飲む。警備室という特性上、何人かの人員が詰めていたはずで、それが襲われてジキ化した可能性はかなり高い。ドアノブに手をかけ、不安を押し殺すように言う。

「一、二、三で一気に行くぞ。」

夏生が無言で頷く。あまりグズグズしていると、他の部屋のジキを呼び寄せかねない。カウントを数えて、一気に警備室に飛び込んで。果たして、室内には、警備員の制服を着たジキが三体と、私服のジキが二体いた。五体のジキの視線が一斉に康一と夏生に注がれる。迷いなく間近のジキに駆け寄り、首にナイフを突き立てた。

戦果を確認するヒマも無く、襲いかかってくる次のジキと対峙する。だがそのジキはかなり大柄の警備員の制服を着た相手で、力も強く、一筋縄では行かなかった。取っ組み合いをするうちに、別の一体が康一に近づいてくる。一瞬の判断で、目の前の相手の足元を払い、転倒した隙にもう一体に駆け寄る。私服の小柄なそのジキをすぐに片付けてから、改めてさっきのジキに向き直る。視界の端では、夏生が二体のジキを相手に奮戦していた。何とか大柄なジキを倒して、夏生の方に駆けつける。決着は一瞬だった。

「お疲れ。さすがに今度はヒヤッとしたな。」

「本当にね。コウちゃんが三人分倒してくれて、助かったよ。ありがとね。」

さすがの夏生もホッとした様子でそう言ってから、安心したような笑顔を見せる。見た所、特に傷もないようだ。

「どういたしまして。まあ、お互い怪我が無くて良かったよ。さて、こんな状況だけど、仕事に入りますか。」

床や机に倒れこんでいるジキを見ながらそう言って、壁面に並んだモニターに視線を移す。数十台のモニターには、施設中の監視カメラからの映像が映っていた。当然、かなりの数のジキが写り込んでいる。とはいえその数は、この施設内にいると推定される数よりはずっと少なかった。

「やれやれ、参った。これじゃあ、見えないところにいるのか外に出たのか分からないし、施設内のジキの数が把握出来ないな。」

ぼやきながらモニターを眺めていると、警備員用のパソコンの前に座った夏生が声を上げた。

「コウちゃん、見て、これ。」

「なんだこれ?」

液晶画面の中には、大量の人名が表示されていた。ほとんどは背景が薄い赤になっているが、たまに白い者もいる。夏生が説明する。

「この施設では、出入りするスタッフや業者にICカードを渡して入退出を管理してたみたいなんだ。さっきのゲートのところに装置があって、あそこを通ると自動的に記録されるみたい。で、まだ施設内にいるのがこの赤い人達。」

その説明を聞いて、思わず唸ってしまう。モニターの中はほとんど真っ赤だったから、それはつまり、ここにいた人間のほとんどが脱出出来ずにジキ化したことを意味する。夏生がマウスをクリックすると、画面が切り替わった。

「管理棟85、発電所173、屋外93…これ、もしかして。」

「もしかしなくても、それぞれの建物にいる人数みたいだね。ちょっと待って、大まかな位置も分かるみたい。多分、緊急時の避難用に人数を把握するシステムなんだろうけど。」

夏生が言うとも無しに呟きながら画面の中の建物をクリックすると、3Dで表示されたそれぞれの建物の構図が出てきて、より詳細な人数が示される。夏生はそれを手持ちのメモ帳に細大漏らさず書き写してから、ぼやくような声で言った。

「情報を取れたのは良かったけど、ジキが300以上いるなんて、さっぱり嬉しくない情報だよね。」

全くだ、と康一も内心で思う。こちらの戦力は、精々100人余り。それも大半はキメラではない一般の生徒だ。こちらが情報を持っていて作戦を立てられることや、意思疎通をして集団で連携しながら戦えることを考慮しても尚、不利は否めない。それでも、自分を励ますように言った。

「とは言え、これだけ細かいデータが取れたのは大きいよ。これだけ情報があれば、色々作戦も立てられる。俺達の武器は結局、頭脳だけなんだからさ。」

「まあ、そうだね。ともかく、僕達は十分仕事を果たしたかな。」

どこかすっきりしない口調で夏生はそう言って、僅かに考え込んでから、ゆっくりと立ち上がって言った。

「帰ろうか、コウちゃん。」

無言で頷いてドアの方に向かう。この建物にはまだ70体以上のジキがいるらしいが、幸いなことに、一度も出くわさずに外に出られた。外に出ると、さっきの二体がまだふらふらしている他はジキは見当たらなかった。車や物置の陰に隠れつつ、静かに施設外に脱出した。

「やれやれ、心臓に悪いな。しかし、屋外にはまだ随分とジキがいるらしいが、どこにいるのかね。」

さっきのモニターの数字を思い出しながら言うと、夏生が考え込みながら答える。

「管理棟の奥に資材置き場や雑木林があったから、そっちの方なんじゃないかな。」

それだけ答えたきり、夏生は黙って何かを考え込んでいる。邪魔しないように黙って歩き続けていると、風力発電所の風車群を通り過ぎ、気が付けばさっきの街が見える地点まで戻ってきていた。視界の端にショッピングモールの姿を認めて、夏生がポツリと言った。

「コウちゃん、相談があるんだけど、いいかな。」

決然とした、それでいて微かな震えを感じるその声音に、康一はその相談が生易しいものでないことを感じ取る。そのことを気付かなかったように、明るく言った。

「いいぜ、何でも言ってみろよ。」

そう答えても、夏生はすぐには口を開かなかった。暫しの間の後に開いた口から漏れた、少し悲しげで揺るぎない声を、康一は生涯忘れることはないだろう。

「僕達は、あのショッピングモールの人達にもっと役立ってもらってべきだと思う。」

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