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Record of the dead  作者: 水無月ケイ
第1章
4/21

大人の逡巡

「久しぶりだな、夏生。まさかこんな形で再会するとは。連絡が来た時は驚いたが、無事なようで嬉しいよ。」

水島先生と二人で先生の研究室に入ると、開口一番、先生は弾んだ声でそう言った。穏やかに微笑みを浮かべながら、夏生もそれに答える。

「先生もお変わりなく。僕の方は、無事と言えるのか微妙なところですけどね。」

夏生の言わんとすることを察したのだろう、先生は安心させるように言う。

「この学園には君達のような状態の者が50人はいるが、今のところ、誰にも異常は起こっていないよ。むしろ免疫も自然治癒力も大幅に向上して、誰より健康だ。無論、筋力や反射神経は大幅に上がっている。」

「そうですか。それを聞いて安心しました。」

適当に相槌を打ちながら、差し出された熱い茶を口に含む。しばし黙ってお茶を啜ってから、しびれを切らして言う。

「何かお話が有るのでは?」

「いや、私は無いよ。」

あっさりと言い放ってから茶菓子に手を伸ばす先生に、意味が分からず問い直す。

「さっきと言っていることが違いますね。」

「そうでもないさ。なぜ私が君をここに呼んだか、本当に分からないかね。」

先生は一瞬だけにやりとしてそう言ってから、口を閉じて夏生をぼんやりと見つめている。仕方なしに、夏生は考え込んだ。先生は思い出話に時間を割くようなタイプではない。一方で、自分とは長い付き合いで、自分の性格もよく知っている。となれば…

「僕と二人きりで、僕の問いに答えてくれるつもりですか?」

単刀直入にそう言うと、先生は満足そうに頷いた。

「君は昔から、賢く慎重だからね。さっきの会長の前での態度は見事だったよ。だがその分、聞きたいことも聞けてないのではないかと思ってね。」

先生の言葉を聞いて、虚を突かれる思いがしてから、思わず笑い声を挙げた。全く、この人には敵わない。

「さすがですね、そこまで見抜かれてるとは。それで、わざわざ僕を呼んでくれたんですか。」

「二人きりの方が話しやすいだろうと思ってね、お互いに。」

笑顔で頷きながら、その言葉の奥にある微妙なニュアンスを感じ取る。最後にわざわざお互いなどと言ったのは、どういう意味だろうか。先生も微妙な立場なのかもしれないな、と思いながら、気付かないフリをして話を進める。

「では、遠慮なく。僕はここでしばらくあの病気の研究をしたいと思ってるんです。出来そうですか?」

夏生の問いに、先生は暫し考え込んでから答えた。

「君は多分、研究設備があるかとか、君が研究に加わることに反対するものがいないかとか、そういうことを尋ねてるわけではないのだろうな。」

ため息混じりにそう言った先生に、夏生は躊躇いなく言った。

「そうですね。…持ちそうですか、ここは。」

その問いを聞いて、すぐには答えず、微かな憂愁を帯びて先生は言った。

「まるで、ダメになった場所を幾つも見てきたような言い方だな。」

「先生、僕達は幌札から来たんですよ。幾つの街や避難所を見てきたと思いますか。」

その遠回しな一言で、先生は決定的に理解したようだった。要するに、夏生と康一は生き延びるために崩壊寸前の避難所を見捨てて逃げてきたということを。そして、今度はこの学園が同じ運命を辿る可能性を危惧しているということを。

「さっきの問いの答えだがね、分からんよ。」

先生はどこか吹っ切れたような声で、それだけ言った。

「分からないとは、先生らしくないお答えですね。そんな場所に命を預けるつもりですか?」

呆れたように夏生が言うと、先生は三杯目の紅茶にブランデーをたっぷりと注ぎ、いつもの自信たっぷりの妖艶な雰囲気を幾分取り戻して言った。

「分からないものは分からないのさ。考えてもみたまえ、世界がこんなになる前、色々な学者やら評論家が国際情勢や経済動向について様々な予測をしていた。ところが、どんなに優れた分析家だって、たった数ヶ月先のことだってロクに当てられなかった。四半期のGDP予測すら大外れする始末だった。なぜか分かるかね?」

先生の専門は分子生物学だったはずだが、いつから歴史の授業を受け持つようになったのだろう、と内心で思いながらも首を横に振る。先生の講釈は尚も続いた。

「世の中は誰かが予測するには複雑で巨大過ぎるからだよ。ありとあらゆる思惑、価値観、判断で行動する者がいて、それぞれの行動が他人に影響を及ぼし、それらが連鎖的に反応を起こし、更なる反応を呼び起こす。北京で蝶が羽ばたくとニューヨークで嵐が起こるようにね。」

「だから、ここがどうなるかは分からないと?」

懐疑的な気持ちで夏生が尋ねると、先生は自信ありげに頷いた。

「まあ、そういうことだね。いいかい、夏生。私は君より少し長く生きて、一つだけ分かったことがある。何が正しいかは結局、事後的にしか分からないんだよ。正しい選択かどうかなんて、幾ら考えたって分からないんだ、究極的にはね。」

「それは、いささか極端な考えなのでは?確かに未来は予測不可能ですが、より可能性のある道を選ぶことは可能でしょう。」

あまりにも運命論的な物言いに反発して、つい少し声を荒げてしまう。

「もちろん、それはそうさ。99パーセントの確率でどうこうって状況もあるだろうね。だが、その点で言ってもここは悪くないよ。少なくとも、日本のどこより可能性は高いと思う。それにね、夏生。私達は、私達自身の努力と選択で、この可能性を高めることだって出来るんだよ。」

「先生は、もっとクールな方かと思っていました。そういう言い方は、少し意外ですね。」

何とも形容し難いもやもやとした気持ちを抱えてそう言うと、先生はまじめくさった様子で言った。

「当たり前じゃないか。大人というのは、社会を運営する立場にいる人間のことであり、社会をまともにする責任を負った人間のことだ。本当は、誰よりも真面目にそういうことを考えなくちゃならんのだよ。」

迷いなく言い切った先生の前で、何となく居心地が悪い思いをしていると、それが出来る大人ばかりじゃないがね、と言って、先生は紅茶入りブランデーを一気に飲み干した。




会長の側近の二人と連れ立って赴いたのは、校舎から少し離れたところにあるアパートのような建物の一つだった。都市部から遠く離れた、ほぼ全寮制のようなこの大学の寮の一つのようだった。寮の入口まで来たところで、来栖佳那が言った。

「ようこそ、私達のB棟へ。新しい仲間を歓迎するよ。同じキメラとしてね。」

「何だと?じゃあ、この建物に住んでるのは、全員…」

「そう、キメラになった子は、みんなここに集まって一緒に住んでるの。まあ、隔離されてるとも言えるけど。」

最後の一言に、この学園内での彼女達の、自分達の立場が伺えるような気がした。彼女達はある意味で感染者であり、しかも常人が及びもつかぬ強靭な力を持っている。ジキの一歩手前の存在、そう見做す者も少なくないだろう。だからこそ、同類同士、固く結束する。それが更なる孤立を招くと知りながら。

康一は嘆息して、結局ここも長くは持たないかもしれないな、という考えが頭をよぎった。これまで見てきた避難所の多くもそうだったのだ。ジキに取り囲まれ、攻撃を受けること以上に、生存者同士の不信、対立、憎悪によってダメージを受け、崩壊してしまう。ここは大きなコミュニティだから、より凄惨な光景が繰り広げられるかもしれない。

「ほら、早く!みんなに紹介するよ。」

さっき微かに見せたシニカルな様子はどこへやら、明るく元気にそう言われて、ともかく建物の中に足を踏み入れる。ロビーには何人かが集まって雑談を交わしていた。次々と「同胞」を紹介されて、とても覚えきれなかったものの、一つ分かったことがあった。それは、彼女がとても慕われているということ。明るく前向きな性格や言動、可愛らしいルックスのお陰もあるだろうが、それだけでは無いだろう。一通り挨拶が終わったところで、さっき藤堂と名乗っていた青年に、その疑問をぶつけてみた。

「一つ訊いてもいいか。彼女はここの連中からリーダーみたいに扱われてるようだが、何か理由があるのか?確かに明るくて元気ないい子だとは思うが、年は若い方だし、もっと他にいるんじゃないか。」

「彼女は、来栖は、最初のキメラなんだよ。彼女は噛まれた者に血清代わりに自身の血を投与した。俺達はみんな、そのお陰で生きてるのさ。命の恩人ってことだな。おまけに彼女は、どんな状況でも採血を断らなかった。それで、一日に何度も血を採って、倒れかけたことまであったのさ。そこまでされて命を救われて、何も感じない奴はいないだろ?」

なるほど、と言って頷きながら、ようやく状況が少し理解出来た。絶対的とも言える信頼を寄せられている彼女が抑え役となっていることで、何とかキメラと一般の生徒の対立がエスカレートすることを防いでいるのだろう。だがそれでも、なぜあの得体の知れない会長が彼女達に指示出来る立場にいるのかはよく分からなかった。

「なになに、二人で何の話してるの?」

ロビーの片隅で二人で話しているのが気になったのか、来栖が話に加わって来た。

「いや、来栖の話をしてたんだよ。俺達がどうやってキメラになったかとか、どうして来栖が俺達のリーダーなのかってことをさ。」

「リーダーって、大袈裟だよ。」

藤堂の言葉に照れ臭そうにそう答えた彼女に、思い切って尋ねてみることにする。

「もし失礼な質問だったら申し訳ないんだが、あんた達はなんであの会長に従ってるんだ?何か特殊な才能でもあるのか。俺には普通の学生にしか見えないんだが。」

その問いに、二人は顔を見合わせてから、藤堂の方が答えた。

「話せば長くなるんだがな。元々、俺はあいつと高校時代からの付き合いなんだよ。で、この学園への最初の襲撃の時に噛まれた俺に、一か八か来栖の血を使おうって言って、周りが止めるのも聞かずやっちまったんだよ。」

「元々、私の血を使うってアイデアは、水島先生が考えた事らしいんだけどね。リスクが高すぎるって、誰もやりたがらなくて。それに私はほとんど軟禁状態だったし。」

「なるほど、そうやってきっかけを作ったから、会長の言うことに従ってるということか。」

いまいち釈然としないままそう言った康一に対して、来栖はちょっと困ったような顔で言う。

「うーん、それだけじゃないんだけどね。最初の襲撃の後、バリケードを作って見張りを置こうとか、色々考えて動いたのはあいつくらいだったから、みんな何となく従ってるんだと思う。もちろん、みんながみんなじゃないけど。」

「むしろ、従ってる方が少数派だろうな。俺達や、学園の警備強化に賛成した奴らだけだよ、曲がりなりにも従ってるのは。割合にして、一割強ってとこじゃないかな。」

藤堂の説明は分かりやすかったが、肝心の部分が抜けていた。圧倒的多数を占めるはずの人々についての説明がなされていなかったのだから。

「残りの奴らはどうしてるんだ。反発してるのか?」

「というよりは、何もしてないって方が正しいかな。ここの学生の大半は、事態がまだ飲み込めないでいる。この学園は広大だからな、ジキの襲撃時に安全地帯にいて、一度も見たことがないって奴も多い。そういう奴らは、一種の虚脱状態なのさ。ぼんやりとこれまでの生活を続けてる。宗一郎の奴にしても、あいつらに何かを強制する力は無いし。」

その説明を聞いて、ようやくこの学園の状態がはっきりと分かった。つまり、あの会長は何か正式な地位に就いて学園全体を統括しているわけでも何でもなく、彼のやり方にひとまず賛同している少数の人々と共に、学園の警備やら何やらをやっているだけなのだ。ただ、そのことに積極的に反対する者がいないというだけで。それは決して不思議では無かったし、むしろ納得出来る話だった。こんな状況に、すぐに適応出来ない人間の方が普通だ。まして、ジキに襲われたことが無いのでは、まるで現実感が無いだろう。

けれど、そんな状況は長続きしない。ほんのちょっと前までの世界なら、学生は、いや、自分のような大人でさえ、面倒な問題から目を背けて、モラトリアムを楽しむことが出来た。結局のところ、生きて行くだけなら、この国ではさして難しくは無かったのだから。そしてそれは、人々の善意や神の恩恵ではなく、人類の知識と技術の粋を集めた、高度で巧緻な産業社会がもたらす圧倒的な物質的豊かさの恩恵だった。

そうしたものは、今やすっかり砕け散ってしまった。夏生の言葉を思い出すまでもない。ここはまだ電気が来ている。食料にも困っていないようだ。だが、自家発電機の燃料はいつまで持つだろう?倉庫の食料はあと何日分あるのだろう?例えジキの脅威が無くても、こういった現実的な問題が差し迫って来るについて、今は無気力ゆえの従順さを見せている学生達も、不安と焦燥に駆られ、怒りっぽく攻撃的になり、しまいには内輪揉めで自滅していくのではなかろうか。

そういった破局を回避するためには、強いリーダーが必要だ。独裁を称揚するつもりはないが、こんな状況ではいつまでもみんなで話し合って、あげく反対者を黙らせることも出来ないようなコミュニティに未来があるとは思えない。けれど、あの会長と呼ばれていた青年にそこまでのカリスマも指導力もあるようには思えない。当たり前だ、大人ですら不可能だったのだから。結局、ここで過ごすのも一時のことかな、という考えが頭をよぎって、内心で小さなため息を一つ吐いた。



夏生が寮に来たのは、ちょうど夕食どきだった。食堂にいたメンバーに一通り挨拶と紹介をして、二人で夕食を取ってから、充てがわれた部屋に向かう。学生用の二人部屋は小さいが快適で、久々にベッドでぐっすりと眠れそうだった。

「おっ、シャワーもあるな。久しぶりにさっぱりした気分で寝れそうだよ。やっぱりお前の判断は正しかったな。」

ベッドに横になって上機嫌でそう言うと、夏生はどこか上の空な調子でそうだね、と言って頷いた。その様子が気になって尋ねる。

「珍しいな、ぼーっとして。何かあったのか?」

そう問いかけてもなお、夏生はまだどこかぼーっとしていたが、突然真剣な表情になって言った。

「ねえコウちゃん、僕はしばらくここに留まって、何か自分に出来ることがないか試してみようと思うんだ。どうかな?」

そう言った夏生の顔は本当に迷っているようで、こんな異変が起こってからでさえ見ることが無かった表情を見せられて、少なからず驚かされる。

「珍しいな、お前がそんな顔するなんて。あの先生と何話したんだ?」

「うん、ちょっとね。いや、大したことじゃないんだけど。」

そう答えた声の弱々しさに、再び驚かされて、起き上がって夏生の顔をじっと見る。その顔は、今や泣き出しそうにさえ見えた。普段と勝手が違うことに戸惑ってから、どんな時でも強くいられる人間などいないという当たり前の事実に気付かされる。タフな奴だと周りから目されて、頼られ、そう振る舞ってきた人間だって、時には歯を食いしばって強さを演じているだけのこともあるのだ。

精神的に弱っている時には、信頼できる相手に愚痴や弱音や迷っていることを打ち明けるだけでも随分楽になる。康一はそういうことが分かる歳になっていたし、何と言っても、この異変が起こって以来、彼の不安や弱音を受け止めてくれたのは目の前の幼馴染であったので、今度は自分の番であろうと考えて、ベッドの端に腰掛けて夏生の方をしっかりと見ながら言った。

「何があったか、話してくれよ。」

そう言ってもなお、夏生は逡巡しているようだった。無理もない、こういう時、身近な人間というのは意外と相談しにくいものなのだ。人間は誰しも、身近な相手に対して、自分は健康で元気に、幸せにやってると見せたがる。それは見栄もあるし、心配をかけたくないというのもあるだろう。そうでなければ、心療内科やらカウンセラーやらセラピーやらが、あんなに流行ることなどあろうか。

とは言え、このままでは話が進まないので、言い方を変えて重ねて促した。

「なあ夏生、世の中がこんなになっちまってから、俺はお前に随分嫌なとこを見せたよな。弱音や愚痴を吐いたり、八つ当たりに近いことを言ったこともあった。俺は自分が弱くてみっともない人間だってよく分かってるよ。でも、人間みんなそうじゃないか?弱くて我儘で怠惰で、みんなそういう部分がある。だから、お前がどんな話をしても、俺は絶対に馬鹿にしたりしない。お前が頑張ってきたって知ってるからこそ、お前の弱音を聞いてやりたい。それでも俺には話したくないか?」

そう言って問いかけると、夏生はふるふると頭を振って、ほとんど聞き取れないほど小さな声で、ありがとうコウちゃん、と言ってから先生との間で話し合ったことを語り始めた。夏生が一番感銘を受けたのは、この学園の行く末に自分達自身も影響を与えられると先生が言ったことだが、まさにこの部分こそが夏生に苦悩を与えていたようだった。それは、一通りの話を終えてから、夏生がぽつりと言った言葉で明らかだった。

「僕がもっと優しくて勇気があったら、色んな人達を見捨てて逃げたりしなかっのかな。」

それは短い一言だったけれど、この上なく重い、感情の籠った一言だった。要するに夏生は、ここに来るまでに出会った大勢の人々に影響を与えようとしなかったことを後悔しているのだ。それはこんな状況で出てくる当然の後悔であり、だからこそ答えるのが困難な問いだった。

「ここに来るまで、俺達も必死だった。とても誰かを助ける余裕なんて無かっただろ。」

そんなおざなりな答えを口にして、すぐに後悔した。自分でも信じていないような言葉を相手に信じさせられるわけが無かったし、何より、それを聞いた夏生が激しい反応を見せた。

「本気で言ってるの!?病人も、お年寄りもいた。それに子供も!!小中学生に、それにもっと小さな子、赤ん坊も。僕らが守らなきゃならなかったのに。僕らがもっと必死に、真剣になっていたら、何人かでも助けられたかもしれないのに。」

今度こそ、夏生は涙を流していた。それは過去の自分に対する、取り返しのつかない涙であり、こういう時に黙って傍にいる以外の方法を康一は知らなかった。やがて、少し落ち着いてから夏生が言った。

「ごめん、大声出して。こんなことが言いたかったんじゃないんだ。ただ、僕は…」

まだ落ち着かない様子の夏生の言葉を遮って言う。

「いいよ、気にするな。お前の気持ちは分かるし、それに、俺は嬉しいんだよ。お前の本音が聞けたこともだけど、それ以上に、お前がそういうことで悩んでいたことが。俺だって、そういうことを考えないわけじゃないしな。」

康一がそう言うと、夏生はハッとしたような顔をした。夏生の思考がまた悪い方向に進まないうちに、急いで言う。

「それでお前は、今度は出来る限りのことをやりたいと思ったわけだろ。俺は良いと思うよ。何と言っても、ここにはベッドと電気とシャワーが有るしな。」

少しだけ冗談めかして最後の一言を口にすると、夏生の顔に僅かな、ぎこちない笑みが浮かび、それからゆっくりと頷くのが見えた。

「それじゃ、やってみようか。」

そういうわけで、二人の翌日以降の当面の方針が決まって、珍しくすっきりとした気分で康一はベッドに入って明かりを消した。身も心もこんなにサッパリした夜は久しぶりだとちらりと思ったが、積もり積もった疲れのせいか、すぐに眠気に襲われて、眠りの中に落ちていった。

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